蒼天紳士チャンピオン作品別感想

バチバチBURST
第82話 〜 最新話


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 バチバチ
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バチバチBURST 10巻


第82話/見てきた背中  (2014年 8号)


鯉太郎と闘海丸の取組は立ち合い直後から激しいものとなっている。
お互いの長所がよく出たいい戦いだ。
鯉太郎のブチカマシが闘海丸を揺らす。しかし闘海丸の反撃により動きの止まる鯉太郎。そこに脅威の右が迫る。

染みた・・・
どうする・・・はらうか・・・!?いや・・・力はコイツが上!
ブチカマシ?いや・・・距離がねぇ・・・なら・・・しぼり上げる!!

闘海丸の右を抱え込む鯉太郎。完全に入った。
しかし闘海丸のパワーはそれで抑え込めるものではなかったという。
さすがに右腕だけならば天雷をも凌ぐと言われるパワー。抱え込んだ鯉太郎の身体ごと右腕を上げてしまう。
そしてそのまますくい投げ。細川君がやたらとドヤ顔してるのが気になるが、まあいい。

投げられそうになる寸前、鯉太郎は闘海丸の足に自身の足をかけてこらえる。
自身も勢いで倒れそうなものであるが、そこをこらえる鯉太郎。かなりのバランス感覚だ。
そして張りで距離を開けて、再度のブチカマシを決めようとする鯉太郎。
かなり闘海丸の右を警戒するようになっていますね。なんとか押しで勝負を決めたいところだが・・・

来るぞ・・・あの突き抜けるブチカマシ・・・!!
耐えろ・・・屁が出てもいい・・・耐えろ・・・耐えろ・・・
そして・・・崩せ!!!

覚悟を決めて鯉太郎のブチカマシを受け止め、そして右のかち上げで鯉太郎のアゴを跳ね上げる。
ダメージとしては鯉太郎の方が大きい。これは何度も続けられる流れではありませんな。
いや、それ以前に動きが止まったのならばすかさず闘海丸の右が迫ってくる。
闘海丸が得意とする右上手を取られたら、さすがに鯉太郎の足腰であっても耐えることは難しい。
何とか伸びる右腕を抑える鯉太郎。しかし鯉太郎のパワーではいくらも抑えきれない。ケガしてる左手ではなおさらだ。

何て右だ・・・一瞬で振り出し・・・クソ・・・削れる・・・

とてつもなく巨大に思える闘海丸の右腕。うーむ、想像以上の強敵でありますなぁ。
さしもの鯉太郎も精神が削られ、気圧されている様子。
取られたら終わる。どうすればいい・・・悩む鯉太郎。その背中に激が飛ぶ。何と常松からの激だ!!

おいっ!!何やってんだ!!ふざけろよ!見せたかったのはソレかよ!!

おやおや、すっかりデレてしまいましたね常松も。
いつもなら白水さんが真っ先に声をかけてくれるのでしょうが、今日はケガでいない。
となれば常松が率先して声を出すしかない。うーむ、いいシチュエーションが与えられたものでありますなぁ。
そして弟弟子の声を聞いた鯉太郎は大事なことを思い出す。

そうだ・・・何してんだ・・・俺は何を見てきた・・・
何を・・・いや、分かってる。切り開く背中・・・立ち向かう勇気・・・前へ!!

笑みを見せる鯉太郎。
力勝負に持ち込まれ、体力的にも精神的にも削られ状態から手を離し、自ら逃れる。
そしてまわしに手を伸ばす鯉太郎。自ら四つ相撲の形にいくのか!?
驚く田上さんであるが、空流親方や笑みを浮かべ、暁親方はこの流れを危険視する。
そう、ここから見せるのは虎城親方が言う所の小兵としての戦い方だ!!

左手でまわしを取り、闘海丸の右が伸びるよりも早く下手投げの体勢に入る鯉太郎。
足を前へと踏み出し、その下手投げを堪える闘海丸。
しかし鯉太郎はそれを確認してすかさずまわしを引く。出し投げだ!!
揺らぐ闘海丸。さらにその足を自身の足で払う切り返しを仕掛ける鯉太郎。
おぉ、この出し投げから切り返しの流れは吽形さんがブタフグ相手に見せた流れではないですか!!

空流でアイツの血が一番濃いのは・・・お前だからな・・・

小兵である鯉太郎。パワーには劣るがスピードならば上である。
そして吽形さんから学んだ技術がある。直接学び、その戦いと背中を見て受け継いだ技術がある。

動け・・・尽きるまで・・・もっと速く・・・攻め続けろ!!

自身がこれまで見てきた兄弟子の背中。
今は自分が兄弟子として弟弟子たちに見せなければならない。
空流として受け継いできた男の背中。立派なものを見せねばなりませんわな、そりゃあ。

久々に吽形さんの姿を回想で見ることが出来て嬉しかった。
さて、このまま吽形さんから学んだ下手投げで決めることとなるのか?注目です。



第83話/そうか・・・  (2014年 9号)


脅威の闘海丸の右。
しかし鯉太郎はその右を取らせないスピードで攻め立てる。
確かに力の真っ向勝負では体格に劣る鯉太郎の方が削られるだけである。この作戦は悪くない。だが――

あの巨体を振り回すにはスタミナの消費は相当・・・
それに加え、あの右のプレッシャー。心身共にかなり削れるはず。
早々に決めなければ・・・自滅

天雷の読みは正しい。確かに休まず動き続ける鯉太郎の負担は大きい。
だがその体や技のキレは凄まじく、気を抜けばどれも決まる技を見せている。
つまり守る闘海丸にしても削れるという意味では一緒なのである。

下手投げから出し投げ。後ろに堪えれば切り返しからの張り。
前から後ろからと相手に息をつかせる暇も与えずに攻めまくる鯉太郎。これならば闘海丸に攻めの手は回らない!!
多少ワンパターンな感じはありますが、短時間の攻防でしょうし、これでも十分ではあるか。
しかし常松はすっかり驚き役が板についておりますな。スゲェ・・・

脅威のスタミナで動き回る鯉太郎。
だがさすがに無尽蔵というわけではない。疲れは当然見せている。いや、傍から見たら限界ではないかと思えるほどだ。
しかしそれでも止まらない鯉太郎。その姿を見て闘海丸は恐怖を感じる。だがそれと同時に――

滾る・・・!!

鯉太郎の奮戦を見れば、戦っている自分も燃え上がらないわけにはいかない。
堪えるだけで精一杯と泣き言をもらしそうになった闘海丸であったが、ここで反撃の右張り手!!捕えた・・・!!

入った・・・だろーが。今のは・・・

確実に捕えたはずの右。しかし歯を食いしばって耐える鯉太郎。
このような気迫を見せられては闘海丸も笑うしかない。ブハハッ!!

感謝だ・・・こんなスゲー奴と男を張れるなんてよ・・・
悪いな将太・・・この取組は・・・俺は俺のタメにコイツに勝ちてぇ!!

ぶおおおおおおお!!と雄叫びをあげる闘海丸。
うーむ、岩の藤との戦いもそうだったが、鯉太郎の戦いは相手を熱くさせてしまうものがあるようですな。
まあ、闘海丸が爽やかな奴であるってのもあるんでしょうが。実に気持ちのいい2人である。

とはいえさすがに鯉太郎にも限界が近づいてきている。これだけ攻め続けても闘海丸の体の芯が崩れない。ここまでか・・・

いや・・まだだ!!石川は一滴まで絞り出した

思い出す鯉太郎。そこに闘海丸の更なる右張り手。動きが・・・止まった!!
いや、動きは確かに止まったが思考は止まっていない。
脳裏に浮かぶのは、この幕下優勝決定戦の直前のこと。
鯉太郎は何故相撲を取っているのか。あの時はそれに答えることが出来なかった。だが、今になってみると分かる。

あぁ・・・そうか・・・全てを出してもハジキ返される。絶対的な力への・・・憧れ・・・

最高に面白いと笑顔で語る石川。今の鯉太郎ならばそれに心から同意できる。
うーむ、やはり鯉太郎が相撲を取るのは親父からの影響が大きいわけでありますなぁ。まあ分かっていたことではありますが。
落ちぶれ、酒におぼれた状態であっても、それでもなお絶対的な力で立ちふさがった父親。
その憧れは角界の強者への憧れと繋がっていると理解できたわけだ。
強い奴と戦えるのが面白い。石川の意見はやはり同意できるものがあったわけですな。似た者同士ですなぁ、本当に。

さて、動きの止まった鯉太郎の上手を取るために右手を伸ばす闘海丸。
だが鯉太郎は完全に動けなくなったわけではない。動け・・・あと1つだけ・・・

右腕を伸ばし、闘海丸の左脇を抑える。それと同時に左で抑えていた下手を放す。
闘海丸が鯉太郎の右手で押された体を戻そうとするのに合わせて、鯉太郎の左からの投げが放たれる。幻の技、呼び戻しだ!!

飛べ・・・・・・

決まるかと思われた呼び戻し。
だが、闘海丸は左足を出して堪える。そして低くなった体勢を利用して鯉太郎の脚を手で払う。外無双だ!!

大技に対しこれまた大技が飛び出しました。
さすがに鯉太郎の呼び戻しは完璧ではなかったか・・・いや、それ以上に闘海丸の土壇場の強さが出たということか。
天雷戦のうっちゃりもそうだけど、最後の粘りが凄い。
そして逆転技を無理やり仕掛けるだけのパワーが備わっている。闘海丸つよし・・・本当に強い男だ!!

さてさて、完全に足は浮きあがってしまったようだが、耐えることはできるのだろうか。
横に状態を捻り、無理矢理足で降りるか、闘海丸の体にしがみついて堪えるか・・・はたまたそのまま敗れるのか。
なかなか予想の付かないところでありますな。闘海丸勝利の流れもあり得るぞ・・・!?



第84話/残るもの  (2014年 10号)


鯉太郎の呼び戻しが入る・・・かと思いきや、それに耐えた闘海丸の外無双が放たれる。
タイミングは間違いなかったのだが、どうやら技に入る前に力んでしまった様子の鯉太郎。
さすがに完全に技をものとしたわけではないみたいですなぁ。
ブタフグならまだしも、強敵の闘海丸に不完全な技では決まらないのも無理はないか。

しかしその闘海丸にしてもこの外無双は狙ったものでは無い。
堪えた結果無意識に、偶然にこの形となっただけである。だがこの土壇場でその偶然を生み出せるというのがまず凄い。

あれだけ勝負弱かったお前が・・・むけたじゃねーか闘海丸!!

喜びの声をあげる鏡川親方。まさしく、天雷や鯉太郎といった強敵と戦うことで闘海丸は著しく精神的に成長した様子ですな。

さて、外無双を食らった鯉太郎。その前の呼び戻しで力んでしまったことを反省している。
まだまだだ俺は・・・もう・・・俺に・・・残るモノは・・・
そのように考える鯉太郎。だがその目にはまだ正気を掴もうとする光があった。

もっと腰を入れろ!!鯉!!

仁王さんの叫びを受け、闘海丸の空いた左前みつを取る鯉太郎。
それを支えにして、浮かび上がった状態を押さえ、無理矢理に下半身をスライド。闘海丸の前に立つ。堪えた!!

あの外無双を堪えたのは凄い。が、再び正面で組むような形となっている。
体力の切れかかっている鯉太郎にこの振り出しの状態からどうにかする術はあるのか?
いや、この状態だからこそ――苦しい時だからこそ基本が大事となるのである。

強くなりたきゃ四股摺り足・・・基本を血肉に叩き込むことだ。
地金をしっかり鍛えてねー刀ってのは見た目よくてもあっさり折れちまうもんよ・・・

赤ら顔でそう語る空流親方。その言葉を思い出し、まだ折れねーよと笑みを浮かべる鯉太郎。よい感じですな。
というかやはり空流親方は昔の飄々としている感じが良かったですなぁ。
吽形さんの件があったせいかもしれませんが、最近の空流親方はずっと難しい顔をしていていかん。

さて、闘海丸の正面に回った鯉太郎。どうやらここから押そうとしている様子。
体格差は明らかであり、これだけ巨大な男を押すことができるのだろうか・・・?
大吉は無理ですよと口にするが、それに反論するのは常松。無理じゃねぇよ

あれだけ疲弊しながら・・・型は一切崩れちゃいない・・・
あの人は毎日毎日死に物狂いで泥臭い稽古して・・・だから・・・山だって崩せる・・・

常松のその言葉の通り、鯉太郎の押しにより闘海丸の体が退く。おぉ!?それを見て叫ぶ大吉。

・・・押せ・・・押せ・・・押せー!!鯉太郎さーん!!

その声を背に受けて闘海丸を土俵外へ押し出そうとする鯉太郎。
限界が来ている闘海丸。これを堪えるだけの下半身の力は残っていない様子。
だが、それでもここまで様々な逆転技を放って来た闘海丸。
右の指一本でもまわしにかかりさえすれば、そこから逆転できるパワーは十分にある!!
その考えの通り、必死に右手を伸ばし、小指一本を鯉太郎のまわしにかけることに成功。
・・・したが、そこから一気に腕を伸ばした鯉太郎の勢いを抑えることはできず・・・土俵外へと落下する闘海丸。

ブハハ・・・スゲェ・・・

落下する時こそ呆然とした闘海丸であったが、敗れた悔しさよりも相手の凄さを認めたい気持ちが強い様子。爽やかな笑顔だ。

よしっ!!

同じく爽やかな笑顔を浮かべて空を見上げる鯉太郎。
かなりの苦戦を強いられましたが、とにかく見事な快勝を決めることが出来て良かった良かった。
決まり手としては一般的な押し出しなはずなのに、見事な迫力でありましたなぁ・・・

さて、見事な勝利を飾った鯉太郎であるが、大勝負はこれからである。
この疲れた状態で王虎と戦わなければいけないのだが・・・大丈夫だろうか?
本場所で戦った時から差が詰まったかというと・・・どうなんだろうか。
この優勝決定戦でも成長著しい鯉太郎であるが、それでも王虎とはまだ差があるように思えるし・・・うーむ。
多少不安はありますが、見守ることにしたいと思います。



第85話/ふたたび・・・  (2014年 11号)


力士と書いてちからびとと読む
マッスル全開センターカラー。しかしやはり力士のマッスルポーズは何か違和感がある。

豪快に闘海丸を押し出した鯉太郎。歓喜。
土俵でガッツポーズはという声もありますが、観客の盛り上がりも含めてこれは仕方がないですよね。
敗れた闘海丸も楽しかったぜと声をかけてくる。いい戦いでありました、本当に。
鏡川親方もこの取組を見て昔を思い出している。

フン・・・またやられちまったな・・・あの顔に・・・
アイツは窮地になればなるほどそれを楽しむかのように笑いやがった・・・
懐かしいモン思い出させやがって・・・

鯉太郎の親父である火竜との戦いを懐かしく思い出す鏡川親方。
どうやら現役時代は何回か取組をしたが、結局火竜に勝つことはできなかった様子。
そんな鏡川親方に話し掛けてきたのは・・・ツッパリ君!?
仁王さんに額に穴を開けさせられたツッパリ君じゃないですか!!
いや、それよりも問題はその中の人である。そ・・・その声は・・・

ツッパリ君「闘海丸はまだまだ強くなるぞ・・・顔もワシによく似ておるしな・・・」
鏡川親方「身に余るお言葉・・・

一体この方は何者なのだろうか。確かに闘海丸はツッパリ君に似ている気はするが・・・ん?中の人の顔の話とは違うのか?
さすがに鏡川親方もマスコットとしてのツッパリ君に恐縮しているってわけではあるまい。可愛い目をしているとはいえ。
そうかー。鏡川親方のスタイルはその可愛いお目目を隠すためのものだったんですなー。ハハハ。

ツッパリ君の中の人は往年の名力士か誰か何でしょうな。
虎城親方や火竜の所属した天城部屋の親方とか怪しそうであるが・・・さてはて。

さて、鯉太郎の勝利により観客は凄い盛り上がりを見せている。
昔は舌打ちするようなヤツがいたりしたものだが、今は笑顔で激励が飛んだりしている。
まあやっぱりその評価はクソガキというものなんですけどね。これは正しい評価であるから問題ない。
周りの反応がまるで違うことに驚いた様子を見せているマコ姉。良い感じである。

この激戦は鯉太郎が制した。しかしまだこの決定戦は終わりではない。
誰かが2連勝をしなければ終わらない。闘海丸にもまだチャンスは残っている。
とはいえ、天雷と鯉太郎との2連戦で体力というガソリンは底をついている闘海丸。

まぁ・・・それは鮫島も同じだと思うがな・・・

まさしくその通り。
この優勝決定戦後の幕内の取組のことも考えると、余り時間を取らせてはもらえない。
よって休憩を挟むこともなく、すぐに次の取組に臨まなければいけない鯉太郎。
言いたくはないけど先に取り組む方が圧倒的に不利ですわな。

この状況であの王虎と立ち向かわなければならない。絶望的な状況である。
救いがあるとすれば常松がダメだと言ってくれたことか・・・いや、そういう逆張り的な考えはよくないな。

くだらん・・・すでに誰の目にも結果は明らか・・・

そのように語る虎城親方。確かにスタミナの消費量が違いすぎる。これではもう・・・
ついそう思ってしまうが、それでも観客の中にはまだ、まだこっからだろと声をかけてくれる人がいる。
おや、これはまた懐かしい顔ですね。最初に観客として鯉太郎を応援してくれた不良君じゃないですか。今も見てくれてたんだ・・・
不良君の声から波紋は広がり、声援が沸き上がる。
その応援の声はこれまで2回あった王虎の取組の時とはまるで違うもの。鯉太郎を応援する声が多い。
今まで色々と言われながらも愚直に必死に戦ってきたことによる正当な評価が下されようとしているのだ。
見よ、この鮫島コールを。それを受けて鯉太郎はこう叫ぶ。

うるせええ!!

一喝しおった!!そして・・・凄絶な笑み!!
その笑みはまるで父である火竜を思い起こさせる。
虎城親方はその姿を思い浮かべてしまい、激しくえずく。ゔえ゙え゙え゙!!
相変わらずトラウマを抱いているようですが、一体どれほどの因縁があったというのでしょうか。過去の話が気になりますなぁ。

悪童と天才・・・禍々しいまでに血腥い・・・親子二代にわたる因縁か・・・

山崎記者も因縁という言葉を出してきている。
ふむ?これはついに火竜と虎城親方の因縁について詳しい話が描写される流れでありますかな?
火竜を各界から追放することとなったあの事件はどのような原因で起きたのか。気になるところです。

せっかく観客の評価が裏返ったというのにこの態度の鯉太郎。
でもまあ、鯉太郎のキャラクターはクソガキという面で固まってきていますし、これはこれでいい。
火竜が悪タレと呼ばれていたわけですし、鯉太郎も悪童――クソガキ路線で行くというのは悪くない。
観客の方もムカツクなコノヤローと言いながら応援するというスタイルでありますな。
プロレスっぽい感じで相撲協会からはちょっとどうかとか言われそうでありますが。



第86話/天才と悪童  (2014年 12号)


鯉太郎と王虎。3度目の対決は幕下優勝決定戦という舞台。
この大一番を前にして回想が入ります。今回は長い回想になる様子。
それもそうでしょう。ついに一世代前の因縁が語られることになるのだから。
その語りを務めるのは日刊トップの山崎記者。

元大関・火竜の息子鮫島鯉太郎
大横綱・虎城の息子王虎剣市
その生き様から生まれ・・・その意志を受け継ぎ・・・あの頃のアンタら2人の意地の結晶・・・

そのような語り出しから回想に入ります。
まだ山崎記者が相撲番として配属されたばかりの新人の頃のこと。彼は2人の天才と出会った。
そのうちの1人が当時序二段で燻っていたのちの悪タレ大関・・・火竜だった。

行司の判定に不服で掴みかかり、ブンブンと振り回す火竜。
これは・・・正直悪タレとかそういうセリフで片付けていい行為なのか!?
序二段にして一場所出場停止という歴史的事件の1つであるということだが、よく一場所出場停止で済んだものだ・・・
というか1つってことは他にもやらかしている可能性があるのか?とんでもねぇなぁ。
まあ昔は今よりも大らかな時代だったのかもしれないが・・・いや、しかしこれはさすがに。

それはさておき、もう1人の天才について。
角界の未来を担うと言われた若き天才、虎城。
相撲よし、人格もよし。記者たちや一般人からの人気も高いまさに逸材と呼ぶべき存在であったという。ほう。

そんな2人が数か月後、天城部屋にて運命の出会いを果たす

テメーがこの部屋の頭か!!チャラチャラしやがってんな!!
俺様は黒森部屋で頭やってた火竜だ。勝負しろコノヤロー!!

序二段の身でありながら関取である虎城に食って掛かる火竜。
そもそも黒森部屋の頭も何も黒森部屋で残っていたのはこの火竜ただ一人。
どうやら黒森親方が定年で同門の天城に吸収される形となったそうな
ああ、火竜も天城部屋じゃなかったっけと思ったら、後にそういう形で同部屋となったわけですか。

黒森部屋は誰も部屋を継ぐ者がいなかったらしい。
噂では火竜の暴れっぷりが手に負えず、兄弟弟子はおろか部屋付き親方におかみさん、谷町までもスカしたらしい。
黒森親方も胃の病気だけでも両手じゃ数えきれないほどボロボロになったそうな。か、可哀想に・・・

力はあるが頭が足りない。火竜をそう評するのはツッパリ君・・・
いや、似たような顔だが違う。天城部屋の親方である天城源吾だ!!

確かに火竜の頭の足りなさはどうしたことかという感じである。
が、その力もかなりなものであるのは事実。
天城部屋の力士が束になって押さえ込もうとしたのにそれらをまとめて投げ飛ばしてしまうのだから恐れ入る。

オラ・・・どーすんだ飛び眉毛・・・やんのかやんねーのか・・・!?

おっと、ついに虎城の飛び眉毛について言及されてしまった!!
これは人格者と評される虎城も怒る。確かに目立つポイントだし本人も気にしていそうだ。

それはさておき、天城親方の許しを得て火竜の相手をしようとする虎城。
ふーむ、王虎とは違ってやはり人格者であるのか落ち着いた態度でありますな。マスコミの前だからなのかもしれないが。

しかし、土俵に立った時の威圧感はやはり凄まじい。
顔こそ怖い感じであるが、輝いて見えるその威圧感はまさに幕内力士・・・いや、これが力士・虎城の力によるものか!!

相対する火竜だけではなく、周りの記者にまで凄さが伝わっている。
が、それでも笑みを見せて突っかかる火竜。
度胸は見事なものであるが、実力差は歴然としていた。
火竜の突進を両手で受け止め、突き押すことでその巨体を後ろ向きに一回転させる!!

これが悪タレ大関と言われ角界から除名された火竜と、大横綱として歴史に名を残す虎城の因縁の始まりだった・・・

うーむ、ついに虎城親方の凄い場面が描かれる時が来ましたか!!
偉大なる大横綱と呼ばれたほどの男である。その強さは気になっていました。
それにしてもこの頃の虎城は人格者と呼ばれているわけでありますが、外面だけではなく内面もそうなのだろうか?
王虎のような闇を抱えているのかどうなのか・・・
ここから現在の小者感溢れる虎城親方にどうしてなったのか?火竜をどうして憎むようになったのか?気になることは多い。

火竜にしてもさすがに行司を振り回すような性格のままでは上にはあがれないでしょう。
悪タレらしく色々と問題はあるが、それでもこの時よりは天城部屋で揉まれて多少は丸くなる・・・と期待したい。
ひょっとしたら子供――鯉太郎が生まれたことで多少丸くなるという話があるかもしれなく、それも期待したいところですな。

空流親方や新寺親方、鏡川親方、常松の父親である松明などの出番はあるのだろうか。
そして山崎記者は昔は朴訥な感じだったのに何で今は顔に傷をこさえてやさぐれるようになったのか!?
見所の多い過去編となりそうであります。いやあ、長くなりそうだ・・・



第87話/ドン!  (2014年 13号)


前回に引き続き回想編。
王虎の父、虎城が大関に昇進した頃の話であります。
虎城は大関に昇進したその場所で新大関にして初優勝という快挙を手にし、翌場所での横綱への道を切り開いたという。
うーむ、さすがに天才の誉れ高い虎城でありますなぁ。

そんな虎城を関取でもないのに呼び捨てにして突っかかるのが火竜。
相変わらず簡単に弾き飛ばされているが、その意気は見事といえなくはない。
相手している虎城も結構楽しそうですしね。

実際火竜も虎城との稽古で力をつけ、序二段、三段目と連続優勝しているとのこと。
今場所もいまだ全勝。三場所連続優勝だって十分ありえると言われている。ほほう。

そんな成長しつつある火竜でも虎城には手も足も出ない。
何で勝てねーんだと吠える火竜に天城親方からアドバイス。
火竜は右脇が開く。腕力だけに頼るから体全体で押すことができずにいるわけだ。
最小限の力で最大限の効力を意識しないといけない。そのように教えられるのだが・・・

うるせーハゲ!!何言ってっか分かんねーんだよ!

せっかく教育しようとしてもこれでは暖簾に腕押しでありますな。かわいくね〜。

火竜・・・お前は脇がバ〜〜っとなるからギュッとためろ・・・そうすればグッとなってメリッとガッといく

真面目な顔してそんなアドバイスをしてくれる虎城。
そっかー現役時代からこんな感じだったんだー。分からねーよ!!

チッ・・・なるほどな・・・

分かるのかよ!!
なるほど。山崎記者の言うとおり2人の感性は近いのかもしれませんな。そういう問題なのか?
何にしてもそのアドバイスを理解するだけではなく素直に受け止めている様子の火竜がいい感じですな。

虎城の感性を理解できる火竜。天才を知るのもまた天才ということか。
であるならば火竜もすぐに番付を駆け上がることとなるのではないか?
そのように思うが、天城親方は否定する。まだまだ軽いよ。アイツの相撲は・・・と。

十一日目。幕下優勝目前となったこの日、再び問題行動を起こす火竜。
確かに相手を殺さんばかりの殺気や、そこから繰り出されるあたりの凄さは目を見張る者がある。
が、どうにも基本が足りていないのか、うまく引き落とされたりしている様子。
真っ向からぶつかってくる相手には強いのだろうが、そういう躱し方に慣れていないようですなぁ。
まあ、負けるのは仕方がない。まだ次がある。が・・・その直後に対戦相手を追い回したりしたらいけませんわ。しかも土俵上で。

これが幕下優勝を目前にして一場所出場停止となった、火竜セカンドインパクト事件である

まあ、行司を振り回すよりはマシといえなくはないですが。
TVにも映っていない幕下だから一場所停止で済んだかもしれないが、このまま幕内に上がったら大変なことになりそうだわ。

それはさておき、その同日。虎城は全勝の状態で大関対決を迎えていた。
相手は大関・大鷲
さすがに大関だけあり、虎城相手にも負けることなく技を仕掛けていく。心の声が小者っぽいのが残念であるが。
しかしさすがに波に乗る虎城には勝てない。
見事に大関対決を制し、優勝に王手をかける虎城。だがこの取組で右腕を痛めたようで・・・むむむ。

真っ向勝負の激闘を繰り返した虎城は・・・ついに横綱と優勝を賭けた全勝対決を迎える・・・

天城部屋はこの横綱昇進をかけた一番で盛り上がっている。
自分たちの部屋から横綱が出る。そりゃ盛り上がらないはずがないですわな。
しかしそんな盛り上がりとは関係なく、一人でもくもくと、ガツガツと食事しているのは火竜。
さすがにこの性格では同部屋の相手と和気藹々ってわけには行きませんわな。

さて、一場所停止となった火竜は虎城の部屋に呼び出しを受ける。
問題を起こしたことでガッツリ喰らわせられるんじゃないかとい他の力士たち。
火竜も少し青ざめたりしている。おやおや。でも強気な姿勢は崩さない。何か文句あんのか!!

虎城の部屋に入る火竜。そこで見たのは痛めた右腕を冷やしている虎城の姿。
ふむ、どうやら虎城は腕を痛めているのを隠したまま戦っているようですな。ストイックな奴だ。
暴れん坊な火竜もさすがにこれは気になる様子。ふむ、仲の良いことですな。

それはさておき、火竜の場所での問題行動について。
当然天城親方は真っ赤な顔で怒っている。まあ、そんな説教で態度が改まる火竜ではありませんけどね。
火竜の態度を変えるのであれば、もっと別のやり方でなくてはならない。どうやら虎城はそれを示そうとしてくれている様子。

虎城は火竜に問う。お前にとって相撲とは何だ・・・?と。
んなモン殺し合いに決まってんだろと返す火竜。それに対し――

だからお前の相撲は軽いんだ

天城親方が言っていた台詞でありますな。火竜の相撲は軽い。
相撲はどっちが強いか。腕っぷしの強さこそが正義。そのような考え方ではいつまでたっても火竜は虎城に追い付くことはない。

相撲の重さ・・・強さは・・・きっと己の中の生き様で決まるんだ
それを土俵でぶつけ合うのが・・・力士だ。

そのように述べる虎城。その生き様とは一体どのようなものなのか。
その問いに対しては、己の胸を叩いて答える。

ここにガッとあって砕けねぇ・・・ドンとしたものだ

相変わらず抽象的。しかしだからこそ、火竜の胸に強く響きそうな言葉であります。
そして虎城はその言葉がどういう意味を持つのか、行動でも示そうとする。

負けないさ・・・俺の相撲は軽くない・・・しっかりと見ておけ

ケガした右腕を抱えた状態で綱取りの土俵に上がる虎城。
兄弟子としてその背中を見せようという態度は今の空流部屋に、鯉太郎に似た感じがありますな。
似た感じといえば、火竜が鯉太郎に語った土俵は俺の生き様というセリフ。そして死んで生きれるかという言葉。
これらはどうやら虎城から受け継いだ精神であったらしい。ほほう、これはまた皮肉というか何というか・・・

火竜はここで虎城から相撲の重さ、生き様を見せつけられて多少丸くなることになるんでしょうな。
まあ、今のままだと悪タレという言葉では流石に済みそうもありませんでしたからなぁ。
そして今よりも虎城の存在を認めることになるんじゃないかと思われる。
が、今後この2人は決裂することになるんですよね。何があったのか・・・というか何があって虎城は今のような状態になったのか。

虎城が変わってしまったことにより幻滅、失望した火竜。そこから仲が悪くなり・・・という筋書きは見える。
そしてそこで思うのは、現在の虎城親方の火竜嫌い。
火竜の姿を思い出すだけで吐きそうになる虎城親方。あの忌避感はどこから来ているのか・・・
ひょっとしたら火竜の姿を見ると昔の自分の綺麗な姿を思い出してしまって気分が悪くなるのかもしれない。
絶対に負けられない大横綱という地位を守るために自分を曲げたのだとしたら・・・
昔の自分の考えに似た戦い方を見せている火竜に対して妬ましく思えてしまう部分もあったのかもしれない。うーむ、複雑。

複雑と言えば、鯉太郎には火竜経由で相撲の重さ、生き様という考えが伝わっている。
が、肝心の息子の王虎にはその辺りの考えが伝わっていないように思える。
ここからも推察できる部分はありますな。その予想が当たるかどうかはまだ分かりませんが。

ともかく面白くなってきた過去回想。ここからどのような展開となるのか。期待であります。



第88話/歓喜  (2014年 14号)


期待を一身に背負う大関・虎城。
その虎城が優勝を懸けた横綱との全勝対決に挑もうとしている。
傍目から見ると落ち着いた様子の虎城であるが、ここまで真っ向勝負を続けてきたせいで体中はボロボロ。
特に右腕はヤマに行くほどのケガを負っている。
そのことを知る火竜は心配そうな様子。おやおや、いつもとはまるで違う表情になってますな。

不安そうな顔を見せる火竜に話しかける虎城。心配そうな様子が隠せない火竜がなんだか可愛らしいですな。
そして火竜は問う。何で俺だけヤマ行ってるとこ見せた・・・?と。

・・・お前なら俺が勝とうが負けようが口外はしないだろ・・・?
コレで負けても言い訳にはならないからな・・・真っ向勝負は己の信念だ。
いや・・・それとも少し違うか・・・?
ブワッと沸き上がる・・・多分・・・俺は土俵にしか無いんだろーな・・・生きてる実感が・・・
お前ならこの感覚が分かるだろ・・・?そして俺は知りたいんだ・・・その先を・・・
横綱に・・・神になったらソレがどう変わるのか・・・

信念を貫こうとする虎城。そしてお前なら口外はしないだろうと火竜への信頼を見せる虎城。うーむ、いい感じだ。
真っ向勝負の信念は美しい。だけどそれによる負傷を言い訳にしたくはない。
だからそういうことを口にしない火竜にだけは見せてもいいと判断したわけだ。
これはおそらく火竜は同じ信念を持ち得る相手と思ったからなんでしょうな。感性の近い2人の通じ合える部分ということか。

さて、ついに横綱との大一番。
幕内全勝優勝を懸けて横綱・大宝将と戦うことになる。
勝って文句なしに綱を取るか虎城!そうはさせぬと意地を見せるか大宝将!!

どうやら大宝将はベテラン力士である様子。
口の悪い観客などは年寄り横綱に引導を渡してやれなどと言っている。おやおや。
その歓声も含め、会場はスゴイ熱気に包まれている。
この期待をモロに浴びる虎城。これは普通潰れるぞと考える山崎記者でありましたが・・・当の虎城は落ち着いたものである。

横綱の資質は十分か・・・

思わず立ち合いの前には観客も息を呑んでしまう虎城の迫力。うーむ、貫録ですな。
そしていざ勝負が始まると、そこからはまさに一瞬であった。

天に選ばれた才・・・誰もがこの男は違うと確信する。
横綱相手に・・・まさかの・・・電車道
まさにそれはこれからの時代を担う大横綱への道を暗示しているかのようなその一番は・・・日本中に歓喜をもたらした

うーむ、これは確かに盛り上がるでしょうなぁ。
相撲が流行っていた時期でしょうし、まさに日本中が歓喜したと言っても過言ではないかもしれない。
しかしまさか横綱相手にケガした腕でこれとは・・・本当、虎城の才は素晴らしいものだったんですなぁ。
こりゃ竹虎さんや猛虎さんが惚れ込んでしまうのは無理もないですわ。

歓喜の渦に包まれている会場。そこを顔を伏せて静かに立ち去る男が一人いた。火竜だ。
その姿に気づき、後を追う山崎記者。
そこで見たのは、隠れて一人こっそりと、しかし嬉しそうに笑顔でガッツポーズをしている火竜の姿であった。おぉ・・・!!

そして優勝パレードではもう喜びを隠すことなく、虎城の乗る車上に相乗りし、優勝旗を振る火竜。
幕下力士である火竜が本来やっていい行為ではないのだが、隣に座る虎城の嬉しそうな笑顔を見たら許さざるをえないでしょ!!
ううむ、何というかいいなぁコレ。2人のこの関係は凄く微笑ましくていい!!しかし、だがしかし・・・

だがコレが・・・虎城と火竜が並んで写る唯一の写真となる

不吉な言葉。その理由は現在の山崎記者が語ってくれる。

そこからまもなくだった。虎城の相撲が変わっていったのは・・・
立場が人間を変える・・・いや、それが神なら変わらざるをえなかった・・・なぁ・・・虎城さん・・・

真っ向勝負は己の信念であると言っていた虎城さん。
しかし横綱になってからは昼も夜も毎日稽古に出ることもなくTV局に呼ばれて外出している様子。
うーむ、横綱となった虎城は今や角界の顔でしょうしねぇ。後援者と呑む機会が増えるのもやむなしであるか・・・

だが、横綱となった虎城にかかる期待は大きい。
TVに出れば毎度のように横綱として優勝する姿を見せてくれますよね?と尋ねられる。
何度も繰り返されるこの質問に内心うんざりしながらも肯定の返事をする虎城。しかしその表情はすでに精彩がなく・・・

これまでは土俵は自分の生きる場所として、自身の信念を示すために真っ向勝負を続けてきた虎城。
しかし横綱となった今、個人の信念とは違った部分で負けられない身となってしまった。
何というか可哀想な話でありますな。立場によって自由を失ってしまったということなのだろうか・・・
今の虎城にしてみればTVに出るよりも稽古で汗を流す方がスッキリするでしょうにねぇ・・・

そういった横綱の重圧などはあずかり知らぬ火竜。
今後虎城が相撲のスタイルを変えていった場合、確執は免れられないでしょうなぁ。
関係はぐっとよくなり、これまで虎城と呼び捨てだった火竜が横綱と呼ぶようになっている。
だというのにこのままではまた呼び捨て・・・いや、前とは違った意味での呼び捨てになってしまうかもしれない。
この先は悲しい破局が確実に待ち受けている。そう思うと本当読むのが怖くなりますわぁ。怖い怖い。



第89話/守る  (2014年 15号)


日本中が歓喜に沸く中、横綱となった虎城。
しかし横綱になってからかけられる人々の期待はプレッシャーとなり負担となっている様子。
あまり気にするなと言いたいところであるが、なまじ人格者だっただけに期待に応えないとという考えが大きいんですかねぇ。
吐くほどに追い詰められてしまっているようで、表情も暗くなってきています。

しかしそれでもさすがの大横綱。
重圧を感じながらも圧倒的な強さで三場所連続全勝優勝を決めて見せる。
そしてマスコミの述べるプレッシャーに関しても、その期待に応えるのが横綱の使命だと笑顔で答える。
うーむ、責任感が強いというか何というか。真面目すぎる感じですなぁ。
でも横綱としてはこういう答えができるようでないといけないんでしょうな。期待に応えるってのは本当に大変だ。

マスコミだけではなく後援会の人にも接しないといけない。大変な仕事ですなぁ。
付き人の火竜はやはり気に入らないことはやらねーって風でありますが・・・
ある意味、男芸者の松明が接待を請け負ってくれたことに関しては負担が減ってよかった部分もあったのではなかろうか。

人格、実力共に申し分ない虎城という存在はあっという間に民衆の心に根を張った。
若き横綱が大スターになるのは必然だったと言える
だが、ソレは翌場所後半の大関戦で起こった。
なんと連勝を続けていた虎城が大関に敗北したのだ。
どうやらその理由はケガによるもの。あばらにひびが入っているらしい。治すには数か月の安静が絶対だそうな。あらら・・・
もちろん大関の当たりは強烈だが、このケガはその一番だけで負ったものではない。

1年六場所全九十番を取り組むということ・・・
1年平均で計算すると役4日に一度1トンを超える衝撃に立ち向かうのである
一般的なスポーツでは到底ありえない過酷すぎる状況・・・そして横綱という地位はその中で勝利を当然として求められるのである。

どの勝負も真っ向からぶち当たっている虎城。ダメージが蓄積されて当然でありますわな。
このまま無理をするとどんどん壊れていくことになる。心配をする天城親方と火竜。
だが虎城は欠場するつもりは全くない様子。
横綱が負けたままではお終いだ。ここで下がれるわけがない。もちろん優勝すると述べる。

じゃないと・・・期待に応えないと・・・今・・・手の中にあるモノが・・・消えてしまうから・・・

どうやら虎城の中では期待に応えたいという気持ち以上に自分の地位を守りたいという気持ちが芽生えだしている様子。
うーむ、これはあまりよろしくない感じですな。天城親方もそこまで深く考えていたらもたないぞと言ってくれる。だが・・・

関脇止まりのアンタにわかるはずがないだろ!!

天城親方は関脇でありましたか。うーむ、確かに横綱の重圧というのはなったものにしか分からないのかもしれませんなぁ。
でも仮にも親方ですよ。ハゲにそんな言い方ねーだろ!
フォローする火竜だが、フォローなのかこれ・・・?ハゲと呼びすぎてそれ以外の呼び方ができないのかもしれないが、酷い文言だ。

ともあれ、虎城は欠場することなく取組を続ける。
そして宣言通り見事に四場所連続優勝を成し遂げてしまうという。うーむ、さすがだ。
一敗を守り抜き、優勝を飾った虎城へのインタビュー。
そこで出た守り抜くという言葉で何やら気づかされてしまった虎城。

あぁ・・・そうか・・・
俺はずっと生きてる実感が欲しくて生き様をぶつけ合い攻め続け勝ち続けることで頂点に立った・・・
そして俺は誰からも認められる存在になった・・・そう・・・だからもう攻める必要はないんだ・・・
あとは・・・守ればいい

なんだか妙な方に考えがいってしまったみたいですね。
その考えに至った結果、虎城がとった行動は常軌を逸するものであった。
アバラ骨が完治した虎城がまず行ったのは、先場所一敗を喫した大関の部屋へのマスコミを完全シャットアウトした出稽古だった。
そしてその出稽古で大関を泥だらけの満身創痍にしてしまう虎城。
それは稽古というより己の力を・・・恐怖を植え付けるような凄惨なものだった

あまりの凄惨さに火竜がオメー最近おかしいぞと止めに入るほどであるという。
うーむ、火竜が丸くなったのか虎城がおかしくなりすぎたのか。
いやまあ、王虎によく似たヤバイ表情になっている虎城を見たらそりゃあ火竜だってマトモな意見を言ってしまいますわな。
こういうところを見るとやっぱり王虎は虎城の息子なのだと実感する。

火竜を付け人クビにした後もこの凄惨な出稽古は有力な力士がいる部屋全てに及んだという。
虎城のその出稽古の目的は何か・・・それは翌場所で如実に顕れた。

更なる連続優勝を狙う虎城。
それに対するは最近メキメキと力を付けてきた成長株・金鳳山
しかしこの金鳳山は有力力士として出稽古で虎城にやられた人物の一人であった。
しかもどうやら満身創痍にされた後で脅しをかけられている様子。場所ではよく考えて行動しろ。お互いヤマは行きたくないだろと。

それでも俺に挑むようなら場所では本気で行く・・・何があっても恨むなよ・・・
損得をよーく考えて土俵に上がれ・・・

これはまた何とも・・・懐柔ではなく恐怖を植え付ける脅しで来るとは。
その効果は覿面だったらしく、まともに当たることのできない金鳳山。
それに対する虎城の相撲は今までとは違う生き様も熱も感じないものであった。
しかし観客は・・・何より力士たちは虎城のその圧倒的な強さをあらためて知るに十分であった。

ただ・・・1人だけ・・・この男だけはその流れを飲み込むことが出来なかった。

誰もが虎城の圧力に飲まれ、流れに身を任せてしまいそうになるところ、火竜だけは許すことができなかった様子である。
それはそうでしょう。自分に述べた土俵で生き様を見せるという言葉が否定されてしまっているのだから。
変わりつつあった火竜にしてみれば到底許容できるものではありますまい。しかし・・・

お前ごときには分からん・・・一生かかってもな・・・

そう言って横を通り過ぎる虎城。
うーむ、これは決定的に道が行き違ってしまった感じがありますなぁ。
なまじ蜜月の期間があっただけに、恨むときは深く恨むことになってしまいそうで・・・寂しいですなぁ。
次回からは決定的に決別した二人の様子が描かれるのだろうか?
気になるのはこの虎城の圧力にも屈しない力士が何人かはいただろうと思われること。
空流親方こと春風は虎城から何度も勝ち星を奪い虎城キラーと呼ばれているわけですし、圧力には屈していないはず。
その辺りのことも語られそうで楽しみですな。
そろそろ虎城と火竜以外の人物も回想で出てきてほしいところであります。



第90話/2人の会話  (2014年 16号)


順調に成長している様子の火竜。
幕下から大銀杏を結える十両に昇進し、そして新十両になった場所で優勝を決めて見せる。おぉ。
得意の下手投げであるが、相手の頭を押さえているし鯉太郎というよりは仁王さんのように見える投げ方ですなぁ。笑い方とかも。

優勝したことで周りの力士や記者らしき人から祝福を受ける火竜。
コノヤローとかバカヤローとか憎まれ口をお互い叩いているがどちらの顔も笑顔である。
うーむ、いつの間にやら火竜も周囲に馴染めるようになったんですな。
昔は同期も親方も逃げ出すほどの暴れん坊だったのに・・・いい成長の仕方をしたのが見て取れる。
それもこれも相撲取りの心構えを教えてくれた虎城のおかげでありましょう。だがその当人は・・・

同部屋の弟弟子の優勝に喜びを見せることもなく静かに坐したままの虎城。
その虎城もまたこの場所をいつも通り危なげなく優勝して見せる。
もはや虎城の力はすべてにおいて絶対的なモノとなっていた。

現在の取組はさておき、これまでの実績や人格などは否定のしようもない。
それ故優勝を重ねる横綱・虎城の人気は世間でもうなぎ登りの様子。
どうでもいいが優勝パレードの時の虎城の横にいるのは十文字か・・・?この頃から腰巾着だったのだろうか。

天城親方も盛大に優勝を祝う。
のだが、やはり虎城のやり方は快くは思っておらず歯切れが悪い様子。
うーむ、当然ながら天城親方と虎城の仲もぎこちないものになってますなぁ。ハゲに対してそんな態度はねーだろ。

もちろん火竜もそんな虎城のことを認めてはいない。前を通り過ぎる時に皮肉を述べる。

今のオメーの相撲からは何も感じねーよ

この一言に対して表情を変える虎城。黙れと火竜に詰め寄る。
ふむ、どうやら完全に腐ってしまっているわけではないようですな。
自分が前と変わってしまっていることは自覚しているし、そこは突かれたくない点であるらしい。

虎城が行ってしまった後、こんなトコで酒が飲めるかと会場を出ていく火竜。
どうやらもっと静かな普通の飲み屋に向かうらしいが、そこに山崎記者を伴っていく。
どうやら何度も飲みに行く仲となっているようだ。ほほう。さすがに芽が出る前から追っていただけのことはありますな。

居酒屋で飲みなおしながら愚痴をこぼす火竜。つまんねー相撲取りやがってバカヤローが!!と。
しかしまあ、虎城の立場が立場ですからねぇ。山崎記者も仕方ないんじゃないかと語る。

今や虎城は各界の象徴そのものだ。子供たちからも憧れられ新弟子希望者も急増・・・
それどころか彼1人が生み出す経済効果だって計り知れない・・・
それに横綱はもう降りることを許されない最高位だ。
相撲を変えざるをえないほどの重いモノを虎城は背負ってしまったんじゃないのかな・・・

確かに山崎記者のいうことは理屈である。が、理屈では割り切れないものもある。

各界のタメに・・・己の信念曲げてまで・・・アレが虎城の知りたかった"先"だってのか・・・?
死んだような顔して・・・違うだろーが・・・

悲しそうな、悔しそうな顔を見せる火竜。やはり虎城が変わってしまっているのが嫌なんですな。
それはまだ憎しみとかそういう感情ではなく、虎城を気遣っている部分が見て取れるようである。
実際、居酒屋でからんできた酔っ払いに対して怒りを見せている。
虎城が本当は弱いんだろとか、相撲なんてどうせ出来レースなんじゃねーのかと述べる酔っ払いの胸ぐらをつかみ上げる。

誰が・・・弱いって・・・?アイツを軽く語ってんじゃねーぞ・・・

いい怒り方でありますなぁ。
しかしもう関取にまで昇進した身である。こんなところで暴れるわけにはいかない。
それは分かっているが、酒瓶を振り回してくるような奴が相手では応戦しないわけにはいきますまい。
そう思ったのだが、山崎記者が身を挺してこの場を収めようとしてくれる。
ああ、現在の山崎記者の傷はここで負ったものだったんですね。痛そうだ。
酔っ払いを追いかけようとする火竜だが、山崎記者はそれを止める。俺の今までの取材をダメにする気かよ、と。

俺はアンタが虎城とともにいずれ各界を変えちまう奴だと本気で思ってるんだぜ・・・
火竜・・・虎城が本当に根っこから変わっちまったのか知りたいのなら・・・
相撲で真っ向からブツかってみればいいんじゃないのか・・・?
それが力士の・・・・・・あんたら2人の会話だったんだろ・・・

いいこと言ってくれますなぁ山崎記者。泣ける。
そしてこの言葉は火竜を動かし・・・会場にとってかえして虎城の足元へ稽古用のまわしを叩きつける。

火竜「ソレ付けて稽古場に来い・・・」
虎城「何言ってんだお前・・・」
火竜「まだ何も言っちゃいねーよ・・・それとも逃げるか・・・?怖ーんだろ・・・相撲が・・・」

ついに同部屋の兄弟喧嘩が始まろうとしている。
もはや言葉で語って分かり合うことはできない。
山崎記者の言う通り、相撲で真っ向からぶつかって語るしかない。
虎城にはもう昔のようにドンとしたものは残っていないのか・・・それとも?

回想編ということもあり、将来この2人の関係がどうなるかわかってしまっているのが辛い。
それでも今はまだ、この時はまだ虎城も枯れてはいないのだということを示してほしいという想いもある。
記録に残らぬこの戦いはどのようなものとなるのか。楽しみです。



バチバチBURST 11巻


第91話/泣いている  (2014年 17号)


火竜から土俵に上がれと挑発を受ける虎城。
どうやらその挑発に乗ってくれる様子であります。
兄弟子は何を想い、弟弟子の呼び出しに応じるのか・・・それは当人にとっても大事な事柄だからである。

いつからだ・・・火竜を見ているとイラ立つようになったのは・・・
いや・・・わかっている・・・
火竜は綱を取る前の俺・・・楽しさだけで相撲を取れたあの頃の俺だ・・・
覚悟が足りないんだ・・・まだ・・・横綱道を進む覚悟が・・・
火竜をうとましく感じるのは俺がまだ過去の己と決別が出来ていない証拠・・・
丁度いい・・・ここで俺は過去の俺を・・・殺す

ついてきていた付き人たちに誰も入ってくるなよと述べて稽古場に入る虎城。
稽古用のまわしをつけて土俵に上がり、火竜と対峙する。
いや、火竜を通して見るかつての自分と対峙しようとしている。

この場にいるのは火竜と虎城の2人・・・だけではなく、山崎記者の姿もある。
一応殴られた傷の手当はしてあるようだが、そのケガでよく平然としていられるものだ。
まあ、この2人の対決を見られるのだし、この程度のケガで下がってはいられないか。

火竜は山崎記者は証人だという。
今のテメーがたいしたコトのねぇ力士だって、昔からのテメーを知ってるコイツに書いてもらうんだよとのこと。

テメーはこれでいいのか?テメー俺に何て言った?
テメーの今の相撲が砕けねぇ生き様か・・・?
構えろ!俺がコナゴナにしてやる

先に構える火竜。
虎城は火竜の言葉に少し青ざめていたのだが・・・いざ立ち合いの時となると落ち着きを取り戻す。
かつての自分を殺すために、火竜と正面から、頭から激突し・・・
そして・・・火竜を撃沈させる

これほどか・・・今の火竜の実力は幕内にも十分通用するレベル・・・
やはり・・・この男は・・・横綱・・・

本番で真剣勝負をすることはなくなった。だがその強さはやはり横綱のそれである。
最初から腐っていたわけではなく、横綱になってから変わってしまった虎城。
まだまだ胸のドンとしたものは燻っているということでしょうか。
しかしこの戦いでそれも自らの手で消してしまおうとしている様子。

確かに俺は生きてる実感を得るタメに土俵に上がってきた・・・
そして横綱になることでソレが永遠に手に出来ると思っていた・・・
だが・・・そんな安いモノじゃなかったよ・・・
求める者から求められる者へ・・・与えられる者から与える者へ俺はなったんだ・・・
だから横綱は・・・神なんだ・・・

神と称される者が背負わなければならない役割。それをこなす為には自分を殺さなければいけない。悲しい話である。
やはり責任感が強すぎたのが問題だってんでしょうか。
火竜がもっと早く出世し、同じ時期に横綱になったのであれば重圧も分担できたのかもしれないが・・・
しかし火竜が成長できたのは虎城の相撲に対する考え方を受けたからであり、その想像は無理がありわけで・・・うーむ。

一度の激突で額から出血して土俵に沈む火竜。しかしまだその闘志は萎えていない。
全ては人のタメと述べる虎城の言葉をくだらないと切って捨てる。

だから己で己の真っ向勝負って信念を殺して土俵に上がってるってか・・・
神の背中が泣いてるぜ・・・虎城・・・

虎城の考えも分からないではないが、実際に横綱になる前の虎城から感銘を受けた人間としては納得できるわけではない。
力士としては昔の虎城から与えられたものの方が多かった気がしますしからねぇ。
だから火竜は今の虎城の言葉を認めようとはしない。意地でも目を覚まさせようとする。

虎城「理想で綱は守れん・・・」
火竜「己の生き様を綱で縛ってんじゃねーよボケ・・・

やはり言葉で交わることはない様子。
お前は邪魔だと言い放つ虎城。なら砕いてみろよと述べる火竜。テメーが俺に刻んだ生き様を・・・と。

土俵上での悲しき会話。
果たして火竜の気持ちは虎城に届くのだろうか。
もちろん未来のことを考えると届かなかったことになるのでしょうが・・・
または、ここでは届いたが再び何かあってやはり今の虎城の状況に戻ることとなるのか・・・
いずれにしても悲しい結末が待っているのが悲しい。

ところで今回の火竜が述べたコナゴナにしてやるというセリフ。
小さい頃の鯉太郎が暴行事件で去っていく火竜に付き添った時に虎城親方に述べたのと同じセリフでありましたな。
そのことを思い出して吐き気がしていた虎城親方。ふーむ、色々と因縁が見えてきていい過去編でありますなぁ。



第92話/・・・・・・もう・・・  (2014年 18号)


俺は何を見てるんだ・・・?投げを・・・張りを・・・何発もらった・・・
20・・・30・・・いや・・・もうコレは・・・そんなことが問題ではないんだ・・・

圧倒的な力を持つ横綱・虎城を前にボロボロにされる火竜。
しかし何度投げられても張り飛ばされても起き上ってくる。
割れた額からの血で顔を真っ赤に染め上げ、体中を泥だらけにしながら起き上ってくる。

この男は横綱相手に・・・いや・・・虎城相手だからこそ・・・意地でも折れない
これじゃ・・・追い詰められてるのは・・・まるで・・・

確かに攻撃を仕掛けている虎城の方が憔悴しているように見える。
昔の輝いていたころの自身を叩きのめしているのだから、そりゃ精神的に厳しいでしょうなぁ。

こんなモンじゃねーだろ・・・オメーは・・・
何やってんだ・・・戻ってこい・・・

火竜の眼差しが雄弁に虎城に語り掛ける。
しかしその姿はやはり自身の昔の姿と重なることとなり・・・さすがに受け入れがたい様子。
変わることを自らの考えで行ったのだから、簡単に戻ることは出来ないってことなんですかねぇ。
虎城もやはり元々が真面目すぎる人間だったからなぁ・・・向く方向を違えると修正は難しいようだ。

だからこそ、火竜は土俵上でぶつかることで説得しようとする。
怯んだ虎城の顔を張り、ブチカマシを決める。
いよいよ激しいぶつかり合いになってきました。

まだまだ・・・燃やせ・・・ぶち当てろ・・・
ここにガッとあって砕けねぇ・・・テメーが俺に刻んだ・・・俺の・・・相撲を・・・!!

虎城の名を叫び、あの頃のお前に戻れと願いを込めてぶつかる火竜。
確かにその胸に刻まれているのは虎城の言葉によって生まれたもの。土俵にかける生き様・・・!!
それをぶつけられる虎城は確かにその頃のことを思い起こしている。
俺は土俵でしか生きている実感がない。そう火竜に語った時のことを。しかし・・・

振り返るな・・・断ち切れ・・・
確かにお前の中にはあの頃の俺の生き様がある・・・
だが今の俺にも・・・砕けねぇ横綱としてのプライドがある・・・!!

やはり頑なな虎城である。
ただ腐って守りに入ったわけではない。虎城は虎城なりに横綱という立場を守るためにこうなってしまったのだ。
例えそれが自身を殺すことになったとしても。そういう覚悟で変わったのだ。簡単には戻れない。
まあ、火竜にしてみれば逆にどうあっても元の虎城に戻ってほしいわけでして・・・

戻って・・・こいよ虎城・・・

涙を流しそう口にする火竜。何とも悲しい姿である。
そして涙を流し拒絶の言葉を口にする虎城。

・・・・・・もう・・・聞こえん・・・

もはやあの日の2人に戻ることはできない。
似た部分があり、ともに向上していけると思われる2人であった。
もっと早く火竜の芽が出ていたならば並び立って苦楽を分け合うこともできたのかもしれないが・・・
やはり悲しい結果に終わりそうですなぁ。分かっていただけに悲しい回想編であります。



第93話/間違っては・・・・・・  (2014年 19号)


互いに引くことは決して出来ない生き方の違い・・・
どちらが正しくどちらが間違っているのかなんて誰にも言えることではない・・・
まだ書けない・・・コレを記事にするのはこの2人の相撲道を見届けてから・・・2人の道に答えが出てからだ

涙を流し、戻って来いと告げる火竜。
それに対し、己の耳を引きちぎってもう聞こえんと返す虎城。
ああ・・・そういえば虎城親方の左耳は上の方が欠けておりましたな。これは自らちぎったものだったのか・・・!!

ここまでして信念を貫きとおそうとする虎城。
火竜にとっては気に入らない相撲。気に入らない生き様であるが、これが虎城の生き方なのだ。
何とも器用なような不器用なような。どちらにせよ苦悩する生き方ですなぁ。

こうして2人は絶対的な決別を果たした。
この2人の決別から虎城は完全に変わっていった。
己に従う者には手厚く庇護し、従わぬ者には容赦せず。己の持っている全ての力を使い、国民の求める期待に応えた横綱を演じた。
しかし実際これぞ正道と言わんばかりに、まるで見せつけるかのように大横綱として数々の記録を打ち立てていった
その後も2人の溝は埋まることなく時は進み・・・
虎城は絶対的な角界の象徴として長期に渡り土俵に君臨し続け・・・時代に名を残した大横綱として華々しく土俵人生に幕を下ろした。
日本中が惜しみ涙し・・・そしてその偉大な功績に喝采した。
それは決別以降の虎城の生き様が出した紛れもない答えであった。

曲げた生き様であったが見事に結果を出して見せた虎城。
それによって歪めてしまったものも多いでしょうが・・・やはりこれはこれで立派と言えるかもしれない。
横綱としての責務。それを果たすための生き方。国民の期待に応えるってのは大変なことでありますわな本当に。

一方の火竜はかつてその大横綱が否定した生き様を胸に戦い続けている。
態度にも素行にも問題はあったが純粋に相撲を楽しむその姿で虎城とは正反対の人気を博している様子。
体はボロボロであったが、己の信念である真っ向勝負を貫く相撲で見る者を惹き付ける強烈な輝きを放ち始めていた。
素行はある程度は大事だが、やはり人は強くて一生懸命な人間には惹かれてしまうのでしょうな。

虎城は断髪式を終えて一代年寄の虎城親方となっているのだが、やはり火竜との溝は埋まっていない。
いやむしろ火竜が番付を上がるたびに確執は深くなっているようだ。

己が否定し捨てた純粋に楽しむ相撲で・・・輝きを放つ火竜に・・・あの頃誰よりもその姿に惹かれていたのはきっと・・・

なんとも寂しい話である。
道を歩みきり結果は出した。しかし歩みきった故にもう戻れない道である。
その生き方がかつての捨てた自分のような相撲を取る火竜に覆されるようなことがあれば・・・どうなってしまうのか。
何とも複雑な感情でありましょうな。虎城親方・・・

天城部屋では火竜が稽古をし、それに対して天城親方が指導を行う。
まあやっぱり理論的な天城親方の言葉は火竜には通じないみたいですがね。
それでも前の時よりは親方に対する親しみが感じられるように思えるのは気のせいだろうか。
いまや2人のやりとりは天城の名物と言えるほどになっているらしい。諦めない天城親方も凄いぜ。
部屋の力士たちもどことなくそんな火竜に染まってきてる気がする。イエ〜!

火竜は本当に強くなったがどうやらヤマに行く回数も多く、休場も多いようだ。なるほど番付がなかなか上がらないわけだ。
真っ向からのスタイルを続けるとどうしてもこうなってしまいますわなぁ。相撲は過酷である。
だが火竜は当然そのスタイルを変えるつもりはない。それに休息を取るつもりもない様子。

真っ向勝負は俺の生き様だ。だがソレを貫くにはあの頃のあのアホ以上の力が必要だろーが・・・
頼むぜハゲ・・・心配すんな・・・俺はあのアホみてーに変わりゃしねーからよ・・・
ハゲには拾ってもらった恩がある。いずれ純金のヅラでも買ってやるからよ!

ニコッといい笑顔を見せる火竜。相変わらずハゲ呼ばわりなんですな。
でもまあ、何だかんだで火竜はずいぶんと変わったものですよ。いい方向に。
昔の火竜であれば拾ってもらった恩があるなんて言葉は絶対に出なかったでしょうからなぁ。
この変化はもちろん虎城の影響が大きいのだが、それ以外にもあるようだ。

それに俺の生き様を・・・しっかり見せなきゃいけねー奴もいるからよ・・・

なるほど。この時にはもう鯉太郎が生まれていたわけですな。父親としての笑顔を見せる火竜。いい顔してやがるぜ。

そしてその相撲スタイルがためにケガに泣かされ時間もかかったが、
いつだって真っ向勝負の相撲を貫き・・・ついには大関に推挙された。

さすがにここまで来ると注目度の高い火竜。
力士や記者、親方衆に言わせると火竜は虎城を超えるとのこと。ほほう・・・それは虎城親方にしてみれば穏やかでは聞けない話だな。

そしてついに綱取り目前となる火竜。

あの時の火竜の輝きは・・・全盛期の虎城以上だと俺は感じていたんだ。
それは間違いなく虎城も感じていたんだろう・・・

山崎記者の考え通り、虎城親方もそれは感じている。感じてしまっている。だからこそ追い詰められている。

あれは俺が捨てた相撲だ・・・たとえ綱を取ってもそれ以上はないと分かっとる・・・
火竜が俺と並ぶなど・・・ましたや超えるなどありえん・・・あってはならん・・・
あの時の覚悟は・・・選択した道は・・・間違ってはいない。間違っては・・・・・・

ようやく横綱が見えた火竜。
しかしここで起きるのが既知の暴行事件。あの最悪の事件である
ついに語られることとなる事件の真相。果たしてあの事件は虎城親方が仕組んだものだったのか。それとも・・・?
分かってはいたことだが悲しい結末が待っているのはやはり厳しいですなぁ。
輝きを放った火竜の活躍もここまでか・・・寂しいなぁ。



第94話/続いてた・・・  (2014年 20号)


信じがたい愚行。
大関火竜が素人相手に大立ち回りを演じたというその事件は瞬時に角界を駆け巡った。
話を聞いて青くなる天城親方。
それはこの人――虎城親方にしても同様であった様子。

寝耳に水な情報を聞き真っ青になる虎城親方
後援会会長と飲んでいた虎城親方であるが、火竜の事件を聞いて急ぎ会合に向かおうとする。

ありえませんよ綱取りを前に・・・昔のアイツならまだしも・・・今のアイツがそんなことをするなんて考えられない・・・
女房子供もいるのに・・・だがもし本当だったら・・・早く何とかせんと取り返しがつかんことになるぞ・・・

心底火竜を心配している様子の虎城親方。しかし・・・

そうか・・・よかったじゃないか

嫌な笑みを見せる後援会会長。これは、まさかこの男が・・・!?

何も親方が気に病むことはない。遅かれ早かれアレは問題を起こすと思っとったよ。
いや・・・そもそもアレが綱を締めるなどワシには我慢ならん。
ましてやあの三流が君を超えるなど・・・ワシが育てた大横綱虎城を超えるなど、絶対に許されんしあってはならんのだ!
非情になれ。アレが二度と土俵に上がれぬように進言しなさい。君のタメでもあるだろ・・・

これが事件の真相でありましたか・・・
やはり虎城親方が仕組んだことではなかった。
が、ここでの会長の言葉を容れて火竜を追い込んだのは事実の様子。
まったく責められることをしていないってわけではないが、うーむ・・・・・・

こうして火竜は綱取りを目前に角界から除名を宣告されたのである。

そして――月日が流れ・・・あの事件以来消えちまった火竜の姿を俺は何とか捜し当てた・・・
だが・・・そこにあの頃の火竜はもう・・・

酔いつぶれた火竜と再会する山崎記者。
山崎記者もあれから年月が経ったせいもあるが、疲れ切った、荒んだ感じの顔つきになってますな。今の顔になってきている。
一番の理由はもちろん火竜のこの事件のせいでありましょうが。

スマなかったな火竜・・・俺はあの時お前を擁護する記事を載せられなかった・・・
書いても書いても上から差し換えられてな・・・あの時・・・お前の批判だけが記事になった。
ウチのような半分ゴシップで食ってるような新聞はとくに・・・

そのように語る山崎記者であるが、火竜は気にしちゃいないと返す。
まあそれでメシを食ってるのは確かなわけですしねぇ。仕事を抱えている人ってのはいつも自由に動けるわけではない。
それに火竜自身も言う通り、素人を半殺しにしたのは事実なのだ。
だが、事の真相がちゃんと報じられていればもっと違ったかもしれない。
同情の声があれば角界を追われることはなかったかもしれない。
山崎記者はアレから色々と調べた様子。あの夜に何があったのか・・・

火竜はその日、虎城親方に会うために店で待っていた。
さすがにしらふで会うのも気まずいのか、相当量呑んでいた様子。
しかし待ってるはずの店に虎城の姿はなく・・・代わりにいたのは品のない客が10数名。
そして不自然なまでにそのチンピラにカラまれる火竜。
火竜はどんなに挑発されようが相手にはしなかったが、付け人の弟弟子は火竜が愚弄され続けるのが我慢できなかった様子。
ふむ。最初に手を出したのは付け人であったと。
だが、本当の参事になるのはこれからである。チンピラが漏らしたセリフが全てのきっかけとなる。

予定とは少し違うが、まぁ・・・これで虎城さんの希望通り・・・アンタはお終いだ火竜さん・・・
アンタが横綱になってもらっちゃ困るんだとよ・・・
横綱ってのは神様なんだろ・・・ずいぶんと安い神様だったんだな〜虎城ってのもよ。
いや・・・ただのエセヤローか・・・

この言葉を聞き、烈火の如く暴れ出す火竜。
自分のことを愚弄されても相手にせずにいた火竜であったが、これには我慢ならなかったようだ。
そう、許せなかったのだ。こんな手を使ってきた虎城よりも・・・
己を殺してまで必死に貫き通した虎城の生き様を否定されたコトが・・・

あの時決別しながらも・・・虎城の横綱としての覚悟を誰よりも痛感していたのはお前だ・・・
お前はとっさに虎城の生き様をかばったんだ・・・そうだろ?

泣ける話である。2人のことを知る人物なら誰もが同情的になる。
しかし色々と調べた山崎記者であるが、本当の仕掛け人が誰かってところまでは分かっていないようですな。
その情報だけでも知れていれば多少は救われたのかもしれないが・・・
いずれにせよ、もう火竜が角界を去ったという事実は覆らない。それに憤りを感じる山崎記者。

お前は大バカヤローだ・・・こんなくだらねーことで終わっちまいやがって!!
俺はお前が貫く相撲道が本気で大相撲を変えると思ってたんだ!!
実質クビになった天城親方だってきっと・・・
だけど・・・何より・・・俺が許せねーのは虎城だ・・・
逃げたんだ・・・虎城はお前から・・・過去に捨てた己の相撲を背負い、己を超えるほど輝きだしたお前から・・・
負けたんだよ!虎城はお前に!!

そう叫び、約束通りこの全てを書くと述べる山崎記者。
お前の生き様をこのまま終わらせるわけにはいかない!と。
だが、その必要はないと答える火竜。
それでも虎城をかばうつもりなのだろうか。いや、そうではない。
まだ・・・火竜の答えは出てはいないのだ。

まだ続いてたんだよ・・・俺の生き様は・・・

父から子へと受け継がれる生き様。
そう、火竜が示そうとしていた生き様は息子の鯉太郎に受け継がれているのだ!!

事件の真相。火竜と虎城の想い。
思った以上に濃く、悲しみに彩られた回想編でありました。
2人のための回想である故か、空流親方なんかはほとんど出番がなく残念でしたが、まあまたの機会にってことですな。
ともかくこの回想はかなり鯉太郎に弾みがつきそうな内容である。
火竜の生き様を強く受け継いだ鯉太郎。
偉大な頃の虎城のことを知らず、歪んだ成長をしてしまった王虎。
この対決・・・鯉太郎が負けることがあってはならないと思えるが・・・どうなるか!!



第95話/土俵に・・・  (2014年 21+22号)


変わらぬ土俵、移り行く世代
火竜はまだ俺の生き様は続いていたと語る。

土俵は俺の全てだった・・・俺が俺を力尽くで肯定出来る唯一の場所だった・・・
相撲に全てを懸けてきた・・・それ以外・・・俺は生き方を知らねー・・・
笑っちまうほど。土俵がなけりゃ俺はカラッポだ。
土俵以外でどう生きたらいいのか・・・分からねーんだ。
俺は・・・死んで生きるしかなかった・・・

死んで生きれるか。
そう言いながら土俵に上がっていた火竜。
土俵に上がることが出来なくなった以上、他の道を進むことなど出来ない。そんな器用な人間ではない。
なるほど。死んで生きるしかなかったわけでありますな。
しかし、その生き方を良しとしない者がいた。

学校で暴れたって呼び出されて行ってみりゃ・・・生意気に・・・
小っこい体でこの俺に向かってきやがってよ・・・こんなのはオヤジじゃねーってよ・・・

吹き飛ばされながらも立ち上がる鯉太郎。
敬愛する者が没落した。しかしそれでも諦めることなく、目を覚まさせるために立ち向かう。
その姿は――かつて虎城を目覚めさせようとした火竜の姿そのものである。
実力に差があろうと関係ない。想いをまっすぐにぶつけるその生き様。まさに親子ということか。

笑っちまったぜ・・・アレは・・・俺だ
終わっちゃいねーんだ・・・まだ・・・何も・・・
続いてんだ・・・アイツの中で・・・俺の生き様は・・・
アイツなら・・・きっと俺の辿り着けなかった答えまで辿り着いてくれる。
見てろよ。鯉太郎は必ず俺を超える。
あのクソガキが・・・鯉太郎がいれば・・・俺は死なねぇ

父親としての笑みを浮かべる火竜。
酒に溺れた晩年の火竜でもこのような表情を浮かべることが出来ていたんですなぁ。
その言葉を受け取った山崎記者。
鯉太郎が本当に角界に現れ成長を続ける姿を見続けてきたのはどのような気持ちであっただろうか。
バッシングの中、空流擁護の記事を書いていたのはかつての罪滅ぼしの意味もあったのだろうか・・・

相撲ってのは生き様だ・・・それをバチバチにぶつけ合うのが力士よ。死んで生きれるかってな

回想は終了し、現在へ。
連戦で息を荒げていた鯉太郎であったが、ここで父・火竜の言葉を思い出す。
疲れてはいるが、その顔には確かに満面の笑みが浮かんでいる。
父親の言葉が今の鯉太郎には身に染みて実感できているのでしょうな。

そうだな火竜。お前はまだ・・・お前の生き様はまだ・・・土俵に・・・

生き様を受けついだ鯉太郎。
歪んだ生き様を倣ってしまった王虎。
世代を超えて、幕下優勝決定戦という舞台で再度この2人の戦いが行われようとしている。
さあ、いよいよの大一番でありますな。
回想のことを考えれば鯉太郎が断然有利と思われるが・・・果たしてどうなりますか。期待したいところです。



第96話/ハッキヨイ!!  (2014年 23号)


俺様を誰だと思ってんだ!!天下の名大関火竜太郎だぞ!!かかってこんかい!!

酒に呑まれ、無謀にもトラックを正面から受け止めようとするとは・・・
いや、全盛期の火竜であったならばひょっとしたら無事に済んだのかもしれないが・・・うーむ。

息子に自分の生き様を見て希望を託した火竜。
しかし自身が死んだままなのは変わらず、それを感じながら生きていくのは辛い。飲まなければいられなかったのでしょう。

死亡した火竜。親戚付き合いはなかったがいい友人たちに恵まれたのか立派な墓が建てられている。
その墓の前を訪れる一人の元横綱。その表情は固い。

くだらん・・・同情もせんし悲しみもせん・・・
謝らんぞ・・・俺は・・・
たとえ非道と罵られようと・・・俺は死ぬまでお前を否定しながら生きていく・・・
そうしなければ・・・そうして生きていかなければ・・・お前も浮かばれんだろ火竜・・・火竜よ・・・

墓石の前に座り込み、項垂れた様子を見せる虎城親方。その表情はどのようなものであったのだろうか。
火竜を追放してまで守ることとなってしまった自身の生き方。
例えそれが間違ったものであったと自分自身思えたとしても認めるわけにはいかない。
何とも不器用で辛い生き方であるなぁ。
だからこそ、虎城親方は息子である剣市にこう述べる。

お前は・・・俺のようにはなるなよ・・・

うっすらと涙を浮かべている虎城親方。
自分で選んで進んだ道とはいえ・・・辛い人生であったのが窺い知れます。
しかし息子にはこの生き様は歪んで受け継がれてしまったようでして・・・ううむ。

虎城を偽物と感じ、本物の横綱となろうとしている王虎。
しかしその道はとても本物が歩む道とは思えない。横綱になる前の虎城の道ともその後の道とも、火竜の道とも違う。
果たしてその歪な道を歩む王虎の未来はどのようなものとなるのか。不安ですなぁ。

回想は終了し、いよいよ幕下優勝決定戦の大一番。
しかし鯉太郎は直前取組で疲れ果てている。
一方の王虎は目の前に立つのが再び鯉太郎であることに苛立ちを見せている。

アレだけの差を見せても・・・まだ分からないのか・・・
まだ・・・向かって来るのか・・・ナメてんのか・・・俺を

怒りをみなぎらせる王虎。
その空気から周りで見ている者たちは一瞬で感じ取ってしまう。その未来を。

恐怖・・・絶望・・・脱力・・・
何をやろうと・・・結果は同じ・・・勝者は王虎
そんな空気が場内に満ちる中、鯉太郎に去来する想い・・・
また・・・もう一度王虎戦まで来れたという・・・感謝だった

非常に濃い内容の今場所。
引退をかけた王虎との戦いに敗れ、沈みながらも再び立ち上がった今場所。
親方や兄弟子、弟弟子。椿やタニマチといった色々な人に支えられてやってこれた今場所。感謝もしたくなるものである。

鯉太郎の咆哮。そしていくぞと宣言。
その爽やかな笑みが、重苦しい沈黙に包まれそうだった場内の空気を変える。いけ・・・いけ・・・いけ!!鯉太郎!!

真っ向から爆ぜろとばかりに突っ込んでいく鯉太郎。
本当に当たって砕けてしまうのではないかという不安もありますが・・・どうなることか。
回想からここまで心理的には勝ちムードでの盛り上がりがあるのだが・・・その勢いに乗ることができるかどうか。
まずは最初のブチカマシの効き加減で様子を図りたいところであります。



第97話/ブチカマシ  (2014年 24号)


鯉太郎「残りの力・・・これまでの時間・・・出せ・・・全部・・・」
王虎「もうどうでもいいんだよテメーは・・・」

かなり意識の差がある2人。
それでも全力で目の前の相手を倒そうとしているのは同じである。

ハッキヨイの合図とともに飛び出す両者。
鯉太郎のブチカマシに正面から向かい・・・右腕で激しくカチ上げる王虎!!
うーむ、初っ端のブチカマシを防がれてしまいましたか。
だが即座に腰を落とし、体勢の整っていない王虎へと突っ込む。

さすが鮫島・・・あの状態でヘタれるどころか気迫が増している。
だが・・・今の王虎相手にソレがどこまでもつか・・・

両者のことをよく理解している田上さん。どちらが勝っても負けても複雑な気分となりそうな立ち位置の人である。
今は一瞬一瞬の戦いを見守るしかないでしょうな。

2回目のブチカマシは右の張りで止められた。
王虎は昔それで骨折することになったのだが、その恐れは払拭されてるようですな。

片手でブチカマシを止められたが、引くことなく突き破ろうとする鯉太郎。
しかし、王虎が気合を入れれば鯉太郎は体ごと後ろへと吹き飛ぶように下がることとなる。
うーむ、さすがに天雷と渡り合うだけのパワーを持っていることはありますわ。
しかしこれで距離を取ることが出来た。次のブチカマシには更なる力を込めることが出来る。

低く、鋭く突っ込む鯉太郎。
王虎は左のカチ上げでそれを迎撃するが・・・やはり止まらない!!

OK!!

このタイミングでの岩の藤の声は実に有難い。
進化したブチカマシが花開き、ついに王虎の胴体へと突き刺さる。そして、王虎の巨体が浮く!!

バテバテでもう限界かと思われた鯉太郎でしたが、まだまだいけそうですな。
感謝し、楽しむ。それが原動力。
この幕下優勝決定戦という短い間でも自身の成長を感じ取ることができる。嬉しくも楽しい話ですわなぁ。
さて、この勢いのまま王虎を押し込むことができるのか!?
さすがにそれは難しいと思うが・・・追い込んでいって欲しいところですな。



第98話/無傷  (2014年 25号)


前へ。ひたすら前へ。
無謀と言われながらも突進を続けた結果、ついに王虎の胴体にブチかましを食らわせることに成功した鯉太郎。
崩れた王虎を見て、すかさず逃がすなと叫ぶ常松。すっかり丸くなりましたなぁー。

常松に言われるまでもなく、追撃を仕掛ける鯉太郎。
だが、すぐに体勢を立て直した王虎は胸でブチかましを受け止め、右のおっつけで鯉太郎の体を浮かす。
うーむ、やはり凄いパワーであるなぁ。

もう・・・無理だ・・・あのブチかましで・・・スイッチが入っちまった・・・

顔を伏せる田上さん。
確かに田上さんの言う通り、ここから王虎の攻撃は苛烈さを増していく。
それは諦めることなく再び立ち向かってきた男に対し、苛立ちをぶつけているような感じであった。

足りない・・・まだ・・・刻み込め・・・
二度と立ち上がれない程の・・・俺の前に立てなくなる程の・・・
恐怖を・・・絶望を・・・
晩年のあの偽物のように・・・惨めったらしくしがみつくのではなく・・・
本物の・・・圧倒的な君臨者に

やっていることは横綱になった後の虎城と同じ、恐怖による君臨。
しかし息子である王虎は虎城の苦悩する姿を見てしまっており・・・それを子供心に情けないと思ってしまったようなんですな。
うーむ、こういうプレッシャーを受けながらも最後まで大横綱であり続けたのが凄いのだが・・・
それに気付くにはやはりまだ王虎も若いということだろうか。
それこそ自身も横綱が見えてくるようになれば感じ方も変わってくるかもしれないが・・・まだまだ先の話ですわなぁ。

テメーらとは・・・テメーとは・・・ものが違うんだよ

大横綱である虎城に対し、ものが違うと言い捨てる王虎。
確かに才能には溢れていたのであるが・・・うーむ。
若い頃の、横綱になる前の虎城の相撲を見て育っていればもっと違う性格になったかもしれないのになぁ・・・ううむ。

怒涛の攻めを繰り広げる王虎。
このまま終わるか・・・というところであったが、一瞬の間隙を縫って鯉太郎の張り手が突き刺さる。
カウンター気味に入った一発であったが、さすがにそれで倒れる王虎ではない。
が・・・グラリとその体を揺らがせる。き・・・効いた!?

王虎本人も思わぬ感じといった様子。
だがこういうこともあると予測していた人物がいる。それは天雷。あの男のことをよく知る天雷である。

石川(ヤマモト)の張りをあれだけまともにもらってるんだ。無傷ということはありえない

鯉太郎が直前の取り組みで体力を使ったように、王虎も激しい張りを受けている。
石川の張りの凄さは戦った経験のある天雷はよく理解しているってわけだ。
うーむ、いい場面ですなぁ。いい場面なんだからその振り仮名はどうにかしてください。何時まで経っても山本!!

ともかく、友の残したダメージを無駄にしないためにも踏ん張る鯉太郎。
ここを勝負所として、足を止めての打ち合いを開始する。
はたしてどこまで崩すことが出来るのか・・・

今の打ち合いは前哨戦といったところでしょうか。
本当の勝負は投げる形に持ち込んでからになると思われます。さてさて、どちらが先に形に持ち込むか。注目です。



第99話/違う  (2014年 26号)


鯉太郎、善戦。
主人公がデカデカと煽りで善戦と言われるのもどうかと思うが、取組前のことを考えれば止む無しか。
いい感じに押し返すことが出来てきましたし、このまま行けるか・・・?

回せ・・・止まるな。尽きるまで・・・潰れるまで・・・放て!!

必死に押し込もうとする鯉太郎。
そのひたむきさはやはり見ている人たちにも伝わる様子。
取組前は静まり返っていた会場が、段々と鯉太郎の勢いに呑まれて熱くなっていく。ドワアアアアアア!!

客の声が鮫島の背中を押し始めた・・・ここにきて王虎に対して溜まっていた違和感が溢れ出したな・・・
まだ拙い中身で絶対者を演じてきたツケ・・・
初めは大横綱の血を受け継いでいるという説得力を纏っていたが、所詮土俵の上では裸一貫。余分なモノは枷にしかならない・・・
本物を受け継ぐ者の前では、いずれメッキは剥げ落ちる。
王虎の悲劇は・・・全盛期の虎城を・・・知らないコトだ・・・

まさにそれが悲劇でありますな。
全盛期の、横綱になる前の虎城は本当に凄かった。
人格面でも相撲面でも非の打ち所がない。
暴れん坊だった火竜をも成長させる人間的魅力に溢れた人物であった。
王虎もその時の虎城を見て育っていれば今のようなことにはならなかったかもしれませんなぁ。

山崎記者の言うメッキというのは、今まで王虎が纏ってきたいい子ちゃんの顔でありましょうか。
それが剥がれ落ちたとき中から出てくるのは何か。石ではなく、何か闇のようなものが溢れてこないか。心配である。

さて、鯉太郎の猛攻は確実に王虎にダメージを与えている様子。
とはいえ鯉太郎のスタミナも残り少ない。どこまで持つか。

まだだ・・・まだ!!
認めるか・・・俺を・・・見ろ・・・見ろ!!王虎ー!!

本場所の取組で敗北し、もはや眼中にないという扱いをされた鯉太郎。
やはりその時の悔しさは今も残っているようですな。
一度敗れても這い上がり、更なる強さを得て立ち向かう。王虎としては考えられない相手でありましょう。

うるせーんだよ・・・雑魚が・・・

鯉太郎の突進に合わせ、迎撃しようと動き出す王虎。
突き出される右腕。しかし鯉太郎は冷静にこの腕を払い上げる。
この追い詰められた状態でありながら頭の中は冷静だと言うのか!?見事なものだ・・・

王虎の腕を払い、身をかがめてかえる跳びのような動きでブチカマシを決める鯉太郎。
これをまともに受けた王虎は・・・ついに土俵際に足がかかる。詰めた!
よもやここまで押し返すとは・・・これはさすがの王虎も余裕がなくなってきた感じでありますよ。
あまりのことに昔のことを思い返してしまうぐらいに余裕がなさそうだ。

いい・・・剣市・・・あなたは大横綱・虎城の息子なの。何をやっても皆そう見るの。これはあなたの背負った運命なのよ
お父さんの・・・大横綱・虎城の名を・・・血を・・・決して汚さない人間になりなさい。

小さなころから母親にそのように言われて育ってきた王虎。
どんなもんだろうと思える発言だが、皆がそう見ると言う発言は正鵠を射ている。
実際、偉大な父親を持つ子というのは何をしても父親と比べられてしまう傾向にありますからねぇ。
大横綱・虎城の名は日本全国に知れ渡っており、その子が背負う期待は半端なものではないのが伺える。

後藤剣市。さりげなくフルネームが登場。
情けない姿を見ており、内心嫌っている父親と比べられる相撲。
そりゃ好きになれるはずもない。相撲は嫌いだと述べる剣市の気持ちも分からなくはない。
だが、それでもやはり相撲という道を選んだ剣市でありました。しかしそれは・・・

ただ・・・ただそれは・・・纏わり付く大横綱の血を・・・払拭するための選択。
初めは虎城の名を巧く利用すればいい・・・いずれ俺があの偽物よりも優れていると証明される。
俺は虎城とは違う・・・虎城とは・・・違う・・・

負けたら終わり。信念を曲げてまで築き上げたものが崩れ去ってしまう。
その恐怖に震えていた晩年の虎城。
違うといいながらも、敗北することに嫌気以上のものを感じていそうな王虎。
さてさて、ではそうなると何が違うというのか・・・

メッキが剥がれて本当に黒いものが噴き出しそうになっている王虎。
このままで終わることはないでしょうが、一体何をしてくるのか。怖いが注目したいところです。




第100話/誰よりも・・・  (2014年 27号)


父親のことを思い出し、力を漲らせて善戦する鯉太郎。
一方、父親への憎しみを募らせて苦戦する王虎。
受け継いだ者と受け継がなかった者の差が表れ始めたということか・・・

しかし、それでも王虎の才能は凄い。
あと少しまで追い詰めた鯉太郎のブチカマシを胸で受けて弾き飛ばす。
さらに追撃の肩からのブチカマシを右、左と連続で食らわせてくる。むう、これでまた中央に寄られたか。

だが、ここでついに鯉太郎が次の段階へと進む。
王虎へと突進し・・・前ミツを取る
王虎は一手遅れて、前ミツを取った鯉太郎の左腕を右腕で抱え込む。
関節は決まっていないのでここから小手投げには移行できませんな。
押される形になる前に抑え込んだといったところでしょうか。

ぶつかり合いから組んでの凌ぎ合いへと移行する局面。
鯉太郎は息を荒げて必死な様子であるが、王虎もまた心の中では必死になっている様子。

邪魔だ・・・どいつもこいつも・・・俺の前を・・・塞ぐな!

白水さんに天雷、石川。
鯉太郎だけではなくこれだけの力士が王虎の中に刻まれている。
少なくとも幕下以下に敵などいないと思っていた王虎にしてみれば誤算もいいところでしょうなぁ。

そういった心の焦りで強引に前に出ようとする王虎。
体力に勝っているし、難しい形でもいけると思ったのかもしれない。が・・・

甘ーよ・・・
ヘバッたくらいで型は崩れねーよ・・・基本が血肉となってんだ・・・
空流の稽古をナメんなよ

地道な稽古というのは苦しい時にこそその成果を見せてくれるものである。
王虎だって厳しい稽古を積んではいるが、地道に鍛えたというよりは厳しく追い込む日もあったという感じでしたからねぇ。
まあ、それよりも何よりも。今の王虎は鯉太郎とは違う部分で消耗している。

削れてるんだ・・・王虎も・・・

そう言いだすのは田上さん。やはり王虎のことを理解しているのはこの人か。唯一涙を流すところまで見てますしね。

確かに王虎の力・・・才能はズバ抜けている・・・
普通に行けば何の障害もなく番付を駆け上がっていたはずだ・・・
ただ・・・時代が・・・そうはさせなかった・・・
俺から見ても今の幕下・・・天雷や石川・・・白水。そいて鮫島。この世代に集まった才能はどうかしてる・・・
幕下どころで躓くはずがないと、自分の絶対的な強さを信じる王虎にとって、
ここで負けるという恐怖は俺らの想像を絶するものなんだ・・・

大関の息子である鯉太郎にしても、初敗北を喫するまではどこか幕下以下を軽く見ていた部分はあった。
敗北によりそれを見直し、今でも前を見据えて戦い続けている鯉太郎。
王虎にもそのような前向きさがあれば良かったのだが・・・

お前に足りないのは、力士としての根本の強さだ

猛虎さんの言葉が蘇る。やはりこういう大事な時に問われるのが根本でありますか。
そう。田上さんが述べるように王虎は・・・

アイツは・・・誰よりも繊細で・・・誰よりも・・・臆病だから・・・

負けることへの恐れ。それはずっと王虎を苛んできた考え方である。
うーむ、これはやはり晩年の虎城の、負けたら終わりという言葉が染みついてしまったからなのだろうか。
まだ関取にもなっていないのに、登り詰めた者の精神状態で戦おうとしている。
あの立派だった虎城ですら壊れそうになっていた精神状態。危ういに決まってますわなぁ・・・

メッキが剥がれて現れたのは闇ではなく、臆病な表情であったとは。これは何とも。
悲痛な感じに、空流親方からもしっかりしねーかという声がかかる。

オマエにとってもこっから先のための重要な一番だろーが・・・
土俵に立ててねーじゃねーか。

その声は王虎に向けつつ、隣にいる虎城親方へも向けられている。そして・・・

なぁ・・・虎城。
アンタ負けを望んでるんじゃねーのか?王虎の・・・

これは痛い指摘でありますな。やはりそういう気持ちはどこかにあるんじゃなかろうか・・・
もちろん、勝って目を覚ましてくれるのであればそれが一番いい。だけどそれは望めるものではない。
ならば敗北し、自身の根本を見つめなおしてくれはしないか。
そのように願う心は間違いなくありそうである。問題はそう上手くいくかどうかですがね・・・

ここはひとつ、虎城親方自身が昔の大横綱の威厳を取り戻すことが大事なんじゃないでしょうか。
偽物として忌避されている今の状態がマズイ。
ならば本物だった時期の姿を一瞬でも見せてあげれば王虎の心が入れ替わる可能性もあるのではないでしょうか。
取組後の虎城親方の行動にも注目したいところですな。



バチバチBURST 12巻


第101話/俺  (2014年 28号)


BURSTになってからも連載100回を突破。記念のセンターカラーだ!!
そして幕下優勝決定戦も大詰め。
父親である虎城親方も期待してしまう王虎の負け。そしてそこからの復帰。空流親方はそれを指摘する。

あの2人の境遇は実の所よく似ている。
偉大な父を持ち、その背中に導かれるよう同じ道を選択した。
ただ・・・今は決定的に違うコトがある・・・潔さだ
己より上がいるという現実を素直に認め、相手に敬意を持ちつつもそれを乗り越えようと土俵に上がる者と・・・
己以外の強さは認めず拒絶し、相手を見下すことでしか自己を確立出来ない者・・・
今の王虎には見えてねーんだ・・・相手も・・・己も・・・
いらねぇ自尊心を落とすには今が良い機会だ。1つの負けが先の道を照らすこともある

さすがに空流親方はその辺りをよく分かっている様子。
鯉太郎にも最初の稽古で空流の弟子総がかりでガイにして自尊心・・・余分なサビを流させてましたしねぇ。
そしてその空流親方のいう事は虎城親方も理解している。

俺はただ知って欲しいだけだ・・・死んだような顔で相撲を取るものでないと・・・
王虎には楽しんで相撲を取ってほしいのだ・・・俺と同じ道を・・・歩ませたくはない。

やはりそこが一番苦悩しているところでありますか。
しかし王虎は実のところ相撲を好いていたわけではなかったというのがなぁ・・・
まあそれも偉大すぎる父親の名前への反発から生まれた感情でしょうけどね。
そういうのを抜きにして考えれば、ひょっとしたら相撲そのものを楽しむ心も生まれるのかもしれない。
本来ならば親方である虎城がそれを伝えなければいけないのだが・・・

俺は楽しむ相撲を捨てた男だ。ソレをオマエに伝えることは出来ん
だが・・・もし今・・・ソレを伝えてやれる人間がいるとすれば・・・きっとそれは・・・

脳裏に浮かぶのは火竜の姿
楽しむ相撲を捨てた虎城の姿を否定し、己の生き様を貫こうとした男。
ううむ。やはり火竜が変わってしまった後も虎城のことを認めていたように、虎城もまた火竜への想いを強く抱いているか・・・
そしてその魂を息子が受け継いでいることも強く感じている様子。
であれば、もしかして伝えてくれるのではないか、変えてくれるのではないか。そう期待してもおかしくはない。

しっかりと王虎の懐深くに入り込む鯉太郎。
この状態ではさすがの王虎も何もできない。
一気に押し込み、土俵際まで持って行くことに成功する。あと少し・・・!!
ここで会場中に響き渡る鮫島コール。押せ!!行け!!鮫島!!
当初は・・・いや、この場所が始まる頃は、半ばまではまだ憎まれ役だったというのに、これは・・・一変しましたなぁ。
鯉太郎陣営としては泣ける話である。が、王虎にしてみればこの歓声の逆転は絶望的な気分にさせられた様子。

俺が・・・消える・・・
俺は・・・誰だ・・・

小さな頃から、周りの人間すべてに父親の虎城と比べられて生きてきた。
それは母親ですら同じであった。何をやっても大横綱・虎城の息子としてしか見られない。
その状態で自己を確立するのは・・・難しいでしょうな。確かに。

だまれええ!!

王虎の絶叫。そして、力任せに下から鯉太郎の身体を持ち上げる。
あれだけ懐深く入り、腰を落とした鯉太郎を持ち上げるだと・・・!?

足りない。足りない。足りない。足りない。足りない。
強さだけが俺の存在を肯定出来る術・・・大横綱・虎城を消せる唯一の術・・・
足りない・・・まだ・・・問答無用に焼き付けるような・・・強さが!!

前ミツをとっていた鯉太郎の腕を強引に引き剥がし、強烈な張りで突き放す王虎。

見ろ・・・俺を・・・見ろ・・・見ろ!
俺は・・・ここだ!!

培われてきた王虎の闇の部分。
それはプライドの高さなどではなく、まさに田上さんが言っていた臆病な部分なのでしょう。
幼少期に自己を確立できなかった。父親の名を通してしか自分を見られることがなかった。
そこから抗うために見つけ出した術が、父親の名を超える強さを、偉業を達成することだったわけだ・・・
なるほど。これは楽しんで相撲をとっている場合ではないのかもしれませんな。
負ければ自分の存在が消えてしまうように感じるという王虎。一敗を重く見るのも当然であるか。

鯉太郎を突き放す王虎。
それを見て結局誰も受け付けん気かと零す虎城親方。
ううむ。王虎の気持ちは分からないでもないが・・・このままでは決して良い方向には進めませんわなぁ・・・

この好機をモノにできなかった鯉太郎。ついにスタミナが切れたのか、上がっていた腕が垂れ下がる。
そこに近付いてきた王虎が容赦なく一撃を加えようとする。
誰しもが王虎の敗北を願う中・・・孤独に苛まれながらそれに抗う王虎。
はてさて、これで勝負はついてしまうのでしょうか・・・

ここで勝ったとしても王虎を見る目はずいぶんと変わってしまっている。
当初の目論見の様に父を超える偉大な名声を得るのは難しいでしょうが・・・どうなるか。
逆に鯉太郎に負けることで禊を済まし、その後の態度如何によっては周りの見る目もまた変わりそうですが、はたしてどうなるか。
勝負のことも今後のことも気にかかります。



第102話/まだ  (2014年 29号)


体力の限界に達し、ついに腕が上がらなくなる鯉太郎。
その鯉太郎に容赦なく王虎の攻撃が飛ぶ。
一気に押したり倒したりはしない。足を止めてひたすら顔面を張り続ける王虎。これは酷い。
評価が裏返ったこともあり、観客は完全にドン引きですわ。虎城親方も苦悩の表情。

俺のせいだ・・・
欠けている・・・圧倒的に心技体の心が
だがその欠落が・・・いびつさが・・・今のお前の強さを作ったのだろう・・・
だがな・・・王虎・・・それは力士ではない・・・ただの怪物だ

力士とはとても呼べないが、怪物故にとにかく強い。
うーむ、認めたくはないことであるが・・・心が伴わずとも勝利してしまう者は存在するものですからなぁ・・・
横綱としての資格の話になると確実に相応しくはなさそうですがね。

さすがにこうなってしまっては観客も静まり返るしかない。
身内の白水さんをはじめとして次々に諦めの色を見せていく。
マコ姉も、もう終わらせてほしいと思っている。が、その中で一人、諦めずに見続けている者がいた。椿だ。

ううん。まだ!
鯉太郎はしっかり見てろって言った。見てろって言った・・・大丈夫!
下半身は浮いてない・・・アイツは諦めてない!

ほう。ここは椿がヒロインらしいところを見せてくれましたな!
確かに鯉太郎はしっかり見てろと言っていた。ならば諦めずに最後まで見続けなければいけませんわな!!
実際、顔に何発も浴びせられてボロボロの状態なのに、まだ踏ん張っているわけでありますし。

切らすな・・・意識を・・・耐えろ・・・
もうスタミナの残量はねぇ・・・力勝負が出来る余力はねぇ・・・
動けて・・・あと1回・・・出来る力は一握り程度・・・
凌げ・・・チャンスを待て・・・左下手を取って投げる・・・!

スタミナが切れて押すことができないのであれば、もう狙うのは投げしかない。
余分な力の入りようのない今ならば、タイミングを合わせての最高の投げを放てるかもしれない。
もちろん組めば小手投げに入られるリスクはあるのだが・・・もうそれしかあるまい。

が、このままではそのチャンスを掴む機会も訪れない。
何か前に出るだけの切欠が欲しい。
その切欠は――意識が飛びそうになった時に訪れる。一瞬見えたのは、聞こえたのは・・・父親である火竜の姿。その声!!

どーしたコラ!!もう終わりかクソガキ!!

火竜の叱咤に、倒れそうになっていた体に喝が入る。

違う・・・・・・違う!まだ終われるか・・・
凌いでどーする・・・守ってどーする。指一本でも動くなら、ぶちあたれ・・・
あぁ・・・まだだ・・・まだ行ける・・・まだやれる!

体力も尽き、絶望的な状況。であるにも関わらず、勝負を諦めていない。それがわかる笑みを浮かべる鯉太郎。
そう、その不敵にも思える笑みは見ている人に父である火竜を思い起こさせる。

ここで笑うのか・・・オヤジのように・・・高鳴らせるなよ・・・

山崎記者としてみれば高鳴らない方が不思議といったところでしょうな。
火竜が自分の夢を、生き様を託した息子。それが今、本当に火竜のように育って行っている。それを目の当たりにしているのだから。

行くぞ・・・全身全霊で・・・
取れなけりゃ・・・終わる・・・

凌ぐのではなく、前へ。勝負に出る鯉太郎。
迎撃しようとする王虎。しかし、その右腕をギリギリのところでかいくぐり・・・マワシに手を掛ける鯉太郎!!

凄まじい見開きからの勝機。
王虎の体勢も崩れているし、ここは一気に下手投げで決めてしまいたいところである。
が、さすがに王虎ですしなぁ・・・簡単には決めさせてはくれないかな・・・
投げの攻防に入るのかどうか。注目であります。



第103話/コイツらは・・・  (2014年 30号)


最後の力を振り絞り・・・王虎のマワシを取った鯉太郎。いけっ!!
椿の声と共に、マワシにかかる薬指や小指に力が入る。
この状態まで持ち込まれたことに対してか、王虎の表情は驚愕に満ちている。
そして虎城親方は苦渋の表情を見せて・・・叫ぶ。

決めろ・・・火竜の息子!!

ついにハッキリとその願いを口にする虎城親方。
王虎を止めて欲しい。間違った道に進むのを正して欲しい。その想いが鯉太郎への声援となる。
それらの声援を受け・・・放たれるのは決め技の下手投げ!!
王虎の体はしっかり前へと沈んでいこうとしている。タイミングばっちりの見事な投げだ!!
だが・・・この時、王虎の脳裏に浮かぶのは最初の敗北のイメージ・・・
それを二度と味わないためにも・・・無理矢理に体勢を立て直す!!
投げていた鯉太郎の左腕を己の右腕で抱え込み・・・小手投げの体勢に入る!!

完全に体が崩れていたというのに、投げ返してくる王虎。
これには空流親方も驚きを隠せない。素質は父親以上か・・・!!
虎城親方自身もそれは認めてしまっているようだ。

負けて誰が見る・・・俺を誰が見る!!

負ければ全ては終わり。
王虎はずっとその意識で戦ってきている。
負けてしまえば自分は誰からも注目されることは無くなる。
虎城の息子という存在を覆す、絶対的な横綱にまで駆け上がらなければ、自分という存在が認められることはない。
そう考えて、思い込んで今に至っているのだった。だが・・・それは違う。

王虎の反撃の小手投げ。しかし鯉太郎も体勢を低くしながら前に回り込み、極まっていた関節を外す。
そして顔を上げ、正面から王虎を見据える!!

コイツは俺を・・・

鯉太郎の強いまなざしを受けて動きの止まる王虎。おぉ・・・これは・・・!!
そして、その王虎に放つのは新たに身につけた技。右の呼び戻し・・・!!

この小僧もまた計れんか・・・!!

ついに虎城親方も鯉太郎の素質を認めだした様子。おぉ・・・
小手投げを放つために右に重心が寄っていた王虎。鯉太郎の呼び戻しを受けて・・・その体が浮く!!
倒れ行く王虎。天井を見上げながら、その目に映っているのは別の姿。自分の前に必死で立ち塞がってきた者たちの姿。

ああ・・・そうか・・・コイツらは・・・コイツらだけはずっと・・・
俺を見ていなかったのは・・・俺自身か・・・

闘いに敗れてではなく、闘いの最中に大事なことに気付いた王虎。
ついに長年囚われてきた、誰も自分自身を見ようとしていないという妄念から解放されることとなりましたか。
これは虎城親方の望んだ通りの流れとなりましたな。
しかしそれでも王虎の負けはやはり悲しいのか、息子の名前を叫ぶ虎城親方。この人も辛い生き方をしている。
けれども、その叫びが通じたのかどうなのか・・・決まるかと思われた鯉太郎の呼び戻しに対し、まだ抗う王虎。
鯉太郎の右腕に自身の左腕を絡め、諸共に落ちるような体勢となる。

うーむ、これは・・・!?
前相撲の時の様に同時に落下しようという状況だろうか。
あの時は王虎が手をついたが、今回はそのようなことはするまい。
お互いに顔から落ちそうなこの場面。果たして軍配が上がるのは・・・どっちだ!?



第104話/やっと今・・・  (2014年 31号)


一同が固唾を呑んで見守る中、土俵上の2人は揃って前へと倒れ込もうとしている。
投げの勢いは互角。土俵へ向かう速度も互角。
そして・・・共に笑っている
土俵に顔面が叩きつけられようかというこのタイミングで笑っているのだ・・・!!

虎城親方も驚きの目でその姿を見ている。
いや、王虎にしてみればこの場面でなくても、土俵上でこんないい笑顔を見せること自体が僥倖と言えましょうか。

顔面から滑り込むように落下する2人。
鯉太郎は角度が鋭角だったためか、はね上がり、回転して背中から落ちる。
鍛え上げた力士の首だから何とかなったものの、下手すればかなり危ない落ち方だ。

土俵上で横たわる両者。
それでも最後の投げで絡まった両者の腕は組まれたままで・・・うーむ、何か象徴的なものを感じますな。

さて、この結果を受けての行事軍配は勝負ありとして鯉太郎の方を指し示す。
決まったのか!?勝ったのか!?
いや・・・この際どい裁定、もちろん物言いが入る!!
前相撲の時のような贔屓からくる裁定ではない。本当に際どい落ち方だったのでしょう。
観客の多くは取り直しを期待している。この点も前相撲の時とは大違いですな。
そして、この男たちもまた、取り直しを期待していたりする。

王虎(まだだ・・・まだ・・・このままじゃ終われねぇ。終わりたくねぇ・・・)
鯉太郎(たりねぇ・・・まだ・・・もっと・・・もっとだ・・・)

もっと・・・コイツと・・・ぶつかりてぇ・・・

2人の想いが同調する。
その想いが通じたのか・・・審判団の協議結果は双方の体の落ちるのが同時と見ての取り直し!!
おぉ・・・これは・・・
またもや嬉しそうに笑っておりますよ2人とも。
落下の衝撃で顔は血に塗れているというのに、何ていい笑顔をするのか。

いくぞ・・・鮫島鯉太郎

特に王虎の笑顔には何だか感慨深いものがある。
ヤバイ笑顔は当初から何度も見てきていたが、今の王虎の笑顔はそれとは一線を画している。
本当にキレイな王虎になることができたんですなぁ・・・いやはや。驚いた。

やはりお前の息子だよ、火竜・・・
やっと今・・・アイツは土俵に立てた。
お前が守り残した生き様が、王虎の土俵を照らしてくれた・・・
感謝だ・・・

涙を浮かべ、ただ感謝の意を表す虎城親方。
もう自分ではどうにも出来ない。道を正す資格もないと追い詰められていましたものねぇ。
親子2代に渡っての生き様のぶつけ合い。
紆余曲折は経たものの、これは勝負がついたと考えていいのではなかろうか・・・

だが、それとはまた別の、今の戦い。今の世代である鯉太郎と王虎の戦い。
せっかく取り直しになったのに、膝から崩れ落ちていく鯉太郎。
ついに体力の限界が・・・精神力で支えていた肉体も限界を迎えたのか・・・!?

惜しいところではありますが、このまま決着は流れる可能性が高そうですなぁ。
でも王虎がそれを残念に思うことはあっても、悔しがったり、前の様に誰にも見られないと塞ぎこむようなことはありますまい。
今後の王虎の活躍や評判など、先の展開も気になるようになってきましたよ!!



第105話/幸せ  (2014年 32号)


幕下優勝まであと一歩。
王虎とも気持ちのいい取組が出来そうな雰囲気となった。
が、ここでついに限界を迎える鯉太郎。前のめりに崩れ、膝をつく。

よく・・・よくここまで闘った・・・

会場内は諦めムード。
まあ、ここまで良く闘ったと健闘を称えこそすれど、無理に起き上って戦えとは言えませんわなぁ。
傍目から見ても限界を超えるぐらいに無茶な戦いをしていたのは分かってしまうわけですし。
そりゃあ虎城親方も労いの言葉をかけてしまいますよ。

静まり返る会場。このまま拍手が集まってお開きとなってしまうのだろうか。
そんな空気を切り裂くように響くのは・・・王虎の四股!!
高く上がる足。そして力強く鳴り響くように打ち付けられる足。
ドン!ドン!とその音は響く。
どのような声を掛けるよりも雄弁に力強く・・・鯉太郎の体を震わせる。
いつしか観客たちも腕を足を打ち付けて同調させるように鳴らし始めるのであった。

その音によるものか、昔のことを思い出す鯉太郎。
父親の生き様を見て無邪気に喜んでいられた幼少期。
そこからの転落。父親は凋落し、死亡。自身は周りが真っ暗となり、どこに進めばいいのかも分からなくなる。
だが、そんな鯉太郎もいつしか気付くこととなる。
自分には受け入れてくれた、帰る場所を与えてくれた人達がいる。
自分には新たな家族として一緒に進んでくれる人達がいる。
自分には共に競い合うライバルが、応援してくれる人達がいる。
そう・・・たくさんの人たちが見ていてくれる。側にいてくれるのだ・・・

感動的な場面
でありますが、やはり川さんの存在感はさすがというか何というか。
正直浮いて・・・げぇっ!!本当に浮いてる!?

それはさておき、見開きの田上さんの笑顔が本当にまぶしい。
というのはさておき、ライバルたちの中に一人顔を見せていない人がいますな。
同期であり、鯉太郎と鎬を削った男であり、BURSTになってから姿を見せていないあの男・・・でしょうな。やっぱり。

様々な人達のことが浮かぶ中、最後を飾るのは椿でありました
土俵のアンタをずっと見ていたい。
引退を思いとどまらせたあのセリフはやはり心に残り続けていたということでしょうか。
うーむ、これは見事なヒロイン力と言うほかありますまい。

何もかもなくなった・・・誰もかもいなくなった・・・
すがるモノはオヤジの残した相撲だけだった・・・
だけど今は・・・
まだ・・・倒れられねぇ・・・今の俺にはいくつもの支えがある
土俵から生まれた・・・いくつもの支えが。
ありがとな・・・クソオヤジ。俺に相撲を・・・生き様を残してくれて・・・
俺は幸せだ

人々の想いに支えられて立ち上がる鯉太郎。
そういった感謝はこれまでにもありましたが、限界を迎えた今だからこそ改めて思う部分があるんでしょうね。
王虎との戦いで父親である火竜のことを思い出したのも原因だろうか。
肉体も精神も限界を迎えた今、体を支えるのは人々の想いのみということなのかもしれない。

それにしても王虎のまだ終わりたくないという気持ちが切実に籠った四股でありましたね。
厳しいだろうが、もう一番!!双方が納得できるような一番を取りきっていただきたいものであります。



第106話/真っ向から・・・  (2014年 33号)


限界かと思われた鯉太郎。しかし人々の想いを受けて立ち上がる。
エールを行った王虎も起き上って来た鯉太郎を笑顔で迎え・・・待ったなしの取り直しだ!!

王虎(もう一撃・・・一撃だけあればいい・・・)
鯉太郎(あと一発・・・一発だけ出せればいい・・・)

もう・・・土俵に余分な感情は何もいらない・・・
白黒つけるぞ

顔を血で半分染めながらも笑顔でそう述べる2人。何ともはや・・・
その光景に、昔を知る山崎記者の涙腺が緩む。重なるのは若き日の虎城と火竜が立ち会う姿。

ただ・・・単純に・・・力と力・・・真っ向から・・・

気合を入れて構える両者。
この飛び出してくるような見開きの迫力が凄い
鯉太郎の右拳が、王虎の右拳が、1つの拳を左右の見開きで両者のものと見せる。凄い発想だ!!

そして、気合を入れた後は集中。
呼吸を整え、周りの雑音を全て消す。
両者が思うように、余分な感情はもう何もいらない。
何もない空白の空間に自分と相手のみが存在する。そのような心境になるまで集中を高め・・・そして、ぶつかる!!

共にあと一撃。
その意識で同時に飛び出すが・・・先に脚を踏み込ませたのは鯉太郎!!
その分低く、前へと頭を突き出すことができ・・・ブチカマシが王虎の顔面を捉える。
これが決まり手となるのか。この一撃で勝負は決まるのか。
白熱の戦いもついに決着の時を迎えそうですなぁ。



第107話/大相撲  (2014年 34号)


双方体力を使い果たし、一撃にかける取り直し。
その最後の一撃を決めたのは鯉太郎。バチバチ史上最高の大一番もついに決着か・・・!?

王虎の首が跳ね上がり、上体が後ろへと逸れる。
その王虎に対し追撃をかける鯉太郎。
あと一撃と口では言っていても、実際は倒れるまで止まることはないって感じですなぁ。
しかしそれは王虎も同様である。
鯉太郎が凄ければ凄いほど、自分を見てくれる相手が凄いのであれば・・・それでこそ笑顔でいられるというもの!!

顔を血で染めていながら、昔からは考えられないほどのいい笑顔を見せる王虎。
いや、昔というかほんの少し前と比べても考えられないほどでありましたな。

ともかく、鯉太郎の頑張りに力を貰ったかのように踏ん張る王虎。
さらに、懐深く入って来た鯉太郎の腕を脇に抱える。
このまま体を回転させれば小手投げの構えに入れる体勢だ!!ここに来て出るのはやはり身に付いた技か。
だが・・・・・・

チッ・・・

投げる方向へと身体を向かわせる王虎。
その出鼻を文字通りくじこうと、鯉太郎の右手が王虎の顔面を押さえる。
そうして・・・一気に、その右手を前へと突き出す鯉太郎!!

結果、王虎の足がついに土俵を割る
大仰に吹き飛ぶことも、土俵下に落ちるようなこともない。
決着は静かに、ギリギリの距離で決まることとなりました。
うーむ、この2人らしい締め方だったと言えるのではないでしょうか。

戦い終わり、力を使い果たした2人。
そこに浮かぶのは優しい笑み。王虎としても敗れて悔いなし・・・というか、今はそれも気にはなっていないのかもしれませんな。

勝敗は決した。そしてこれで鯉太郎の幕下優勝も決まったこととなります。
ついに鯉太郎も優勝経験者か・・・
しかしこの場所はまだ十両に上がれるほど番付は高くないはず。
今後どうなるのか。次号からの展開が気になるところですが・・・さてさて。



第108話/幕下優勝  (2014年 35号)


ついに決着。
茫然と見つめる者。笑みを浮かべる者。涙を流す者。表情を見せない者。様々な顔がそこにある。
そして、一泊の静寂の後・・・会場に鳴り響く歓声。
両者どちらにとっても長く厳しい戦いでありましたが・・・鯉太郎の勝利という形で決着となりました。

白水さんや椿、マコ姉などは涙を流して喜ぶ。仁王さんも満面の笑みだ。
大吉にしてみればもうそのカッコよさに感極まって涙が止まらないといった様子。
その大吉の呟きに同意する常松。

デカイな・・・俺たちが追う背中は・・・

すっかりデレた常松。
鯉太郎を兄弟子として認めただけではなく、大吉と共に空流の一員として追いかけようと述べている。
色々とありましたが、この男もたった一場所で大きく変わったものでありますなぁ。
次の場所ではどのような成長した姿を見せてくれるのか。楽しみです。

決着がつくまえから涙を流していた山崎記者。
今は雨のように降り注ぐ歓声を耳にしながら土俵上の2人を見つめている。
王虎はそのまま悪役に転落するかとも思いましたが、この歓声を聞く限りならばその心配はないかもしれませんな。

火竜、見てるか・・・これが俺の・・・
ずっとオマエが・・・きっとアイツも・・・見たかった光景・・・

2人が本番の土俵上で全力を出して気持ちよくぶつかる。
山崎記者が、火竜が、かつての虎城が夢見た光景。今世代を超えて実現することとなりました。
これにはツッパリくんの中の人も涙するしかない。
ああ、やっぱりこの人が入ってましたか。天城親方も感無量といったところでしょうなぁ・・・

鳴りやまない歓声。勝負を終えた2人はしばしその体勢のままで動くことも出来ずにいる。

全部出した・・・もう一滴の力も残ってねぇ・・・
最高だ

鍛え上げた体で、培ったモノを全て出し切る。これは気持ちのいいことでありましょう。
それで勝つことができたのであればまさしく最高と言える。
もし勝てなかったとしても、どこか気分は晴れやかなものがあったりする。王虎なんかはそんな気分となっている様子。
爽やかな感じとなりつつ、それでいて鯉太郎に対してはやっぱりムカツクヤローだなと述べてみる。
うーむ、これはライバルキャラらしくていい感じですな。鯉太郎も笑顔で相対する。

知ってるよ。ガキの頃から・・・悪タレだからよ

悪タレ大関の息子はやはり悪タレであったということですわな。ハハハ。いい感じだ。
そしてこのいい感じのやりとりをそれぞれの親方が見守っている。
勝負はほんのわずかな、しかし大きな踏み込みの差で鯉太郎のものとなった。
肉体は限界を迎えていたが、折れない精神が覚悟を生み、覚悟が鋭利なまでに集中力を高めて場の空気を制した。
結果、わずかに王虎の呼吸は鯉太郎の呼吸に引っぱられ・・・この結果を迎えることになったわけだ。

あぁ・・・この勝負は立ち会いで決まっていた。
見事だ。鮫島鯉太郎!

ついに虎城親方が鯉太郎を認めた!!
しかも火竜の息子としてだけではなく、鮫島鯉太郎という力士を認めてくれました!!
うーむ、これは何だかとても嬉しい。

強烈なライバルの存在は互いを高め合う。これから先、いい時代が来そうですなと述べる空流親方。
うむ。鯉太郎たちの世代が黄金世代と呼ばれるのは、まさにこれからであるかもしれませんな。
王虎もまたよきライバルの一人となってくれた。共に高め合うことができるのならばこれに勝ることは無い。
虎城親方もその未来に期待している。あいつらならきっと・・・

俺が・・・俺たちが見ることのなかった・・・あの場所まできっと・・・

叶うことのなかった2人の本場所での取組。
それがひょっとしたらお互いが綱を得た状態で叶うかもしれない。
おぉ・・・イメージとはいえついに大銀杏を結んだ鯉太郎を見ることになろうとは・・・!!

実に感動的な幕下優勝決定戦でありました。
王虎を迎えた田上さんも嬉しそうな様子。良かったですなぁ。
鯉太郎もこれで初優勝。十両昇進までぐっと近づいたこととなるわけですな。
やあこれは次の場所が楽しみだ。
と思ったところで衝撃の次号、最終回の文字。ううむ・・・なんとなくそんな予感はしていましたが・・・ううむ・・・
更なる改題を経て、幕内編が始まるのか。そういう期待はしたいが・・・どうなるのか・・・
心して待つことにしましょう。



第109話/鮫島鯉太郎!  (2014年 36+37号)


見事に幕下優勝を決めてみせた鯉太郎。
その弟弟子に駆け寄る兄弟子たち。だっしゃあ!!双方実に嬉しそうな様子である。さすがの家族ですなぁ。

そしてオヤジこと空流親方もよくやったなと笑顔で迎えてくれます。
その言葉に対し鯉太郎。空流の皆のおかげで優勝することができたと応える。

1人じゃ・・・勝てなかった・・・
1人じゃ・・・倒れてた・・・

肉体はとうに限界を迎えていた。勝利するまで立ち続けることが出来たのは皆のおかげであると自覚している鯉太郎。
けれども、それは決して空流の皆だけというわけではない。
控室に言ってみれば、同じく幕下以下の力士たちが温かい顔で出迎えてくれている。
皆が鯉太郎の勝利を、幕下優勝を祝福してくれているのだ。おぉ・・・
これは思わず照れ隠しに中指も立ててしまうってものですよね。ハハハ。素直じゃない鯉太郎もまた可愛い。
中央付近で汗かいてるのは教習所の先輩の寺井くんですかね?

ガキの頃からいつも思ってた・・・己の力だけで己を肯定してやるって・・・
でもそれは驕りだって・・・この世界に入って分かって・・・
クソだと思ってた・・・何より残酷だと思ってた・・・繋がりってのが・・・俺を・・・支えてくれて・・・
繋がりが・・・俺を・・・強くしてくれた

控室で床上手さんに手招きされ、髷を結い始める鯉太郎
そういえば前回イメージで大銀杏結んでましたが、そもそも普通の髷もまだでしたな。
首の下で結べるほどの長さがあるわけではないが、作れなくはないってとこですかね。

さて、初めて髷を結った力士にはコンパチというデコピンをかます儀式が待っている。
皆でニヤニヤしながら、鯉太郎の額が赤くなるほどにデコピンをかましていく。ハハハ。仲の良いことで。
ふーむ。こうして髷を結った姿を見るのは初めてだが、なかなかスッキリしていい感じじゃないですかね。

火竜の息子って意外何者でもなかった俺が・・・今は・・・少しだけ・・・
鮫島鯉太郎としてこの世界で胸を張れるようになりました。空流に出会えてよかったです。

仁王さんや常松大吉、空流の力士に椿やマコ姉といった面々。
やっぱり鯉太郎がここまで成長できたのはこの空流部屋に入ることが出来たって部分が大きいんでしょうなぁ。
頼れる兄弟子たち。苦労はかけさせてくれたが、何だかんだで素直になった弟弟子たち。
ああ、そういえばコンパチされたら祝儀も貰うのが習いでしたっけ。
いつぞやの大ゴマで呟いた金・・・という言葉と共に回収に向かう常松。うむ、いい路線に進んでますな。

椿と鯉太郎の仲は不動のものとして・・・
和やかな祝いの場に1人、難しい顔をして現れる人物がいる。虎城親方だ。おっ。
鯉太郎に声を掛け近付きながら、相変わらず可愛げのないガキだ。やはり父親とそっくりだと述べる。

お前の父親は無礼でガサツで融通の効かんどうしようもない男だった・・・
そして・・・何より・・・・・・
誰よりも強かった。火竜ほどの力士を・・・俺は知らん
昇ってみせろ。父親のいた高みまで。火竜の続きを俺に見せてみろ。
やってみろ・・・鮫島鯉太郎!

難しい顔から一転。笑顔でそう述べる虎城親方。
今までは火竜の生き様を認めるわけにはいかず、封じ込めてきていた。
しかしようやくその想いを解き放ち、その息子に期待をかけることができるようになった。
王虎もそうであったが、その父親である虎城親方も救われた想いがあるんですかね。
潰えさせてしまった火竜の生き様。それがまだ残っていたと感じることが出来て・・・

一般に知られる幕内力士・・・その数約40名。
そしてその下には600名以上の下位力士が存在する。
力士は直径わずか4.55mの円の中、己の存在を賭け生き様をぶつけ合う。
頂点である横綱という神を目指して・・・

幕下優勝を果たしたものの、鯉太郎の戦いはまだまだこれからである。
頂点である横綱を目指す。そしてその綱を背負って戦い続ける。
土俵にて己の生き様を今後も長い時間かけてぶつけていくのでありましょう。
しかし、しかし今はその物語はここで一旦幕となるわけでありまして・・・バチバチBURST。完結でございます

迎えてしまった最終回。
開始からの伏線であった火竜と虎城の話もきっちり描かれ、王虎も綺麗になったことだし・・・区切りはいい。
けれどもやはりまだまだ見てみたい戦いは多かった。
幕内に上がり、猛虎さんとの再戦も期待したかった。綺麗になった王虎と周りの関係も見てみたかった。
非常に非常に惜しくはありますが・・・佐藤タカヒロ先生は既に次回作を鋭意製作中とのこと。
それが完全な新作であるのか、もしかして続きの・・・幕内編である可能性もあるのか。
いずれにせよ、期待して待ち続けることにしたいと思います。

佐藤タカヒロ先生の次回作に期待しております!!ありがとうございました!!



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