蒼天紳士チャンピオン作品別感想

錻力のアーチスト
Vol.1 〜 Vol.24


錻力のアーチスト感想目次に戻る   作品別INDEXに戻る   週刊少年チャンピオン感想TOPに戻る

 各巻感想

1巻 2巻 3巻  4巻 5巻 6巻  7巻 8巻 9巻 10巻
11巻 

連載中分

錻力のアーチスト 1巻


Vol.1 俺の居場所  (2013年 41号)


『シュガーレス』の細川雅巳先生が新連載を引っ提げて帰還。
ハートぶち抜く巻頭カラー68Pで堂々の開始だ!!

しかしこのハートぶち抜くというのがまた。比喩ではあるが本当に誌面で心臓ぶっ叩いているから凄い
野球の打席は真剣勝負の場。ならばブッ叩かれて息の根止められても文句は言えない。
投げる球はまさに投手にとっての命――心臓のようなものであるということだ。

この手応え。完璧だ。心臓吹き飛ばして胸にデカい穴開けてやる!!

その言葉が示す通り主人公の一打はバックスクリーンに直撃するホームラン。
中3でありながら4試合に7ホーマーというかっとばし男。
この男こそが神奈川宮丸シニアの四番・清作雄である。

見事なホームランを決めた清作であるが、チームメイトとの仲はあまり良好では無い様子。
清作の目標は甲子園。
神奈川でそれを目指すならばスカウトのためにこの試合を見に来ている港南学院の監督にアピールするのが1番の近道と考える。
なので味方に1打席でも多く俺にまわせと脅しをかけたりしている。おやおや怖い怖い。

その港南学院の監督が注目するのは2人。同じ神奈川宮丸シニアの選手。
1人目はエースの八子遼一郎。体の線はまだ細いが最速142キロの速球とキレの良いスライダーを武器に巧妙なピッチングをする。
2人目が清作雄。とにかくその長打力はスゴイの一言である。四番打者らしいなぁ。

この試合は6対0で宮丸シニアの勝利。
明日の決勝に勝てば関東ナンバーワン。全国大会出場の権利を得ることができるらしい。
喜びチームメイトに冷たく言い放つ清作。

明日の決勝。お前らザコは守備のミスだけしなきゃいい。得点は全部俺が取ってやる

見方によっては頼もしいセリフと思えなくはないんですけどね。
さすがに普段の態度がアレなので好意的に取られることもない。その直前に対して活躍もしてないとか言っちゃってるしな。
そんな清作に苦言を呈するのは八子。
清作もさすがに八子だけは認めているらしいが意見まで聞くつもりはないようだ。うーむ。
帰りのバスの中でも孤立してる様子ですし何とも団体競技に向いてない子ですなぁ。四番打者らしいけどね。

試合を終えて腹を空かせて帰る中学生。
そんな清作に与えられた夕食代は100円。ワンコインって言葉はあるが、100円で何食えってんだよ。
若いんだしエネルギー補給したいのに。しょうがないからバナナを選択する清作。正解かな。

明日の決勝に備えて休む。
わけではなく、公園で素振りを開始する清作。
今日の試合の最後の打席。ホームランには出来ずフェンス直撃の二塁打であった。それを打ち損じと考える清作。

ホームラン1本ごとに1歩、甲子園に近づけるってのに。
俺の価値を証明するには1打席も、一振りも無駄にしたくない――!

そんな想いを抱きながら素振りをする清作の前に現れたのは八子。こちらも走り込みをしていたらしい。
チームの柱ということでその力は認め合っているようだが決して仲のいいわけではない2人。
清作は八子に善人ヅラはやめろという。
それに対し八子。「勝つ」という目標は皆同じなんだしわざわざチームの和を乱すようなことを言うなと返す。正しいですな。

出たよ優等生。いい人すぎると損するぜ。ウチの親父みてーによ
ウチに金無ぇのお前も知ってんだろ。知り合いの女にだまされたとか何とか。おかげでウチまで巻き添えだ。
他人のためだとか善人ヅラのせいでこっちまで被害うけるのはゴメンなんだよ。

屈折しているのは家庭の事情でありましたか。
ちゃんと帰ってきたらただいまーが言える子でありますのにねぇ。しかしこの父親のお人好しそうな顔・・・
「女性の嘘を見抜くのは砂糖に混じった1粒の塩を見分けるくらい難しいな〜〜」
お人好しというより単に女好きな気もしてきたぞ!!HAHAHA。

ともかく清作の目的は港南学院のスカウトを受けること。
推薦で入れは授業料は免除されるし甲子園に出られればプロにも行けるかもしれない。
なるほどね。中学生のうちからきっちりとした将来の見据え方をしていて感心と言えるかもしれない。
しかしそれではまるでお金が目的で野球をやっているみたいでありますが――

勘違いするな。俺は野球を続けるために、野球で勝ち続けたいだけだ
チームメイトにも誰にも負けたくねえ。それだけなんだよ。

他のことで稼ぐのではなく野球で稼ぎ、生きていきたい。
何だかんだで野球を続けるのが一番の目的なわけでありますな。そりゃプロを目指すしかないわけだ。

八子を見送り素振りを再開する清作。
しかし一瞬腰の辺りに違和感を感じる。気のせいかと流しているが、こういう違和感は大事に繋がりやすいんですよね・・・

さて、関東大会の決勝戦。宮丸シニア対白樫シニアの対決となります。

白樫シニアのエース投手・新崎。ここまでの4試合でたったの2失点に抑えている。
この対決、投手力は互角。鍵となるのは清作の一発と見られているようだ。

1回の表、宮丸の攻撃。
これを3者連続三振に切って取る新崎。顔がゴツイだけに球も重そうですなぁ。

裏の白樫の攻撃。八子は調子良さそうであるが、相手も決勝まで勝ち上がってきたチームである。昨日までと同じにはいかない。
センターの頭上を越える大きな当たり。そのセンターを守るのは清作。
バッティングだけではなく守りもできるんだぜというアピールをするために見事なキャッチをしてみせる。やるねぇ。
しかし今のプレーで再び腰に違和感を覚えてしまう清作。おやおや・・・

さて、2回表。さっそく四番である清作の打順。こうなれば腰に違和感があるとか言ってられませんわな。

少しくらいの痛みで退いてたまるか。
・・・青ざめろ。テメーの息も止めてやる。その胸にデカイ穴開けてやる!!

再びボールを心臓に見立てての会心の当たり。
新崎の重い球を見事にスタンドにまで運んでしまう。スゲーなオイ。
しかし白樫のエースはさすがにタフである。この一撃を受けても目は死んでいない。
うーむ、心臓1つぐらいでは仕留めきれないこともあるということかねぇ。

さて、見事なホームランを決めた清作を出迎える八子。

清作「悔しがれよ。スカウトの前で俺の方が目立ってんのに」
八子「味方が点取ってるのに何でだよ」

むう、爽やかな返し方だ。
そして妙な歩き方をする清作を見て声をかける八子。ふむ、気づきそうな感じか・・・?

試合は進み4回。
清作の一発以外はどちらもランナーこそ出るものの得点には結びつかず1対0で進行している。
そこで回ってくる清作の第二打席。しかし残念ながら空振りの三振。
うーむ、ついに腰の痛みが違和感ではなくはっきりとしたものとなってきたようですな。

6回裏。白樫の攻撃。ランナー二塁で四番に回るピンチの状況。
その四番の池林はセンター前のヒットを放つ。
清作は腰をさらに痛めながらもバックホーム。しかしキャッチャーのブロックを破られて同点に追いつかれてしまう。あらら。

ベンチに引き揚げる際に八子に謝るキャッチャー。爽やかに切りかえようぜと返す八子。
しかし完璧なバックホームを返したのに当たり負けされた清作としては文句の一つも言いたくはなる。
うーむ、ケガのこともあるから言いたくなるのはわかるがやはり雰囲気はよくないなぁ。
足引っ張られてテメーも内心腹立ってんじゃねーのかよと述べる清作。
それに対し、だったらお前も交代しろよと返す八子。

腰か背中痛めてるだろ。いつものスイングじゃない。

やはり気付いていたか。そしてこのままでは悪化するかもしれないと監督に交代を願いでる。が――

清作「テメーの善人ヅラにはウンザリだ!俺の進む道歪める権利なんかねえんだよ!!」
八子「お前こそいい加減にしろ!誰だってお前みたいに強いわけじゃない!優れてるわけじゃない!
だから力合わせなきゃいけないんだろーが!!」

野球という団体競技の中においては八子の意見はあまりに尤も過ぎる。
清作1人で戦えるという話でもありませんしなぁ。チームメイトも当然ながら八子を支持する。
だがそれでも交代には応じる気はない清作。ホームラン打って点取るのが俺の役目ならキッチリやってやる。文句は言わせねえ。

他人のことまで気ィ遣う余裕なんか無え。だから前だけ見てる。それが悪ィかよ

気遣いが出来ないのは仕方がないが当たり散らすのはちょっとなぁ。
というかそういう気持ちを素直に吐き出せるようであればもう少し違うのかもしれないが。

清作の三打席目。痛みはこれまで以上に大きくなっており、一振りごとに顔を歪めることとなる。その最中に清作が想うことは――

一生懸命やってたら失敗しても許されるのかよ。甘えだろそんなの!!
たとえまわりが許したとしても失敗した自分を自分が許せるのかよ。ふざけんな!!
傷の舐め合いも、心配も、生ぬるくまとわりつく綿菓子みたいだ・・・
吹き飛んじまえ、そんなもん!!
球場にいつヤツ全員の呼吸を止めてやる。世界を止めてやる。見ろ。見ろ。これが俺の力だ!!

清作のバットは見事にボールを――心臓を捕える。一斉に球場内の全員がその打球へと目を向ける。

俺が試合を決める。俺が1番なんだ。
昼間に流れ星を追うみたいに、見ろ。抜け殻みたいに虚ろで無力なまま、見ろ。誰も邪魔すんじゃねえ。

という具合に見事な想いは乗っていたのだが・・・飛距離は足りなかった。
フェンス際で白樫の守備にキャッチされてしまう清作の打球。流石に完璧なスイングでないと厳しいか・・・

その結果を見届け、悔しがりながら倒れ込む清作。腰の痛みが限界を突破した様子ですな。
急ぎ駆けつけてくる八子。清作は声を出すこともできない状態なのにそれを迷惑がる。
この白い四角は俺の居場所だ。勝手に入ってくんじゃねえ!!って話だ。
まあ、もちろんそんなことは意に介さず近づいてくるんですけどね。そして他人の言うことをきかない清作に向けて八子はこう述べる。

ザマァ。だな

おぉっと・・・悪い笑顔だ!!
ふーむ。善人ヅラをしておきながらやはり内心では面白くないと思っていたのだろうか。
清作の父とは違い騙される方ではなく騙す方の善人ヅラだったわけですね。HAHAHA。

安心したぜ。俺は間違ってなんかねえ。今の俺が、ただ弱かっただけだ・・・

地面に這いつくばり、そのような想いを抱く清作。
その後、試合は続行。宮丸シニアが最終回で勝ち越しに成功し、関東大会を制覇することとなった。
そしてバスに横たわりながら清作が見たのは、港南学院の監督からスカウトを受ける八子の姿。おやおや。

八子・・・どこまでも俺を荒らしやがって・・・

屈辱を覚える清作。しかしそれで潰れる男というわけでもない。
俺だけ息を止めたままいられるわけねえだろって話だ。

というわけで腰の痛みを克服するために筋トレを行う清作。無茶なことしてんなぁ。
まあそれもこれも父親からのアドバイスによるものだったりするのですが。

何だ雄。腰が痛いのか?お父さんもよくあるなぁ。女の子ガラミで。
腹とか背中とか鍛えまくれ。そしたら腰も丈夫になるぞ。腰が元気なら女の子も喜ぶしな。HAHAHA。

何言ってんだこのオヤジは。オヤジなだけにオヤジくさいこと言ってんじゃねーぞ!!
まあでも周りの筋肉を鍛えると腰を痛めにくいというのは本当の様子。
しかしそれは予防策であって、痛めている最中に鍛えるという話ではないのだが・・・
下手すりゃ悪化する可能性もあるのに動かずにいるよりずっとマシだと鍛えまくる清作。よくやる。

勝つ、克つ、剋つ。
俺を否定したヤツ。見限ったスカウト。全員見返してやる。
テメーら皆ブッ倒して甲子園に行くのは、俺だ!!
邪魔するヤツはハジキとばして俺の進む道造ってやる。

その誓いのもと、痛めた腰も完全に復調した様子。うーむ、なんという根性の癒し方。

――いや。元通りじゃだめだ。前以上にならねえと。
クソみたいなテメーらにひとつだけ感謝してやる。俺はまだ何も満たされてねえ。飢えたまんまなんだ。

リベンジを誓い、別の学校からの甲子園行きを目指す清作。
そんな清作が四月から通うのは神奈川県立桐湘高等学校
去年の野球部の成績は県予選のベスト8。ふーむ甲子園に向かうには少し厳しいところでありますな。

2年の喜多幹生児島壮太。3年副主将の宇城丈吾といったメンツが出てきているが詳しいキャラ紹介は次回以降かな。
その彼らが言う、清作以外に既に1人いるアクの強いスラッガーとは何者か。

放課後。爆睡してHRが終わってたのに気づかなかった清作。部活初日から遅刻はヤベェよなと廊下を猛ダッシュ。
男子女子に関わらずハネ飛ばしながら進む。乱暴なやっちゃ。
しかし一人の男にぶつかり、逆にハジキ飛ばされてしまう清作。おぉう。
しかもその右手に出来たマメは肉球のように盛り上がっている。一体どれだけバットを振ればこんなことになるのか・・・
まるで及んでいない自分の手を見ながら立ち上がり、その男に声をかける。アンタも野球部だよな・・・と。

2年の弐識敏だ。

清作にいきなり頭突きかましてそう名乗る弐識。
この弐識敏との出会いが清作の新しい鼓動が始まった瞬間となるそうであるが・・・?

てな感じで始まりました新連載。
相変わらずアクの強そうな主人公であるが、果たして団体競技の野球というスポーツでやっていけるのだろうか。
まあ、最後に出てきた弐識という男もまたアクの強いスラッガーのようですし、影響を受けていけば変化も有り得るか?
さすがにこれだけ濃い面子ばかりが揃うということもないでしょうが、他のメンバーにも期待がかかりますな。

ところで桐湘は共学である様子。女生徒の姿が見えた。
となると名前付きの女子キャラが出る可能性もあるということだろうか。
女子マネ辺りはいてもおかしくないですしなぁ。うーむ、これは期待したいところでありますぞ。



Vol.2 揺れる  (2013年 42号)


いきなり廊下で先輩からヘッドバットの洗礼をもらう清作。
清作がヤワというわけじゃない。この弐識という先輩が強靭なのだ。

清作「俺は自分の居場所勝ち取るためなら、先輩相手でも退く気は無いッス」
弐識「じゃあ、その高い鼻グラウンドで潰されても文句はねえな」

ふむ。いきなり睨まれてしまった様子ですな。
まあ清作の性格なら遅かれ早かれこういう状況にはなっていたか。

廊下で派手にやらかしている清作に話しかける坊主頭の男子。
リスザルみたいなヤツと評されるのは江北シニア出身の栗原厘。なるほど栗っぽい感じだ。
地味な感じの子らしく、一度対戦はしたものの清作は覚えがない様子。

けど僕はよく覚えてるなあ。清作君のホームラン。
僕じゃ到底届かない。打球見ながらそう思ったもん。相手のホームランだったのに、不思議と気持ち良かったなあ・・・

味方よりもむしろ相手の方に感嘆してくれる人がいたというのは皮肉な話である。
そのように語る栗原に、届かねえなんて簡単にあきらめるなよ。近付こうとしなきゃ前にも進めねえんだぜと返す清作。
ぶっきらぼうではあるがなかなかよい返しですなぁ。

清作たちが通うこととなった神奈川県立桐湘高校。
野球部は創部60年で甲子園出場は春・夏1度ずつ。神奈川は私学が強いのもあって最近は目立った成績を残せていない。
しかし去年の夏の県予選。元々のチームの守備の堅さに加えて、一振りで試合の流れを変える四番の弐識先輩の爆発力が合わさる。
その結果、公立校で唯一ベスト8まで勝ち上がったらしい。ほほう。
さすがにアクの強いスラッガーと称されるだけあり、弐識は1年の時から四番打者だったんですなぁ。

・・・だから今年は去年の県予選ベスト8以上。
ううん――夏の甲子園出場を目指して、先輩たち気合入ってるんだよ・・・!!

何だかんだで甲子園を狙えるチームではあるわけか。それは良かった。
新入部員である1年生を並べ、代表として副キャプテンの宇城さんが挨拶をする。おや?キャプテンはどうした?

去年の夏の予選の後、3年が抜けてからは戦力が落ちて秋の大会では成績を残せなかった分、
今年の夏に全てをぶつけるためトレーニングを重ねてきた。目指すなんて言葉に甘えずに、目標のためにひたすら勝ち続けるだけだ。

さすがの意識の高さでありますな。甲子園出場。上っ面の言葉だけではないということか。

新入生は14人。それぞれ自己紹介を開始する。
出身や名前。ポジションの希望などが述べられる。ならばといきなり四番希望!とブチあげる清作。さすがだ。
弐識はこの発言を笑って流す。
かと思いきや今日は俺が指導してやるぜと睨みだす。メッチャキレとる!!ハハハ。
弐識1人じゃ危なっかしいということで穏健そうなメガネ先輩である2年の喜多さんも1年の指導に加わることとなった。

打ちてえ。バット振りてえ。弐識の前でホームランブチかましてやりてえ

ウズウズが抑えきれない様子の清作。分かりやすい子だ。
そんな清作に神奈川の夏の県予選は何校出るか知ってるかと尋ねる喜多さん。
知りませんと答える清作の顔が何ともバカっぽい。実際バカの可能性も高そうだがどうなのだろうか。

参加は190校で甲子園に行けるのは優勝した1校。つまり夏の暑い時に最大7試合勝たなきゃいけない
レギュラーを掴むためにも試合を戦い抜くためにも体力づくりが必要だ。しんどくてもついてこいよ。

そのように語る喜多さん。しかし清作はその言葉に不満がある様子。

体力つけるなんて投手だけでいいんじゃないスか・・・?
俺は打撃の練習したいス。四番希望なんで

本当に挑戦的な男でありますなぁ。
しかし野手だって動き回るのだし、ある程度の体力は必要になると思うんですけどね。
なので反論しようとする喜多さん。それを制し、今日の練習中、何か1つでも俺に勝ったらテメーの好きにさせてやると述べる弐識。
バカにはクチで説明したって時間のムダだ、とのこと。そうかもしれませんな。

・・・余裕カマしてられるのも今だけだ。

弐識の圧力で仰け反り、面白いポーズになりながらそんなことを思う清作でありました。

まずはアップということでランニング。
いきなりスタートから飛ばしてブッちぎろうとし出す清作。ムチャする男だ。
そんな清作にあっさりと追いつき、そのまま追い越していく弐識。
力入れていないような走りだというのにクソ速い!!
マラソンランナーに必死でチャリこいでも追いつけないというイメージであります。何か可愛い構図だなコレ。

基礎の体力がケタ違いだってのかよ・・・!?クソッ。脇腹痛ェ。クソッ。

アップが終わる頃にはすっかりへたばっている清作でありました。やはり飛ばし過ぎか。
しかし先を走っていた弐識は息も切らしていない。うーむ、怪物め。
しかし地ベタに這いつくばるのは2度とゴメンだと考える清作。まだまだと立ち上がる。

続いては筋トレ。輪になって腕立て伏せを行う。
中央には喜多さんを背中に乗せて片腕立てを行う弐識の姿。レスラーかお前は。
どうやら持久力だけじゃなく、筋力も圧倒的な差があるらしい。まあそれは廊下でハジキ飛ばされた時点で分かろうものであるが。

このように基礎の体力づくりは続く。
ほとんどの1年生がへたばり、地面に転がる中、先輩方は余裕そうな表情。
夏のクソ暑い中を戦い抜くためには体力は絶対に必要なんだと説く。

投手に連投させんなとか練習量多いのは流行んねーとか、うるせえヤツもいるけどよ。
こっちは好きでやってんだ。体に悪いモンが美味いのと一緒だ。
自分の夢のためにイカレられるなんて最高だろーが。ゴチャゴチャ言うヤツは体力と根性でねじ伏せる。それが桐湘の野球だ

前時代的な泥臭さといった感じだが、それもまた良いんじゃないでしょうか。
本番で体壊すことになるぐらいなら練習で削って養うぐらいの方がいいってものである。
特に夏の高校野球は厳しい日程で行われますからなぁ。桐湘の去年の夏も例外ではなかった様子。

桐湘のエース之路さん。4試合を1人で投げ切った投手であるが、さすがにこの暑さで体力に限界が来ている様子。

之路先輩の球、そんな気安く打ちやがって。体力さえ満タンならテメーらごときに打てる球じゃねえのに・・・

1人がヘバればそこを狙われる。チームのためにも体力をつけなければならない。
改めてスタミナの重要性を思い知らされ、鍛え直すこととした桐湘。
しかしチームのためにと言われてもピンとこないのは清作。

倒れた時助けてくれるヤツなんか、俺にはいなかったスよ。

自身が周りを拒絶していたためとはいえ、やはりチームメイトには恵まれていなかった気がする清作。
そんな清作にこう述べる弐識。

桐湘は即戦力がゴロゴロ入ってくる私立とは事情が違うからな。テメーら自身があきらめねえ限り戦力外だと見限るつもりはねえ。
それに、俺は高校ナンバー1の打者になる男だ
お前が倒れても猫つまみ上げるみたいに片手でラクに引きあげてやる。お前のまわりにいたザコと一緒にするなよ。

確かに。清作に必要だったのは同格以上の相手だったのかもしれませんなぁ。
いざというときに助け上げてくれる人がいなかった。それは不幸なことである。自業自得の部分も強いのでアレですが。
いずれにせよ、弐識には何を言っても何をやってもかなわないのかと思い出す清作。
それでも打撃だけは――その想いはまだ残っている。

1年が休んでいる間、少し打ってくるという弐識。
喜多さんは皆、耳を塞いでおけよと忠告するが、それを聞かず弐識のバッティングに見入る清作。
筋肉が軋み、派手な音を立ててボールを捕えるバット。
その鳴り響く轟音は離れていた清作の三半規管――いや、脳そのものを揺らす。ぐわん。

打撃音で人が倒れる。一体どういう現象なんだ!!
弐識が凄いのか清作がすぐ倒れてしまう子なのか。2人合わせた芸ということなのか。
実際、毎回倒れるぐらいの轟音を立てられていたのでは、間近で聞かされる捕手と主審はたまったものじゃありませんしなぁ。
やはり清作の耳が敏感すぎただけであろうか。

さすがにここまでされると負けを認めざるを得ない清作。だがタダで負けを認めるつもりもない。

弐識敏。俺はこの人以上になってやる
見上げたツラは八子の野郎みたいに気に食わねえけど。
倒れながら揺れるアタマで見た打球は点滅をくり返すホタルみたいに頼りないけど。
鮮やかで追いかけたくなる。確かな光だ――

この人以上になってやる。この言葉を聞く限り、微妙に敬意のようなものも生まれてきている感じがしますね。
これは割と早い段階で更生する目も出てくるのではなかろうか。
そしてまた、そんな弐識も敬意を表していそうな男が桐湘に存在する。
3年。キャプテンである之路拓人
どうやら挨拶も副キャプテンに任せて1人でずっと体力をつけるための走り込みを行っていたらしい。

去年の夏は途中でマウンドを降りてしまったからな。今年の夏は立ち止まるわけにはいかなんだよ

何!?過去形!?というか訛ってる!?
いやまあ脱字なんだとは思うけども。いかないんだよと言いたかったんだろうけど。またえらい抜け方しおるなぁ。

何にせよ魅力的な選手が集っている様子の桐湘。
他にも印象の深い選手が出てきてくれることに期待したいですな。
之路さんが多少は楽できるぐらいの投手が1年から出てきてくれると嬉しいが・・・さすがにそれは望み薄か?



Vol.3 作成会議  (2013年 43号)


基礎トレーニングに励む清作たち新入部員。
さすがに高校野球は厳しいのか桐湘が特に厳しいのか、練習終了時には皆バテバテとなっている。
入部3日目ではあるがほぼ基礎トレーニングが中心でロクに球にも触れていない状況。
そりゃあ14人もいた新入部員も10人にまで減りますわな。
これ以上減ると1年だけで9人を割ることとなってしまう。さすがにシゴキが厳し過ぎたんじゃないですかね、弐識よ。

いくらウチの戦力が不足してるからって、自分の弱さに立ち止ったヤツにかまってられるか

厳しい人ですなぁ。自分にも他人にも厳しそうだ。
そんな弐識が清作たちの前に進み出てこう述べだす。

喜べ。明日試合するぞ。2・3年対1年で紅白戦だ。負けたら練習量倍に増やすから気合い入れろ。

なんとまあいきなり!!こりゃあ面白い。
しかし試合が出来るのは確かに喜ばしいが、負けたら練習倍ってのは本気の発言なのだろうか?本当にやらせそうで怖い。

去年の3年が抜けたとはいえ夏の神奈川予選ベスト8のメンバーと戦わなければいけない。
これはさすがに気後れする。そんな中、勝ったら四番の席、もらえますかと言ってのける清作は立派というか何というか。
挑発を受けてしっかり力を見せつける弐識は大人気ないというか付き合いがいいというか。いぎぎッ。

俺は去年の紅白戦でホームラン3本打って四番の座を掴んだ。それを超えてみせろ

超えようとするならば全ての打席でホームランを打つぐらいしないといけなさそうですね。こりゃあ大変だ。
ちなみに夏の予選でベンチ入りできるのは20人。
しかし今週末から始まる春の県大会は25人入れる。
2・3年は合わせて19人しかいないので活躍すれば空いた6つの背番号を獲得するチャンスとなる。こりゃ嬉しいお知らせですな。

1年生が着替えて帰る頃にはもう日も暮れようとしている。
背番号がもらえるかもしれないと息巻いてはいるが、あの弐識先輩を抑えなければいけないとなると気が重い。
余計なこと言ってあおりやがってと責められる清作だが、本気で相手してもらわないと意味ねーだろと反論。
まあ、あの人は煽らなくても確実に本気で打ちに来るだろうから変わらなかったと思いますけどね。

今からどこかで作戦会議をしないかと1年たち。お互いのポジションも知らないのに明日いきなりはアレですしなぁ。
現在10人いるのなら1人はあぶれることになるし、そもそも全てのポジションをカバーできているのだろうか。
投手はいるみたいだが捕手はいるのだろうか。気になるところだ。

俺は他人の力なんてアテにしねーし、ホームラン打つことに専念する。金無ーし帰るぜ。

何となく最後の部分が一番の理由の気がしないでもない。
しかしそんな協調性のない清作に絡んでくるのは伊奈というツンツン頭。
胸ぐら掴みあって一触即発の雰囲気。慌てて僕がオゴるから一緒に行こうと宥めに入る栗原くん。大変だなぁ。

伊奈「テメーが上だと思うなよ。店まで競争だ」
清作「負けたらオゴれよ」

そういって他の面々を置いて走り出す2人。清作を浮いているといった伊奈だが、何だか似た者同士な感じですな。

競争は伊奈の勝利。おやおや。
だが負けたままではいないのが清作。次は大食いで勝負だとか言い出す。
金が無いのに大食い勝負を持ちかけるとはいい度胸しているというか何というか。栗原くん、大変だなぁ。
確かに普段食えない分、食に対する執着は上でありましょうさ。それで勝って満足なのか!?野球関係ないし!!

清作「オレは四番センター。文句ねえだろ」
伊奈「・・・俺は四番サード。ゆずらねえぞ・・・」

大食い対決は清作の勝利。ポジション自体は被ってないようだが、四番の座を巡っての争いとなるわけか。
ちなみに四番サードは弐識と丸被りのポジション。
しかしどうやら伊奈、それが分かっていてこの学校に来た様子。

あの人越えたいと思ってんのはお前だけじゃねえ

なるほどね。それで練習中もちょくちょく張り合ったりしていたわけでありますか。
それ以外にもテメーのエゴでチーム壊すようなヤツが何も反省してないのが気に入らないとのこと。
ふむ、はっきり言う男でありますな。ある意味清作には合っているヤツなのか知れない。

というわけで、勝負は1対1の状況。決着をつけるために腕相撲で最終戦。
ハラいっぱい食った清作はいつもよりパワーも増している。負けは無い!!
と思いきや、清作の足を踏みつけてバランスを崩させる伊奈。なかなかセコイ手を使う。
しかしそれを力で跳ね返し、四番の座をもぎ取る清作。うーむ、執念が違うと言うことであるか。
どうでもいいが腕相撲するならお椀ぐらい机からどかしてやりなさい。

何が何でも勝とうってのは嫌いじゃねえけどな。そうでもしなきゃ勝てる相手じゃねえしな・・・!

全くもってその通りですな。
というか普通に考えたら高校生なりたての1年生が上級生に勝てるとは思えない。
それでも勝つ気で挑もうとするのはいい心持ちであると思われます。

しかし2・3年生チームのピッチャーは主将であるエースの3年、之路拓人さん。
ずっと走り込んでばかりで姿を見せていなかった人だが、ようやくその力が明らかとなりそうだ。
早くも焦ったような表情を見せている清作だが、はてさて活躍はできるのか・・・注目です。



Vol.4 挑戦者  (2013年 44号)


1年対2・3年生の紅白戦。
2・3年チームで投げるのはエースで主将の之路拓人さん。
投球練習を見る限りでは打てそうにないほどの球ではないように見える。
前日の勝負に敗れ清作に四番を譲った伊奈は先頭打者で1打席でも多く結果を出そうと気合を入れている。
ふむ、強気な姿勢でいるのはいいことでありますな。
なんせ去年の弐識は紅白戦でホームランを3本打っている。目指すはその記録越えである。気合はいくらあっても足りないぐらいだ。

・・・やってやるよ。

静かに闘志を燃やす清作。その肩にグローブを当てて声をかけて来る男の姿があった。

ユーアーキヨサク。アンチュー?
僕が英語のレッスンしてる間に、脳筋・弐識にケンカ売ったんだって?それだけでマイフェイバリットだよ。
2年・柊瞠。髪はロングだけどショート(遊撃手)。ナイストゥミーチュー。
四番のオーダー。奪っちゃえよ。チアリングするよ。

また怪しげな英語を扱う奴が出てきましたよ!!
英語を習っている割にこの怪しげな感じ満点っぷり。一目でおかしなキャラだと分かるのは便利ですやねぇ。

弐識の発言によるとメジャーを目指して今のうちに英語を勉強しているらしい柊。
どう考えても通じる気はしないが、意志疎通はどちらかというと態度によるものが大きいですからねぇ。
この自信満々な喋りならばどこででも通じるでしょう。単語でも会話を成立させてしまいそうな雰囲気がある!!

まあ、何にしてもまた濃い先輩が現れたものである。
弐識と柊に挟まれている清作が何だか凄く可哀想に見える。挟むな挟むな。

チームメイトでありながら性格の問題かよく争っていそうな弐識と柊。
しかしそんな2人の諍いも之路キャプテンの一言でピタリと止まる。サーセン。

そろったようだし始めようか。ケガには気をつけて水分もちゃんととるように。
1年諸君は自分の長所を出してノビノビやってくれよ。

という風に優しげな顔で声をかけてくれる之路さん。いい人だ。1年の緊張も解けたことでしょう。
しかし清作を挟んでいた2人――弐識と柊はなんだか浮かない表情。ど、どうした・・・
それはさておいて、スターディングメンバーの発表だ!!

1年生チーム
一番サード 伊奈和麻
二番ライト 栗原厘
三番セカンド 畑健介
四番センター 清作雄
五番ショート 松木真也
六番レフト 小堀克己
七番キャッチャー 権田隆盛
八番ファースト 金屋学
九番ピッチャー 田村誠

2・3年生チーム
一番センター 児島壮太(2年)
二番ショート 柊瞠(2年)
三番レフト 頭木武志(3年)
四番サード 弐識敏(2年)
五番キャッチャー 宇城丈吾(3年)
六番ライト 奥居諒(3年)
七番セカンド 楠瀬強(2年)
八番ファースト 喜多幹生(2年)
九番ピッチャー 之路拓人(3年)

3年生は4人しかいないのか。いや2・3年生は19人いるとのことだし、ベンチにはまだ3年生がいるのかもしれない。
何にしてもこの面子に1年生たちは割り込んで行かなければいけないのだ。大変そうだなぁ。

さて、1年生チームの先攻でいよいよ始まる紅白戦。
そういえば主審とかは誰がやっているのだろうか?控えの先輩?実は先生?

それはさておき、さっそく出番の伊奈。背番号がかかっているのだし頑張らねばならない。

見てろ清作。弐識敏。デカイのカマして、桐湘の四番をもらう・・・!

先頭打者ではあるが心は四番。繋ぐつもりも見ていくつもりもない。狙うのはホームランだけだ!!
そんな様子を見せている伊奈に対し、之路さんはマウンド上で空を見上げている。

桐湘から甲子園まで。道のりは遠いかもしれないけど。
俺は之路拓人――之の路を拓く人だ

おぉっと。なんだか決めゼリフのような言葉が発せられましたよ!!
言葉と共に、ボールを心臓へと叩き付ける。その途端雰囲気がガラリと変わる之路さん。
投球練習ではそれほどの速さはなかった。変化球投手かと思われていた。
しかし豹変した之路さんが放つボールは・・・150キロ近く出ているのではないかと思われる剛速球!!
打席に立つ伊奈の鼻にはミットがコゲ臭い匂いを放っていることに気付く。マジかよ・・・!?

伊奈ァ!ド真ん中の球に腰ひいてんじゃねえ!打つ気ねえなら失せろ!!

完全にキャラ違ってる!!
これが之路拓人。二重人格オン・ザ・マウンドということでありますか・・・ここの先輩はこんなのばかりか!!
なるほど。こりゃあ弐識や柊たちがビビるのも仕方がないことでありますな。
穏やかそうな主将だが我の強そうな弐識たちを抑えられるのか・・・?さっきまでそんな風に思ってたりして済みませんでした!!

豹変した之路さん。
とにかく球は速いし怖いし。ディスりすぎだし。
この性格を毎試合続けるのであれば、そりゃあ体力がいくらあっても足りなさそうでありますわな。

ただの真っ直ぐだというのにカスリもしない伊奈。ここで何かアピールしないといけないのに・・・

こうなったらデカイの狙うのはやめだ。せめて前に飛ばしてやる。

狙いを変更し、バットを短く持つ伊奈。
賢い選択と言えるかもしれないが、四番打者の心意気とはまた違う気がしますな。
そしてそれは桐湘の心意気ともまた異なる。

・・・ウチはな、挑戦者なんだぞ。ビビッたら負けなんだよ!!

そう言い放ち、3球目も剛速球で仕留める之路さん。怖い怖い。
バットを短く持った甲斐もなくあえなく三振に仕留められた伊奈。不甲斐なさに気落ちしている。
そんな伊奈に対し之路さんから一言。

下向くな

ふむ、激しいしディスりまくるけど、落としたりはしないって感じですかね。
挑戦者の心意気というものをとにかく叩き込もうと考えているのかもしれません。
となれば、仲間だろうが構わずに喰いついていく清作は生粋の挑戦者ともいえる存在である。相性は良さそうな感じだ。
ひょっとしたら清作まさかの一発もありえるかもしれない。
が、たぶんこの回は三者三振で終わることでしょう。
となると一回の裏、2・3年チームの攻撃になるわけだが・・・ボコボコになりそうだなぁ。
ピッチャーの田村くんに置かれましてはご愁傷様ですと今から述べさせていただく次第でございます。



Vol.5 この空気  (2013年 45号)


二重人格エースとしていきなりキャラ立てをしてきた之路さん。
そのギャップと剛球に押されっ放しの一年たち。
アピールしなくちゃいけない紅白戦なのに、すっかり先輩にキャラ食われちゃってますな!!これが年季の差というやつか。

栗原ァ!バット振れ。地蔵かテメーは!
どこ振ってんだ、畑。木星くらいデカイ球打ってんのか!!

相変わらずディスりまくりの主将でございます。しかしちゃんと一年生の名前を全員記憶している様子なのは流石である。

さて、1回の表は三者三振。そしてやってくるのは1回の裏。先輩方の打撃の番である。
果たしてこの回でどれだけの失点を許すこととなるのか・・・
主将のノドが涸れ果つる前に引導を渡してくれようとか言われているが・・・というか、なんですかその喋りはギョロ目さん。

まだ1人も相手をしていないうちからマウンドに集まっている1年生たち。
ピッチャーの田村くん。誰1人抑える自信ねえよと凄い弱気な発言。
そんな田村くんに対し、1人だけ離れたところにいた清作が述べる。

テメーが投げなきゃ始まんねえだろ。俺は早くホームラン打ちてーんだ。サッサと打ち取って終わらせろ

凄く自分勝手な言い草ではあるが、とりようによっては激励にとれなくもない。
少なくとも田村くんの後押しにはなったようだ。投げなきゃ始まらないのは確かですしなぁ。

お〜〜〜い。いつまで固まってんだー。これから100点取るんだからよー。まかねーと日ィ暮れんだろ〜〜

そんなことを言いだす2年の児島。ナメた発言だが、実際にやりそうな気もするので怖い。
しかしボール球を引っ掛けてサードゴロとなる児島。ボテボテじゃねーか。
と思いきや、そのボテボテの当たりをしっかりヒットにしてしまう足を持っていた様子。
うーむ、さすがにセンターで一番。その足の速さこそが児島の武器であるということですな。

続いて2番の柊。
2番はバントなどを行うことも多く、器用な打者が入ることの多い打順。
その例に漏れず、どうやらスイッチヒッターである様子の柊。左打席に入って構える。
でも恐らく左打席に入ったのはわざとファールボールを弐識の方へ向けて飛ばすため。ソーリー。
さすがの弐識でもファールボールが直撃したらタダでは・・・いや、なんともなかったかもしれないな・・・
それよりも、本当にそうなった場合は味方チーム同士での乱闘に発展して大変なことになったのではあるまいか・・・

之路「2人とも。試合に集中しなきゃ
弐識「サーセン!」
柊「ッサー!」

良かった。之路さんがいるから最悪の事態は起きずに済みそうだ!!頼りになる主将だ。

というわけで、ジョークはここまでだときっちり打つ柊。
これでノーアウト一・二塁という早くも失点が見えてきた状態。
ピンチではあるのだが、清作はそれとはまた別のことを考えている。

手ェ抜いてるようには見えねーけど、マジメにやってんのか・・・?
小学生が昼休みにやってんじゃねーんだぞ。うるさすぎんだろ。
何なんだろうな。桐湘のこの空気は――

児島「頭木センパイ、打ってくださいよー。そのギョロ目はボールを見るためにあるんスから〜〜」
頭木「承知した」
柊「脳筋のヒットでホームに帰りたくないからプリーズ!」
弐識「柊ゴラァ!!」

なるほど。これは確かに騒がしい。しかしその騒がしさを嫌っているわけでもない様子の清作。

小学生の頃、一塁守ってたことあったっけ・・・
けど、チームのピンチでマウンドに集まる度にぶつかって、モメて・・・
それがうっとうしくて、声が届かないくらい遠い外野まできたんだ
小学生の頃も。シニアの頃も。
――けど。ここの空気は今まで感じたことがない。桐湘でなら――

そのような物思いに耽る清作。試合中ですし集中した方がいいんじゃないですかね?
実際、ボーっとしているところに弾丸ライナーが飛んできていたりしている。
どうやら頭木さんがセンターまで強烈なライナーを飛ばしたようだ。どうにかグローブで弾き、浮いた球をキャッチする清作。

仕損じたか・・・

なんですかそのセリフは。もしかして狙ったというのですか!?
セリフのフォントも独自のものとなっており、まるで仕事人のような風情を漂わせている頭木さんでありました。怖いな、オイ。

弐識「頭木センパイ。あいつブッ倒すのは俺の楽し・・・役目なんスから、とらないでくださいよ」
頭木「面目ない」

やはり桐湘の先輩方はどいつもこいつも一癖も二癖もある感じでありますね。面白い。
さて、そんな先輩方の中でも特に脅威となる男の登場だ。

・・・さあ、覚悟はいいな。1年ども・・・絶望をくれてやる

凄いプレッシャーを放つ弐識。ピッチャーだけでなく他の守備陣まで緊張してしまっている。
そんな弐識前にしたピッチャーの田村くんにアドバイスを送る先輩たち。
曰く弐識は内角が弱い。筋肉ダルマでコンパクトなスイングができないから、だそうな。
弱いとは言っても全く打てないってことはないから外に比べたらってことなんでしょうな。
というか、ホームランバッターに内角攻めなんて考えられないと判断する1年バッテリー。忠告は無視して外から攻める。が――

まあ、予想通りというか何というか、一発でホームランであります。
ベンチの面々も走者も耳を塞ぐ弐識の豪打。投げた直後の投手は耳を防げないので大変ですなぁ。ぐらぐら。
いや、たぶん一番大変なことになってるのは捕手じゃなかろうかと・・・

今は敵同士でも、一応桐湘のチームメイトなんだぜ。少しは信じろよ

塁を周りながらそんなことを述べる弐識。よい先輩でありますな。

その後、打者一巡。九番の之路さんのところでようやくスリーアウト。
1年チームは早々に5点を奪われる形となった。まあむしろよく5点で済んだものだと考えるべきであるか。

・・・やっぱり俺は打席よりマウンドの方が合ってるな。
君は打席の方が、だろ。清作。

感じたことのない空気の中、清作がついに高校初打席。
果たして之路さんに、弐識に、チーム全員に自身のバッティングを見せつけることができるのだろうか。
せめて当てるぐらいはして欲しいところであるが・・・さてはてどうなりますかねぇ。



Vol.6 スタートライン  (2013年 46号)


清作、ついに高校初打席。
自身の力を証明する場所にようやく入ることが出来たと気合は十分。

ここは誰にもゆずらねえ。相手が主将だろうと、その球ぶっ叩いてやる・・・!!

初球からホームラン狙う気満々で振り回す清作。四番打者らしい行動だ。
速さに振り遅れてはいるものの、その挑む気概は之路さんとしても好ましいものではないのでしょうか。
と思いきや、柊のいうホームラン4本で弐識を四番から引きずりおろすという話を聞いて火のつく之路さん。

1年ボーズが・・・ナメてんのか!!

く、挑む気概を見せたら見せたでそれでありますか。
ますます速度と迫力の上がる之路さん。実に大人気ない。というか耳が良すぎである之路さん。サーセン!!

ひたすらストレートで押してくる之路さんだが、エースであるならばそれだけとは思えない。
他にも決め球がありそうな感じではあるが、果たしてこの場面でそれを使ってくるのかどうか。
マウンドに上がる前と後の二重人格のせいで読めない清作。
追い込まれた状態である故か、少し後ろ向きな気持ちになりつつある様子。むむむ。

打席に入るのはシニアの大会の決勝でブッ倒れて以来か。クソッ嫌なこと思い出しちまった。
ここは、自分の弱さを思い知らされた場所じゃねえか・・・

確かにシニア時代は嫌な想いで終えることとなった場所でありましたな。
そのことに気付いてしまい、動揺する清作。タイムを願い出て、打席から出ようとする。
しかしそんな気弱な清作を戒めるのは・・・弐識!!

自分で望んで立った場所だろうが。逃げんじゃねえ

おっと、ここで弐識が声をかけてくれるとはねぇ。何だかんだで清作の負けん気は評価しているってことなのだろうか。
しかし之路さん。自分も言いそうな言葉なのに先んじられたからって弐識に当たらないで下さいよ。サーセン!!

・・・何してんだ俺は。バッターボックスだけが俺の力を証明する場所だとか言っといて・・・

打席から踏み出しそうになった足を止める清作。
そんな清作に色んなところから声がかかる。守備についている2・3年から。そして味方の1年から。
皆が皆、清作の頑張りに期待している。あの伊奈までも、四番なら四番らしい仕事をしてみせろと声をかけてくれている。
その声は清作に届き、改めて周りを見回す機会を与えることとなる。

あれ・・・?グラウンドって――チームって、こんなに広かったっけ・・・?

なんだか視界が開けた様子の清作。自身もそのことについて思う所がある様子。

今までは打席の中でホームラン打つことしか考えてなくて、投手しか見てなかったからか・・・?
それとも打席に執着するフリをして、居心地のいい俺1人の場所に閉じこもってただけか・・・?
今まで遠ざけてた声。見ようとしなかったもの。この桐湘にはウザイくらいに溢れてる・・・
目も耳も心もそらせないくらいに・・・
・・・俺も、打席に立ち続けるために、力証明してみせねえとな・・・!!

視野が広がり、力が抜け、笑みを浮かべる心の余裕もできた。
こうなれば一方的に敗れると言うことはありますまい。
之路さんもこの流れで変化球を放ってくることはないでしょうし、後は目一杯振り切るだけである。

振り切れ。迷いも。傷も。今ここで全部。吹き飛ばせ――!!

之路さんの球を捕える清作。
その打球は大きく空を飛び、フェンスの最上段に激突する。が、惜しくもファールでありました。
うーむ、飛距離は十分といえるくらいだったんですがねぇ。残念!!
しかしこれはいい流れである。打てないわけではないという期待を持たせてくれる一打でありました。

弐識の挑発も受け、再度の打ち直しを狙う清作。
だが残念ながら今度は引っ掛けてしまい、サードゴロ。
とはいえ前には飛んだわけですし、走らないわけにはいきますまい。
いや、この走り出す時、清作の目には打席に書かれた白線が今までとは違ったものに見えている。

・・・何だよ、この線。まるで、スタートラインみたいじゃねえか

必死なヘッドスライディングを見せるが、残念ながらアウト。
根性こそ見せたものの、出塁には至りませんでしたか・・・残念!!
だが四番としての役割。チームに希望を持たせるだけの頑張りは見せてくれたように思える。
そして打ち取られた清作当人も、悔しさはあるものの、それとはまた違った気分に満たされている様子。

野球が。ここが楽しい

笑顔を見せる清作。これまでとは違い、チームの存在を感じている様子です。おぉ・・・いい感じだ。
今までの清作は団体競技にまるで向いていない性格であった。
それが桐湘に来ることで大きく意識を変えるきっかけを手に入れることとなった。
馴れ合いとかはできないでしょうし、憎まれ口も叩き続けるでしょう。
それでも、これからは相手を不快にさせてしまうだけってことはないはずである。きっとそうなると信じたいところである。
新たな一歩を踏み出した清作の頑張りに期待したいところでございます!!

しかし次回予告を見ると一気に紅白戦は終わりそうな雰囲気ですな。良いテンポである。
そんな次回は大反響を受けてのセンターカラー爆増35P!!ふむ、評判は上々のようでありますな。嬉しい限りだ!!



錻力のアーチスト 2巻


Vol.7 壁  (2013年 47号)


紅白戦は一気に進行し5回。
さすがに100点差はついていないが、この時点で0対30。5回コールドには十分な点差であります。
うーむ、確かに勝てる気は全くしていなかったが、見事なまでの大差でございますな。

練習試合だというのに終わったころにはぐったりしている1年生たち。
その1年生に負けたら練習量倍に増やすつったの忘れてねーだろうなと述べる弐識。え、それマジで言ってたの?
さすがに今の練習量を倍に増やすのは無理があるような。そうですよね、之路さん。

倍じゃ夏を戦い抜けないな。10倍に増やそう

笑顔でそんなことを言ってのけるからこの主将は鬼である。
大丈夫。俺はもっとやってるからとか言い出してしまいそうなところもヤバイ点である。

何にしても先輩たちには完敗を喫したとさすがの清作も認めざるを得ない。
ホームラン4本どころかヒット1本も打てなかった清作。それに対し弐識はこの試合でホームラン3本を出している。
ピッチャーの質が一緒じゃないから同一には語れないが、何にしても完敗には違いないですわな。
ともかく、そんな風に練習試合が終わったタイミングで、ちょっとチャラい感じの男性がグラウンドに現れる。

――どんな試合でも全力でのぞむのは良い心がけですが・・・
今週末から春季大会だということ。ヒトに抽選会を押しつけておいて忘れたわけではありませんよね。之路君。

その様に述べながら現れたのは、久澄監督
ふうむ、監督も男の人でございましたか。それはまた残念な気もしますが・・・まあ、良しとしましょう。
それよりも、春季大会の組み合わせの発表である。
他の学校のことは分からないが、注目は八子がスカウトされた港南学院。
桐湘とは反対側のブロックであり、ぶつかるには決勝まで勝ち抜かないといけない。ふむ。

・・・だったら全部ブッ潰せばいいだけの話だよな・・・!

やる気になっておりますなぁ。
春季大会は神奈川県内のそれぞれの地区予選を勝ち抜いた86校と選抜に出場した1校をあわせて87校で行うトーナメント。
3週間で最大7試合行われることとなる。へぇ、地区予選は事前に行っていたんですな。

上位2校が関東大会出場だけど、強豪校が重要視してるのはベスト16。そこまで勝ち上がれば夏の予選のシード権が得られるからだ。
だからシードを取れればそれでいいという高校もあるけど――・・・

言いながら監督の方を見る喜多さん。
久澄監督はそれに応え、こう述べる。何となくで得られる試合をして得られるものに価値はありません。
優勝と経験。両方手に入れます、と。おぉ、強気で良い発言でございますな。

桐湘の1回戦の相手は藤倉学園高校
そこは去年のベスト4・・・いや、それよりも去年の先輩方が県予選準々決勝で負けた相手である。
それはそれは、因縁の相手でございますなぁ。1回戦から波乱の予感がする。
いきなりノックアウトされたチームが相手ということであるが、之路さんは笑顔でこう述べる。

監督・・・リベンジする機会をくださり、ありがとうございます

さすがに之路さん。やる気満点でありますな。
1回戦だし体調万全の状態でのリベンジ。確かにこれは良い機会といえましょう。監督のクジ運は決して悪くない!!

さて、監督の勧めに従い円陣を組む桐湘。
2、3年生の間に1年生を入れ、監督も加わっての円陣
組み上がったところで両腕をスッと持ち上げる。ん?なんだこの構えは?

チームのために。勝利のために。心をつなげ!桐湘ファイト!!おお!!

その掛け声と共に、両腕を自身の両隣の選手の胸に叩き付ける。ほほー。これは面白い。
心をつなぐというのを表すいい円陣でありますなぁ。面白い。
しかし弐識に思いっきり殴られてむせる清作のような子もいたりする。酷い!!まあこれもまたスキンシップよ。
清作も殴られたことより、春季大会――公式戦をこのチームで挑めることを考えて胸を高鳴らせております。

さて、練習のあとはチームの結束を固めるイベントということなのか、全員で銭湯へと向かう
長髪なだけあり、ヘアケアはしっかりと行う柊。
さすがにこの人数だと銭湯も貸し切り状態となっておりますなぁ。

こういうイベントには不慣れな清作。しかし悪くないと感じている。すっかりデレておりますなぁ。よいことだ。
そんな清作が注目するのはやはり弐識の体。脱ぐと凄い筋肉が露わになっていて目を引く。負けてられねえ。俺も鍛えねえと!!

弐識「・・・ニヤニヤしながら見てんじゃねえ。ソッチかテメー
清作「違います!

まあ、傍目から見たらそのように思われても仕方がありませんわな。ナメまわすように見ちゃいけませんよ。ドワハハハ。

銭湯からあがり、各自帰宅。
清作は弐識と家の方向が同じだからか、一緒に帰宅するような形になる。
しかし逃げる弐識を追い、思わず追いかけだす清作。意識しないでストーカーになっているとは一体どういうことなのか。
さすがにこの行動はソッチかテメーと言われても仕方がない気がする。厄い厄い。

弐識の標識を発見する清作。
その家へと入っていくのは弐識・・・ではなく、また別の男。何やら強そうな雰囲気の男である。
男が肩に背負っているんは港南学院のカバン。
そう、この男こそ弐識の兄、弐識義壱である。兄がいたのか・・・しかも港南とは!!

兄は港南学院の寮に入っており、ここには荷物を取りに戻っただけとのこと。
夜半に練習を行おうとする弟の姿を見て、兄はこう述べる。

――今から練習か。ムダなことを。俺がいる限り、神奈川から甲子園に行くのは港南学院だ
お前たちがどれだけ努力しようと無意味だ。

おっと、強気な挑発でございますな。名門の港南の中でも自身は別格ということなんでしょうか。流石に弐識の兄と言える。
しかしそんな強気な発言に、しっかりと強気な反応を返して見せる清作。こちらも流石である。

わかんねーだろ、そんなこと。俺が桐湘の四番打って、港南学院倒してやるよ

よい反発心。というか、まだ四番の座は諦めてませんのね。いい心がけではありますなぁ。
さて、弐識は清作を伴い公園へと向かう。そして先程の鬱憤をぶつけるかのごとく素振り。

殺ス!殺ス!ブッ殺ス!!兄キも港南も俺の手で葬ってやる!!

メチャクチャキレた様子でバットを振るう弐識。
性格の悪い兄キを持つと苦労するぜとか言っているが、アンタがヒトの性格のことどうこう言っていいものなのか!?
まあ、あの兄にしてこの弟ありってことなんでしょうな。弐識家・・・ヤバイ家だ。

弐識兄は港南の四番を務めている。それはつまり県内最強のバッターであることを意味する。
10年に1人の逸材と騒がれ、普段の練習からプロのスカウトが押し掛けるくらいの選手だという。それはまた凄いな。
そんな兄を持つ弐識は清作に言う。うらやましいか、俺が、と。

越えなきゃならない壁がすぐ目の前にある。一瞬でも気を抜くと押し潰されるくらい近くに。
四六時中野球がアタマから離れない。恵まれてるぜ

偉大な兄を持つ弟。何かと比べられそうな厄介なポジションでありましょうに、恵まれていると弐識は語る。
確かにプレッシャーは大きいが、それを成長の糧と考えるのは面白いですな。前向きさが伺える。
まあ結果としてすっかりヒネくれた性格になってしまったみたいでありますが。
そんな話を聞き、清作も一瞬もムダにはできないと改めて考えるようになる。この人がこんだけやってんだから――

別に・・・うらやましくなんかないスよ。俺には弐識センパイがいますから

ふむ、取りようによっては普通に告白と受け取れなくもないセリフである。これには弐識もドン引きだ!!
まあ、清作がソッチであるかどうか。かなり怪しく思えてきましたが、まあ今はさておくとしましょう。
弐識としてもソッチの気は全くないわけですし。それに――

お前が俺みたいになろうってのもムリな話だ。
タイプが違うからな。俺はパワーで打球を飛ばすタイプで、俺程の筋力が無いお前はバットにボールをのせて飛ばすタイプだろう。
今日の紅白戦。之路先輩からデカいファール打ったよな。あのスイングは肩の力が抜けて背スジが伸びたおかげで視野も広がって・・・
まあ・・・まあまあだったな。軟弱なお前にしちゃあ。

ファールにこそなったものの、確かによい当たりでしたものねぇ。
その後は力んでサードゴロ。次の打席は三振に終わったみたいでありましたが。

同じようなスラッガーかと思ったが弐識と清作とではタイプが違う。なかなか面白い話ですね。
そりゃあバット二本持って素振りするような無茶苦茶なマネは清作には出来まい。
それよりも綺麗なフォームを意識して振り抜くようにした方がいいってことでありますな。ふーむ。

さて、時間はさらに経過し、週末。春季大会1回戦の日となります。
清作、伊奈、栗原くんは無事背番号をもらいベンチ入りできた様子。果たして出番はあるのかどうか。
ちなみに清作の番号は21である。

中学生の時はセンターで背番号8だったからな。21に何の愛着もねえけど。
初めてランドセル背負った時みたいに・・・誇らしくて、背中が熱い・・・!!

よい感情ではあるが、初めてランドセル背負ったときにそこまでの感情を抱いたものであろうか・・・
子供の頃から感情を高ぶらせてきたんですねぇ。

それはともかく、之路さんを先頭に、試合へと挑もうとする桐湘。しかしそこに立ちふさがるガラの悪い連中。
之の路を拓いて行こうとしたところを止められる。交通整理でございますか。

コイツは去年の夏大炎上した火のクルマなんだぜ。誰かが止めてやんねーと迷惑だろォ・・・!

上手いこと言いながら現れたのは藤倉学園高校3年の卯馬上淳。
なんだろう。ベスト4ではあるんだが・・・なんというか、顔からしてダメな奴らの集まりって感じがしてならないぞ藤倉学園!!

轢くぞ。どけ

之路さんに絡むチンピラに対し、こちらもガラの悪い面々で対抗する桐湘。ガラの悪さで後れを取ると思うなよ!!
マウンドにあがってない之路さんは優しい・・・とまでは言えないが、大分マイルドですからねぇ。
代わりにメンチきってあげる奴らが必要なのは言うまでもないということだ。
というか弐識相手によくケンカ売る気になれますな卯馬上サン。死ぬぞ!!タックルでもされたら本当に轢かれたみたいになっちゃう!

とにもかくにも因縁の相手との対決でございます。
まあ、この相手なら完全な状態の之路さんの敵ではないでしょう。間違いなく。
完璧に抑え、メッタ打ちにしてくれることに期待したい。そうなればベンチの清作たちにも出番あるかもしれませんしね。



Vol.8 足りないもの  (2013年 48号)


新生・桐湘。春の県大会へいざ出撃。
1回戦から昨年の夏の予選ベスト4とベスト8の対決ということで観客もそれなりに詰め寄せてきている。
桐湘にしてみればリベンジになるわけですし、詳しい人からすれば注目の一戦と言ったところでしょうか。

さて、ここで桐湘のスタメンが発表される。
一番センター児島君。二番ショート柊君。三番レフト頭木君。四番サード弐識君

この辺りはもう鉄板といった感じですね。
それでもこの春季大会中に結果を出して自分が四番になってやると意気込みを見せる清作。凄い前向きさでございますなぁ。
さて、ここからは完全にレギュラーとは固まっていない面々。いやバッテリー2人は確定枠か。
ともかくまずは五番ファースト安保君。誰だよコイツ!!こんなインパクトのある顔のやつ紅白戦の時いなかったじゃん!!
まあ、それはさておき――
六番キャッチャー宇城君。七番ライト奥居君。八番セカンド楠瀬君。九番ピッチャー之路君
以上がスターティングメンバーとなるわけであります。
清作はベンチか。まあ紅白戦で結果が出せていたわけでもないですし、最初は仕方がありませんな。

・・・ベンチで何すりゃいいんスか?俺、控えだったことないからわかんねース

煽りでも何でもなく本当に分からないから聞いている様子の清作。
うーむ、まさしくこりゃ天然。天然クソエリートでございますわ。詰め寄られても仕方がありますまい。
まあ、試合前だし腫れた顔晒されても困りますしね。弐識、顔はやめろよ腹にしろ腹に。

まあまあ。天然クソエリートの清作君にも足りないものがあるということですよ。
何事も経験です。この大会は優勝と経験両方手に入れると言ったでしょ?

飄々とした感じであるが割としっかりした発言を行う久澄監督。面白い人だ。

さて、いよいよグラウンドに姿を現す新生・桐湘。
桐湘ではスタメン落ちしている清作であるが、対外的な評判は結構高かったりする。
シニアでガンガンホームラン打ってたクソチートと名高い。
桐湘だともっと酷いチートの弐識がいるので目立たないが、他のチームからみりゃ凄い存在なんですよねぇ。
まあ、腰を壊したという話も広まっているようだし、今はそこまで脅威には見られていないか。

桐湘は去年の3年が抜けて力落ちてるからな。ガラクタでもベンチ入れなきゃいけねーんだろ。
去年の夏と同じように之路をマウンドから引きずり下ろせば俺たちの勝ちだ

一応控えピッチャーとして喜多さんがいるものの、やはり之路さんとは大きく見劣りするでしょうしね。考え方は間違っていない。
しかし夏の時と同じように行きますかな・・・?

まず試合前の挨拶。両校選手が審判の前で整列する。しかし挨拶前に舌戦が開始されてしまいました。
夏の予選のシード権がかかっているし1回戦でコケていられない。いつも通りの藤倉のスタイルで潰してやるぜとのこと。

之路「・・・お手柔らかに」
卯馬上「フン。ヘラヘラしてられるもの今だけだ」

まあ確かに。マウンドに上がったら笑みなんてどこかに行っちゃいますものね。違う意味で。
しかしガラの悪いチームでありますなぁ。どっちが?と問われたらどっちもと答えるしかないのがアレですが。
クラッシュトークの使い手なら桐湘も数を揃えているぜ!!
審判でも抑えきれなさそうな連中であるが之路さんがいるおかげでどうにか穏便に済みそうである。この場は。とりあえず。

さて、1回表。藤倉学園の攻撃。
一番はいきなりの卯馬上の登場。唯一の名前持ちがいきなり出てきちゃうのかよ。まあいいんですが。

プレイボールがかかる前に喜多さんによる昨年の試合の解説。
去年之路さんは藤倉学園相手に5回までで6失点という炎上を経験している。
疲れていたとはいえ、あの之路さん相手にそこまで得点を重ねるとは・・・強打のチームであるということか?
いや、そういうわけではない。夏だったということもあるが、之路さんが消耗させられたのは藤倉学園の戦法によるものだ。

さあ来いよ之路。去年と同じようにブザマにかけずり回れ。

いきなりバントの構えをしてくる卯馬上。
なるほど。バントと見せかけて走らせるという戦法ですな。そこからバスターで打ちに変えたりもするわけだ。鬱陶しい。
毎回これをやられるとピッチャーも内野も1球ごとに走らないといけないから大変なんですよねぇ。

藤倉は徹底して投手にゆさぶりをかけてスタミナを奪う野球でベスト4まで勝ち上がったんだ

思ったよりも堅実というかセコイというか。意外な戦法でありました。
しかしこのウザイ連中には合った戦法かもしれない。
むかつくヤジとか飛ばされたら精神的にも削られますしねぇ。去年の夏の弐識の苛立ちが容易く想像できるぜ。

そういった因縁もあるためか、弐識。体ごと相手ベンチにガン飛ばしております
サードだと相手ベンチが近いからガンつけやすくていいですね。いやいや、マジメにやれコラァ!!

相手がバント戦法を取るならばサードは前進守備を取るのが基本と思われる。
弐識であるならば相手がヒッティングしてきても問題ないでしょうしね。体で受けとめても平然としてるはずだ!!
まあ、何にしてもこの相手にそんなやり方をしなくてもいいんでしょうけどね。
久澄監督は弐識の姿を見せ、アレが清作君に足りないものの1つですかねと述べる。

・・・ガラの悪さか

十分すぎるくらいあるだろ。その点に関しては先輩方とタメを張るぐらいだぜ。そうではなく――

去年の夏。藤倉に負けて以降誰より熱心に練習していた之路君。
弐識君は問答無用で信頼してますからね

よい話ですな。弐識が之路さんを恐れるのは怖いのもあるが、敬意を払っているという部分も大きいと思います。
その生き様、普段の行いにより信頼を得ているからこそ之路さんの言葉に従おうという気にさせられるのでしょうな。
清作も大分敬意を払うようにはなってきているが、ここまでの信頼はまだ抱けてはいないでしょう。
ベンチで先輩たちの様子を見て学べるといいですな。

さて、之の路を拓く人の宣言を行った後、いよいよ試合開始を告げる第1球。
未だにガンつけ中でバッターの方を見てもいない弐識。
ならばと三塁線に向けて初球からバントを行おうとする卯馬上。
しかし、バットに当てたところで気付く。重さが・・・重さが去年とは全く違う!!
押される卯馬上。しかもボールの処理のために之路さんが怖い顔したまま迫ってくる!!

うお・・・来る。来る・・・な。来るんじゃねえー!!

球威に押されてはじけ飛ぶバット。ボールは小フライとなり、それを走り込んできた之路さんがキャッチする。
おやおや、これはまたみっともない有様でございますね卯馬上さん。クスクス。

甲子園に近づくためならいくらでも前進してやるよ

カッコイイですなぁ之路さん。
沈黙する藤倉学園。そこにさらに追い打ちをかける弐識。

前に進んでねえのはお前らのほうだ。
またベスト4で満足なら同じことしてな。俺たちは港南学院ブッ倒して甲子園に行くからよ

意識の高さがやはり違いますわな。
夏のシード権を得るぐらいの意識で来ている藤倉。この大会でも港南学院を倒して優勝を狙う桐湘。
どこまでもひたすら前進していこうとするその姿勢に清作も驚きを隠せずにいる様子である。いい感じですね。

得意の戦法が破られた藤倉学園。もう先の展望があるとも思えないし、ボコボコにされそうですなぁ。
大差がつけばベンチの1年たちにも出場の機会が与えられるかもしれない。清作はチャンスを掴むことができるのか。気になる所だ。



Vol.9 スタイル  (2013年 49号)


立ち上がりからの全力投球で卯馬上を打ち取った之路さん。
さすがに相手の方も今年の之路さんは去年とは違うというのがわかりつつあるようですな。
結果として7球で三者凡退。快調な出だしとなりました。
弐識は本当にずっと三塁を睨んでいるだけで終わってしまいましたな。マジメにやれコラァ!!いや、いい仕事ではあるけどね。

さて、1回裏の桐湘の攻撃。まずは一番センターの児島壮太から。
去年の予選もレギュラーで出場しており七番か八番を打っていたという。
その頃から足は速かったものの力はなかったという評価。
それがわかっているなら足を使った揺さぶりをかけてくるかもしれないという警戒はしておくべきですやね。

藤倉のようにバントのふりをして焦らせる児島。カッカッ。意地の悪い奴だ。
まあ、自分たちしかやっちゃいけない戦法ってわけでもないですしね。

結局振り回され歩かせることとなってしまう藤倉のピッチャー辰尾。
足の速い上に選球眼もあるとはなかなか良い一番打者ですな児島。さすがイヤらしい目ェしてるだけある!!

そして二番の柊登場。柊も去年からレギュラーだったようだが見た目が大きく違っていた様子。何このオカッパちゃん
高校から髪を伸ばし始めてまだ伸びてる途中だったとかそういうことなんでしょうか。

去年の桐湘の攻撃は弐識の爆発力頼りでそれ以外は手堅い攻めをするしかなかったという。
ふーむ、紅白戦を見る限りだとそんな感じでもなかったんですがねぇ。
柊も髪が伸びるとともに大きく成長したということなんでしょうか。
二番打者なのにランナーを送る気配も見せずにセンター前へのヒットを繰り出す。これでノーアウト一・二塁。

続いての三番はミートが上手く長打力があると評判のギョロ目こと頭木さん。
しかしその頭木さんが送りバントをするという驚きの流れ。
うーむ、藤倉はさっきからずっと翻弄されっ放しでございますなぁ。精神的にやられている様子だ。
そのおかげか色々と怪しんでいる様子の藤倉。久澄監督の髪ネジネジがサインではないかと怪しんでいたりする。さてさてどうかね?

さあ、ここで主砲。藤倉も警戒する四番の弐識が登場だ。
しかし弐識という名前を聞いて藤倉の連中が思い出すのはその兄の方。
去年の夏の予選の準決勝、港南学院戦で弐識兄にうちのめされた記憶があるらしい。

真夏の炎天下だってのに――打席に入るだけでスタジアム全体を凍りつかせた弐識義壱の放つ緊張感
それまでの滝汗が一瞬でひいたのを覚えてるぜ・・・あれは、誰1人呼吸も許されないくらいだった。

当然イメージ映像だろうが、弐識兄が歩くたびにグラウンドに氷が張り、それを踏み砕く。
打席につくころにはスタジアム全体が霜で覆われるという有様となる。
なんというか・・・かなりランクが違わなくないか!?というか出る作品が1人だけ異なっている感じがある。恐ろしい。
でも夏の暑さを忘れさせてくれるのならある意味有難い存在なのかもしれない?

さすがにまだ兄のような緊張感を与える程ではない弐識。まあこれは性格の違いかな。
しかし藤倉は去年弐識にホームランを打たれることはなかったという。ほう?
あの弐識がホームラン打てなかったとは驚きですな。暑さと之路さんが打たれたことで弱っていたか?

何にせよ警戒はしている様子の藤倉。一塁も空いているし、最悪歩かせてもいい考えでいる様子。
しかしそこで卯馬上はこう述べる。勝負だ、と。

桐湘は去年の負けからチーム全体が変化してる。
ホームラン打てねえとふんだアイツが小技使ってきてもおかしくねえ。
どんな手使ってこようがこれ以上調子づかせる前に四番を打ち取って桐湘の流れを止めるんだ。

これ以上好き勝手やらせてたまるかという考えですな。
いやいや、それで弐識と真っ向勝負とか無謀にもほどがあると思うのですが・・・
案の定、バックスクリーンを越える特大の3ランを叩き込まれることとなりました。
脳も揺らされたりするし藤倉としては踏んだり蹴ったりですな。ハハハ。

去年より飛距離は伸びたけどよ。俺が小細工なんてできるわけねーだろ。バカ。
桐湘はお前らみたいに全員に同じことやらそうったってムリなんだよ。アクの強いヤツばっかだからな

本当に全員が好きなようにやった結果翻弄されることとなったわけですな。
之路さんの髪いじりがまさかサインでは!?とちょっと疑ったがそんなこともなかったぜ。

1人1人がチームのためにしっかり考えてプレイするのが桐湘の野球。面白い考え方だ。
しかしそんな桐湘の中で不穏な感じの男が1人。

フン。今の球なら俺にだって打てたぜ

そう述べるのは五番の安保。ふむ、これは・・・?
弐識にケンカを売るという意味では柊と同様であるが直接本人に向かって言わない辺りがどうかと思わさせられる。
そういうのならば次の自分の打席で示して欲しいものであるが・・・さっきの弐識の球とは違った!とか言いそうで困るな。
果たして安保の実力は!?いやまあ副キャプテンの宇城さんを置いて五番を打ってるんだし、それなりのものの・・・はず。
うーむ、気になる存在ですなぁ。



Vol.10 シコリ  (2013年 50号)


弐識による先制のスリーラン。一気に主導権を握ることができそうな景気のいい立ち上がりでありますね。
しかし次に打席に立つのは五番の安保先輩。不穏な空気をまき散らしているようだが果たして・・・

ホームランを打った弐識を盛大に出迎えるベンチ。
クソ天然エリートの清作は出迎えの言葉が分からない様子。いつもは迎えられる立場だったろうしなぁ。
その時も相手が何言ってるかなんて聞いてなさそうだし、わからないのも無理はないか。オメデトウゴザイマス。

さて、五番打者である安保力矢の打席。
弐識の前に四番を打ってた人らしいが弐識の登場で順位が落ちたようですな。
走り込みで体絞るように監督と之路さんに言われていたのに特に守っている様子はない。ふーむ、不穏ですなぁ。
というか先の紅白戦どころか練習でも見かけたことが無いような奴がレギュラーってのもどうなのよ。

去年と同じところにを攻められ、今年も手を出してあえなく三振に倒れる安保。おやおや。進歩が無い。
うーむ、チームメイトの目も冷めておりますなぁ。監督も扱いに困っている感じである。

――あれ・・・ベンチのこの感じ・・・この空気はどこかで感じたことがある・・・

冷えた空気。しかしその空気を払拭するかのように六番の宇城さんがソロホームランを放つ。
それはいいけどいつまで振り切った姿勢で固まってるんですか。ひたってるひたってるヘイヘイ。

1回表でいきなり4点差。
藤倉は連打で点を取るチームなので弐識のような一発は望めない。之路さんが炎上でもしない限りは大量得点は望めない。
しかし今年の之路さんは体力をしっかりつけてきてますし、簡単に崩れる様子もない。いい感じですな。

それが示す通り、藤倉は点を取ることができないまま回が進む。
逆に桐湘。弐識のタイムリーツーベースで更に2点を追加。この試合の弐識は5打点目と見事な活躍であります。
それに対し安保先輩は大振りして苦情を漏らされている。うーむ、よろしくない要素ですなぁ。

6回が終わって6点差。あと1点入れば7回コールドが成立する。
まずはこの回の藤倉の攻撃を0点で抑え、いい流れのまま一気に勝ち切りたい所であります。

オフコース!!今日は12時からデートだから、スピーティにジ・エンドだ!!

安保先輩のことはさておき、いい感じだった桐湘の空気が一瞬で凍った!!ピシッ。
いや、柊以外の意見は一致を見たと言うことで連帯感は増したといえるのかもしれない。
試合直後にクソみたいな予定入れてんじゃねー!!

まとまってるのかガタガタなのかよく分からないこのチーム。
まあ、弐識と柊のゴタゴタに関してはいつものことでありますからなぁ。もうムード作りの一環と思うしかありますまい。
しかし本当、柊と付き合ってる彼女ってどんな子なんだろうか・・・この喋りについていけるだけで大したものだと思えるぞ。

モメてる2人にチェンジを申し出る監督。
そう、チェンジ――交代であります。お、ここで控え選手の出番か。
弐識に代わりサードに伊奈。柊に代わりショートに野間が入る。野間というのは見ない名だが、1年生じゃないのかな?

名目上は喧嘩両成敗という形で2人ともベンチに下がることとなる。
まあ、これだけ大差がついているのだし控えのメンバーにも経験を積ませる流れとなってもおかしくないですわな。
そして安保先輩も交代となる。ふむ、これはまあ弐識たちとは別の意図がありそうな交代ですな・・・

ここでようやく清作は気付く。さっきから生まれている微妙な空気の内容について。

安保サンが作ってるギスギスした空気はあの2人みたいに外に出てるモノじゃなくて。
シニアの頃、俺が引き起こしたのによく似てる・・・もっと皮膚の下にあるシコリみたいな・・・

カラッとしたものではなく、ジメッとした感じの空気ですよね。
シコリは痛みの元になるので早めに摘出したいところでありますが・・・
そんな安保先輩と代わってファーストに入るのが清作。
小学生以来ファーストを守ったことはない清作だが、まあファーストは守りやすいポジションだしいけるでしょう。きっと。

弐識に代わってサードに入った伊奈は四番。清作は五番となる。
そういうところで揉めている1年2人であるが・・・実はこの試合に関しては清作にとって嬉しい打順となっている。
なんせこの回の裏で清作には打順が回ってくるのだ。伊奈は機会があるかどうかわからない、とのこと。ほう。
なんですかね?弐識は三打席目アウトになったんですか?
出塁はしたけど相変わらずベンチ睨んでたら牽制で刺されたのかもしれない。うむ、だとしたらチェンジも止む無しだわな。

さて、この試合。観客が注目のカードというだけあり、あの港南学院の連中も見に来ている。
その中には清作のシニア時代のチームメイトである八子の姿もあった。

清作・・・目障りだから潰したと思ったのにな・・・

相変わらず悪そうな奴である。果たして八子は港南学院でどのような立ち位置を手に入れているのか・・・気になりますな。

7回表も無事に0点で抑え、コールドのかかった7回裏。最初に打席に立つのが清作である。

ゴチャゴチャ考えずに肩の力抜けよクソ天然。いい加減クチだけじゃないってところ見せろ

弐識の激励を受け、打席に立つ清作。
今はまだベンチの中のことをゴチャゴチャ考えている場合じゃない。
打席で結果を出さないとベンチにすらいられないんだからなと殊勝なことを考える清作。

さあ、来い!!

清作の高校公式戦デビューとなる打席。果たしてどんな結果となりますでしょうか。
これでいい結果を出せば安保先輩の代わりにレギュラーとなる可能性はぐっと高まりますな。
経験のあるファーストというポジション。問題のある先輩。
これはまさしく清作のために用意された場所と思うしかありますまい。センターのレギュラーは児島だし、ここは入るの難しそうだし。

桐湘はそんなに打つチームじゃないという評価がされていた。
となるとそんな元・四番打者である安保先輩は切るに切れなかった存在であったと考えられる。
今打線が強化され、上位存在になり得る清作が来たのであれば安保先輩はお払い箱になる可能性が高いような気はしますな・・・
もしそうなったときに暴れたりしないかどうか。色々と心配である。



Vol.11 あの時の  (2013年 51号)


7回裏。桐湘の攻撃。現在6点差がついており、1発出ればコールド勝ちが決まる状況。
之路さんを休ませるためにもここで決めておきたいところですな。
そんな良い所で打順が回ってくる清作。期待のかかる場面である。

港南学院倒すとかブチ上げたんだ。クソ天然の力見せてもらおうじゃねーか。

弐識に言われるまでもなく、ホームラン打って俺の力を全員に認めさせてやると意気込む清作。
藤倉のピッチャー辰尾の第一球はボールから入る慎重なもの。
相手は一年とはいえシニアでホームラン打ちまくった男ですからねぇ。
とはいえ腰を痛めているという情報もあるのでそんなガラクタに試合決められてたまるかという想いもある様子。ふむ。

藤倉と桐湘の試合を見続ける港南学院。
元チームメイトの八子ッチ曰く、腰痛める前の清作は手が付けられない感じだったとのこと。八子ッチ・・・?
まあ、それもシニアでの話ですしねぇ。高校で通じるものかどうか。

力を抜けと弐識に言われていたはずなのに相変わらず力んだ様子の清作。
高校初打席だし結果を残さないとという意識が強くてつい力んじゃうんでしょうかねぇ。

清作の狙いはインコースっぽい。
というわけで二球目は外に逃げる変化球を放る辰尾。これを空振りしてしまう清作。あらら。
続けて二球アウトコースに投げて外に意識を向かわせ、続いての三球目はインコースにストレートと考える藤倉バッテリー。
この組み立ては之路さんや港南学院の選手も同じ考えであったりする。ふむ、定番といえる組み立てですかね?

実際インコースのストレートを振り遅れ、当てはしたもののファールとなる清作。
これでワンボールツーストライク。追い込まれた形となりました。

二球目、三球目とスイングしている清作。スイング後におかしいなとブツブツ独り言をいっています。

あの時のスイングの音、こんなじゃなかったんだけど・・・
あの時弐識センパイに言われたこと、何だったっけ・・・

どうやら本当に言われたことを忘れていた様子の清作。このニワトリ頭め。
思い出せたのは四球目がボールでカウントツーツーになったときであるという。危ないなぁ。

・・・あ、そうだ。肩の力抜くんだった。
そんんで背スジ伸ばして、え〜〜っと。視野を広く。

ようやくいい構えを思い出したクソ天然。
力んでたら体がスムーズに動かない。バットにボールをのせて飛ばすタイプの清作は力を抜くのが正解である。
そうアドバイスした弐識であるが、そこで思いもしなかった姿を見る。
左打ちと右打ちの違いはあるものの、その打席に立つ姿はまるで自身の兄のようで・・・何!?

固さがとれた清作の構えは港南学院の連中から見ても弐識義壱のものに似ていると感じられるらしい。
県内最強のバッターと似た構えとは・・・これは面白い話でありますな。
お前ならアイツをどう抑えると尋ねられた八子。真っ向勝負は避けて外に変化球を続けますと返答する。
うむ、さすがに打席のアイツとは勝負せずに他の方法で潰すとは言えないか。
しかしその結果、港南のエースである穂村にはつまんねえのと言われてしまう。ほう、では自分ならばどうするのか?

インコース厳しく攻めます。せめて打ち取るのがエースですから

エースの矜持というやつですかね。
まあ気持ちで負けていてはこの勝負のみならず後続を抑えることもできないでしょうしね。
その考えは之路さんも同様に持っている様子。うーむ、熱いねぇ。
八子も思った通り、他の方法で潰すと言っておけばつまらないとは言われなかったでしょうに・・・ドン引きはされるか?

勝負の五球目。
エースたちと同様、藤倉の辰尾もインコースへのストレートを放る。こいつもまたエースであるか。
そのボールに振り遅れた様子の清作。いや――

どいつもこいつもうるっせーな。俺はもう1度あの音が聞きたいんだ。
心臓ブッ叩いてやるから、静かにしろ

その言葉通り、風を切る綺麗な音と共に投手の心臓――に見立てたボールをブッ叩く清作。
打球はフワリとあがり、静かに綺麗に放物線を描いてスタンドへと飛んでいく。
ふーむ、弐識のパワーヒッティングとは確かに違った打球でありますなぁ。
皆が静かに打球の行く先を見守る中、心の中で喝采をあげている清作当人がなんだか可愛らしい。

打った直後の静寂。心臓の音が止まるような静寂の中、激しく鼓動させている選手がいる。弐識だ。

清作。テメーそのスイングまるで兄キみたいじゃねえか・・・
クチだけじゃねえ。このクソ天然がいればもしかして本当に港南を・・・

ほほう。何やら清作のチートレベルが爆上げした感じがありますね。
これまでは弐識に押されっ放しな感じだった清作。が、力を抜いた打法が弐識の兄に似ているという話から評価が一変しそうな雰囲気。
港南のエース穂村も面白いと感じているようだし、周りの評価も高そうだ。
考えてみると投手だけでなく周りの心臓の鼓動も止めてしまう清作のバッティングは弐識義壱の緊張感凍結に近いものがある。
どちらも静寂させるという意味では同じですからねぇ。ああ、似ているとはそういう・・・

ともあれ、予選の第1戦を7回コールドという快勝で終えた桐湘。リベンジも果たしたしいいスタートだ。
次回は王者・港南の実力が明らかになるという。
果たしてエース穂村の投球はどれほどのものであるのか・・・楽しみです。



Vol.12 絶対王者  (2013年 52号)


高校野球では、時に「ユニフォーム負け」と呼ばれる現象が起きる。
実力的に劣る高校が超強豪校のユニフォームを目にした瞬間、雰囲気に呑み込まれ、委縮してしまうことである――

そんな文章を引っ提げながら、王者港南、センターカラーで出陣。
しかしまずは驚き役から始まったりします。おやおや。

公式戦初打席でコールド勝ちを決めるソロホームランを決めてみせた清作に対しハデなヤツだとの評価。それはどうも。
しかし弐識の言葉通り手荒い歓迎を受けておりますねぇ。殴り過ぎ。というか伊奈にいたっては蹴ってるし。
でも別に嫌われているというわけではないんですよね。少なくともシニアの時のような嫌われ方はしていない。
これはこれで親愛の情を示しているということなんでしょう。クソ天然に対してのね。

というわけで7対0で桐湘のコールド勝ち。
1回戦敗退した藤倉は悔しそう。そりゃそうでしょうな。
しかしそんな藤倉の卯馬上に対し、去年お前たちに負けたおかげで強くなれた。ありがとうなと声をかける之路さん。
握手には応じられませんでしたが、今度は向こうがリベンジに燃える側となれた様子ですな。これはこれでよい。

清作はさっきのホームランの感触を思い起こしている。
今まで打ったホームランの中で1番気持ち良かった。忘れないうちに早くもう1度打席に立ちてえ・・・!!と。
そんな清作に之路さんたちからお褒めの言葉。アザッスと返す清作の慣れない表情がなんともいえないな。

明日の桐湘の相手は成峰高校。どんな相手かは知らないが桐湘の面々は気合十分である。
しかし明日はハマヤクスタジアムで港南学院の試合も予定されている。
同じく試合のある桐湘のレギュラーたちは直接試合を見ることができず残念な様子。
その代わりベンチ入りしていない1年生たちに偵察を任せているようだ。なるほど、いい活用ですな。

桐湘でベンチに入れないのは1年の数人だけなのに港南学院は80人ぐらいいる様子。さすがに名門。応援団もハンパない。
そんな神奈川の絶対王者・港南学院のレギュラーが登場。ますます盛り上がる応援団。
可哀想に、相手の小田原台は始まる前からこの空気に呑まれてしまっています。うーむ、これがユニフォーム負けってやつか。

エースである穂村。舌出し過ぎ。
主将であるさん。今のところ影が薄い感じ。
上根さん。髪は立っているけど上根さん。
園部君。メガネ。
ホセマリア。ホセ。
そして――弐識義壱。神奈川最強のバッター。

目立った港南学院のメンバーはこんな感じである。うーむ、ホセが気になるな、とりあえず。

弐識兄はプロのスカウトが来ていても特に普段と変わった様子は見せていない。さすがに最強は違うという感じか。
しかし弟の前の試合での活躍を聞かされ、負けてられないんじゃない?と言われて笑みを見せる。ほう。
まあ別に弟の活躍に刺激されたわけでも、弟の活躍が嬉しかったというわけでもない。

負けるわけがないっていう、余裕の笑いだ

まあこれはさすがの貫録と考えるしかないってことなんでしょうな。ここの兄弟も色々と複雑そうだ。

さて、1回表。小田原台の攻撃。
2年で名門のエースを背負う穂村のピッチングがさっそく見られるわけでありますな。

すっかり雰囲気に呑まれてガチガチになっている小田原台の先頭打者、駒井君。
そんな相手に対し、ちょっとだけ火をつけてやるかと投げる前に握りを公開する穂村。おやおや。
さすがにここまでナメたマネをされては絶対に打ってやるって気にもなりますよね。
初球はカーブ。それが分かっていれば――そう思っていた駒井君であったが・・・

ハイ。刈った

スッポ抜けたかのようにミットへの直線から大きく外れた投球。
しかしボールは凄い角度で変化し、急激に左打者の背中側から巻いて落ちてくる。
首筋を掠めるかのようなその軌道。死角から刃物がとんできたかのような感覚を覚える駒井君。
いや、とんできた感覚どころかイメージ映像では実際に首が落ちていたりする。これまたドえらいイメージだな、オイ。

観客に変態軌道だぜと言われる穂村の変化球。たった1球でどよめきを起こさせるとはなかなかのエンターテイナーである。
これが港南のエースの実力か・・・!!恐ろしい。
清作の心臓ブッ叩きで鼓動を止めるのも大概だが、首刈りも同様に大概な光景である。どういう野球だコレ。

とにもかくにも1回表はあっさり3者連続見逃し三振。
これは本当に裏の港南学院の攻撃で試合が決まってしまいそうな流れでありますなぁ・・・
とりあえずホセの打席を期待して待つことにしたいと思います。



Vol.13 ガチガチ  (2014年 1号)


1回裏、王者港南学院の攻撃が始まる。
まずは切り込み隊長、一番ライトの上根敦士
この上根さん、久澄監督が作った港南学院のデータによると去年の夏の予選で7割以上の打率をマークしているらしい。スゲェな。

出塁率の高さは確かに一番を任せるにふさわしい。
しかし長打力がないわけでもなく、初球からいきなりライトフェンスを直撃する当たりを見せる。
去年の7割の中にはホームランも3本含まれているそうな。ふむ。
だが、凄いのはそれだけではない。児島さんと同様に足の速さにも見張るべきものがあったりする。
外野がもたついているうちに走り回り、なんといきなりのランニングホームランを決めてみせる。クソ速ェな!!

髪が立ってるのに上根さん。なかなかの強者である。
二番の園部曰く、走攻守揃っている上に状況判断もよくどこに行ってもチームの中心になれる人だとのこと。
港南学院は100人以上の部員がいるとはいえ、その中でもトップクラスってことなんでしょうな。
それでも弐識義壱にはまだ及ばないということらしいが・・・うーむ。

さて、二番のメガネセカンド園部
女性受けの良さそうな容貌故か女性ファンが非常に多い
港南学院にもミーハー的な声援を送る生徒はいるんですなぁ。
しかし私のセンター前ヒットはさすがに意味が分からん。でも確かに言う奴がいそうな気がするセリフってのがなんだか凄い。

それはさておき、園部。どうやら投手の投げた後の軸足を狙って打ったらしい。
なんというか・・・凄く性格悪いですなこの人。性悪だね。性悪メガネだね。

三番、特徴的な容貌の池田ホセマリア。苗字からして留学生とかじゃないんですな。
でも性格はアメリカンというか何というか。
義壱さんとどっちが優れたホームランバッターか飛距離で勝負だとか言いだす。420フィートは飛ばすというがフィートじゃよく分からん。
まあともかくバックスクリーンに直撃するぐらいの打球だから凄いのは分かりますが。

一気に3得点を決める港南学院。
王者としての戦いに格下への気遣いなど不要とのこと。最初からレギュラーで襲い掛かってくるんだから、そりゃあ容赦なしだわなぁ。

というわけで、トドメを刺すべく四番の弐識義壱が登場。
打席に1歩近づくごとに空気が張りつめていく。応援していた味方であるはずの港南学院の生徒まで息を飲んで沈黙している。
その張りつめた空気により、会場は凍りついたような静寂に支配される。
対峙するピッチャーに至っては威圧感で震え、固まってしまう。

吸い込む空気まで冷たい。息がつまって苦しい。動け。動いてくれ。投げなきゃ、ここから解放されない・・・!!

ガチガチの状態でどうにか球を放るピッチャー。可哀想に。
しかしこれでは球も心もカチ割り氷みたいに砕かれちゃうよ、と穂村。

きっと義壱サンには自分に近付く毎に氷に絡みとられる球が、最後には完全に固まって、止まって見える。

その言葉が示す通り、綺麗な軌道を描くバットがボールを捕える。
カチ割り氷のごとく砕ける球、そして投手。なんとも凄まじいイメージ図である。
結果としてはどちらも砕けることはなく、ボールはバックスクリーンを越えての場外ホームラン。
緊張感で凍りついていた観客もこの結果にどよめきと共に息を吹き返す。
うーむ、結局砕かれたのは投手の心だけだってことでありますな。いや、それだけでも大問題なんだが。

会場中を凍りつかせ、結果でその氷を溶かして洪水のように歓声を溢れ返させる。
義壱はある意味完成されたスター選手の素養を既に有しているのかもしれませんな。
果たしてこの男を打ち取れる投手なんているのだろうか・・・
少なくともプレッシャーに呑まれることのない熱さを持っていないといけないでしょうな。

そんな期待のかかる之路さん。であるが、2試合目は体力温存ということもあり出番ナシ。
控え投手であるメニーハッピーこと喜多さんの奮闘で桐湘は2回戦も勝利するのでありました。ほほう、やりますなぁ。
喜多さんは左のサイドスローっぽい投球を見せている。いやアンダーなのか?ともかくダイナミックな感じだ。
ふーむ、そこまでの強さでない相手なら十分に喜多さんでも通用するってことですな。
去年のことを考えると之路さんの体力が温存できるのは大きい。
ひょっとすると喜多さんは最初から投手ではなく、敗北からの1年で鍛え上げた投手であるのかもしれませんなぁ。

休めはしたが、出番が無くて不服そうな之路さん。同じく出番が無かった清作。
まあ、勝ったわけですしまた次の試合もありますからねぇ。次の相手にもよるけど出番もあるはずさね。たぶんだけど。

さて、次に勝てば夏のシード権を獲得する。
とはいえ目標はこの大会で港南学院を破って優勝することである。
そこまでに躓くわけにはいかないが・・・どうなりますか。清作がレギュラーになれるのかも含めて注目したいところです。



Vol.14 期待  (2014年 2+3号)


2回戦を勝利で終えた桐湘。その夜、清作は眠れない日を過ごしている。
次の試合で勝てばベスト16で夏の予選のシード権が手に入る。
それはそれとして、今日は試合に出ることも出来なかったし素直に喜べない様子。
それに港南学院の凄さが偵察の報告を聞くだけでも際立っていた様子。5回コールド。32対0ってどういう状況だよ。

眠れないのであればしょうがない。バットを持って公園で素振りをするしかない。
夜中に家を出る清作。親父殿は女のコと待ち合わせかな?とか邪推してらっしゃいますが・・・貴方とは違うんですよ!

港南学院の中でもやはり凄かったのは県内最強の打者である弐識義壱。
ホームラン3本にタイムリー2本の計9打点。
打席に入った時のプレッシャーは観客ですらハンパじゃないと感じるものだった。

上等だ!!甲子園に行くのは桐湘だ。決勝でブッ叩いてやる

気合いの入る清作。結局眠れず朝まで素振りを続けることとなりました。
結果、学校では一限目から盛大にお腹を鳴らせてグッタリしております。おやおや。
周りの生徒の反応からすると腹を鳴らせているのはいつものことらしい。今日はそれが早いってだけのことですね。

早弁するか・・・けど、そうしたら練習までにまたハラ減るし・・・
次の休み時間に水でハラふくらませるか・・・
――そうだ。紙って食えるんだっけ。ヤギは食うんだよな・・・?

教科書を破って食いはじめる清作。もしゃもしゃ。さすがにこれは見てられない!!
そもそも人間が食べても腹の足しにはなりますまい。口の中の水分を持っていかれるだけだ。
ふたたびグッタリする清作に、隣の席からお菓子の差し入れが。お?

あげる。

なんと、隣の席の女生徒がチョコを差し出してくれましたよ!!
これは・・・やっぱり見ていられないってことなんでしょうか。そりゃ空腹に耐えかねて教科書食べ出したら放ってはおけんわさ。

しかし親父が女に散々ダマされているのを見てきて女性不信になっている様子の清作。
うかつに手を出すと痛い目をみるぞと警戒している。親父自身は全然懲りた様子がないですのにのう・・・

ウチの部は菓子禁止ということで断る清作。上手い口実ですな。
しかし、これならいいんでしょと差し出されたのはサンドイッチ。おぉ、これは確かに腹の足しになるものだ。
有難いが、清作の女性不信は深刻なものなので簡単に手を出したりはしません。何が狙いだ!?

てな風に騒いでいたら先生に怒られ説教されることとなりました。仕方がないですね。
清作に差し入れをしてくれようとしていた女子の名前はちゃん。苗字だとは思うがまた珍しい感じですな。

先生「清作。土曜日の試合でホームラン打ったんだってな。野球で頭がいっぱいで心ここにあらずといったところか?」
清作「・・・アタマと心のどっちの話スか?」

微妙に上手い返しをする奴だ。
それはさておき、先生のこの発言でようやく清作が野球部に所属していることがクラスに知れ渡る。
どうやらケンカのためにバット持ってる不良ぐらいに思われていたようだ。あれー?

高校初打席でホームランを打つ。まさにスゴいことである。
本人に言わせれば1本打ったくらいじゃ自慢にならないとのことであるが・・・くっ、この天然クソエリートはよ!!
ベンチにも入れていない畑くんが可哀想になってくるぜ。

ザワつく教室。先生は清作と同様に工ちゃんにも注意をする。が、それを庇う清作。

あ、コイ・・・この女は悪くねえッス。元々は俺のハラのせいなんで

ほほう。何だかカッコ良いですな。クラスメイトの好感度が非常に高まりましたよ。
しかしコイツから言い直してもこの女って表現になっちゃうあたりがらしいというか何というか。そんなだから不良と思われるのだ。

授業が終わったところでクラスメイトから食べ物――エネルギー源を振る舞われる清作。
みんなから食べ物振る舞われてこの反応はさすがの天然といったところでしょうか。

清作の周りに男女問わずに集まり、野球部員としての期待をかけられている清作。いい雰囲気ですなぁ。
しかし食べてる姿を微笑ましく見られているその姿はまさに迷い込んだ犬が餌付けされているかのようである。
うーむ、この路線でいけば当分エサには困らずに済むかもしれませんぞ・・・!!
まあ、腹一杯になって二限目から昼までずっと眠ってしまっていたようですが。勉強する気がまるでないな。

昼休み中に体を動かして腹をほぐそうとする清作。
動いたら練習までにお腹空くんじゃないかと思えるが、そんなことを考える清作ではありませんでしたとさ。
それはいいけどバットを持って廊下を歩くな。そりゃ不良と思われるわ!!

グラウンドに出たところでラインを引いている栗原くんに出会う清作。
昼休みのうちにラインを引いておくことになっているんですな。
本来ならば部員が交代でやることになっているのだが、栗原くんは自分からラインを引かせてもらえるよう監督にお願いしたらしい。

僕ね。グラウンドには苦い思い出があるんだ。
小学校の昼休みに野球やってて、ホームにかえれば逆転という場面で「まわれまわれ」って言われて・・・
けど校庭に足でひっかいただけのベースだったから、消えかかっててどこにあるかわからなかったんだ。
でもちゃんと踏まなきゃアウトになると思ったから、その場で三塁ベースを探してグルグル回っちゃって・・・

ふむ、まわれまわれと言われたらその場で回り出したように見えたと。そりゃ周りは爆笑ですわ。ギャハハ。
そんな恥ずかしいことがあったという栗原くん。何というか微笑ましい思い出ですなぁ。
それ以来グラウンドはキッチリしてないとダメな性格になってしまったという。そうか・・・
まあ、それ以外にも少しでも皆の役に立ちたいという思いがあったからみたいですな。
ベンチには入れたものの試合には出れていない。ならばこういう裏方ぐらいは進んでやろうという考え方。嫌いではない。

皆の役に立ちたい。そんなこと考えたこともないなと清作。
しかし栗原くんは言う。清作君は立ってるよ!と。

藤倉戦のホームラン。あれで試合が決まったんだから。
中学生の時に対戦相手として見た時より、やっぱりずっと気持ち良かったもん。

そりゃ敵に打たれた時よりずっとうれしいに決まってますわな。そうでなかったら色々とおかしい。
まあそれはさておき、清作はこんな素直な言葉をかけられたのは凄く久しぶりである様子。

小学生の時から野球始めて、ヒット打って打って、打ってるうちに飛距離が伸びてホームランになって。
最初は皆喜んでんだけど、そのうちウザがられたんだよ。俺がいると試合にならねえって。
だから誰にも期待されてねえなら自分自身のためにホームラン狙うようになったのかな・・・

何とも寂しい話である。割と多感な少年だったのかもしれませんなぁ。そんな清作に栗原くんはこう語り出す。

何も感じない。心が無いのはブリキなんだよ。誰かが油さしてあげないとサビて動けなくなっちゃうんだ
オズの魔法使い。知らない?
心の無いブリキと知恵の無いカカシと勇気の無いライオンが女の子の旅のお供をするお話だよ。

おっと、ここでついにタイトルコールが。
やはり錻力とブリキがかかっていたんですな。清作と心臓の話は最初から出てましたしオズの魔法使いは連想しやすかったか。
栗原くんがコールすることになるとは思いませんでしたが。

あの時はたしかにそうだったかもな。けど、今は

中学時代最後の試合で倒れた時は確かに動けなかった。ブリキのように倒れ込んだままであった。
しかし今ならば――桐湘に入って変わりつつある今ならば、動くこともできるようになるかもしれない・・・
そんなことを思いながら、憎まれ口を叩く清作。知恵の無いカカシは脳筋呼ばわりされてる弐識センパイか、と。

お前の耳も栗原にしてやろうか・・・!!

いつのまにか現れていた弐識に耳を引っぱられる清作。ハハハ陰口はいかんってことですやね。
とはいえ弐識も今の2人の会話を聞いていた様子。なので清作にこう述べる。

言ったろ。ヤワなテメーが倒れたら片手でつまみ上げてやるって。
油が必要なら頸動脈にブッ刺してでもテメーを動かしてやるよ。

相変わらず荒っぽい。けどまあ、それもまた弐識らしい態度といえますな。

・・・そうだ。今はあの頃とは違う。皆に認めて欲しいと思う。
楽しさも悔しさも喜びも自分1人のものにしたくない。ここから。桐湘から甲子園を目指すんだ

なんだかいい意識改革がされておりますなぁ。これぞ団体競技の精神でありますね。
しかし、この桐湘にも団体競技の精神に染まっていない者がいる。
ハラごなしに走り込みをしている最中、清作が見つけたのはサボっている安保先輩。
コーラとポテチ片手にすっかりくつろぎのスタイルだ。路上だというのに堂々としたもんだなぁ、オイ。

清作とのレギュラー入れ替え候補筆頭と思われる安保先輩。
この場面で何かぶつかることとなったりするのだろうか・・・?

タイトルコールがあったり女子が登場したりと大きな、大きな動きを見せた今回。
前作を知っている人は相当驚いている様子ですなぁ。まあ、今作は最初から共学だったし、出てこない理由もないのですが。
久しぶりに細川先生の女子を見たが、随分可愛い感じになっておりますなぁ。大変良いです。
作者曰く微乳好きだとのことですので、工ちゃんが今後もヒロインになる可能性は高いと思われる。
まあ試合中に絡むことはあまりないでしょうが、普段の学校での絡みに期待したい所ですな。



Vol.15 本気  (2014年 4+5号)


日々練習に励む桐湘野球部。
さすがに甲子園出場を本気で狙っている奴らは違う。
しかしそんな中、一人練習をサボっている安保先輩。
それを発見した清作。部として禁止されているお菓子や炭酸を手にしているのを見て――まあいいかと流す。
安保先輩は見ないフリをしたと思ったようだが単にどうでもいいかと思っただけのようですよ。
俺には関係ないですし。それが清作の答えである。

安保「・・・何だその言い方は。ナメてんのか。俺と交代して出た藤倉戦でホームラン打ったからって調子乗ってんじゃねーだろうな」
清作「1本打ったくらいで乗ったりしません」

素でそんな返事をする清作。
イヤミでも何でもなく本当に素でこう思っているからなぁ。やはりエリートですわ。

テメーも之路や弐識と同じように本気で港南倒せると思ってんのか?と尋ねてくる安保先輩。

相手は神奈川の王者だ。勝てるわけがねえ。
魚が空を飛べねえのと同じように、かなわねえもんはかなわねえんだよ。
なのに之路や弐識は努力すりゃあ何とかなると本気で思ってやがる。
俺はあいつらと違って身の程ってモンを知ってる。それなりに野球やって楽しめりゃいいんだ
あいつらのヤル気を押しつけられたら息苦しくてたまらねえぜ。

まあ、有名校や常勝校ってわけでもないですしねぇ。桐湘は。
部活をほどほどに楽しみつもりでやっているのにって感覚の人がいてもおかしくはない。
そんな安保先輩が面白いことを教えてくれる。
桐湘のバックネットの側に家がある。去年の1年対2・3年の紅白戦で弐識がネット越えのホームラン打ってそこの屋根瓦を割ったらしい。

俺は1度だって越えたことがねえのに・・・

割られた家の人は災難であるが、それと同様に安保先輩のプライドも砕けた様子。
まあ入部して10日も経たない1年に力の差を見せつけられちゃあなぁ。腐る気持ちは分かりますわ。

清作「――それは燃えるでしょうね・・・!
安保「・・・やっぱテメーは天然クソエリートだよ」

いやまったく。天然は期待した答えとは明後日の返し方をしてくるから困る。
丁寧でイヤミはなく、それでいて素で相手をイラつかせる。清作の先輩との受け答えはなかなかに面白い。

お前に教えといてやる。チームメイトに期待しすぎたってなあ、全員がそれに応えられるわけじゃねぇ。
その期待に押しつぶされるヤツだっているんだ。

その意見は清作にも分かる。
清作も小学生や中学生の頃は自分の様に打つことを周りにも期待していた。
しかしそれに応えられるヤツはおらず、安保先輩のように押しつけを忌避する態度を取られていた様子。
だから人に期待することをあきらめて1人でホームランで点を取ると決めたのだ。

・・・そうだよ。俺だったらとっくに期待することをあきらめてる――でも。
之路主将や弐識先輩は自分たちの本気に対して安保先輩にも本気で応えてほしいだけ。じゃないスかね・・・・・・?
久澄監督だって応えてくれるってまだ思ってるから試合で使うんでしょ。
あの人・・・弐識先輩は俺たち1年を見限らないし、周りだけじゃなく自分自身にも期待してる
すぐ側に弐識義壱っていう天才の兄キがいて、才能じゃ全然かなわないのかもしれないけど、それでも本気でブッ倒すつもりでいる。
誰にも、何にもあきらめてない。才能なんてカケラも無くたって努力次第で・・・

そこまで言ったところで後ろから弐識にドツかれる清作。
一応褒めていたつもりなんですけどねぇ。清作としては才能とかそういうのよりも姿勢や努力の方が重く見える気がするし。
だからといってさすがに才能がカケラもないは言い過ぎではなかろうか。
いやこれは安保先輩に向けて言ったセリフなのかもしれないが、それはそれで酷い。

何にしても清作の言葉は安保先輩にも響いた様子。
どこまで意識改革されるかはわからないけど、いい影響になったのならよかったですわ。意外と素直な人なんですね安保先輩も。

土曜日――桐湘のサタデーマッチの相手は鶴見第二。それに勝てばベスト16で夏の予選のシード権獲得となる。
だが桐湘の目的はこの大会でも優勝を果たすことである。
その次の対戦相手と目される麻生西は去年の夏の決勝戦で港南に破れたチーム。打撃力じゃ港南にも引けを取らないチームだという。
あの港南に引けを取らないって相当なもんですなぁ。さすがにベスト8まで行くと強豪が出てくる。

柊「バイザウェイ。脳筋のアレは問題にならないのか」
喜多「何でも背筋と腰と膝を鍛えてるとか・・・」
児島「テキサスクローバーホールドをポジティブに変換したらそうなるか・・・」

腰を痛めた相手に何と酷いことを。
確かに後でシメ上げてやるとは言っていたが本当にシメ上げることもあるまいに。
まあ鍛えて腰の痛みを解消したわけだし、ある意味理には適っている・・・?

相変わらずクラスメイトにエサをもらい、授業中は寝て過ごす清作。
よく食べ、よく眠る。そしてよく動くので太ることもないという話でございます。
今までエネルギー補給が満足にできてなかった分、今はある意味幸せな時期であるかもしれませんな。

さて、土曜日の鶴見第二との試合は4対0で桐湘の快勝。
今日は之路さんが登板しているようだが清作の出番はあったのだろうか?
安保先輩はそれなりに真面目に挑んでくれていたようだし出番はなかったのかもしれないなぁ。

さあ、明日は去年の準優勝チームだ。
と思いきや、その麻生西がどうやら苦戦している様子。
栄春高校。ノーマークの高校であったが打撃の麻生西と張り合っている。
どちらもハデに点を取りまくっている。今は9回の裏、栄春の攻撃。
打席に立つのは栄春高校1年生四番打者左薙伏

クセの強い変化球、僕は結構好きヨ・・・!いただき!!

舌を出しながらバットを振るというなかなか危険なことを行う左薙。
フルスイングしすぎで自分の背中を打ってしまう変なヒョロ長系男子。
だが打撃力は凄まじく、2打席連続のホームランでサヨナラ勝ちを決めてしまう。

ウフハッ。ごちそうサン・・・

倒れ込んだ時に舌先に土が触れたのでそのまま口に含んで飲み込み、ごちそうサン。なんじゃそりゃ。
うーむ、何ともアクの強い奴が出てきたものである。
ダークホースの栄春。桐湘の戦いも乱打戦となるのだろうか?
之路さんの球が簡単に打たれるかは疑問だが、ローテーションで喜多さんが投げたりするのだろうか?
打撃力なら桐湘も負けてはいないと思うが、さてはてどうなりますか。
とりあえずアクの強さは港南並だと思っていいんじゃないでしょうか。栄春とは個性派の数が違うぜ!!



錻力のアーチスト 3巻


Vol.16 才能  (2014年 6号)


春の神奈川県予選ベスト16進出を果たした桐湘。
次なる相手は去年の県予選準優勝の強豪麻生西を破った無名のダークホース栄春。
進学校でありながらここまで勝ち上がってきた高校の力はどのようなものであろうか。

横浜薬大スタジアム。
弐識の兄である弐識義壱はこの球場のバックスクリーンを越える場外ホームランを打っている。
その飛ばした地点までやってきて想いに耽る清作。どのような気持ちでいるのだろうか。

弐識「――フン。大したことねえよ。俺ならこの壁ブチ抜いて場外にしてやる」
清作「ですよね
弐識「・・・・・・」

清作を呼びに来た弐識は兄への対抗心もあり、強気な発言を口にする。
それをあっさり肯定されて何ともいえない表情の弐識。
本当、清作は素直というか何というか。信頼しているといえなくはないが、クソエリートは常人の大口を普通に受け取るから困る。
そんなやり取りをしているところに別の高校の選手が口を挟んできた。

ホームランに飛距離なんて関係無い・・・よネ?
効率良く点を取るためだけのもの。だと思うけど・・・

だるそうに猫背で上体を揺らしながらしゃべるこの男は栄春高校1年の左薙伏。
シニアの時に清作とは何度か対戦したことがある相手だそうな。ほう。
ちなみに栄春では1年にして四番投手を務めているらしい。それはそれは・・・

クソッ。レギュラーどころかチームの中心じゃねーか。俺なんて1度交代出場しただけなのに・・・

さすがに悔しそうですな清作。だが左薙自身はその立ち位置にこだわりはない様子。

飛距離も数字も野球を外側から楽しむ人のためのものだよ・・・
僕たち選手がそれにとらわれると自分で掘り続けた穴にはまって出られなくなる・・・

そう言い残して去っていく左薙。何とも変わった奴である。
どうやらこの性格は昔からのものらしい。
シニアで清作にホームランを打たれた時も「アレ打たれたらしょうがないネ・・・」で済ませていたそうな。
打席に立った時も「さすが八子ちゃん。今、打てる球無かったわ・・・」で見逃し三振をしたりもしている。

けど、冷めてるわけじゃなくて・・・ワンバウンドした球ヒットにするような、何考えてるかよくわかんないヤツでしたね。
あきらめがいいっつーか、切り替えが早いっつーか

ふーむ。悪球打ち、というわけでもないのかな?
クセの強い球は好きだとは言っていたが、単純にそういう話ではないでしょうな。
頭は良いらしいが、何とも不気味な感じのキャラである。

さて、ミーティングに遅れてやって来た清作。
監督から聞かされるのはめでたい話。この試合、清作は七番センターでスタメン出場できるらしい。ほほう。
新戦力を試すのも春季大会の目的の1つとのこと。
本来のセンターである児島はライトに回るそうな。ふむ、するとライトの選手が控えに回ることになるのかな?
安保先輩は清作の言葉から時間が経ったせいか、またやる気の見えない発言を口にしたりしている。さすがにすぐに人は変わらないか。

児島「超広守備範囲でセンターまでカバーしてやるから安心しろ」
清作「アザッス。けどセンターならシニアの時にやってるんで余計なお世話ッス
児島「日本語ヘタかクソ天然

本気で悪気なしにこういう発言をするからなぁ清作は。
もう慣れた感じの先輩。容赦ないツッコミを腹に食らわす。そうそう、そうやって教育しないと天然は是正されませんよ。本当。

・・・けど、とにかくスタメンだ。この人たちと同じグラウンドに立てる・・・!!

何だかんだと可愛いことを言ってくれるんですよね。可愛い後輩である。天然なのが玉に致命傷であるが。

さて、両校の選手がベンチに入る。
無名の高校であるだけにデータの少ない栄春。
しかしこの大会の成績を見ると見えてくるチームの色というものは確実に存在する。
1回戦は13対5、2回戦は9対8。先日の麻生西戦は17対15で勝利している。ようするに点は取るが失点も多いって感じですな。
しかもエラーが3試合で35。イニング毎にエラー1つはしているという勘定である。
こりゃ確かに柊の言うとおり草野球(サンドロットベースボール)でございますな。守備の硬めな桐湘には信じられない話だ。

俺たちにとって去年の弐識がそうだったように、1年の四番がチームの起爆剤になってるみたいだな。

無名の高校がスター選手1人を迎えることで勝ち進む。高校野球では確かに見られる光景である。
とはいえその1人だけでどこまで勝ち進められるものか。
桐湘としてもそんなスター選手1人にやられるわけにはいきませんものね。

相手の実力が未知数なら、俺たちは俺たちの野球をするだけだ。行くぞ!!

之路さんの力強い宣言のもと、一斉にグラウンドへ飛び出す桐湘野球部。気合入ってるなぁ。
それに対し栄春の選手たちはなんだかダラダラしている。何だろうこの対比は。ここまで勝ち上がってきたチームとは思えない態度だ。

1回の表、桐湘の攻撃。
栄春の投手はもちろん左薙。背が高く腕が長いためタイミングが取りづらそうな投手と予測される。
が、マウンドに立った左薙は予測とかそういうことができる相手じゃないことを知らしめてくれる。
そう、いきなりグラウンドの土を食いだしたのだ。ザリッ。な、何してるんだコイツは・・・
そして首を傾げながら桐湘のベンチを見やり、心の中で清作に語り掛ける。

・・・清作。僕がどうして栄春にいるかキミにはわからないだろうな。
・・・何してるんだ清作・・・ああ、ムリヤリ目線合わせなくてもいいよ

左薙に合わせて首を傾けている清作。
こいつはこういう行為を自然とやるからズルイ。本当、天然の面白さは敵わんわ!!
まあ、それはさておき――

答えは簡単だ。レギュラー争いに時間と体力を使うのがもったいないからだ。
僕は僕の武器と力の使い所を知ってる。栄春の人たちも僕と同じだ。合理的な判断をする。
勝つためにひたすら打ちまくるし、1年の僕でも才能を認めてくれてエースと四番を任せてくれる。
溢れる。枯れる。溺れる。才能は水に似てる
誰もが乾いたグラウンドの上で水を求めて土を掘り返す。
マウンドを。バッターボックスを。内野を外野を。そこに才能の泉があるはずだと。
求めて掘って。焦がれて掘って。けど、どれだけ掘ったって無い所には無い。有ったとしても限りがある。
――でも嘆く必要はないさ。それを確認した時が出発点になるんだから
僕は高校の間だけ野球ができればいい。皆が開けた穴だらけの世界でうまくその先に進めるかはわからない。
だから今、この瞬間は最大限に楽しませてもらうよ。
そのためにはどこにあるかわからない水を掘り続けるより、その途中で手に入れたモノを駆使するのが利口なやり方だ。

才能という水よりも、それを掘る途中で得た土を駆使するのが左薙のやり方だということか?
そうか、それで土を食うわけですな。途中で手に入れたモノを駆使するために・・・それは利口なのか・・・本当に?

いきなり良いポエムが飛び出しました。
しかしその左薙の放る一投は桐湘一番児島に捉えられる。いや、当たりはよいがサードの正面である。
打ち取られたかと思った打球であるが、栄春サードのエラーによりどうにか出塁。
左薙としてみれば立ち上がり早々の嫌なエラー・・・のはずなのだが、気にした風もなし。

そうだ。僕たちは失うことを恐れない。
自分の井戸に水が無いなら、相手に喰らいついてその血で渇きを満たしてやる・・・!!

何とも飄々とした厄介な相手であります。
左薙も清作の才能を認め評価している。だからこそ、色々と清作に語り掛けたりしているのでしょう。その血を啜るために・・・

しかし進学校の頭のいい連中の選んだ野球が超攻撃型ってのもなんだか凄いですな。
守備に時間をかけるよりも打つことに絞った方が効率的ってことなんでしょうか。
まあいい投手がいるならその考えは間違いではないかもしれませんなぁ。
だけどこの左薙はさておき、他の連中で之路さんや穂村の球を打てるのだろうか。疑問の残る所ではありますな。



Vol.17 クセモノ  (2014年 7号)


先頭打者がいきなりエラーで出塁。
桐湘としてはラッキーだし左薙にしてみれば不幸な話であるのだが、当の左薙はいつものことだと気にした様子もない。
それよりもこの先の打者がどう出てくるかを考えている。次の打者は二番ショートの柊。髪はロングだがショートの柊である。

柊サン・・・犠打ってくる・・・?
バットコントロールの巧い人らしいから、一塁方向にヒッティングかな・・・?

相手をよく研究しているらしい左薙。
読み通り一塁方向へのヒッティングでありましたが、当たりが鋭すぎてライト前へ抜けてしまう。うわぱぁ。
マウンドから左へ飛ぼうとしている左薙の絵が何だか可愛い感じになっとるな。

続いて三番の頭木さん。目力がハンパない。
藤倉戦では同じ状況で送りバントをしていた。そして今回も迷うことなく送ってくる。職人のような手堅さだ。

何たる自己犠牲。柊サンも見習うべきでは・・・

技術はあるけど送る気がまるでない柊。二番打者としてはどうなんだろうかと思わさせられる。
長打力のありそうな頭木さんが送る側に回るのは少し勿体ない気がしますなぁ。
まあ、次はさらに長打が見込める弐識でありますし、確実に点を取るという意味ではあり得なくはないか。
少なくとも今回は栄春側の守備が交錯したことで送りバントのはずの頭木さんもセーフとなった。
たった3球でノーアウト満塁。さすが3試合でエラー35はダテではない。

さて、この状態で迎える打者は弐識。一気に大量得点のチャンスである。

・・・ここまでの3試合でホームラン4本の9打点。一発が出れば一気に流れを持っていかれちゃうしなあ・・・

土を食いながらクレバーな考えをする左薙。
その明晰な頭脳が導き出した答えは、満塁からの敬遠
押し出しで1点を献上することにはなるが、それでも大量得点で流れを持っていかれる危険を冒すよりはマシと考えたわけか。
このようなプレーを堂々と出来る胆力はなかなかのものと言える。さすがにクセモノ呼ばわりされるだけのことはありますな。

弐識が歩かされ、自分で勝負という形になった安保先輩。ナメられたと怒っております。
そう思うのは当然かもしれないが、左薙に言わせればそうではない。

安保サン。あなたは僕たち栄春と同じニオイだ。自分の力をわきまえてるタイプだと思うんですけどね
弐識サンと安保サン。2人の力を正当に評価した結果ですよ。なのに挑発されたと思ってキレるのはスジ違いです・・・
どれだけ力んでも、実力以上の力は出ませんよ・・・!

確かに正当な評価であるのかもしれないが、言われている方としては気分がいいわけではありませんわな。
安保先輩だってそこまで完全に割り切れているわけではないのですからして。
まあ、今回は左薙の言うとおり、力んだ結果が最悪の目を引き、ピッチャーゴロでのホームゲッツーとなる。
満塁はゲッツーが取りやすい場面でもあるから怖いですなぁ。
まあザル守備の栄春はキャッチャーが初めてゲッツーとったとかいうレベルでありますが。

うわはッ。初めての相手が僕で良かったですか・・・?

何をさらりと誤解を招きそうな発言をしているのだろうかこの男は。
それはさておき、左薙は次々順の打者である清作を気にかけている。なるべくなら回したくはないな、と。

天然だから何考えてるか読めないんだよな・・・とりあえずヤンキー座りはよしなよ・・・

いや全く。これも腰を鍛えるトレーニングの一環なのだろうか。そんなわけはないな。
というかさっきから左薙の内心のツッコミが的確すぎる。桐湘の選手はツッコミ要素が多くて困るぜ。

ともかく清作には回したくない左薙。六番の宇城さんでスリーアウトチェンジにしたいところ。
しかしそう上手くはいかない。宇城さんのセンターオーバーの打球で桐湘は2点目を得ることとなる。わぱ!?
そして更に追加点を得るべく三塁を回る弐識。

俺をランナーに出したこと、あの世で悔いろ!!

凄く物騒なことを言っている。そしてその言葉通り、ホームでのクロスプレー。
頭からスライディングで突っ込んでおきながらキャッチャーを吹き飛ばす弐識。というか凄い吹き飛び方だな、オイ。回ったぞ!!

お手柔らかにって言ったのに・・・

バックネットまで吹き飛ぶ栄春のキャッチャー庵田さん。しかしそれでもボールを落としていないとは見事である。
いやむしろ良く生きていたものだと感心しますよ。本当に。
軽く触れただけなのにエネルギー保存の法則を体感するハメになったとか、頭の良さそうなことを言っております。
ヘッドスライディングだし、地面に触れてエネルギーは摩擦等で大分削れたはずなんですがねぇ。
それこそアメフトのように走り抜けて肩から来られたらえらいことになっていたんでしょうな。バックネット超えたかもしれない。

初回で2失点の栄春。しかしむしろこれは少ないほうだと喜んでいる様子。うーむ、妙な高校だ。
そして1回の裏。栄春高校の攻撃は一番センター小羊田。さきほど見事なバックホームを見せた男である。
中継無しで見事なコントロールなのもさることながら、ツーアウト二塁でよくセンターオーバーのバックホームが間に合ったものだ。
小羊田の肩が凄いのか弐識が遅いのか。別にベンチ睨んでたらスタートが遅くなったわけではあるまい。さすがに。

さて、桐湘の先発は之路さん。さすがに相手は強打と見てエースが投入されましたか。
150キロ近いストレートを武器にする之路さん。その迫力は味方ですら怯むものがある。
しかし、そんな之路さんの球を初球から気圧されることなくスイングする小羊田。むむむ。
これも左薙の教育というか、啓蒙による気持ちの持ち方の成果なのだろうか。

守備の練習をどれだけやったって実戦で打球が飛んでくるかはわかりません。なので守備の練習するよりバット振りましょ・・・
投手は全ての打者を避けることはできません。待っていれば必ず球は来ますから・・・

なかなか面白い考えである。選手すべてを強化するという意味では確かに打撃に注力するのは間違いではないのかもしれない。
実際、二球目にして之路さんの球を捕える小羊田。
勢いに押されてはいるが、その結果野手の間に落ちるポテンヒット。
うーむ、初回2点で抑えた流れといい、ツキは栄春にありそうですなぁ。これはどうなるか・・・

相変わらずの傾き具合であるが敵味方ともに礼儀正しい感じの左薙。何だか憎めないやつである。
とはいえこのままペースを握られた感じとなると本当に血を啜られることになりかねない。
何とか傷の浅いうちに抑えたいところでありますが、さてはて。



Vol.18 打撃特化  (2014年 8号)


之路さんの球をポテンとはいえ前に飛ばしてヒットにする栄春の一番打者小羊田。
ラッキーではあるが、確かに本人が言っている通りバットを振り切った結果でもある。
そして続くは二番の樟井。送るつもりはなくガンガン打っていく様子。そのために昨日練習したのだから・・・!!

ここで昨日の回想。桐湘のエースである之路さんに合わせた練習をしている。
なんせ150キロ近い球を投げてきますからねぇ。初見ではビビって手が出せないかもしれない。
なのでホームベースから8メートルの位置で打撃練習を行うとのこと。
うむ、距離を縮めて対処するのはこの手の基本でありますな。球の速度以外の部分で圧迫感があって怖そうだが。

150キロならマウンド、ホームベース間の18.44メートルを通過するのに0.42秒くらいとのこと。
よくわからないがそういう数字が直に出てくるってのは凄いですな。賢そうだ!!
そのような理屈でもう少し後ろでもいいんじゃないかと述べる先輩たちに左薙はこう述べる。

左薙「・・・イヤなら守備の練習します・・・?
小羊田「わかった。打つ

なんか可愛いやりとりしてるなオイ。
まあ実際守備の練習よりも打撃の練習の方が楽しいでしょうしねぇ。

とはいえさすがに仮想150キロの球は半端ではない。人間の反射速度超えてるだろ!!
反応して振ってもスイングが間に合わないぐらいの速さである。これは厳しい。初見ではまず打てない。
ではどうするか。そこを考えるのもまた楽しさである。
バットを短く持ち、打つ時のステップを小さくする。振り始めも早くすることで速度に対応する。
こういう試行錯誤の末、段々と速度に慣れだしてくる栄春の選手たち。
進学校栄春の人たちはやっぱり考えるのが好きなんだなと左薙は言っているが、それ以上に楽しそうに部活してる感じがよろしいですなぁ。

限られた練習時間と環境の中では守備は捨てて攻撃に専念した方が良い結果につながる・・・
栄春は打撃特化です。ここまで2試合完封の之路サンでもラクには抑えられませんよ・・・

厄介な話でありますなぁ。
特に今はランナーを背負ってセットポジションになっている。
昨日の練習の球より遅い!!と二番打者も続き、三遊間を抜けるヒットを放ってくる。うーむ。ナイスバッティングであるな。

さて、続いて三番ショートの岸間。
予習・復習・実践・応用。プラス山を張るのも得意だぜとのこと。大事ですな。

初回の桐湘と同じく無死一・二塁。しかし栄春としては送るつもりはない様子。
実際この岸間も之路さんの球を捕えてくる。
しかしそのピッチャー返しのライナーをキャッチする之路さん。さすがに人間性能高いですなぁ。
岸間も遠くに飛ばすならばボールの下を叩いて揚力を加えねばいけませんでしたね。失敗失敗。
頭いい言い回しなのかどうなのか知らないが、ちょくちょく妙な言い回しをする奴が多くて楽しいな栄春。

さて、四番の左薙伏登場。もちろん狙うのは3ラン。
しかしこの球場は他所よりも少し広い。
清作の守るセンターは122メートル。ここを狙うのは難しい。
ならば狙いは両翼99メートル。効率良く得点するために最短距離で運ぶとのこと。

求める答えは既に出た。後はその過程の証明に持てる力をフル回転させるだけ・・・!!
当然、勝負してくれますよね。之路サン・・・

左薙が表の回でやったような敬遠をする之路さんでもない。
挑戦者の気概。それを持ち続けている以上、向かってくる相手を捻じ伏せる以外のことは考えないのでしょうな。
ベースに覆いかぶさるように左薙。下手すればデッドボールの危険があるわけだが・・・コースを絞る揺さぶりか?
だがそんな揺さぶりは無意味である。

俺がそんなにコントロール良いと思ってんのかバカ野郎!!

之路さん、そこはデカイ声でいう場面じゃないと思います。
まあ、コーナーを突くコントロールはないだけで荒れ球ってわけじゃないんですよね。
今回もド真ん中を剛速球が抉っている。その速度は先程の一番から三番打者に向けて投げた時よりも速い。
うーむ、エンジンがかかってきたというか、燃えるとやはり迫力が増すってことなんですかね。8メートルじゃまだ遠かったか。

左薙伏。テメーは打順や数字なんてどうでもいいとか言ってたが、之路主将には背番号1を背負ってるプライドがある
こんな所で、オマエみたいに敬遠は選ばねえ。絶対に、弱みは見せねえよ。

その強気が示すようにランナーがいるのにワインドアップを行う之路さん。
例え進塁されても打者を押さえ込んでしまえばいい。そういう気概が見て取れる。だが・・・

それがあなたの欠点です
エースで主将という責任を背負っているからこそ、逃げが許されない・・・
少し熱くなりすぎですね。風を送って差し上げますよ・・・
インコースの球には体の回転で。アウトコースには遠心力で――巻き上がれ!!

竜巻のような回転で風を巻き起こす左薙。
回り過ぎてバットで自分の背中を打つほどの勢いである。
しかしその回転で捉えたボールはフワリとあがり、ライトフェンスギリギリを越えるホームランとなる。

ウフハッ。ごちそうサマ・・・

あの之路さんの球からホームランを出すとは・・・左薙伏。これはかなり厄介な相手であります。
しかしこのギリギリのホームランは本当に効率よく最短距離を運んだって感じがありますなぁ。
つまりライトの児島がもっと深めに守っていればフェンスより高く飛んで抑えれた可能性はある・・・?
次の打順の時はその辺りも考慮した守備をしてみて欲しいものですな。



Vol.19 凡人  (2014年 9号)


150キロ近い之路さんの球を風に乗せてスタンドまで運ぶ左薙。
うーむ、思った以上に手強い男である様子。伊達に観客からナナフシの化身と呼ばれてはいない。何でその呼び名!?
ヒョコヒョコと傾きながら歩く左薙。走る時も傾きながらヒョコヒョコヒョコヒョコ走るのだろうか。
そして栄春ベンチから伏ー!!愛してるぞー!!と大胆なラブコール。本当、こいつらは妙なノリである。

投手で四番。しかも之路主将の球をホームランにするようなヤツが何で野球じゃ無名の栄春にいるんだ。

三塁を回る時にそのように問いかける弐識。
左薙に言わせれば今のはタマタマ。二刀流と言ってもナマクラですから、才能に溢れている弐識サンには理解できないとのこと。
確かに左薙の考えは理解しにくいでしょうな。高校野球までと限界を定めて諦めながらそれでも勝ちに来るというスタイル。
好きなことで、野球で食っていきたいと考える清作とは全く違うその考え。理解はし辛いだろう。
だが、之路さんは左薙のその言葉に別の意味で思う所がある様子。

才能か・・・俺から見ればお前には十分あるよ・・・

何とも意味深な言葉。
しかし別に精神的にダメージを負ったとかそういうわけではない。
周りの、特に1年生たちは心配しているようであるが、捕手である宇城さんは次の打者の多宇に対して平然とド真ん中を要求。
もちろん之路さんはこの要求を一つ返事で肯定する。

悪いな。左薙伏。
ムカツクけど、天才に打ちのめされるのは経験済みだ

そう言って回想に入る之路さん。
それはまだ之路さんが1年生の頃のこと。桐湘のグラウンドで超強豪である港南学院と練習試合を行っている桐湘野球部。
桐湘はそんなマッチメークされるほどの高校だったのか!?と思ったが、どうやら来ているのは全員1年生だけらしい。
3軍以下のチームというわけですか。妥当かもしれないがナメた話でありますな。
だから桐湘の監督も1年同士ならという条件でその試合を受ける。
こうして、1年生にして之路さんはマウンドに立ち、才能溢れる港南学院の連中と相対することとなる。
中学時代からのエリートぞろいの港南に対し、之路さんはそうではない。初回からいきなり満塁。四番の弐識義壱を迎えることになる。

弐識義壱への一投目はホームラン級の当たりだが、ギリギリファール。
カウントを取ったが、それは結果でしかない。打たれた瞬間にやられたと考えてしまうぐらいメンタルで押されている1年之路さん。
うーむ、この頃の之路さんは気弱な感じだったんですなぁ。マウンド上でも目細いし

宇城さんの左右に振るストレートの要求を拒否し、スライダーでかわそうとする之路さん。
しかしそれは通じず、満塁ホームランとされてしまう。
この頃の之路さんは130キロのストレートと甘めのスライダーしか持っていない。打たれるのは当然の結果といえましょう。
いや、それ以前の話として・・・気持ちで負けている感じがする。打ちのめされて誰か代わってくれと凹む之路さん。
そんな之路さんのもとへタイムをかけて近づく宇城さん。この人は1年生の時でもあまり変わりがないなぁ。

野手は皆お前の背中を見てるんだ。縮こまるな。胸をはれ、之路

そう言って、ボールを握って之路さんの胸に叩き付ける宇城さん
強く殴りつけられ、衝撃で大の字にぶっ倒れる之路さん。首をあげた時、見えたのはド真ん中に構える宇城さんの姿。

他人の気持ちも知らずに好き勝手言いやがって。そのままド真ん中かまえてろよ・・・!!

闘魂が注入されたように眼を開く之路さん。
ああ、なるほど。今やっているマウンド上での胸ドンは元は宇城さんから受けたものであったのですか。
その気合を入れてもらったのが功を奏したのかどうなのか。
気合いの入ったボールは走り、回を追うごとに失点が少なくなっていく。
相手が手を抜いた可能性はあるかもしれないが、それでも折れずに投げ抜いた之路さん。明らかに気弱な面が消えている。
とはいえ完敗は完敗。明日から猛練習だなと述べる宇城さん。それに対し之路さんは――

今からだ。胸殴られた借り、ミットぶち抜いて返してやる

なかなか執念深いですねぇ之路さん。どうやら宇城さんは凄いスイッチを入れてしまった様子であります。フフフ。

俺には弐識義壱のような才能も、港南の選手のような器用さも無い。
だからただひとつだけでも、胸をはれるものを手に入れなきゃ先には進めない

そういった想いがあるからこそ、之路さんがマウンド上で縮こまることはもうない。胸を張り続けるのでありましょう。

天才ごとき共も。宇城も。デカイツラして俺の前に立ち塞がんじゃねえ。凡人ナメんなバカ野郎!!

端正な顔が歪むほどの一球。
ド真ん中のストレートであるが、その速度と迫力は今まで見た中でも一番である。
カミナリのような音を立ててその一球は宇城さんのミットに収まり・・・いや、キャッチャーミットのポケットを突き破っていた。
まさかまさかのミット突き破り。うわぱあ。よもや本当に宣言通り胸殴られた借りを投球で返すだなんて・・・

この一投に当然のように盛り上がる観客。この世界の野球は盛り上がる要素が多くて楽しそうですなぁ。
こりゃ2度と外野に飛んでこないんじゃないかと述べる児島。
その横で打ちてえと鼻息荒くしてる清作。凄くらしいというか何というか・・・こいつもへこたれない奴であるな。

・・・やっぱとんでもねえなこの人は。
あんな球見せられたら、俺たち守備陣が燃えないわけがねえ
まだ初回1点ビハインド。余裕で逆転してやる!!

縮こまる背中は野手に不安を与える。ならば逆に胸を張った熱い投球はどうなるか。結果はご覧のとおりである。
守備の時であっても投手はただ一人攻めることが出来る。それが野球である。
之路さんの攻め気は弱点となるかもしれないが、それ以上のやる気をナインに漲らせてくれるわけでありますな。

之路「見たか宇城!!
柊「・・・何で宇城サブキャプテンにキレて・・・」
之路「うるせーぞ柊!!」
柊「ッサー!!」

1年の練習試合の時から今に至るまでずっと宇城さんの胸にボールを叩き付けることを考えて投げてきた様子の之路さん。
ああ、そりゃあ気合が入りますわ。毎回自分の胸を叩くのもその時のことを思い起こす意味があったんでしょうなぁ。
うーむ、実によいバッテリーである。宇城さんもなかなか存在感が出てきましたな。イイヨイイヨ。

とはいえミットを突き破るほどの球を投げる之路さんは凡人と言えるのだろうか?
確かに1年時を見ればパッとしない感じであった。
そこから胸を張れるものを見つけるために努力を重ねた之路さん。
ふーむ、その努力を才能の一言で片付けるわけにはいかないし、凡人と名乗るのも許容しないといけないかもですな。

さて、次回は攻撃に回り、清作の打順となる様子。
左薙も考えが読みづらい清作。少なくとも打ちたい気持ちは満点となっているがどうなりますか。楽しみです。



Vol.20 スピード  (2014年 10号)


左薙にホームランを打たれて崩れるどころかむしろ球速を増す之路さん。
まさにエースの貫録でありますな。こりゃそう簡単には打たれそうにありませんわ。

1回裏は3失点で終えた桐湘。
1点差をつけられたところで2回に突入。先頭打者はクソ天然こと清作の出番。
待ちきれずに栄春の守備が入る前に既に打席に入ったりしている。先走りすぎだ。

殴られてベンチに引きずられていく清作。
そこまで運ばれたので、丁度いいとばかりに之路さんに声をかける清作。

何点取られてもいースよ。俺が取り返しますから

実に清作らしい声のかけ方であるが、何とも縁起の悪い。
そりゃ弐識たちに殴られても仕方がない。
弐識、児島、伊奈。清作をシメるのはこの三人に固定されつつあるようですな。ふむ。
まあ何にせよ言われた之路さんの方は別に貴を悪くした様子もない。

――清作。頼んだぞ

その言葉で送り出される清作。こりゃ何があっても打たないわけにはいきませんわな。
それに左薙は自分で3ランを打って投げて抑えての活躍を見せようとしている。今ここで更に勢いづかせるわけにはいかない。

俺の手で息の根を止めてやる

物騒な表現である。まあいつも心臓ブッ叩いて鼓動止めてるわけですし、その表現で間違いはないのか。

左薙の第一投はインコースへのスライダー。
ホームラン狙いで強気に振ってくるだろうから詰まってくれれば幸いという配球だ。
しかし清作はこれを豪快に空振り。
タイミングは合っていたと思ったのだが・・・まあ、詰まるよりはマシですな。まだワンストライクですし。

続いての二球目は縦の変化。カーブである。
この球は真後ろに飛ばしてファール。おやおやいきなり追い込まれてしまいましたな。
どうもさっきから微妙にズレている様子。新種の変化球か!?魔球か!?と慄く清作。いやいや。

中学の大会で腰を痛めて実戦から遠ざかっていた清作。勝負勘が戻っていないのだろうか。
いや、この大会の初めての打席では見事なホームランを打っている。
三球目のボール球も冷静に見えているし、勘が鈍っているという感じはない。となると・・・

・・・あのクソ天然。自分のスイングスピードが上がってることに気付いてねーのか

真っ先に清作のズレに気付いたのは弐識。
どうやら清作は中学時代よりスイングスピードが上がっているらしい。腰を鍛えるためにひたすらバットを振った成果だろうか。
しかしそのため、イメージよりも早くバットが前に出てしまい、手前でボールを叩いてしまっている様子。
中学時代に対戦経験がある左薙だけにその時のイメージで戦ってしまっているのがよりズレを生んでいるようですな。
そのことに清作本人はまだ気付いておらず、また来るのか!?魔球・・・!?と可愛い顔して慄いている。何してるんだか。

逆に左薙は腰を痛めながら成長をする清作を厄介な奴だと警戒している様子。

キミがとまどっているうちに勝負を決めさせてもらう。

遊び球は続けず、ここで仕留めにかかるようですな。
そういった気配を見せる左薙に対し、清作は焦りを見せている。アイツには負けてらんねえ――

俺が力でねじ伏せられた之路主将の球をライトスタンドまで運びやがったんだ。
投手としてのアイツより打者としてのアイツに負けたくねえ・・・!!
俺には打撃しかない。だから打席に立つためにバット振り続けてきたろ。
全力をぶつけるしかねえんだ。今更ジタバタすんじゃねえ。自分の力を信じろ。

想いを高める清作。そんなことを考えているうちに左薙はクイックで投げてきておりました。投げんの早ェだろテメー!!

ヤベェ。振り遅れた。間に合わ・・・

慌てて振ったバット。
イメージ通りならば間に合わない。しかし実際はイメージよりも早く振られている。
バットは見事に左薙のボールを捕え、セカンドの頭を越えるセンター前のヒットとなる。
おおお!!あのバカッぽい奴打ちやがった!!と観客も歓声をあげる見事なヒットだ。もうバカだと見破られている!?

左薙にしてみれば奇襲のつもりだったのだろうが、それが結果的に清作にいい方に働いてしまった様子。
振り遅れたと思ったからこそ丁度良くなるとは・・・うーむ、やはり天然は計算し辛い相手ですなぁ。
心臓をブッ叩かれて心臓に悪いという感想を述べる左薙。正解ですな。
というのはさておき、結局清作はシングルヒット止まり。
ホームラン狙いだったはずなのにこの結果。満足いくものではないのではなかろうか。
そのようにも思ったが・・・出塁した清作は笑顔を浮かべていた。

・・・やっぱりキミは厄介な奴だよ。
悔しがって満足してなければ次の打席以降もホームラン狙いで大振りしてくれて打ち取りやすくなると思ったのに・・・
変化したのは技術だけじゃないってことか・・・変わらないのは目つきの悪さくらいだね・・・

そこは一生変わらない気がしますな。おそらく天然成分も変わらないと思われます。仕方がないね。
しかしそれ以外の部分。孤独な野球をしていたあの頃の清作からは随分と変わっている。
なんだか純粋に野球を楽しんでいる少年みたいな感じでよいですなぁ。

清作のこの出塁で流れは桐湘に傾くかもしれない。このまま打線が爆発すればよいのですが、さてどうなりますか。



Vol.21 栄養  (2014年 11号)


2回裏。清作のシングルヒットでノーアウトのランナーが出る。
しかし果たしてここから得点に繋がるのかどうか。
まずは八番の楠瀬。目立った感じのない彼に活躍の場面が来るのか!?

清作に打たれた左薙。そのことよりも桐湘のベンチが盛り上がってきていることを気にしている。
流れとかそういうのを重視している感じですな。このままのまれるわけにはいかないとも考えている様子。

練習時間が限られている進学校の僕たち栄春にとっては試合こそが最大の経験の場なんだから・・・
桐湘が喰らいついてきてくれるならありがたい。実戦の中で学ぶことができる。
夏の本番に向けてチームに栄養をつけなきゃいけませんからね・・・
咬みつき返して、あなたたちの血肉を糧にさせていただきます

肩をぐりんと動かし、奇妙な構えを取る左薙。
そしてその後に繰り出される投球はさっきまでとは違うもの。
いつもよりリリースポイントが高く、角度と落差がかなり厳しいものとなりました。ほとんど垂直じゃねーか!!

面白いことをやってくる左薙。
しかし楠瀬とてダテに下位打線を打っているわけではない。打てないのなら送るまでとバントの構え。
だが球威に押されてキャッチャーフライとなってしまう。あらあら。

そして九番の之路さんも送りバントを試みるが上手く行かない。
内角を鋭くえぐるコース。バントに失敗すると体に当たる可能性もあるし、ピッチャーとしてはムリできないコースだ。
結局三振に終わった之路さんに対し清作から声がかかる。

ドンマイ之路主将!!元々打撃には期待してませんから〜〜〜!!

ディスってるようにしか聞こえないぞクソ天然。
でも清作だから悪気はないんだろうなと分かってしまうのがまたアレである。
塁にでていなければ間違いなく制裁されてはいたでしょうけどね。

さて、打順は一番の児島に。
どうにか之路さんの熱投に応えたい。その想いで必死に粘り、喰らいつく。
6球程投げさせ、左薙の新しい投法による高さと角度とキモさに目が慣れてきた様子。キモさもポイントかい。
だが、どうやら左薙にはまだ隠し玉があったようだ。

自分をさらけ出すのはテレるなあ・・・けど、これ以上粘られて体力奪われるのは効率的じゃないよね・・・

そう述べながら放つのは、地に頭をこするかのように体勢を低くしたアンダースロー!!
上から来るのかと思いきや真逆の下から。
しかも球がホップしてくるという打ちづらさである。これは厳しい!!
1回の様子からして桐湘ならもっと点を取れるかと思ったのだが、左薙は思った以上に厄介な奴だったようだ。
上から来るのか下から来るのか。的をしぼりづらくなってきました。
しかし今回一番の驚きはこの後に待っていたりする。ベンチに戻ってきた清作のこの一言だ。

・・・アレなら中学の頃からたまにやってましたよ

え?いや、知ってたなら先に言えよ!!コミニュケーションとる気ねーのかクソ天然!!
さすがにこれは公開リンチされても仕方がありません。
事前に知っていれば少しは対策の取りようもあったというのに・・・
怖いわぁクソ天然。悪気があって黙ってたわけじゃないから本当に困る。
しかし左薙のその才能溢れる投球はこの男に火を・・・いや、火はもうついてるな。油を注ぐ結果となる。

1年で四番・エース。しかも3種類の投球フォーム・・・どんだけ器用なんだ左薙伏。ふざけんなバカ野郎!!

ヤケというか八つ当たりというか。ともかく之路さんの気合の入り方は相当なものの様子。
1回はお互い連打で得点が入っていたというのに、2回はお互い無得点という結果になりました。

さて、3回表桐湘の攻撃は打順よく二番の柊から。
上からでもモア上からでも下からでもタイミングさえ合えば問題ないと考える柊。
しかし時間のかけたアンダースローにそのタイミングを狂わされてサードフライ。うーむ、やりづらい相手だ。

続いて三番の頭木さん。
こちらは普通に三振に倒れてしまう。むう、残念無念。

そして四番の弐識登場。
今回は満塁だった1回とは逆にランナー無しの状態。
打たれても被害は少ないし、初めから1点リードを守り切れるとは思っていない左薙。
だが、この場はしっかり敬遠してきます。弐識とはとことん勝負しないつもりか・・・
賢いというかクレバーというか。相手している方にしてみればつくづく厄介でイラつく感じであります。
打開策があるとすれば、次の打者が活躍することなのだが・・・安保先輩に期待するしかないのか!?



Vol.22 ハプニング  (2014年 12号)


二打席連続で弐識を敬遠。
勝ちにこだわった徹底したクレバーさはおよそ高校生らしくないものがある。
それだけに厄介という話でありますな。
だが、弐識とて黙っている男ではない四番の意地を見せるため・・・届かないと分かっていながら振る!!

敬遠の球をスイングし、ワンボールツーストライクという状況に自ら追い込まれる弐識。
なるほど。強引に勝負させるつもりでありますか。
栄春の捕手である庵田さんはそれに乗って勝負しようとする。初回に吹き飛ばされたこと根に持ってます・・・?

そういった感情は危ういものがあるが、どうやら左薙にしてもナメられすぎはシャクという感情はあるらしい。
自分から追い込まれたのだし、そのまま自分で掘った穴に落ちてくれれば万々歳という話だ。

てなわけで、弐識と勝負する左薙。
とはいえさすがに冷静。ストレートではなく、外角に逃げるような変化球を放ってくる。
これで引っ掛けさせようという考えなのだろうが、意外にもそれを読む弐識。
うーむ、脳筋呼ばわりされてはいるが、意外と冷静じゃないですか弐識も。
まあホームランを狙いすぎたせいで打ち損じ、ツーベース止まりとなったようですが。うわぱあ。

見事に左薙に一打食らわせた弐識。
しかし続いての打者は安保先輩。
未だに頭に血がのぼっているらしく、高めのつり球に手を出してしまい、ファーストフライ。
結局3回も無得点で終わることとなってしまいました。おやおや。

ベンチに引きあげる際に弐識。安保先輩に何か言いたいことがある様子。
言いてえことがあるなら言えよという言葉に従い、言わせてもらおうと口を開く。

・・・安保センパイ。勝つ気ねーんスか?

おっと、ついに苦言を呈するようになりましたか。腹に据えかねている様子は前からありましたからねぇ・・・
気に入らないが、左薙のやり方は勝ちにこだわったものだと評価している弐識。それに比べ、安保先輩の態度はそうではない。

目先の試合を棄ててたら、肝心なところで全力になれない

相変わらず熱い発言である。
しかしその熱さに馴染めないのが安保先輩。もう夏の予選のシード権は取ってるんだしこの試合は重要じゃないと言い捨てる。
そういう損得だけで見た挑み方ではいい経験を得ることもできないでしょうに・・・

そうやって棄てる言い訳ばっかくり返してたら、そのうち自分の言葉に甘えだす。
港南は強ェから勝てなくて当然。俺たちは公立だから仕方ねえ・・・
言い訳すんのも腐るのも全力出してからにしろよ

敬語を止め、言葉を叩き付け、睨みつける弐識。
安保先輩もそれに負けじと睨み返す。うーむ、ピリピリとた雰囲気だ。他の桐湘の面々も心配そうに見守っている・・・
と思いきや、さっさと守備についていた男がおり、その男から一喝が飛ぶ。

いつまでゴチャゴチャやってんだ!!サッサと守備つけバカ野郎!!
2人そろって左薙にのせられてロクに結果出してねーくせに、ゴタゴタ足引っぱってんじゃねーよ!!

おおう、さすがというか何というか。清作は恐れを知らない男である。誰に向かって言ってんだと言われればこう返す。

テメーらだよ!!脳筋とコレステロール!!

コレステロールって。いや、凄く分かりやすい表現だけどもさ。
割と言いたい放題な感じの清作であるが、ここで同じく既に守備に就いている頭木さんに問う。
「言いたいことあんんあら言え」って安保先輩がさっき言ってたから俺も言っていいんスよね、と。
その問いに無論だと頷き返す頭木さん。むう、いい立ち位置だ。

どいつもコイツもだらしねーんだよ!!俺がホームラン打って点取ってやるからサッサと出て来い!!

自分も別に前の打席でホームラン打てたわけじゃないのにこの言い様!!
しかしまあ、ピリピリと張りつめた、凍りついたような気分は氷解するような熱さが籠っている。
桐湘ナインとしても、当事者の弐識と安保先輩としても怒りの矛先はしっかり清作の方へと向いたようだ。
そこですかさず久澄監督からこのような言葉が飛ぶ。

じゃあ栄春の攻撃早めに終わらせて、皆で清作君をシメましょう

えらい言い様だ。相変わらずこの監督は笑顔で面白いことをいう。実に桐湘らしい監督であるということか。
おかげでゴタゴタしてたはずの桐湘の選手たちもおかしな方向に熱が入ることになりましたわ。覚悟しとけゴラァ!!

弐識「サードに打ってこいバッターオラァ!!」
之路「打たせるわけねーだろ弐識!!」
弐識「サーセン!!」

うむ、実に熱くなっておりますな。
之路さんも清作がつけてくれたこの火の勢いに乗って快調に投げております。よい流れだ。
次の回はその火つけ人である清作に打順が回る。この勢いのまま3者三振に切って取りたい。
のだが、デッドボールで走者を出してしまう之路さん。何やってるんだか!!
そして、迎えしてしまうのが厄介な相手である左薙。いや、左薙としても今の桐湘の状態は厄介に思っているようだ。

天然のハプニングで流れを持っていかれるなんて僕は納得できない・・・
もう1度計算通りに追加点いただかなくちゃ・・・!

やはり左薙は流れとかそういうのを大事にしているみたいですね。
そして計算高いだけに天然は苦手であると。ふむ。

初回はしてやられた之路さんであるが、今回の対決はどうなるか。
気合はかなり籠っているが、左薙としてもここはどうしても打ちたい場面である様子。
はてさて、どのような結果となりますか・・・注目です。



Vol.23 リスク回避  (2014年 13号)


3回裏。1点リードされてツーアウトランナー一塁の状況。
ここで迎えるのは初回でホームランを放った左薙。
もし左薙自身が投手であったならば、この状況は敬遠するであろうとのこと。
だがもちろん之路さんにそんなつもりはない。
走者を無視して振りかぶっての投球を開始する。さすがの矜持ですな。

初回よりも速い球を放る之路さん。熱くなってますねぇ。
ランナーが三塁まで行くとなるとさすがに得点される確率が跳ね上がるのであるが、それすら気にしていない様子。
まあ、確かに打者を打ち取ってしまえばそれで終わりですものねぇ。

そんな地雷だらけの道を歩きたがるなんて理解できませんよ之路サン・・・
1つの道が閉ざされたら前に進めなくなってしまう。だから可能性を広げるために色々なモノを身につけなければならない。
投手なら変化球を。打者なら対応力を。
もし野球の道が閉ざされた時はアタマで生きていく。そのために進学校の栄春に進んだ。
リスク回避は動物として当然の発想です。それを否定するアナタは動物以下。まさしく単細胞
放っておいても自滅するでしょうね・・・

左薙は動きとか色々とキモイ奴であるが、考え方は逐一理に適っている。
確かにリスク回避は重要であるし、可能性を広げるために色々なモンを身につけるのは大切なことである。
それに対し之路さんは愚直なまでに真っ直ぐ。
どこまでも全力投球であり、さすがにスタミナをつけたといってもこれでは最後まで持つかは怪しい。
しかし之路さんのような単細胞は一人ではない。

清作「左薙!!振らねーなら俺と代われ!!之路主将の全力の球打ってみたい・・・
之路「黙ってろ清作!!」
清作「サーセン主将!!」

欲望丸出しじゃないですか清作。
まあ、こういうバカな奴だからこそデタラメな勢いを生んでくれるわけでありますけどね。
桐湘としてはこの勢いに乗りたいし、左薙としてはそうはさせたくないところだ。

理知的な左薙は相手のことを分析しての投法で桐湘の打者たちを翻弄している。
打つ時も同様で、状況を考えてどのような球が来るか分析しながら打っている。
その考え方ならば、変化球が来てもおかしくはないと思うのは無理もない。が、やはり投げられるのはストレート1本。

・・・意味わかりません

ぐりんぐりんと体をうねらせる左薙。理解できずに暴れている感じですな。
そんな左薙に目線安定しねーと打てねーぞとアドバイスを送る清作。黙ってろクソ天然!!
まあ、煽りになっているといえなくはないですけどね。

・・・わからない。アナタが理解できませんよ之路サン・・・
勝つために武器を増やす。作戦を練る。それを実行するために練習を重ねる。
投手として打者として時には監督として僕はチームの中心になってきた・・・
なのにアナタはただ1つだけ・・・ストレートを磨くことだけを選んだ。そんなの僕は認めませんよ・・・!!

おや、珍しくムキになっているようですね左薙。
清作に続き、理解し難い相手とぶつかったのが効いているってことでしょうか。
だけど、それで打撃の精度が狂う程簡単な相手ではない。

どんな形でも点を取る。スタンドまで運べなくてもヒットで1点。
確実に球をとらえるためには・・・フルスイングは必要無い・・・!!

ホームランは効率のいい点の取り方と言っていたが、この場面ではより確実性の高い方に切り替えるのが得策。
さすがに左薙はクレバーなキャラであります。うまく当てて、ライト前のポテンヒットを狙ったってわけですな。
それにしても相変わらず栄春の方々の応援は激しいねぇ。愛してるぞ伏ー!!

いつもならフルスイングをする度に自分で自分の背中を叩く。
サナギの背中を割りたいと願うからじゃない
その中から出てくる羽が蝶のように美しいか、蛾のように毒々しいかにも興味は無い。
いっそ羽ばたく夢を見ないために粉々に砕けてしまえば良いとすら思う
そんな孤独な夢すら今は見ない。追い求めるのは目に見える結果。
僕の方が・・・僕の野球の方が正しいという現実だけです・・・!!

なんというポエム。左薙という名前にかけた実に完成度の高いポエムである。脱衣も加わり芸術点も加算されそうだ。

それはさておき、ライトは俊足の児島。
追加点をやらないためにもこの左薙の打球は直接捕りたい。
全力で走ってのダイビングキャッチ。取り損ねたならば傷口を広げることになる。
が、これを見事に成功させて見せる児島。おぉ。やるじゃないですか。

ムリしなきゃ手に入らねーモンもあるんだよ・・・!!

やはり児島も桐湘野球部の一員でありますなぁ。
之路さんの熱さにアテられていることもあり、リスクを冒してでも全力で挑んでおります。

さて、この結果を見た左薙はどのように考えるのか。
自分の野球の方が正しいと考えたはずなのに、結果を見るならば見事に押さえられたことになっている。
これは、次の回の清作の打席で何か変化が見られたりする可能性がありますな。楽しみなことです。



Vol.24 勝負所  (2014年 14号)


清作がセンターに入ったためライトにコンバートしていた児島。
そのおかげで俊足を生かした見事なダイビングキャッチで追加点を阻止することが出来ました。
リスキーではありますが、その前向きな姿勢が挑戦者である桐湘のスタイルでありますわな。
まあ、左薙には理解し難い考えのようでありますが。ぐりんぐりん。

クチだけではなかった児島の好守に勢いづきたい桐湘。
この回の先頭打者である宇城さんは久澄監督からアドバイスを受ける。

相手投手の左薙君としては清作君の前にランナーを出したくないでしょうから、全力で宇城君を打ち取りにきます。
大きなあたりはいりません。バットを短く持って確実にあてにいきましょう。
3試合でエラー35。この試合でも既に2つ。栄春の守備のもろさを突くために。
何とかくらいついて――内野に打球を叩きつけてください

ほう、さすがに監督。なかなか的確な指示を出してくれますな。
平凡なフライなどは守備がいくら苦手でも抑えてしまうだろう。
しかし、バウンドの見極めが必要なゴロの場合はエラーの確率が高くなる。
実際栄春のサードは出足が遅れたのに突っ込みすぎたため大きく跳ねたバウンドに対処できず出塁を許してしまう。

相手につられてムリなことなしなくていいのに・・・

思わずこぼす左薙。ふむ、よろしくない流れのようですな。
左薙に言わせると今は自分たちがリードしている。このリードしている状況がむしろマズイとのこと。
栄春は野球では無名の挑戦者だから追いかける展開は得意でも追われるプレッシャーには慣れていないためだ。

守備でミスをしても打撃でカバーできればいいと思っていたし、今まではドサクサまぎれに勝ってきた。
けど守備をおろそかにしたままではこれ以上、上には進めない・・・かな?
アウトを確実に計算できないようでは仮にこの試合に勝てたとしても、神奈川の王者、港南学院には通用しない・・・

やはり左薙も港南学院に対抗しようという意志はある様子。
ここで課題を摘み取っておきたいところでありますが・・・さてさて。

宇城さんが一塁に出塁。続いての打者は清作である。
清作は久澄監督に何かあります?と質問。といっても送りバントとかはしたこともないらしいから期待は出来ない。ですよね。

之路君の投球は、児島君のファインプレー。1点リードされてはいますが流れはウチに来つつあります。
今の自分にできることを全力で。ホームランを狙ってください

ふむ、やはりこの監督はなかなか出来る人っぽいですな。清作の扱いも心得たものである。
久澄監督の言葉にそれならできます!と返して打席に向かう清作。それを呼び止める弐識。

勝負所だ。キメてこい。できなきゃ2度とデケェクチ叩けねえようにアゴの骨砕いてやる。

相変わらず物騒であるが、期待されているのが伝わる激でありますな。
まあ、清作にしてみればその辺りは言われるまでもない。
左薙の全力の球をスタンドに叩き込み、自分の力を見せつける。それこそが今の望みである。
そういった意識を持って打席に立つ清作。しかし相対する左薙の方は別のことに考えが囚われている様子。

・・・この試合のおかげで課題を痛感した
之路サンのような豪速球への対応と守備のもろさ。先輩たちもきっとそれを自覚しているはず。
けど夏の本番までにそれを全部クリアできるだろうか・・・?

チームを導く立場として今後のことまで考えてしまう左薙。
しかし勝負の最中にそんな考え事をしていてはいけない。清作に投げた2球。それはどちらも気の抜けた球であった。
これは清作の望む全力の投球ではない。だから清作はキレて吠える。上の空の左薙に向けて。

左薙ィ!!集中しろオラァ!!
気の抜けた球投げんじゃねー!!テメーの全力の球打って俺が桐湘の四番打者だって弐識センパイに思い知らせてやるんだからよォ!
お互い先輩が頼りねーと苦労するよな。けどよォ。今は俺とお前の勝負だろ。全力で楽しもうぜ

左薙に喝を入れつつ、さりげなく先輩ディスりも継続する清作。
もちろんこれを聞いて憤慨する弐識。あのクソ天然、今すぐアゴ砕いてやる・・・!!
複数人で必死に押さえこもうとする喜多さんたちは毎度ご苦労様でありますなぁ。

さて、ベンチへの影響はさておき、左薙への影響はどうであるか。
思考の邪魔をされ、左薙も苛立ちを見せているようだが、その分打者へと集中し、投球は生きたものとなっている。
上から下から投球フォームを変えて放り込まれる球になかなか合わせられず、ファールを連発する清作。

その調子だ左薙!!そんなクソ天然打ち取っちまえ!!

弐識、それはさすがにイカンでしょ。気持ちは分かるけども。
このようにベンチへの悪影響はでかい清作のセリフでありましたが・・・左薙には別の影響が出てきた様子。
勝負を楽しみ、笑顔を見せている清作。それを見ている左薙にもいつしか笑みが生まれていた。

これだからクソ天然はイヤなんだ・・・アレコレ悩んでいる自分がバカらしくなる・・・!

ツーストライクの状態とはいえ、ランナーがいるのにワインドアップで構える左薙。まるで之路さんのようである。
うーむ、あのクレバーな左薙がすっかり天然の熱にアテられてしまっているようですなぁ。ほほほ。

クソ天然の見せる影響力は敵味方問わず大きい様子。
しかし決して悪い影響ではないってところがいいですなぁ。
この真っ向勝負の結果はどのようなものとなるか・・・注目です。



  錻力のアーチスト感想目次に戻る

  錻力のアーチスト連載中分に移動

  作品別INDEXに戻る

  週刊少年チャンピオン感想TOPに戻る



HPのTOPに戻る