蒼天紳士チャンピオン作品別感想
ANGEL VOICE
第232話 〜 第258話
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連載中分
ANGEL VOICE 27巻
第232話 チャンス
(2012年 11号)
久しぶりに成田がいらつく展開になっています。
ほとんど八津野の攻撃となっており、前線にボールが回ってこないのだ。
またもや天城がボールを奪取。ゴールに迫る。
しかし、これまた所沢。見事な横っ飛びでゴールを守る。
こぼれ球もしっかりクリア。得点を許さない。
前半を20分回ったところで、八津野のシュート数は11本を数えた。
さすがに八津野の応援席もざわざわしている。
これだけ一方的に攻めてるんだし、もう、2・3点取ってもおかしくねえよな?
相手は市蘭だし・・・
やはり市蘭はまだ甘く見られているみたいですな。まあ、しょうがないか。
市蘭が強豪として完全に定着するのは、この八津野を破ったときからでしょうね。
なかなかゴールを奪えない天城。所沢を、まさに壁だねと賞賛する。
それはよいのだが、市蘭のシュート数は現時点で0本である。
去年の練習試合・・・市蘭がまだシロートだったころ。
その時でもここまで一方的ではなかった。
シュートはおろか、攻めらしい攻めが全く出来ていないのである。
業を煮やした成田がディフェンスにつこうとする。
昔はこういった行動が多くありましたね。ディフェンス陣が頼れるようになってからは見なくなったけど。
下がろうとする成田に乾。おめえは上にいろと言う。
この試合、こっちに回ってくるチャンスは少ねえかもしれねえ。
その少ねえチャンスが回って来た時、おめえはゴール前にいなきゃなんねえんだ。
さすがに乾は冷静ですな。こう言われると成田も残らざるを得ないでしょう。
攻めらしい攻めが出来ていないことについて、百瀬も考える部分があった。
オレたちはもともと――もっとがむしゃらにプレーしてたはずだ。
中途半端に強くなって、それを忘れていたのかもしれない。
強豪を相手にして、本来のプレーというものを思い出そうとする百瀬。
抜かれてもくらいつく。このがむしゃらさこそが、市蘭の最初の取り得だったはずである。
いつも通りのプレーをしろと言ったけど監督――これが本来のオレたちのプレーなんです。
くらいつき、ボールを奪取する市蘭。山守から乾はパスが通る。ようやく攻めの番が来たか!?
成田には下がるなと言うが、自分は下がっている乾。
まあ、攻めの起点が乾なので、もらえる位置にはいないといけないですわな。
ドリブルを開始する乾の前に周りこんでくる天城。
やあ、天才クン。やっと本気モードかな?
うるせーよ。
余裕そうな口を叩いた天城があっさりと突破される。これは格好悪い。
そして、前にやってきた別のDFをも抜きさる乾。
これは、来たぞ。市蘭のチャンスがやってきた・・・!
やっとかよ。
見開きで皆川弟が現れました。
こ、これは・・・壁だ。この壁は、簡単に越えられる気がしねぇ!!
この試合、初めての市蘭のチャンスだとあがりかけたテンションが一気に落とされた。
どう考えても、この攻撃でゴールを割れる気がしない。
やはりこの試合は一点を争うゲームになりそうですな。
先に均衡を破るのはどちらか。この先の展開が楽しみだ。
第233話 届かない!?
(2012年 12号)
ようやく回ってきた市蘭のターン。
乾が突破を仕掛ける。行けー!!
天城を抜き、DF2人を抜き去る乾。これで3人抜きだ!凄ぇ!
活躍しているのは乾だけではない。成田も地味にいい動きをしている。
ちゃんと習ったプルアウェイをやろうとしているのには好感が持てます。
その動きにより、DFが気を取られて、前方にいたDFが無害になる。
となれば、そのままエリア内まで突破するに限りますわな。
エリア内に入る乾。だが、右からDF杉原が張り付いてくる。
これではゴール右側へのシュートコースを切られる!
だが、似た状況は練習で何回も経験している。
左側だけで十分!!
乾は練習で所沢が届かない位置を狙う。キックは正確だった。隅へと吸い込まれるように飛んで行く。
決まった!やってくれたぜ!
仲間たちは、これは決まったと確信する。
成田も、ちぇっと悔しそうだが、これは入ったなと確信している。
だが、そのボールを弾き飛ばす皆川弟。
なっ――んだとぉ!?
これには市蘭イレブンも、黒木監督も唖然。観客も驚きに口を開きっぱなしになる。うーむ、やはりスゴイな。
関根のじいちゃんも、現状では皆川弟はヒサシ以上だと認めざるを得ないらしい。
いずれは追い越すけどの。ホッホッ。
いや、いずれじゃダメでしょ!いずれじゃ。
得点は入らなかったが、コーナッキックのチャンス。
セットプレーは市蘭にとって大きな得点源の一つである。乾がフリーで蹴れますからねぇ。
だが、成田の頭に合わせたコーナーキックも皆川にキャッチされてしまう。
再び市蘭に攻撃が移ったのはその4分後。
二宮さんが右サイドからゴールニアサイドに低く速いクロスを入れ、それに成田が頭から飛び込む。
これも市蘭にとって大きな得点源の一つ。
なのだが、これも防がれてしまう。
こっ・・・こんなやつから・・・点――取れるのかよ?
僅かなプレーであるが、皆川弟の凄さは完全に市蘭に浸透したらしい。
でも、攻められっぱなしだった市蘭が、5分の間に攻撃を行えるようになっている。
八津野の攻めが緩んできたということでしょうか。
ならば、矢継ぎ早に攻勢をかければ、皆川弟だってひょっとしたら。
昨年だって皆川兄から1点もぎとった市蘭ですし、ひょっとしたら・・・
どれだけ考えても、ひょっとしたら、の域を出ないってのがスゴイ。
全く凄いね皆川弟は。こんな唇なのにカッコヨク見えるんだもの。スゴイとしか言いようがないよ!
第234話 2人の天才
(2012年 13号)
皆川の前に市蘭沈黙。あのキーパーは凄い!と会場が一気に認めだす。
どうにも、市蘭の攻撃パターンは読まれている様子ですな。
先ほどの二宮さんが入れるクロス。
あれに合わせてゴール前に飛び出すのはニアサイドの成田だけ。
成田が走りこむコースを見れば、クロスのコースも読める。
だからあんな思い切った飛び出しができるんだ。
成田以外にもう1人、ファーサイドに誰かいれば皆川も迷うはずだが、
そんな全体を押し上げるような攻撃はさせてもらえない。どうする?
優秀なキーパーを相手にどういった形で攻撃を組み上げるのか。乾の真価が問われる。
この30分の間に市蘭が攻め込んだのは2回。
たった2回だけど2回ともゴールに迫った。
八津野も今まで見たいに人数をかけて攻められなくなるんじゃないかな、と松田。
ここからだぞ。双方とも図抜けたキーパーが最後の砦に控えている。
攻撃の中心となる2人は、どういう攻めを組み立てる?
尾上が中盤でボールを奪い、乾にパスを回す。
乾は前半30分で八津野の観客にも警戒される存在になった。うわ、またあの10番とか言われちゃう。
習志野のときも、乾は警戒されていたしなぁ。さすがだ。
その観客の不安を的中させるかのように、DFを抜きさる乾。
天城も思う。やっと戻ってきたって感じだな。中学頃のお前が、と。
乾があがってくるのに合わせ、成田は消える動きを試みる。
その成田にパスを出そうとするが、成田に気をとられたのとは別のDFに遮られる。残念。
天城は言う。乾のことを天才だと。イヤミで言っているわけではない。
千葉には2人の天才がいる。間違いなくキミはその内の1人だ――って。
あ!ちなみにもう1人は僕じゃないし、古川でもないよ。
天城は天才じゃなかったのか。天才肌っぽく見えたんだけどなぁ。
確かに中学時代は乾にしてやられているわけだし、違うといえば違うのか。ふむ。
市蘭もだんだんと八津野の動きに慣れてきている。一方的に攻められるだけってことはなくなった。
だが、全体を押し上げるような攻撃をしかけられるようになるには、もう少し――まだもう少しかかるだろう。
そうなるまでは、オレが1人で持っていく!!
乾の個人技!これは間違いなく市蘭の強力な武器のひとつである。
今回も乾はDFを交わす。そして成田は今回も消える動きを行う。
100回やってゴールに結びつくのはせいぜい1回か2回。99回無駄に走れと乾は言っていた。
ならば、それを実践しようとする成田。うーむ、いい関係になってきましたねぇ。
松田の隣で感染している茂森が問う。
乾を指し、あいつのことを天才だと言うやつがいます。そうなんですか?と。
ああ――天才だ。
――と、もう1人の天才は答えた。
千葉の2人の天才の1人がこの松田である。
さすがに18歳にしてU−20日本代表候補に選ばれるだけのことはある。
八津野戦の最中だというのに、どんどん存在感を増していく松田。次が楽しみでならねぇ。
でも、今は目の前の八津野戦に集中だ。
消える動きを実践する成田。その足下にパスが飛んで来る。
キーパー皆川との1対1。
昔の成田ならいざ知らず、今の成田は1対1を苦手にはしていない。
決定的なチャンスをものにすることができるだろうか!?
第235話 いける!!
(2012年 14号)
DFの裏をとった成田にパスが通る。これは決定的なチャンスだ!
市蘭の一年たちも吠える。
こいつら、汗かいてるけどアップしているんだろうか?
というか、1年達はもう出場できるんでしたっけ?実力的に不足ではありましょうが。
1対1!決めてくれシンゴ!!
止めろ!止めろ!皆川ー!!
成田のシュートは皆川の手をすり抜け・・・ゴールに突き刺さる!
や・・・やった!やった!やったぜ!!
盛大なガッツポーズを決める成田。
しかし、スタンドは静寂。味方も冷めた表情。
はい、オフサイドでございます。
ぬか喜びをさせられたうえに、笑われる成田。うーむ、なんとも不憫。
でも、八津野の応援団も、あぶないところだったから、それを誤魔化そうと笑っているようにも見える。
ゲラゲラと笑い声が聞こえる中で、百瀬が成田に声をかける。ナイッシュー!!
お前のところに駆けつけて抱きしめたかったけど――そうも言ってられない。
あれでいいんだあれで。お前らしく――どんどん走り、どんどん打っていけ!!
さすが百瀬である。周りの声なんて気にすることなく褒めてくれる。
これだからこそ、精神的支柱と呼ばれるんですなぁ。
裏をとる動きは、それだけオフサイドになりやすい。
99回無駄に走る中にはそういったことも含まれているのでしょう。
それでも、うまくすれば点には繋がるのだということがわかった。収穫ではある。
皆川といえども、今の成田と1対1になったら止めれないことがあるのだ。
そういえば、前の美幕戦のとき、最後の1対1は決められてもしょうがないと皆川が言っていた。
つまり、今回のシチュエーションに持ち込めば、この先も得点のチャンスはあるってことだ。
シンゴとキヨハルは八津野の・・・全国2位の八津野の中央を突破した。
いけるっ!!・・・のか?
まだちょっと疑問には思いつつも、いけるんじゃないかと思いだし始める市蘭。
今の攻撃を観ていた習志野も、八津野のダメージはデカイと見ている。
松田は解説する。
オフサイドこそとられたものの、そのオフサイド自体微妙だった。
あのまま流されてもおかしくないくらい微妙なタイミングだった。
偶然もらったオフサイドに救われたようなものである。
特に成田に裏を取られた佐久間のダメージは相当なものだろうと分析する。
今の悪い流れを払拭しようとする天城。とにかく1点取ればこっちのペースに戻せる!
市蘭DF陣もそれがわかっているので、一層集中する。
天城のパスが八津野の蓑部という選手に通る。今度は八津野側がチャンス?
いや、パスが通ったタイミングで、市蘭DF陣の4人が一斉に手を上げる。
オフサイドのアピールをしているのだ。
八津野のときのような、偶然のオフサイドではない。
ディフェンスラインをあげて、きちんと狙った状態でのオフサイドである。
同じオフサイドでも、止めろー!と叫んだ八津野のDF陣とは大きな差があるってものですな。
これは八津野側も理解しているらしく、余裕の表情が消えて行く。
そして、松田は宮部に市蘭のディフェンスラインをよく見ておけよと忠告をしだす。
そう、松田は八津野が勝つ前提で試合を見るのをやめたのだ。
DF陣は市蘭が勝っているといって過言ではなくなった。
後は攻撃だ。なんとか繋ぎきって、皆川の牙城を崩すことができれば、勝利は近い。
後半、運動量が落ちてくる時間帯になれば、市蘭はかなり有利になる。
それまで0対0でいくか、それともどちらかが点を入れてしまうのか。目が離せない戦いですなぁ。
第236話 1点勝負
(2012年 15号)
35分経過。前半終了まで残り5分。
再び八津野の猛攻が開始される。それに対して市蘭のディフェンス。
クリアすべきボールは大きくクリアし、中途半端に攻めにつなげようとする守り方はしていない。
この時間帯――特に相手がペースを変えてきたとき、それは非常に大事なことである。
市蘭のディフェンスは見事だと松田は褒める。
その話を不良から伝え聞き、笑顔を見せるマイちゃん。よい笑顔だ。不良達も喜ぶ。
頑張れよおめーら。悔しいけどよ・・・おめーらが頑張れるとゴッド・マザーが元気になるんだ。頑張ってくれ!!
もちろん言われるまでもなく、マイちゃんのために頑張る市蘭。
しかし八津野の猛攻はまだ続く。
天城がボールを持ち中央突破。と思いきや1人では行かず、蓑部にパス。
蓑部はこのボールをスルー。反対から10番の仁科が走りこんでいた!
これは危ない。DFは誰もおらず、前にはキーパーの所沢だけという状況だ。
八津野から点が取れるのは――せいぜい1点。
2点以上取れるとはたぶん誰も思ってないだろう。
0対0だから、ワキさんたちもギリギリのところまで集中できるんだ。
オレがひるむわけにはいかねえ!!
シュートの場面に思い切りよく飛び出し、抑える所沢。これはかなり怖い。
まあ、所沢であればそうそう怪我したりなんかはしないと思うけどね。
八津野のDFは今のプレーを見てツキがないと感じている。
もう少しボールが仁科寄りだったらいけてたのにと考えているようだ。
だが、キーパーの皆川はそう考えていない。逆にこんなにツイてる試合こそめったにないと思っていた。
先のオフサイドの判定はこの上なくラッキーだった。それだけでもツイてるといえる。
再び八津野の攻撃。なかなか市蘭にボールは回ってこない。
だが、皆川はDFの有村に成田を見るように言う。そいつから目を離さないでください、と。
その意見に賛同するもう1人のDF佐久間。裏を取られたばかりだし、警戒しないわけにはいかないわな。
先ほどはオフサイドで点にはならなかったものの、1対1を止められなかったのは皆川の心に残っている。
成田の「1対1は不得手」というデータは書き換えたほうがいい、と皆川。
縦への突破の速さも含め、そいつは怖え!!
キーパーとしてみれば、ただ速いというだけでも脅威。
そこに加え、成田にも技術が身についてきている。さすがにこれは皆川といえども怖がらずにはいられないようだ。
前半の40分経過。ロスタイムは1分。
そのタイミングで所沢がボールを押さえ、乾の足下に投げ込む。これが前半最後の攻撃となりそうだ。
乾の切れ味はさらに増している様子で、天城一人では抑えきれない。あっさり突破を許す。
そして、成田はDFの右から周りこむようにして突破を図ろうとする。
この動きにCBの2人がつられた。
だが、そこから周りこんだとしても、成田へのパスはキーパーが先に抑えてしまう位置である。
ならば、自分が最後までいった方が・・・と思ったがパスを出す乾。
成田とは逆方向。そこには尾上が走りこんでいた。
成田がDFを右方向に引き寄せていたため、ゴールの向かって左側が空いている。
慌ててつめようとする有村だが、遅い。
得意の距離、得意の角度。コースを塞ぐ者はいなかった。
尾上のシュートは果たして決まるのか!?
これは本当にわからない。決まらない気もするし、決まる気もする。うぬぬ・・・どっちだ?
皆川が反応し、弾いたところを誰かが押し込む流れかもしれない。
そして、その際の乱戦で天城がオウンゴールしてしまうかもしれない。そして鬼になる天城。またかよ。
そんな予想もしてしまうが、果たしてどうなるのか。期待して待ちたい。
第237話 フラストレーション
(2012年 16号)
得意の距離!角度!尾上のミドルシュートが放たれる!
さすがの皆川にも焦りが見える。
GKは通常ゴール中央とボールを結ぶライン上にポジションをとる。
乾がパスを出す直前、皆川はそのラインより右側に移動していた。
ゴール右サイドに回りこもうとした成田を警戒したためである。
尾上が放ったシュートはゴール左サイドの枠を捉えていた。
成田の動きは意図せずに尾上のシュートの助けになっていたわけですね。
これはなかなかよい展開。99回無駄に走れと言われたが、無駄じゃない走りも結構あるもんだ。
横っ飛びする皆川。だが、これは届くまい。決まった!!
珍しく笑みを浮かべる尾上。
だが、必死に腕を伸ばした皆川の執念が勝り、指先が触れ、軌道が変わる。
惜しいところで枠から外れ、ゴールにはなりませんでした。ぬう。
八津野の観客は、外したとか言っている。外すわけねえだろ!!
市蘭のくせにビビらせんじゃねーよとか言い出す。
相変わらず市蘭をナメているみたいですねぇ。
まあ、昨年の練習試合ではボコボコにした相手だしなぁ。
市蘭の強さが知れ渡るようになるには、この八津野を破らないとダメか。
皆川のこのセービングには関根のじっちゃんも内心驚いている。
あのキーパー、ワシの見立てより上なのかもしれんと考えているようだ。ううむ、やっかいな。
今回は防がれたわけだが、今度はぜってぇ決める!と気を取り直す尾上。
その尾上に、なんでオレによこさねえんだよと突っかかる成田。
おめぇまさか・・・まぁだオレのシュートを信用してねえんじゃねぇだろうな。
信用・・・?してねーよ。
相変わらずの憎まれ口でございますな。
あ・・・コーイチさん、今の聞きました?
いいから集中しろ成田!これからコーナーキックだっての。
このコーナーキックは八津野がクリア。
ここで前半終了のホイッスルが鳴る。
一方的に攻め込みながら得点をあげることができなかった八津野。
猛攻に耐え、幾度かの決定機を作りながら得点できなかった市蘭。
双方にフラストレーションがたまる前半だった。
前半終了と同時に、習志野の面々が立ち上がる。
後半はマネージャーがビデオを回してくれるので、直接の見学はここまでらしい。
となると松田も帰ってしまうわけで、これは困った。
また全然伝わらねえ解説だと怒られることになってしまう!不良困った!
しかし、そこにかかる松田の声。
おーい。コーヒー!ミルク入りとブラック――どっちがいい?
――!!
これは・・・残って解説を続けてくれるということなのか!?
松田の優しさは本当、天地に染み渡る優しさやで。
しかも、コーヒーの好みを聞くとは・・・奢ってくれるというのか?なんてお人だ!
さて。ハーフタイム。控え室で監督から話を聞く。
まずは八津野。島村監督は言う。市蘭は去年試合をした時より遥かに強くなっている。まずそれを認めよう、と。
そして確認しておこう。うちはいつも通りのうちらしい試合ができているということを。
焦るなよ。後半も前半と同じでいい。
いつも通りの――うちらしいプレーをな。
一方の市蘭。黒木監督は言う。上出来だお前ら!と。
どこが上出来なんだよ!?ああ?いつ点取られるかわかんねえ展開じゃねーか!!
八津野とは違い、一言喋っただけで詰め寄られる黒木。ハハハ。
いつも通りのプレーで、八津野にリードされてないだろーが!!
それだけお前らには力がついているんだ!!
後半も――この調子でいこう。
試合前の練習でも、両監督は似たようなことを言っていた。
さすがに良い監督は似たような考えを持つということなんでしょうかね。
後半試合が大きく動くのは――いつも通りのプレーが崩れることがきっかけだった。
不吉な言葉が出てきました。
先に崩れるのはどちらなのか。そして、崩れたことが悪いほうに傾くのか、逆によくなったりするのか?
どちらともとれる予言なだけに、なんとも困る。
ともかく、後半戦である。1点勝負になりそうな状況だが、果たしてどちらが先制するのか。
そしてどんな決まり方になるのか。注目だ!
第238話 最高のパス
(2012年 17号)
後半開始。両チームとも選手の入れ替えはなし。
松田の解説も継続中の様子ですし、マイちゃんも安心して聞けますね。
しかし、後半もまたキックオフ直後から八津野の猛攻が始まる。
天城が持ち込みシュート!
しかしバーに弾かれる。まあ、枠に入っていたなら所沢が抑えていたでしょうけどね。
後半は八津野が風上になる。向こうにしてみれば攻めるにはいい状況だ。
だけど、ここで失点を許すわけにはもちろんいかない。
今は耐える。耐え続けていれば、必ずまたチャンスは来る!
後半が始まって10分経過。
ボールはほとんど八津野が支配している。が、まだシュートは2本しか打てていないという。
八津野のDFにも焦りが見えていますな。
前半は10分のうちに4、5本打てたのに、何故こうなったのか?
その答えは簡単。
市蘭のディフェンスが・・・
前半立ち上がりより前半終盤。前半終盤より今・・・ディフェンスがどんどん安定してきてるじゃねえか。
強豪である八津野の猛攻に最初は戸惑っていた。
それでも、そこで失点を許さなかったからこそ、攻撃にも慣れることができ、安定してきたということですな。
八津野の応援団にも焦りが見えてくる。
その焦りを隠すかのごとく、声援を送る応援団。
せき立てんじゃねえよ。
そういった心理が見えてしまうのか、受ける八津野の選手の方にも苛立ちが見える。ううむ。
それゆえか、市蘭DFがクリアしたボールは前線に、乾へと繋がる。
乾はファーストタッチで八津野DFの有村をかわす。
さあ、市蘭の反撃の始まりだ!おおおおおキター!!
ボールを持ち込む乾。その前に走っている成田。
市蘭の攻めは2枚。八津野のDFも2枚。2対2という状況である。
うわっ・・・やべえっ・・・やべえっ・・・
ようやく八津野の観客にもハッキリとした焦りが見えてきた。いい気味である。
ねえぞ・・・こんなチャンス・・・そうそうねえぞ!!
乾・・・!成田っ!決めてくれ!!
二宮さんや脇坂さんの願いを受けて、乾が、成田が走る。
乾の選択肢は2つ。目の前のDFを抜いて自分で持ってあがるか、成田に走らせるか。
守備に時間を与えたくないなら成田を使うべき。だが、スペースに出すのは難しい。
少しでも球足が長ければ皆川が飛び出して抑えてしまう。
皆川が前に出られず、成田がDFを振り切れるギリギリのポイントに出せるか。それが問題だ。
松田も難しいというこのパス。これをきっちりと成し遂げる乾。
さすがに天才と称されるだけのことはあるということですよ。
DFが踏み込んだばかりの足のすぐ横を通るようにパスを出す。
そのタイミングでは、足も伸ばせず、すぐ横を通るのを見送るしかないって話ですな。
距離感もほぼ完璧。皆川も飛び出すことができない。
なんせペナルティエリア外で成田がボールを受けれそうな距離ですからねぇ。
あとは成田に併走しているDFの佐久間。この男を振り切ればGKと1対1である。
再び1対1に持ち込めれば得点のチャンスは十分にある。
だが、なんとなくここらで異変が起きそうな気配がある。
おそらくこの佐久間、何度も成田に裏を取られてなるものかという思いがありそうな感じがする。
つまり、無茶しすぎてペナルティエリア内で成田を倒してしまう可能性がある。PKだ!
1対1は克服した以上、成田が今一番苦手としているのはPK。
この場面でPKの機会を得たとき、成田はどうするだろうか?
大事な場面だからと乾に譲るか?それとも自分が蹴ると言い出すか。
PKになると決まったわけではないが、なんとなくそうなったら楽しそうな気がするぜ。
第239話 先制!?
(2012年 18号)
乾から出た最高のパス。これに成田が先に追いつくことに成功した。
今度こそ先制することができるかもしれない。決めろ成田ー!!
キーパーとの1対1。さっきの通りなら決めることだって不可能ではない。
だが、成田の体が前のめりに倒れる。これは・・・足をかけられた?
八津野のDF佐久間が成田を止めようとして足をかけてしまったらしい。
ってこれ思いっきり真後ろから行ってるじゃないか。悪質ですよ。
当然のように笛が鳴る。これはもしや・・・?
審判の判定はエリア内でのファウル。つまりPKだ!PKだあああ!!
1点をほぼ確実にものにできるチャンスであるPK。
この獲得に沸き返る市蘭。間宮先生も凄く嬉しそうにしています。ハハハ。
ルカさんの表情が一人だけ浮いていて逆に目立つな。
思わぬPKの獲得に逆に衝撃を受ける市蘭。
これで確実に1点取れる!あの八津野から・・・全国2位の八津野から先制できる!!
さらに市蘭にとっては嬉しい出来事がある。
佐久間の行為は悪質と判断され、レッドカードが出される。つまり一発退場だ。
ほぼ確実に1点をもらえ、さらに相手の人数が減る。
市蘭にとっては美味しい事このうえない流れでありますな。
フィールドを去る佐久間に天城が話しかける。らしくねえぞ、と。
佐久間もクリアできると思ったわけではない。ただ・・・点を取られたくないという気持ちを抑え切れなかったのだ。
バカヤローが・・・1点取られるより、1人少なくなるダメージの方が大きいんだぞ。
天城の言うとおりですな。八津野にとっては大きな痛手である。
しかし、天城はそれで佐久間を責めたりはしなかった。ただ一言だけ言う。後はオレたちに任せろ、と。
天城もキャプテンとして頑張っているようですなぁ。
これは、市蘭が得点したら久々に鬼天城が現れるか?
この展開に、島村監督もマジメな面持ちになっている。
ハーフタイムで言っていた言葉を守りきれなかったことを惜しく思っているようだ。
格下の市蘭から思ったように点が取れず焦ったようだな。
1点をめぐる攻防・・・ぎりぎりの試合・・・
そんなもの今まで数えきれんくらい経験してきただろう。
相手が船学だったら、同じような試合の流れでもあんなところで足をかけたりはしなかったはずだ。
いつも通りのプレーに・・・徹しきれんかったか。
寂しい話でありますね。
考えてみると市蘭と八津野は状況がかなり違うんですな。
市蘭は強豪とやるのは初めてではない。というか、もう慣れっこなぐらいである。
逆に八津野。格下と思った相手に接線を強いられている。経験の少ない出来事だ。
どちらがいつものプレーに徹することができるか、考えるまでもなく明らかだったわけですな。
さて、PKをもらった市蘭だがなんだか揉めている。
どうやら成田。オレが蹴るといって聞かないようだ。うむ、いつもどおりだ!徹してるねぇ。いやいや。
PKは乾が蹴ることに決まっている。誰が決めたんだ?誰が?監督だよ!!
うむ、まあそれが一番確実でありますからねぇ。
別の試合では成田にチャンスを譲っていた二宮さんも必死で成田を止める。
さすがに1点を争う八津野との戦いですからねぇ。チャンスをフイにはしたくない。
というか、その譲ったときも止められてましたからなぁ。
それでも、オレがもらったPKだからオレが蹴って何が悪いと譲らない成田。
そうだな成田・・・習実戦でPKを止められてから、お前は誰よりも真剣にPK練習にとり組んできたんだもんな。
成田の頑張りを知っている百瀬。静かに成田に声をかける。
ここは乾に任せよう。
えええっ?
あれだけ成田の頑張りを認めたような振り返りをしていてその結論ですか!?
いや、当然の選択ですけどね。
それはそれ。これはこれというやつである。キャプテンである百瀬は決断をしなければならないのだ!
まあ、万一キーパーに止められたとき、押し込むのは素早い成田が一番でしょうしねぇ。
そういう考えも含めて乾が蹴るのが一番いいのは間違いない。
成田がもらったPKとはいえ、そのチャンスをつくったという意味では乾にも権利はありますしね。
さて、このPKで先制点は入るのでしょうか?
これで勝負が決まるわけでもないだけど予想がつきにくい。入りそうな気もするが・・・はてさて。
第240話 GK
(2012年 19号)
結局PKは乾が蹴ることに決まりました。コーイチさんが言うんじゃあしょうがないですよね。
しかし、なんでそんなに自分で蹴りたがるのやら。
成田「おめえらもオレが蹴ったほうがドキドキできるだろーが!!」
二宮「そんなドキドキいらねえんだよ!!」
まったくその通りですな。確かにドキドキできるけど、いらねー。
オレだって・・・絶対に決める自信があんだよ。
自信だけなら一丁前ですからねぇ。
とはいえ、初めてのPK戦のときは凄い緊張してましたけどね。
あれから練習を重ね、自信を持てるぐらいにまでなったということなんでしょうけど・・・やはりこの場面はねぇ。
それを・・・コーイチさんのたっての願いでおめえに蹴らせてやるんだ。外したらブッ殺す!!
たっての願いだったのか!?うん、もうそれでいいや。
さあ、後半10分。確実に1点をもらえそうなチャンスが巡ってきました。
乾であるならば、問題はない・・・そう思えるのだが果たして?
PKの知らせはマイちゃんの病室にも届く。
さすがにこの一報は興奮なしでは伝えられなかったようだ。不良君も焦りながら報告する。
蹴るのはまだこれから。という場面なので、マイちゃんは横たえた体を起こし、お祈りしようとする。
しかし、その右手はブルブルと震えている。緊張とかそういう話ではない。
病状は、右半身の震えを自分では全く抑えられないほどに進行していたのだ。
母親の助けを借りて、胸の前で手を合わせるマイちゃん。
乾くん――決めて!!
必死のお祈り。これは・・・見ている方も余りに辛い。
決めてくれっ乾!!
市蘭イレブンも必死で願う。
その緊張感の中で成田が口を開く。
いっ・・・いいかキヨハル。蹴る直前にコース変えるとか・・・変な小細工するんじゃねーぞ!!
前もってコースを決めて、迷わずそこめがけて蹴っていけ!
こういう時のPKはその方がいいんだ。考えすぎるなよ!!
成田のアドバイスは正しい。
あいつ・・・そんなことまで考えながらPKの練習してたのか?
二宮さんもちょっと成田のことを見直した様子であります。ちゃんと頭使ってたんだ・・・!!
蹴るコースも蹴り方も決めてある。迷うのはキッカーの仕事じゃねえ。
迷うのは・・・GKの仕事なんだよ。
乾は流石ですな。まさしく釈迦に説法といったところでしょうか。
皆の祈りを背負った乾。気負いもなく、決めてくれそうな雰囲気。
しかし、ここで松田による皆川の解説が入ってしまう。
皆川は兄もGKである。皆川裕貴――高校サッカー界ではナンバーワンのキーパーと言われた男。
船学の正GKとして活躍し、卒業後はJリーグに進んだ。
さすがにJリーグに入ってすぐレギュラーというわけにはいかない。
GKというのは経験が最も大事なポジションである。いくら皆川さんでも卒業してすぐレギュラーなんてことはありえない。
それに、いくつものチームから入団オファーがあった中、皆川兄が選んだのは、日本で1番レギュラーになるのが難しいチーム。
現日本代表の正GKがいるチームである。
もっとヘタクソなキーパーがいるところに入れば、すぐにレギュラーになれる可能性はある。
だが、わざわざ凄い人。日本代表になるくらいの人がいるところを選んだ。
そのチームに入るほうが盗めるもの――吸収できるものが多いからという判断だ。
その人に追いつき――追い越す。
たぶん皆川さんは自分が日本代表GKになることを目指してるんだよ。
その兄――皆川裕貴に追いつき追い越そうとしてるいるのが、あいつなんだ。
さすがに松田も皆川弟のことを詳しく知っているわけではない。
でも、皆川兄の名は知れ渡っている。その兄に追いつき追い越そうとしている弟。注目するには十分ですわな。
オレの名前を知ってるか?皆川総司ってんだ。総てを司ると書いて総司――
GKになるためにつけられたような名前だと思わねえか?
皆の川を知り、総てを司るってわけですね。なんだよ皆の川って。
ちなみに、この皆川。
こんなことを言っているが、少年期。サッカーを始めたばかりの頃はGKというポジションを毛嫌いしていた。
そんな皆川がGKというポジションに本気で取り組むきっかけになったのは――あるPKだった。
子供の頃はとにかくボールを蹴りたいと思うものですしね。
GKというポジションを進んでやる人はそんなにいなかったでしょう。
そのきっかけになったPKとは一体なんなのか?
その内容によって、止められるかどうか決まってしまうのでしょうか?
これは・・・どうなるか本気でわからん。
しかし、マイちゃんの祈りを叶えてあげてほしいという思いは強い。決めてくれ乾!!
ANGEL VOICE 28巻
第241話 乾対皆川
(2012年 20号)
スタジアム中が固唾をのんで見守るPK。
決めるのか!止めるのか!一体どっちなのか!?
というところで回想が挟まる。
皆川総司と皆川裕貴という兄弟。小さい頃から仲が悪かった。
とはいえ険悪というわけでもなく、兄弟喧嘩なんてどこでもやるだろって感じの悪さである。
というか、なんで兄だけケーキが2つ配られているんだろうか。その時点でおかしいっショ。
兄、裕貴がサッカーを始めた2年後。兄に反発する総司は野球をやりたいと言い出す。
でも、お兄ちゃんのお古のシューズがあるからあんたもサッカーやんなよと勧められてしまう。
なんとも兄弟模様でありますなぁ。
こうしてサッカーを始めた皆川総司。兄と違うチームに入ったのはささやかな抵抗である。
やってみたいポジションはフォワード。どうせやるなら華のあるFWがいいと思ったのだ。
しかし、あの皆川の弟であると知られると監督の態度が一変。
兄、裕貴は小学5年生にして名キーパーと言われていた。
そのため、弟の総司がキーパーをやってみなさいと言われる流れになるのも不思議ではない。
全部・・・全部あいつのせいじゃないか。
なるほど。最初はキーパーが嫌いだと言ってたのはこういうことだったんですな。こりゃ仕方ない。
だいたいGKなんてポジションは運動が苦手なやつのポジションだろ、と考えている。
子供にとっては特にそういう思いは強いでしょうな。実のところ大事なポジションではあるのだが。
運動神経は図抜けていた。監督もすばらしいと賞賛する。
おかげで嫌で嫌でたまらないGKというポジションも定着してしまう。
考え方が変わったのは、無理矢理連れていかれた兄、裕貴の試合――初めて見た兄の試合だった。
0対0のままPK戦にもつれ込んだ。
味方が5本中2本外す中――裕貴は3本のシュートを止め、チームを勝利に導く。
その試合――その時の兄、裕貴は、間違いなくどんなサッカー選手よりもカッコ良かった。
オレも!!
あの時のPKを思い出したかのような皆川。これは・・・!?
乾――ボールの左後方から助走をつけそのまま真っ直ぐゴール右隅に向けてインサイドキックで蹴り出す。
これは最もボールにコントロールをつけることができる蹴り方である。
キーパーからは蹴る瞬間までキックの種類は判別できない。
キッカーが全く同じ助走からインフロントキックあるいはインステップキックでゴール左隅を狙うのもPKの常套手段である。
その乾の難しいキックを、こっちだと決めて飛びつく皆川。
伸ばした腕は――見事にボールに届き、ゴールに入るのを防いでしまう。
乾が止められた!?この出来事に驚愕する市蘭イレブン。
それゆえかルーズボールになったの飛び出しが遅れてしまう。うまくすればここも得点のチャンスだったのだがね。
八津野のDFのクリアによりスローインとさせられてしまう。うーむ、耐え抜かれちゃいましたね。
ああああっ・・・!!
吠える皆川。八津野の選手も皆一様に嬉しそうにしている。
退場となった佐久間もなんとも味のある表情となってますな。気持ちはわからんでもない。
逆に止められてしまった市蘭の意気消沈はかなり大きい。
こんなチャンスは・・・もうねえぞ!!
尾上ですらそんなことを考えるこの状況。
そんな中、ひとり決心したかのように頷く乾。一体何を考えているのだろうか?
回想が挟まったので、そうなるんじゃないかと思ったけど、やはりというかまさかというかのPK失敗。
この失敗が尾を引くと市蘭はやばいことになるが・・・?
安定させることができるか。その後の攻めにつなぐことができるか。
冷静に考えれば、人数が多い分中盤は特に有利になるのだから、市蘭が攻める形にはなりやすいはずだが・・・?
現在はまだ後半10分。どうとでも展開しそうで怖いところですな。
第242話 責任
(2012年 21号)
皆川のスーパーセーブに沸き返る八津野の応援団。そりゃ沸くさ。
逆に声を失ってしまう市蘭応援団。これは悔しい。
決めて当たり前と言われるPK。それをあの乾が止められる。
ルカさんも、あいつでも止められるってことがあるんだなと意外そうにしている。
どうやら乾の狙いより内側に入ったらしい。
本来はゴール右隅ギリギリを狙っていた。
そこならイチかバチかでキーパーが同じコースに跳んでも絶対届かないからだ。
だが、その隅より内側に入ってしまった。それゆえ、止められることになってしまった。
では、何故内側に入ってしまったのか。それは大事な試合だったからだ。
百瀬は言う。
たぶん乾は、今までのどんな試合よりこの試合に勝ちたいんだよ。
そりゃあそうでしょうね。ここまで来て負けたくはない。
八津野に勝利することが、これまで目指して来た目標の1つなんだから。
隅を狙うのは止められにくいが、逆に外側に行ってしまうと枠を外してしまう。
そうなれば、絶対に得点にはならない。それを恐れてしまったのでしょうね。大事な試合ゆえの慎重さがでたわけだ。
このPK失敗の報告はマイちゃんのもとにももたらされる。残念です。
ぶるぶると震える手を押さえながらうなずくマイちゃん。うう・・・
今のPKについてだが、責任はゴール前にいた全員にあると関根さんは言う。黒木監督も同意見。
というのも、ルーズボール。
皆川がキャッチできず弾いたボールを押し込んで得点にするチャンスはあった。
ところが、簡単にクリアされてしまった。
それは近くにいた二宮さんの責任だけではない。
エリアの外で待機しとる者全員――キヨハルが蹴った直後の動き出しが遅かったわい。
なるほど。皆どこかで乾なら確実に決めると思い込んでいたから、か。
試合中のPKはキッカーとフォローする者全員の連動が欠かせんからのぉ。
せっかくのチャンスだったのに、その動き出しの悪さも手伝ってフイにしてしまった。
二宮さんは自分で気づいているようですが、悔しい話でしょうな。
チャンスをものに出来なかった場合、流れが相手側に行ってしまう可能性がある。
あいつら大丈夫だろうかと心配する不良くん。
それに対しマイちゃん。大丈夫だよ。応援団が一杯いるから、とのこと。
気持ち切り替えて行こうぜー!!
八津野相手にまだ0−0じゃねぇか!!
まだまだー!ここからよ!!
いけるいける!!八津野に勝とうぜ!!
口々に応援してくれる生徒達。これは嬉しいですねぇ。
かつては嫌われ者だった市蘭サッカー部。それがこれだけ温かい声援を受けれるようになるとは・・・
なかなか感無量なものがあります。市蘭イレブンも落ち着きを取り戻したようだ。
なんだかんだで、退場者を出した八津野は1人少ない10人になる。有利にはなるはずなのだ。
その八津野。PKをクリアした直後に選手交代を行う。
FWの仁科を下げ、DFの小座間を投入する。
天城はポジションを1つ上げ、トップ下で攻撃に専念する。
こうやって攻撃は激しくし、守りはしっかり固めようという考えらしい。
中盤が空くような形になるけど、ある程度はしょうがないんでしょうな。
それと、オレたちは風上に立っている。追い風を積極的に使えってよ。
島田監督の言葉を天城に伝える小座間。
風ねぇ。最初の陣地決めがどこまで影響してくるのか。見物ですな。
その結果いかんによっては、百瀬のジャンケンの弱さも鍛えなおすことを考える必要が出てくる。
習志野にPKを先行されたときも百瀬のジャンケンの弱さ故だったからなぁ。
小座間は成田より身長が低い。空中戦は圧倒的に不利だ。
とはいえ、ヘッドの打点の高さで成田に勝る者はうちにはおらんと島田監督。
競い合いにもならん空中戦に備えるより、スピードと反応の早さで競り合える者を入れたほうがよかろうとの判断だ。
果たして島田監督のこの判断はどういった結果となるのか?
反応が早すぎて成田の足をかけてしまって2人目の退場者になったりしたら意外すぎますよね。
いや、さすがにそういう展開にはならないと思うが・・・意外すぎますよね?
第243話 10人対11人
(2012年 22+23号)
八津野が一人抜けたことで、市蘭のボール支配率は上がっている。
乾が突破し、再びゴール前での得点チャンス!
低くて速いボールを受け、前に飛び出す。成田の足でそれに合わせると言うパターンだ。
だが、このパスが抑えられる。市蘭イレブン驚愕。
これが島村監督が小座間というDFを投入した効果である。
成田についていけるぐらいのスピードの持ち主。そんな奴もいる。さすが八津野は層が厚い。
助かったよ。
お前みたいなやつがいないと、なかなか試合に出る機会がなくてな。
本当はもっと前でやりてえけど、技術がおっつかねえんだよ。
と語る小座間。スピードは凄いが、技術は追いついていないってことか。
そういう意味では、成田のような選手に当てるとか局所的な使い方しかできないですわな。
この小座間に対抗するため、もっとギリギリのところにパスを出せと要求する成田。
余裕で追いつけるところじゃあいつがついてくる。
オレでも追いつけるかどうか・・・もっとギリギリのところに出せ。
あんなやつ・・・振り切ってやらあ!!
やる気になっていますね成田。果たしてそれは吉と出るか?
後半13分。ボールは市蘭が支配している。
さすがに八津野も10人となると苦しいんですねと判断する校長。
しかし、間宮先生は冷静。うちに攻めさせているだけかもしれませんと考えている。
天城とFWの11番。前に2人だけ残して全員がベタに引いている。
攻撃方法をカウンターだけにしぼったということなのか?
八津野ほどのチームがそんなことをするだろうか?
その懸念は正しい。黒木監督も八津野が積極的にボールを取りに来ないのは理由があると考えている。
10人体制になってからの守備の連携を確認しているからだ。
その確認ができたら――また一気に全体を押し上げてくるぞ、とのこと。
ならば今のうちに得点をしておきたい市蘭。
乾がボールを持ち、成田の要求どおり、ギリギリ追いつけるかの速いパスを出す。
が、これも小座間に追いつかれてしまう。
乾をして、あれが通らねえのか?と驚く位置である。これは厳しい。
よし――いこう。
天城の指示を受け、八津野がボールを持ち、ラインを前へと押し上げだす。
後半18分――八津野再び攻勢に転じる。
やはりこの短い時間で得点に結びつけることはできなかった市蘭。
再び開始される八津野の猛攻に耐え切ることができるだろうか。
小座間がスピードがあるのはわかったが、高さに関しては成田の方が上である。
ただ、ヘッドでゴールを狙う場合、キーパーが飛び出せるところに蹴ることが多くなる。
そうなると、キーパーは皆川。抑えられないようにするのがかなり大変となる。
セットプレーならまだしも、前に待つ成田に向けてパスを通すシチュエーションでは難しい。
これは市蘭の得点がまた厳しい展開になってきましたよ。
でも、その前にまず八津野の猛攻を防ぐところからだ。DF陣頑張れ!!
第244話 残り5分!!
(2012年 24号)
再開される八津野の猛攻。
1人減って10人になったはずなのに、その激しさは11人の時を上回っているかのように思える。
10人になった方が、かえって11人の時よりも攻撃のリズムが良くなることもあるんだ。
と松田は言う。それはまたなんで?
11人が10人になるってことは、パスの受け手が1人少なくなるってことだろ?
パスの出し手にとっては出しどころの選択肢が1つ減るわけだから――その分考えることも迷うことも少なくてすむからなんだ。
なるほどね。確かに選択肢が少ないなら迷うことも減りリズムはよくなるわけだ。
ただ、その分相当な運動量を要求される。
それぞれが確実にパスを受けられる位置に常に走りこまないといけないわけだからだ。
八津野は天城をトップ下まで上げたので中盤にスペースができている。
これからは市蘭の攻撃機会も増えるだろうというのが間宮先生の見解。
だが、攻撃の機会は増えるが、なかなか得点には結びつかないでいる。
そうこうしているうちに後半も25分経過。さらに30分経過――
両チームとも1点が取れず、膠着したゲーム展開となっていた。
1点取った方が――この試合に勝つ!!
その意識は両チームとも持つようになっている。
そんな状態で後半35分経過。残り5分。
八津野側に動きが見られた。選手の交代だ。
故障による交代じゃない。疲労による交代だ!!
交代した選手だけではなく、八津野の選手は皆限界が近い。
1人減り、少ない人数でやっている分、疲労はかなり大きいのは当然である。
それに対し市蘭。さすがに体力は得意分野としているだけあり、まだまだ走れる。
となると、ここで作戦を考える必要が出てくる。
引いて守りを固め0対0のまま延長に引きずり込めば――こっちが圧倒的に有利!!
どうするっ・・・?守るか?
それとも数的な有利さも含め、得点するチャンスと見て一気に前に出るか?どうする?
悩む百瀬。周りを見渡す。
「らしくねえことさせんじゃねえぞ」
「いこうぜ」
「攻め続けたから、オレたちはここまで来れたんだろうが」
皆、口には出さずとも思いは同じようだ。
1年生たちも、いきましょう!と声をかけてきてくれる。ついにで丹羽さんも。おぉ・・・ちゃんといたんだ!
広能のスローインを乾が受け取る。
これを合図として、百瀬が右腕を振り上げ、号令と共に下ろす。
オレたちは――オレたちらしく。
上がれー!!
残り5分。文字通り――双方が"死力を尽くす"5分間になる。
黒木監督がハーフタイムで言っていたセリフの通り、最後までらしくやりぬこうとする市蘭。
ここからの時間帯は市蘭にとって有利な時間である。
だが、それでも万一ということはありえる。
攻めきれず、カウンターで失点なんてのもあるわけで、怖い状況には変わりがない。
しかし、果敢に攻めていって欲しいという思いはもちろんあります。
この5分で勝負は決まるのか。それとも延長に持ち越すことになるのか。
死力を尽くす5分に期待だ!
第245話 疲労
(2012年 25号)
残り5分。市蘭の攻撃。
乾が突破をかける!
成田の側には俊足のDFが張り付いており、簡単にパスは出せない。
百瀬につなぎ、左サイドの尾上へ。
このパスは通るが、ボールを中に入れることはできず、クリアされる。
さすがだ。集中力はまだ切れていない。だが・・・間違いなく疲労はピークにきている。
この残り約5分。ここで決めようと考える市蘭。
そんな中、やはり俺が決めるんだと考えている成田。
乾がパスをくれなかったのが不満な様子。
とはいえ、位置取りを変えるなりして15番のマークを外してくれないと乾も出しようがない。
速さだけでどうにかなる相手ではないことはこれまで散々試してわかっていることである。
次は絶対振り切ってみせる。このままじゃオレのプライドが許さねえんだよ。
おめえのプライドはこの試合とは関係ねえ。
いやまったく、乾の言うとおりでありますな。
次もある試合ってわけではなく、3年生にとってはこれが最後になるかもしれない試合だ。
残念ながら成田のプライドに拘るわけにはいかない。
さて、ここで決めようと決意した市蘭。全体を押し上げて攻勢に出る。
そんな中、松田は携帯をカメラモードに切り替えようとしている。
決定的瞬間を写メで送ろうという話ですな。
スタンドからいい写真が撮れるものなんでしょうか?
いや、なんせあの天才と呼ばれる松田である。まるでバックネットから撮ったような見事な写真を写してくれるに違いない。
残り時間から考えて、観客ももう1点勝負だなと考えるようになっている。
1点を取った方が・・・勝ちです!
その1点を得るために、再び乾が突破をしかける。
動きの鈍くなっている八津野のDFを交わす乾。
このまま突破もありえる。なので、そうはさせじと3人がかりで囲む八津野DF陣。
気づけば、15番が成田のマークを他の奴に渡して乾の側に来ている。
これは・・・と思ったが、乾から成田にパスを出すコースはない。
後ろに戻す乾。そこに走りこんでいたのは・・・尾上!!
打て尾上ー!!
コースは空いている。そこに向けて見事なミドルシュート!!
並のキーパーであれば碌な反応もできなかっただろうミドル。だが、さすがに皆川。これを防ぐ。
だが、キャッチはできなかった様子。ルーズボールとしてゴール前に転々と転がる。押し込めー!!
成田のシュート。これは倒れたまま伸ばした皆川の手に阻まれる。
ならばと詰めて来た二宮さんが押し込む。しかしこれは八津野のDFに阻まれる。
ルーズボールは八津野の足下に。ここは大きくクリアだ!
そう考えるが、既に疲労はピークに達している。踏ん張りが効かない。
それでもなんとか蹴り出したボールは、間近まで来ていた乾の体に当たり、ふわりとゴール前に転がる。
そして、その決定的な場面にボールを得たのは・・・百瀬!!
ゴールにはDFがいるのみ。皆川はまだ起き上がりきってはいない状況。
この決定的なチャンスを百瀬はものにできるのだろうか!?
コーイチさんなら決めてくれる。そういった信頼感はある。あるが・・・どうなるかわからないのがこの作品である。
期待できるとしたら、松田の写真フラグ。
あれはここでのゴールシーンを写すことを意味していたのではないかと思える。
が、ひょっとしたらここでカウンター喰らって逆にゴールされる場面を写すことになるとかいうのもありえる。
いや、別にゴールされたシーンを撮る必要はないか。それを送ってもマイちゃんを喜ばせることにはならないしな。
第246話 カウンター
(2012年 26号)
百瀬ー!!決めろー!!
決定的なチャンスで、ボールは確実性のある百瀬の足元に。
・・・落ち着いて。シュートコースはキーパーの逆――
ゴールマウスに詰めている15番の左。高さは足でもヘッドでもクリアが難しい腰の上あたり。
百瀬、インサイドキックでシュートを放つ。
冷静である。最もコントロールしやすいキックで放たれたシュートは、狙いをたがわずゴールに向かう。
枠は外れていいないし、高さもばっちり。
八津野の15番、小座間。身体をぶつけて止めるしかないと横っ飛びをする。
だが、間に合わない・・・!!
残り3分――これが決まれば勝てる。
八津野に勝っ――
思わず勝利を確信しそうになる二宮さん。それがフラグだったというわけではあるまいが・・・
バシッと横っ飛びでボールをキャッチする皆川。
あの距離を追いついたというのか・・・!?
百瀬の判断が間違っていたわけではない。
この状況、強く蹴って枠を外すのが一番まずいわけですし、正確にコースを狙うのは正しい。
だが、その分威力は抑えられ、皆川に間に合わせる結果となってしまった。
しかも、弾くのではなく、完全にキャッチされている。
となると、この後行われるのは――
百瀬「戻れー!!」
皆川「上がれー!!」
皆川のスーパープレーで止めたことによる観客の反応。
その湧きかえりよりも、選手の動き出しは早い。
前線を上げていた市蘭はいちはやく戻らなければならない。
八津野もカウンターチャンスなのだから、いちはやく動かなければいけない。
こんな状態の中、一番に反応したのは天城。
反応したのが早かった分、後を走る脇坂さんが追いつけないでいる。
1点――1点取ればケリがつく!!
八津野としても考えていることは同じようだ。その1点を取るチャンスがやってきた。
死ぬ気で走れ!と激を飛ばす八津野陣営。
前線に送り込んだ皆川のパントキック。八津野で唯一前線に残っていたFW蓑部に正確に届く。
同じく残っていた万代さん。ボールは取れなかったが、蓑部の足止めには成功。よくやった!!
が、そこに走りこんでくる天城。前ー!!
蓑部が前線にボールを放る。そこに向けて走る天城。
所沢がクリアしようと飛び出しをかける。どっちだ?どっちが先に追いつく?
早い飛び出しに定評がある所沢。
その所沢をして、天城が先に追いつくと判断される。
ペナルティエリアを出たところで、足を止めた所沢。
ボールは跳ねている。落ち着かせているヒマはない。最初のボールさばきで・・・すべてが決まる、と天城。
そのボールタッチは完璧。
ファーストタッチで所沢の横を抜ける。
このまま天城がボールを追って蹴りこめば、無人のゴールにボールは吸い込まれることになる。
これは・・・絶体絶命か!?
松田の写真フラグもあったので、ここは得点シーンが来るかと思ったのだが、むしろ得点されそうな市蘭。
最後の砦、所沢も抜かれそうになっている。これは一体どうなるのか?
いや、所沢はまだ抜かれていない。腕を伸ばせば天城を引きずり倒すことぐらい可能である!!
まあ、それをやったら確実にレッドカードでしょうけどね。
ただ、ペナルティエリア外なのでPKにはならない。
所沢が退場になっても、キーパーの練習をしていた万代さんがなんとかしてくれるかもしれない。
ただ、退場した場合、所沢が次の試合に出れない可能性がある。
あの松田がいる習志野相手に所沢抜きではハッキリいって厳しい。となるとファールで止めるのはないか?
近くまで戻ってきている成田の足に期待したいところである。
第247話 負ける!?
(2012年 27号)
最後の砦である所沢が抜かれた!!市蘭、絶体絶命!!
ここまで・・・ここまで何とかくらい付いてきたのに。
たった1本のカウンターで負けんのかよ。
そんな諦めが頭によぎりながらも、必死で走る市蘭イレブン。
その様子を見た所沢。ある行為に出る。
それは――横を通り抜けようとした天城の足を掴み、払うこと!!
ここを通すわけには・・・いかない!!
盛大に払われ、胸から着地する天城。
その横を走り抜け、ボールを追う脇坂さんと成田。
ボールはゴールに向かっていたが、どうにか追いつきクリアする。
そのクリアを見た後、主審が笛を吹いた。
ふむ、これはアドバンテージってやつですね。
ボールがゴールに向かっていたから、明確なファールでも一旦流していたわけだ。
主審が所沢に示したのは、レッドカード。退場でございます。
ったり前だろーが!
どう見てもワザと天城を倒したんだからよ!!
ですね。このレッドはしょうがない。所沢も覚悟しての行為だったでしょうし。
キーパーはいないと試合が成り立たない。なので、退場になったあとはポジションの入れ替わりが認められる。
ここで代理のキーパーとなるのは、練習をしてきた万代さん。ついに練習の成果を見せるときが来たか・・・
所沢がファールをしたのはペナルティエリアの外。なのでフリーキックになる。
ここで得点されるわけにはいかないので、頑張って壁を立てる。
万代さんが壁から抜けたので、代わりに高さのある成田を基準。外に二宮さん、内は山守から立てる。
グラウンドから去る前に、天城にケガしなかったですかと声をかける所沢。
だが、天城はそんなことに構っていられない。もう次のプレー、フリーキックに集中しているんだ。
一礼して立ち去る所沢でありました。
所沢のこのプレー。関根のじっちゃんは高く評価する。あのファウルがなかったら試合が決まっていた、と。
まだ教えとらんかったことを、一瞬の判断でようやってのけた。あっぱれじゃ!!
さすがワシのでしっ。と嬉しそうな様子の関根さん。
黒木監督も、退場する所沢を労う。
また、皆川もこのプレーを評価している様子。
アニキ――ケツに火がついてんぞ。オレ以外にも・・・あんたに追いつきそうなやつがいるんだよ。
あの皆川がここまでの評価をしてくれるとは・・・!!
どれだけ良いプレーであったのか、松田が説明してくれます。
プロフェッショナルファウルといって――チームの危機を救うためにワザとやるファウルがあるんだよ。
相手の選手にケガをさせず、審判の目を欺かないという条件付きでね。
なるほど。それはプロフェッショナルな感じがありますな。
やむおえず手を汚すときであっても、正々堂々と行うって話か。なんだか格好良く聞こえるな。
でも、凄いヤジが八津野からは飛んでいる。反則野郎が!!帰れ帰れ!!
八津野の生徒は強豪校だけあってサッカーを見慣れているからね。ヤジって追い出すのが八津野の伝統なんだよ。
ハハァ。つまり八津野もあのファウルは仕方ないものだとわかっているわけだ。
ちゃんと天城をケガさせず防いだ所沢に敬意を表する意味も込めてのヤジなんですかねぇ。
サッカーをわかっているチームの観客は違うなぁ。
ちなみに船学の応援団は――まったくの無言でいたたまれない雰囲気を作るよ。
そ、それは嫌だな・・・
ヤジってくれたほうがまだ気が楽な気がする。伝統にも色々とあるものだ。
さて、所沢が己の退場をかけてまで防いでくれたゴール。
このフリーキックで明け渡すわけにはいかない。ぜってー勝つ!と気合を入れる市蘭。
万代さんも、やってやらあと気合十分。
それはいいけど、頭の色とキーパーのユニフォームの色が凄く似合わないですね、万代さん。
キーパーは所沢じゃない。あの壁を越えれば――ゴールだ!!
一難は去ったがまた一難。
所沢のいないゴール前は凄い不安感がある。ここで点を取られたらまさに元の木阿弥。
果たして天城のシュートを防ぐことができるのだろうか?
おそらく直接フリーキックでしょうし、直接ゴールを狙ってくると思われる。こりゃあ怖い。
逆に、ここを防げばカウンターのチャンスが・・・と思ったら壁に成田がいるな。
場合によっては延長になるかもしれない。が、その場合所沢抜きで攻撃を耐えないといけなくなる。
それは厳しい。なんとか後半で勝負を決めたいところだが・・・果たしてどうなるか。
あと、所沢はやはり次の試合出れないのだろうか?
そうなると、あの松田率いる習志野の攻撃を所沢抜きで防がないといけないことになる。
二強の一角である八津野を破ったとしても、困難な試合が待っていることになるわけだ。上手いなぁ。
第248話 フリーキック
(2012年 28号)
絶対に失点できない試合終了間際のこの時間。
八津野にとっては絶好の位置でのフリーキック。市蘭ピンチ!!
このチャンスはものにしたい八津野。
とはいえ、試合を急いだりはしない。なぜなら、今の状態で延長に入れば八津野の方が有利になるからだ。
そうか――所沢が退場して10人対10人――数的な有利さはなくなってたんだな。
それにいくら八津野の方が疲労が激しいと言っても・・・こっちのキーパーはシロート同然の万代さん・・・
延長になったら勝負にならない。これは確定事項である。
そんな中、ロスタイムは4分と長め。
この場をしのげば、十分反撃で得点まで結びつけることができる時間である。
逆にここで入れられた場合どうなるか。同点は可能かもしれないが、逆転は難しいことになる。
それだと延長戦になっちゃうし、やはりここは止めないといけませんな。
このフリーキック。当然天城が蹴ってくる
!
と思ったのだが、ボールを挟んで天城の反対側に13番が立っている。これは・・・どっちが蹴るんだ!?
クソ・・・実戦でこのパターンは初めてだ。
初めての状況に目に見えて戸惑う市蘭。
天城が先ほどのファウルでケガをして、代わりに13番が蹴るんじゃないかと予想する山守。
確かにこの13番刈谷は前の試合でフリーキックを1本決めている。
利き足は左だし、立っている位置から走り出して蹴ることができる。
これはまた大詰めでやっかいな小細工をしてきたものですなぁ。
黒木監督。この大事な場面、天城で来るぞと推測。指示を出すが、八津野の声援にかき消される。
だが、監督が指示を出すまでもなく、ちゃんと脇坂さんは理解していた。
蹴るのは天城!!
13番につられて跳ぶんじゃねーぞ!!
見事な判断でありますな。ハラくくっていけ!
というところでプレー開始。
先に13番刈谷が助走を開始。一拍遅れて天城が動く。
もしそのまま13番が蹴ったら・・・跳んでないとカベの意味がほとんどない。だが――
跳ぶなよ〜〜〜
跳ぶなよ〜〜〜
跳ぶなよ〜〜〜
跳ぶなっ・・・よっ・・・
思わず体が動きそうなプレッシャー。だが、全員どうにかこらえる。
やはり13番はボールをスルー。蹴るのは天城であった!!
天城に合わせたからといって、あいつがカベに当てるようなヘタなキックをするとは思えねえ。
・・・それでもっ・・・もしっ。
少しでもミスってくれたら・・・
跳べ――――!!!
一斉に跳ぶ壁。さすがに成田は群を抜いて高く跳んでいる。
だが、天城の蹴ったボールはその成田の頭の上を越えて行く。この高さでも届かないのか。
カベは越えた。そのままの軌道ならゴールバーのずっと上を通過する。
だが、もちろん制球はしている。そこから曲がりながらっ・・・落ちる!!
ゴール右上の隅に突き刺さる軌道を描いているのがよくわかる。
これは危ない。カベを越えられた以上、キーパーが防ぐしかない。万代さん――
万代は―― 一歩も動けなかった。
おぉいい!!
やってやるぜと気合を入れたものの、やはりそうそう上手いことは行きませんでしたか・・・
キックはほぼイメージ通り――天城は勝利を確信する。
これは、ミスキックというのは望めない。となると防ぐしかないわけだが、誰がどう防ぐ?
このタイミングで次回に続くとか、またヒヤヒヤさせられる展開じゃないですかーイジワルな話である。
万代さんが動けないなら、いち早く動いた広能や百瀬が防ぐ形になるのだろうか?
思わず広能が手を使って防ぐとか。その場合、退場くらった上にPKになるので確実に点をとられることになる。ダメだな。
それか、ここで突風が吹いてゴールバーに当たって難を逃れるとか。そういう展開は来るかもしれない。
後半攻めるために風下に陣取ったのがアダとなったのだ!!みたいな。
なんだったら松田が風を吹かせたとか、そういう話でもいい。あいつなら風くらい吹かせれるだろうさ!!
そのくらいの奇跡をひとつお願いしますよ、ほんと。
ところで、今回の話のタイトルについて。
『フリーキック』って134話目に使ってますよね?
単語でのタイトルは被りやすいから注意が必要ですな。まあ、気にしなくてもいいのかもしれないけど。
でも、もっと気になるのは、話数が飛んでいないかということ。
本誌では249話になってるけど、順番で言うなら248話では・・・?実は前の号から飛んでいる気がするという・・・
ちゃんと飛んだ話数が戻ることがあるのかどうなのか、気になってしょうがないぜ!!
第249話 選択
(2012年 29号)
天城のフリーキックは壁を越え、ゴールに向かう。
これはいった!八津野はそう確信する。市蘭も、やられた!という表情。
しかし、そこで突然ボールが流れる。風が・・・吹いた!?
ボールが落ちきることは無く、ゴールバーに弾かれ、外れる。
あっ・・・あっぶね〜〜
風上からのフリーキック。追い風にボールが流され、落ちなかったんだと説明する百瀬。
向かい風だったら、間違いなく入ってただろう、とも。
追い風?ゴールエンドを選んだのは八津野じゃないか。
運動量で上回るオレたちが後半は風下になるように、てめえらで選んだんだろ!?
――それがウラ目に出やがった。
オレたちには――まだツキがある!!
結果として、このフリーキックで市蘭を活気付かせることとなりましたね。
まあ、後半も残り5分。
この時間で点を入れることができないと正直厳しい。
八津野は早くも残りの時間を守ることにしようと判断したようだ。
市蘭のキーパーがドシロートなのは観客にすらバレバレである。万代さん・・・
となれば、延長に引きずり込むのが確実。間違いのない話である。
延長はやべえぞ。
市蘭もそれは重々承知しております。時間内に決めなくては。
万代が抜けたディフェンスは、左サイドに山守が入った。
そのディフェンスライン全体を押し上げて、市蘭は攻撃に出る。
八津野は完全に引いて守っている。さすがに八津野。中途半端なことはしない。
勝利のために確実に守り、延長戦につなごうという体勢だ。
最後の交代枠も使用する。
これは時間稼ぎの意味合いもあったりする。嫌らしいわぁ。
残り時間は3分。焦りの余り取られてカウンターを取られそうになる。ビクつく万代さん。
しかし、これはカット。再び市蘭の攻撃。よかったね万代さん。
乾は百瀬からボールをもらう。そして一発で寄って来たDFをかわす。すげえ!!
突破を図る乾。そうはさせじと、八津野は3人で囲もうとする。
この流れは、さっきの攻撃のときと同じ。足の速い15番が成田のマークを・・・外した!!
乾は側に走りこんでいた尾上にパスを出す。
コースは空いている。シュートは打てる距離だ。
だが、右足で打つには難しそうな位置。DFもすぐ側に詰めている。
乾は成田に出すことを期待して尾上にパスを出した。
15番のマークが外れている今、成田ならば決定的なチャンスを作れる。
だが、今ボールを持っているのは、あの尾上。果たしてここでパスを出すのか・・・?
最初は勝利のために成田にパスを出した尾上。
2度目は、成田が外したのを受けて、パスを出さなかった。
3度目はどうなのか?マイちゃんは、きっと出してくれると言っていたが、今がそのときなのか・・・?
なかなかにドキドキするシチュエーションである。尾上の選択はいかに!?
ANGEL VOICE 29巻
第250話 勝ちたい!!
(2012年 30号)
ペナルティエリアの少し外という位置でパスを受けた尾上。
強烈なミドルを持つ尾上からすれば、いい位置である。
他の市蘭の選手や観客などはシュートを打つものだと思い込んでいる。
しかし、乾が期待しているのは成田へのパス。
成田だ!成田を見ろ!!
見ました。尾上は成田を。成田は尾上を。
それを受けて成田は動き出す。相手の裏を取る・・・消える動き。
プルアウェイによってDFの裏に周り、パスをもらいやすくする成田。
その動きを終えたとき、足元には――ボールがある。尾上からのパスであった。
広能は思い出す。かつてマイちゃんが言っていたセリフを。
尾上クンはパスを出すお。
乾クンがサッカーは1人じゃできないって言ってたでしょ?
そんなこと・・・尾上クンにもわかってるもん。
大事な試合――どうしても勝ちたいって思ったとき、尾上クンは迷わず――成田くんにパスを出すお。
その言葉の通り。どうしても勝ちたい大事な試合で、成田へのパスが通った。
そして皆川との1対1!
走りながらシュートを行う成田。
もっと慎重に・・・と思った脇坂さんであるが、この思い切りのよさも重要である。
その速度に皆川も対応しきれず横を抜かれ・・・蹴り込んだボールがゴールネットを揺らす。
後半ロスタイム。市蘭がついに八津野から1点をもぎとった!!
やった!!やったぞ!!
全身で喜びを表す黒木監督。ブンブン。
思わず涙する広能。校長も泣いちゃってますね。
そして市蘭の観客は一斉にバンザイしながら歓声を上げている。
間宮先生も泣いてはいないもののバンザイはしている。さすがですなぁ。
尾上が成田にパス。あれだけいつも通りのプレーをしろと言ったのに、結局ゴールに結ぶついたのはいつもと違うプレー。
久住先生はそういうが、いつも通りですと黒木監督は言う。
いつも成田は、尾上からのパスを待ってました。
うむ・・・!いい言葉ですなぁ。まさしくその通りです
!
いつものプレーを行った結果、それが昇華され得点に繋がったと考えるべきなんでしょうな。いい話だ。
さて、この様子はもちろんマイちゃんにも伝わっている。
さらに松田の手による写メも届いている。
ゴールの瞬間は撮らなかった。その子が見たがってるのはそういうものじゃないと思ってたからである。
その代わりに撮っていた写真とは――
成田と尾上――そして乾が肩を組んでいた。
なんと、よくもまあこんな嬉しい写真を撮ってくれたものである。
これにはマイちゃんも感極まって泣いてしまう。そりゃあもうしょうがないですよ。
うーむ、松田の株は本当に天井知らずでありますなぁ。
脇の不良からは攻められてますけどね。ハハハ。
さて、時間的には決定的といえるゴール。
だが天城はまだ試合を諦めていない。まだ・・・あと2分あると考える。
確かに。キーパーが素人の万代さんであることを考えると2分は長い。
これまで八津野は延長を考えてベタ引きしていた。
今度は逆に延長にするために大攻勢をしかけてくるでしょう。
果たして市蘭は2分を守りきることができるのだろうか・・・怖い時間になりそうだ。
第251話 勝ったのは!?
(2012年 31号)
残り時間はおよそ2分。
ロスタイムで1点を奪った市蘭。だがまだ試合は終わっていない。
八津野の死に物狂いの猛攻が始まる。どうにかこれを凌ぎきらなければ!!
高い位置でプレスをかける。
八津野にも焦りがあるのか、二宮さんがうまくパスをカット。乾にボールを渡す。
乾は時間稼ぎをするためにボールキープを行う。この辺りは流石ですな。
八津野の選手が3人がかりで取り囲んでもボールを奪えない。
内心、思わずうまいと褒めてしまうぐらいの技術力だ。
しかも、相手の足に当ててラインを割ることでスローインも自分たちのものにする。すげぇなぁ。
だが、スローインからの流れでボールは八津野に。
乾のおかげでかなり時間は消費できたが、まだ1回の攻めを行うぐらいの時間はあるはずである。
逆に言えば、ここを凌げば勝てるはず。凌げれば・・・
というところで、松田。
あのキーパーもまったくのシロウトというわけじゃなさそうだし・・・・・・
このまま市蘭が勝って、準決勝でオレたちと戦うことになるのか?
なんですか、その疑問系は。そこは言い切ってくださいよ。不安になるじゃないか!!
そして万代さん。一応関根さんに教えられていただけはあり、全くのシロウトではない様子。
ふむ、これは次の試合でも期待はしていいのかもしれない。
八津野の責めは百瀬によってクリアされる。
が、ボールはラインを割らず、センターラインを越えるところまで上がって来た皆川が押さえ、前線に回す。
おそらく・・・これが八津野の最後の攻撃!!
敵味方ともにそれを理解している状態。
クリアは大きく外へ。マークを徹底しようという市蘭。
それに対し八津野。やはり最後に頼るのはこの男、天城である。
天城はボールを受け、左右を見渡すが、どちらの味方も敵のマークを振り切れていない。
この状態ではパスを出すこともできない。クリアされて終わりだ。
そうこうしているうちに、後ろから猛然と成田が迫ってくる。時間もない。終わりか・・・?
いや、まだ天城には残された手がある。中央突破という手が!!
3年のオレたちにとって、船学を倒せる――これが最後の大会なんだよ。
どけっ―――――!!
中央を抜こうとする天城。
その天城を防ごうと、百瀬、脇坂、水内、成田の4人が迫る。
この最後の攻防・・・一体どうなるのか・・・!!
病院にて不良が走っている。このテンション。試合で何かがあったのは間違いない。
急ぎ報告に駆けつけるため、怒られながらも走る不良。
だけど、走りすぎて辿り着いてから息継ぎをしてしまう。
それが長いせいで、むしろじらされてしまって困る。どうなったんだよ!!
1対0・・・市蘭勝利!!
不良の報告に、思わずガッツポーズ。
マイちゃんも笑顔を見せてくれるのでありました。
いや〜〜〜ドキドキした。
追いつかれれば負けは必定。だからそれはないはず・・・と思いつつも、もしかしたらがありえる。
これまでもそんな状態を目撃しておりますからねぇ。おかげで最後までドキドキさせられることとなった。
しかし、これで目標の1つである八津野の撃破がなったわけだ。凄いなぁ。
もう1つの目標である船学の撃破。
だが、その前に松田率いる習志野が待っている。
所沢が退場して出場できない状態で、果たして習志野に対抗しうるのか。注目です。
ところで、天城対市蘭4人の戦いは描かれることはあるのだろうか。
次回の回想でその辺りが描かれるかもしれない。
ひょっとしたら鬼と化した天城に4人が吹き飛ばされるという絵が出てくるかもしれない。
それで次の試合負傷欠場となれば・・・なんと、控えの丹羽さん+1年4人の5人全員に出番が回ってくる!!
――わけだが、成田、百瀬、脇坂、水内といった4人が抜けて勝てるわけもないですわな。この案はなしで!
第252話 歓喜の輪
(2012年 32号)
選手の健闘を讃え、黒木監督と関根のじっちゃんが握手をする。
そして、グラウンドでは勝利した市蘭による歓喜の輪が出来上がっていた。
やったぞ――
やったぜ!!
マジかよ――!?
勝ったんだ――全国2位の八津野に。勝ったんだ!!
思わず抱き合う成田と二宮さん。どこ見てんですか二宮さん。
勢いで微妙な相手と抱き合ったからって驚かないでくださいよ。
それぞれに喜びを見せている市蘭イレブン。
それにしても、1年生に囲まれて穏やかな笑みを見せている水内さんはやけにイケてますね。
病室も勝利の報告に沸き返る。
ところで、最後の締めくくりはどうなったのだろうか?天城が突っ込みどうなった?
大歓声でよく聞こえなかったんだけど・・・
たぶん・・・脇坂がクリアして――そこで試合終了になったらしい。
ふむ。さすがの天城も4人を突破することはできなかったというわけでありますか。
にしても、市蘭の勝利で大歓声か。なんだか嬉しい話でありますね。
敗れた八津野陣営。
キャプテンの天城は島村監督の前に立っている。
何か口を開こうとする前に、監督は先んじて言う。謝るなよ、と。
権藤もそうだったが、歴代のキャプテンみんな、試合に負けるとワシのところに来てすいませんでしたと言う。
まあ・・・ほとんどの場合、負ける相手は船学だったがな。
全力を尽くした者は、誰に対しても謝る必要はない。わかったか?
そう言い、帰ろうかと促す島村監督。
うーむ、さすがに何年も選手の敗北を見て来ただけあって、いいことをおっしゃられます。
天城の抜ける来年の八津野は大分力が落ちそうである。
それでも強豪校であることには変わりないでしょうけどね。
来年こそは打倒船学を目指し、頑張っていって欲しいものであります。
さて、習志野の松田。さっきまで実況を行っていた携帯を不良に返そうとする。
この携帯を返したら、気持ちを切り換えるよ。
次の試合で、オレたちは市蘭を倒さなきゃいけない。
うむ、ここは気持ちの切り換えを行わないといけないところでしょうな。
松田に恩を受けた不良としては複雑な気分。だけど、それを受けないわけにはいかないですわな。
携帯を受け取る不良。だけど、最後に1つだけ松田にお願いをする。
最後に・・・ゴッド・マザーに何かメッセージをいただけますか?
何もないよ。
伝えてもらうとしたら、頑張れとしか言えないじゃないか。
――でも、市蘭があれだけ頑張れたのは、その子が一生懸命、病気と戦ってるからじゃないかな。
そんな子に――もっと頑張れなんて言えないだろ?
それだけ言うと、一礼して松田は去って行く。
うーむ・・・いい人であるなぁ。去り際まで完璧であった。これが天才の器ってやつなのか・・・?
この松田と次は相対せねばならぬ。読者としてもやりにくい相手だぜ。
さて、市蘭。最後に応援してくれた学校の皆さんに礼をする。
感激の涙を流してそれを受ける校長。間宮先生も感動に打ち震えているぞ。ハハハ。
次の準決勝が習実で・・・決勝が船学か。
マイ・・・こいつら・・・やるかもしれねえぞ。
ルカさんも認める市蘭の実力でありました。よかった!認められた!!
まあ、八津野を破ってまだ疑われられてはたまりませんけどね。
それにしても、ついに悲願のうちの1つである八津野越えを果たしたか。
市蘭サッカー部の勇名はこれで全国に響き渡ることになりましょう。
次の習実戦では観客が相当数増えることが予想される。市蘭の生徒も多数詰め掛けてくれそうな気がするぜ。
間宮先生にも嬉しい状況になりそうだ。選手にはいい戦いをしてもらいたいですな!
第253話 第2GK
(2012年 33号)
全国2位の八津野を破った市蘭。選手権予選ベスト4進出!
病床のマイちゃんに自らの口で勝利の報告を届けようとやってきた市蘭であったが――
残念ながら試合後の頭痛がひどくなり、耐えれなくなったようで面会謝絶となっている。
代わりにマイちゃんのお母さんが出迎えてくれます。
とりあえず、勝利の報告を聞いてマイちゃんが喜んでいたことは聞けた。
それであるならば、何よりである。
高畑っ・・・・・・やったぜ!!
直接の報告は出来なかったが、また来ますと言い残し今日のところは立ち去ることとなる。
そんな市蘭イレブンを見送る不良君たち。
不良君の1人はこんなことを口にする。オレたちも、あいつらみたいになれるのかな?と。
大歓声で最後にクリアした脇坂の名前がはっきり聞き取れなかったって言ってただろ。
脇坂や万代――二宮といった名前を電話口で聞かされることはよくあった。
――でもそれはそんな大歓声がわき上がるような場所から聞かされる名前じゃなかっただろ。
あいつらが八津野や船学に勝ったらオレにも何かできるんじゃねぇかと思ってたけど。
――実際そうなっても、オレに何ができるのか全然見えてこねえよ。
そんな風に述べる不良君に対し、マイちゃんのお母さんはこう述べる。
何だってできるのよ。
あなたたちは若い・・・というよりまだ子供なんだから。
まだまだこの先何だってできるの。しっかりしなさい。
途中、生きていればという言葉を飲み込むお母さん。さすがにその言葉は重過ぎますからねぇ・・・
不良君たちによる高畑麻衣の病室の立番はこの日が最後となった。
これは、不良君たちができること、やりたいことを探して旅立っていったということなんですかねぇ。
さすがにゴッド・マザー・マザーである。感銘受けるわぁ。
翌日。
市蘭サッカー部は八津野を破ったことで評判がうなぎ登りとなっている。
前のサッカー部の悪名はかなり影を潜めていたが、これからはむしろ尊敬を集める立場となりそうだ。
元から人気のあった乾などは女子からキャーキャー言われている。これは水内さんがまたラブレターをもらう流れか!?
八津野に勝つってのは凄いことだったんだと今更ながらに気づかされる。
これで市蘭は押しも押されぬ強豪の仲間入りを果たしたわけだ。
八津野戦のように、観客に舐められるようなこともなくなるわけですね。
"八津野敗れる"のニュースは千葉中に衝撃をもたらした。船和学院も同様である。
船学の古川は語る。2強時代が終わる節目なのかもしれないでござる、と。
天城氏・・・2強時代が終わってもそれがしたちは君臨し続けるでござるよ。
相変わらず古川はござる口調なのであるな。
年を跨いで、飽きたのでザンス口調に変わりましたとか言われても困るからそのままでいいザンスが。
さて、八津野を破った市蘭。
しかし、今度の相手も強敵の習実。
所沢は退場処分を受けたため、次の試合に出ることができない状況である。
したがって次の習実戦、GKは万代でいく!!
分かっていたことであるが、指名されてビクッとなる万代さん。
なんだかんだでビビリ安いというかなんというか、こういう表情が多いよね万代さん。
幸いなことに習実戦は2週間後。十分とはいえないがそれなりに時間の余裕はある。
この2週間をキーパーとしてのスキルアップとDFとの連携を確立するための練習にあてたい。
ディフェンスラインを2枚つくれ!!
連携をそろえる為にはそうする必要がある。
基本のDFである、脇坂、水内、広能だけではなく、二宮、百瀬、山内、尾上もディフェンス側に立つのだ。
万代さんの代わりにはDFに丹羽さんが入ると考えられる。
となると、レギュラーのうち実に8人がディフェンス側に回ることになる。
つまり、オフェンスに入るのは成田と乾。あとは1年だけということになる。所沢は?万代さんの指導かな?
どっ・・・どうしましょう。シンゴとキヨハルをマークするだけで守り切れちゃうんですけど。
と山守。これは過信で言っているわけではない。
実際そういうことになるだろうなとはこの場にいる誰もが思っていることであった。
相手はあの松田がいる習実だぞ。これじゃあ・・・練習になんねえかもしれねえな。
ディフェンスラインを1枚にするのでは本末転倒。
脇坂さんたちの動きは前列の百瀬たちの動きと連動している。
最終ラインの動きだけを見ても万代さんの経験にはならない、とのこと。
1年生には荷が重いかもしれないが、今できるのはこの練習しかない。
だから始めよう。そう号令を下そうとしたところで、思わぬ訪問者が現れる。
何か練習で手伝えることはありませんか?
そう述べているのは、美幕の木崎、箱崎、江崎。いわゆる美幕の3崎だ!!
引退しちゃったからヒマなんですよとか言っているが・・・その建前も正直ありがたい!!
これで一気にオフェンス向上。というところで、更に訪問者あり。
こ・・・このセンスのかけらもねえオリジナルソングは・・・・・・天城!!
恥ずかしながらおめおめと敗者である我が身をさらしにまいりました。
ビッと敬礼をする天城。
ふむ、天城も引退でしょうしね。きっとヒマになったから来たんでしょう。いやいや。
天城はちゃんと監督に言われてきたという。
市蘭は頭数が少ないから大変だろうって、と。なるほどねぇ。本当、ありがたいですよ島村監督。
嶋田監督・・・ありがとうございます。
心の中で例を述べる黒木監督。
それはいいけど、盛大に名前を間違えるのはいかがなものかと思う。感謝しているのか!?
そういえば、美幕戦の勝負が終わった際、百瀬が名前を間違えているシーンもあったな。
名前なんて飾りです。相手を理解し、感謝の意さえ伝わればいいんですってことだろうか。
水内の名前が覚えれなくてもジミーで覚えればいいじゃねえかってことに繋がるのかもしれない。酷い話だ!
それはともかく。随分贅沢な練習になった。さっきとは大違いだ。
というか、逆の意味で練習にならないんじゃないかと心配になるくらいである。
キヨハルにシンゴ。美幕の3崎プラス天城。
オフェンス・・・エグ過ぎんだろ。
一種のドリームチームのような構成でありますからねぇ。
特に乾と天城のコンビプレイとかどういったレベルのものになるやら、楽しみでしょうがない。
天城としては、高レベルのパスの受けてである成田の存在はありがたいでしょう。
そして、江崎はその成田に匹敵する足の持ち主である。うーむ、本当にエグいオフェンス陣だのう。
これはディフェンス陣の大幅なレベルアップが期待できそうですね。よいことだ!
第254話 今日より明日
(2012年 34号)
美張の3崎と天城を加えたオフェンス陣。エグい!!
それに相対する万代さんは練習なのに緊張しまくりでございます。
相変わらずバンってば厳つい顔しているのに緊張しいなんだから。
大丈夫じゃバン。
キーパーが1人でゴールを守っとるわけじゃないからのぉ。今日のところはワッキーたちが何とかしてくれる。
関根のじっちゃんはそう言ってくれる。
さすがに即席チームではそれ程のコンビネーションはできないだろうという判断だ。
だが、今日より明日。明日より明後日。
互いの動き方、考え方がわかってくれば、攻撃力はどんどん上がっていくじゃろう。とのこと。
オフェンスの成長に遅れんようについていけば・・・2週間後にはまた1人名キーパーの誕生じゃ。
カッカッカッと大笑するじっちゃん。そんなにカンタンな話ではございますまい。
その遅れないようについていくというのがまず困難な話ですからのう。
それが期待できるから所沢は凄かったということなんでしょうが。
さて、市蘭と同様に、習志野実業も2週間という時間を用いて練習を積み重ねている。
DFの茂森の成長はやはり著しいものがある。顔が怖くなっただけじゃないんですね。
弱点であった気の弱さ、当たりの弱さも改善されている。
これはユゥエルにも対抗できる選手になれたということなのだろうか・・・?
2回戦と準決勝の間にある2週間という期間。
これは我々にとってありがたいものだと習実の田沼信次監督は述べる。
市蘭と戦う上で最も恐れるべきは、その勢い。
八津野に勝った――ジャイアントキリングを果たしたその勢いこそが最も恐れるべきものだったが、
2週間という時間が、市蘭の選手をクールダウンさせてくれる。
なるほどね。そういう考えもありましたか。
習志野は前に戦ったときよりもDFが強化され、松田を中心に攻撃のバリエーションが増えている。
予想はしていましたが、なかなかに厄介な相手となっている様子。
しかし、市蘭とてこの2週間という時間を使ってサブのキーパーを育てているわけですが?
2週間じゃキーパーは育たんよ。
自信ありげな田沼監督。まあ、事実なんでしょうね。
キーパーは特殊なポジションだし、覚えることも多い。さすがに2週間では厳しかろうて。
さて、そう言われた市蘭の練習風景ですが・・・どうやら早速オフェンスの攻撃に翻弄されている様子。
サイドチェンジで左サイドに江崎が走りこむ。
ニアサイドに成田がいるが、成田は出足が遅れている。
なので、成田は使わず、ファーサイド。乾の頭に合わせてゴールでございます。
うーむ、あっさり点を取られてしまっておりますな。
今のはどうしたらよかったんだよ?と万代さん。
じっちゃん曰く、クロスを入れられた時点でどうにもならん。
今のはDFのミス!自分の責任だと思うな、とのこと。なるほどねぇ。
キーパーを育てる練習のはずだったが、キーパーだけではどうにもならない場面が出来ちゃっているわけか。
今日のところはワッキーたちが何とかしてくれると言っていたが・・・
練習開始から30分で見事なコンビネーションが出来上がっているオフェンス陣。
これはどうも関根さんの想像を超えていたということみたいですな。
続いての攻撃。乾と天城がボールをキープして2人で突っ込んでくる。マジかよ!怖い!!
その事実だけでDF陣は翻弄されてしまうという有様です。
しかし、翻弄されているのはDF陣だけではなかった。攻撃陣の中にいても何もできていない男が1人いた。
なんだ・・・?なんなんだよ・・・?
コイツらの動きに・・・全然ついていけねえ!!
困惑している成田。
だが、成田にとってこの練習が――今まで一歩ずつ登ってきた階段を一気に駆け上がるきっかけになる。
万代さんのためのキーパー練習。
と思いきや、DFの練習にもなるし、さらに成田の成長にも繋がっているらしい。
なんとまあ、一挙両得どころか得の多いこと!!
こういうところで成田の成長を絡めてくるところとか、話の構成が上手いですわなぁ。
成田は足の速さや消える動きなどによるパスをもらう側の動きはそれなりのものがある。
だが、それは基本的にDFの数が少ないときに有効とされる動きに見える。
これまでは乾がDFを引きつけてたり、カウンターでDFの数が少ないときにパスを受けることができた。
しかし、今回のようにDFの数が多く、パス回しで翻弄しようという話になると動きについていけなくなる。
いかに足が速くても、最適な場所への飛び出しが遅ければ間に合わないって話ですな。
今回の成田の成長はその最適なポジショニングを探るという部分になるのではないでしょうか。
今更成田がパスを回す側になるとは思えないですしね。
成田の攻撃力が上がれば、ますます守備側の練習にもなる。
万代さんの成長には厳しいかもしれないが、攻撃と守備両方の成長は見込めるわけだ。
これは習実戦に向けて大きな要素となりそうですぞ!
第255話 パスの行方
(2012年 35号)
天城のパスが市蘭DF陣を切り裂く!
そしてその裏に走りこんでいたのは木崎。うーむ見事な流れだ。
今のパスは・・・天城が合図を出したわけじゃねえし、木崎が要求したわけでもなかったぞ。
それなのに・・・なんであんなパスが通るんだよ!?
疑問に思う成田。よい傾向ですね。
漫然とプレーするだけでなく、こうやって考えた練習ができるのはよいことだ。
今まで味方に別スタイルの選手を入れての練習はしてなかっただろうし、成田にとってよい経験となりそうですね。
今日のこの練習を見て驚きを隠せない久住先生。
美幕のあの3人って・・・すごい選手だったんですね。
褒めているのだが微妙に失礼な言い方をされている気がしてならない。
まあ、実際美幕との最終戦、市蘭は6対0で完勝している。評価が低くなっても仕方ないか。
実際のところ、この3人は船学や八津野に行っても十分通用したと思われるぐらいなんですけどね。
美幕では活躍できなかった理由について関根さんがお話してくれます。
3崎は3人が3人ともFWタイプ。
じゃが残念なことに・・・美幕にはキヨハルや天城のような、パスの出し手になれる人材がおらんかったんじゃろうな。
仕方なしに木崎が中盤に下がってその役割を務めとったようじゃが、もともとそういうタイプじゃないからのお。
なるほどね。いくら高レベルの受け手がいても出し手がいないとしょうがないわけか。
逆に天城のような高レベルの出し手がいても、受け手が封じられては厳しいというのもこの間の試合でわかる。
それぞれチーム事情があるってことですなぁ。ふーむ。
3崎のうちの1人でも八津野に行っていたら・・・まさしく過程でしかないが、怖い話ですな。
ほいじゃから――今のあいつらの顔を見てみい。
キヨハルと天城。2人のパスの出し手と組んで――まるで水を得た魚のようじゃわい。
その言葉の通り、縦横無尽に駆け巡る3崎。楽しそうですなぁ。
しかし、その攻撃に晒されているディフェンス陣はたまったものではない。これじゃダメだろ!?
GKとDFの連携を高める練習に全然なってねーぞ!と脇坂さん。
いやいやそんなことはありませんよ。
今の万代さんにとってはすべてが勉強である。
こうして圧倒されている中にも学べる部分があるってことですよ。
かつての市蘭が、強豪に大敗しながらも何かを掴んでいったのと同じことですよね。
というわけで、百瀬からの提案。ディフェンス力全体をもっと高めよう!とのこと。
今のままじゃ――とても船学と互角の試合ができるとは思えない。
いきなり決勝の相手である船学の名前を出す百瀬。
それに対し、目前の習実戦があるし、そっちに向けてもっと違う練習をと脇坂さん。
だが、その意見は黒木監督が遮り、そして言う。
うちは優勝するんだろ?
だったら・・・いついかなる時も船学を意識するのは当たり前だろう。
ふむ。その通りでありますな。
結局のところ、その1チーム相手に考えた対処療法的な練習をするより、総合的に高めた方がいいに決まっている。
であるならば、習実以上の攻撃力がある船学を目標に据えるのは悪くないわけだ。
というわけで、ディフェンス全体の底上げを考えることにする。
八津野との試合では、前半だけで10本以上のシュートを打たれた。
そのシュートの大半がバーやポストに嫌われたからギリギリ最後のところでうちが勝つことができたんだろ!?
――船学戦が同じ流れになるとは思えん。
全くですな。さすがにそれは神頼り過ぎる話である。
少なくとも船学の攻撃力は八津野より上でしょうし、今のままではそれ以上のシュート数に見舞われることになる。
それに・・・あんなに凄い連中が毎日連中の相手をしてくれるんだぞ。
この機会を逃す手はないだろう。
いやはや、全く持ってでございますな。
このハッパに市蘭DF陣みんなやる気になっております。2週間であいつらを止めてやるぜ!!
それとは対照的にちょっと取り残された感じの助っ人4人。
なんか、オレたち毎日ここに来る流れになってるぞ・・・
ま、それはそれでいいんですけどね。楽しいし。
木崎のその発言を皮切りに、他の3人も毎日来ることを了承する。
うーんいい話ですねぇ。実際楽しそうですしなぁ。レベルの高い練習もできて万々歳だ。
というわけで、練習再開。
今回は乾がDF陣を切り裂くようなパスを出し、江崎がそれに合わせる。
意識あわせをしたわけでもないのにパスが通る。これは一体どういうことなのか?
不思議を感じた成田は江崎に尋ねる。
オマエ・・・キヨハルがあそこにパスを出すって知ってたのか?
い・・・いや、知らなかったよ。
というのが江崎の返事。では何であそこに走りこんだのか。
成田の問いに返答する江崎。その内容は・・・?
しっかり話を聞けよ。オマエが今までやってきたこととはまったく違う考え方を教えてくれるはずだ。
と、軽く笑みを浮かべて考える乾。
ふーむ。やはりFWの動き方にも色々あるようですな。
意識あわせをせずとも最適なポジションを探るってのもFWの適正なのかもしれませんな。
成田がその動きをきちんとすることができればどうなるか。
乾以外からもパスを受けることができ、得点のチャンスはさらに増すかもしれませんな。
うむ、オフェンスの強化、ディフェンスの強化と全体的なパワーアップが見込めそうな練習じゃないですか!
これは2週間後の成長が楽しみだ!
第256話 いつか
(2012年 36+37号)
がんばって――とか言うわりに、練習は見に来ねえんだな〜〜とか思ってたけど。
あんなモノ作ってたんだな。
そう述べながら、市蘭の面々は全員同じ方に視線を向けている。
そこには、ガンバレ市蘭といった横断幕。
さらに各選手たちを応援するボードのようなものが飾り付けられていた。
なるほど。八津野戦のとき、ああいうのを用意するんだなとか言ってた観客がいた。
それに倣って用意したというわけか・・・観客も成長しているのですね!
各選手の持ち上げの表現もなかなかに大仰である。
・ゴールメーカー成田
・守護神所沢
・市蘭魂百瀬
・STARPLAYER二宮修二
・ウルトラDF脇坂
・スーパーエース乾清春
・吠えろ長距離砲尾上
・闘神万代
・FIGHT広能山守
・がんばれ水内
って水内さんの応援小さい!!
まさかこんなところも地味だったりするとは・・・
でもそんな地味さが段々気に入っている様子な水内さん。ジミーという呼び名気に入り出している・・・!?
広能と山守はここでもセット扱いである。ポジションも違うのにねぇ。別にいいんですけど。
それよりも丹羽さんの応援がないのが悲しい。まあ、ほとんど出番ありませんししょうがないのか・・・
さて、気を取り直して練習練習。天城たちもちゃんと来てくれてることですしね。
天城から乾。乾から江崎にパスが通る。
まただっ!!
また何の合図もなしにあんなパス通しやがった。
見事な流れを見せるオフェンス陣。成田は江崎に聞いた話を反芻する。なぜあそこに走りこんだのか?
あそこにパスコースが通ってるんじゃないかと思ったから、その先に走りこんだんだよ。
スペースと――そこに通じるパスコースがはっきり見えているのはパスの出し手だけだろ?
オレたちもDFも違うアングルから見ているから、どこにどういう風にパスコースが通っているかははっきりとはわからない。
でも全体――DFや味方の動きを見回しているとなんとなくそういうのが見えることがあるんだよね。
見えたと思ったら積極的にその先に走りこんでいけばいいんだよ。
この江崎の考え方は今までの成田の考えとは全く違ったものである。
成田のは、自分が走りこむ先にパスを出させるものだという考え方。
言われてみれば、そこに出せと要求しながら走っていることが多かったですな。
このパスにはいい点が2つある、と江崎。
1つは――DFの反応が遅れるからパスを受けた時フリーになってることが多いという点。
もう1つは――パスが通った時最高に・・・震えるくらい気持ちがいい。
なるほど。それは凄くいい点でありますね。
やっている方も見ている方も気持ちがよさそうである。
よーし・・・その快感――オレも味わってやろーじゃねえか!!
意識を変えて動くようになった成田。
とはいえ、すぐにそのパスコースがわかるようになるはずもない。
しかしまあ、成田のスピードで動き回られるとそれだけでデフェンス側には脅威な気もしますわな。
だからといってオフサイドラインをウロウロされては邪魔にしかならないわけですけど。やれやれだ。
だが――
成田の動きは明らかに今までとは違ったものになってきていた。
ほう。だんだんと先の動きが読めるようになってきている様子。
成田もなんだかんだで経験を積んでいるからなぁ。直感でそういうのがわかるようになってきているのかもしれない。
練習を終えたその日の夜。
乾はグラウンドを静かに見つめていた。声をかけてきた百瀬に語る乾。
ここなんです。去年の春――ここで成田と1対1の勝負をしました。
あの戦いか。くすぶっていた乾が復帰する継起となった勝負ですね。
成田の動きやボールへの執着心を見ていて、こいつならいつか――
オレがイメージしたパスをイメージ通りに受け取れるんじゃないかと思ったんです。
いつかはと思っていたそのいつかは――案外、目の前まで来てるのかもしれねえ。
あの乾にそこまで言わせるとは。
成田の成長もまた著しかったということですね。
最高のパスの受け手へと進化して行く成田。市蘭の攻撃力アップはかなり見込めそうだ!
こうなってきますと、やはり習実戦は点の取り合いという形になるのだろうか。
今回の練習でディフェンスの能力向上は見込めるが、やはりあの松田を止めきれるとは考えにくい。
万代さんも、序盤は点を取られることで尻上がりによくなっていくという流れになりそうな気がする。
果たしてどのような戦いになることか・・・注目であります。
第257話 震える!!
(2012年 38号)
習志野実業との準決勝を翌々日に控えた11月18日。
3崎と天城を加えたこの練習もいよいよ最後となりました。
10日と少し。短い間であったが、得れたものは大きい。
万代さんの顔つきもかなり違って見えます。これなら闘神の異名も悪くはないかな?
練習が終わったらソッコーで引き上げようぜと天城。
お礼を言われたりするとかそういうのが照れくさい様子。気持ちはわかる。
が、そんな甘い話はないので安心していただきたい。
なお――彼らだが・・・習実を破った後――船学戦の前にまた来てくれることになっている。
今日が最後だからなどという遠慮は必要ない!ガンガン削っていけ!!
おお!!
黒木監督、当人たちの了承も得ずに無茶苦茶言ってませんか!?
削れと言われて「おお」と答える部員たちも部員たちであるが。
まあ、どうせ要望されれば来るんでしょうけどね。分かってますねんで。手間が省けたってもんだ。
総仕上げの練習を見学する市蘭の生徒たち。
シロート目に見てても守備が、守りがどんどん堅くなっているのがわかるという。成長してるんですなぁ。
ちなみに、このページ。よくみると丹羽さんの応援が増えているのがわかる。
秘密兵器、丹羽。なるほど、そういうアオリがありましたか。
最後まで秘密なままだったらどうしようという秘密兵器ですね!
まあ、習実戦では最初から出番があるから秘密のままにはならずに済むか・・・
万代さんの成長もなかなかに著しい。
関根さんも、なかなかどうして――板に付いてきおったわいと御満悦。
松田率いる習実相手にどこまでの活躍ができるか。GK万代。期待です。
さて、成長しているのは守りだけではない。
江崎からヒントをもらった成田。先を予測した動きというのを行おうとしているが、なかなか上手く行かない。
が、ひとつのプレーにて、閃きに近い感覚を得る。
木崎が後方の天城にボールを戻したのを見て、成田は右サイドの大外からゴール前に向かって走り出す。
天城はダイレクトで乾にボールを送る。乾もまたダイレクトでディフェンスの裏に入れる。
そこに合わせて飛び込んできたのが――成田!
見事に1対1を制し、ゴールを決める。
ダイレクト2発のパス回しに合わせてのゴール。これは見事と言う他ない。止めれなくても仕方ない。
プルッ。
江崎は言っていた。このプレーでパスが通った時、最高に・・・震えるくらい気持ちいい、と。
震えるくらいじゃねええ・・・!!震えたぞ!!
ガッツポーズを決める成田。うーん、見事な成長っぷりでありますねぇ。
後はこの動きを実戦で決めてみせるだけでありますな。期待したいところである。
という感じで、習実戦に向けた仕上がりは万全という状況。
あとは試合の日を待つばかりかと思ったのですが――
日付が変わった19日未明――高畑麻衣は危篤状態に陥った。
うぅ・・・ついにこの時が来てしまったというのか・・・?
タイミング的には確かにこの辺りでって感じではあるが・・・うぅ・・・キツイ。
果たしてマイちゃんはどうなってしまうのか。怖くて仕方がないぜ・・・
第258話 準決勝前日
(2012年 39号)
全国高校サッカー選手権大会千葉予選準決勝、習志野実業戦前日。
11月9日と書かれているのはたぶん間違い。19日と思われます。
それはさておき、マイちゃんが危篤状態に陥った。
深夜ということもあり、すぐに連絡をもらえなかった脇坂さんたちは不服な様子。
サッカー部全員で今回も黒木監督のもとに詰め掛けています。追い込みすぎ。
そして、情報は得たので揃って早退し、病院へ向かう。まあ、そうするでしょうね。
高畑麻衣が危篤状態から回復したのは明け方近くだった。
おっと。回復できたのですな!よかったよかった・・・安心した。
いや、まだまだ予断は許さない、というか、安心できない状況ではあるんだけどね。
久しぶりにぐっすり寝れた気がするというマイちゃん。
そのすっきりした状態でやってくる市蘭イレブン。珍しく間がいいですね。
おかげでマイちゃん泣きだしてしまいましたよ。また・・・会えたって。
う、やべぇな。泣けることを言いなさる。
勢い暗い雰囲気になりそうだったので、軽い態度を振りまこうとする脇坂さん。
広い部屋に移れたのも危篤になったおかげってか。ハッハッハ。
うーむ、改めて見るとなかなかに酷い事を言っている。そりゃ蹴られても仕方ないな。
まあ、後で言ったセリフを後悔するよりは、ここで罰されておいた方が楽でしょうさね。
大会は準決勝からテレビで生中継があるという。
ほう。今回は面倒な電話中継ではなく、リアルタイムで結果が見れるようになるんだ。
それはよかった。松田に代わる新たな実況を見つける必要はなくなったわけだ。ちょっと残念ともいうか。
ちなみに、どうでもいい自慢を挟んだ成田は・・・制裁!!
脇坂さんはいつまでその表情でいるんでしょうか。まあ、それはさておき。
明日。習実に勝ったら船学への挑戦権が手に入る。
百瀬のこの言葉に、強く頷く一同。
マイちゃんは笑顔で声をかける。
所沢クンの代わりは大変だろうけど大丈夫!!万代さんなら絶対できるから。
心細くなったら前を見て。脇坂さんたちがしっかり守ってくれてるよ。
みんな。明日は思いっきり暴れてきて。
うまく喋れず、所々が怪しくなっていますが、一度の会話でしっかり理解している市蘭の面々。
気持ちが伝わっていれば、ちゃんと相手の言わんとしていることがわかるってことかな。
マイちゃんとの面会を終えた市蘭イレブン。
学校に戻ってきました。明日の試合へ向けてのミーティングと練習をするために。
その表情に憂いや惑いはなく、集中している様子が見て取れる、よし――!!
そして、ついに準決勝の日がやってきました。
この習実との戦いに勝てば、ついに船学。
しかし簡単に勝たせてくれるような相手じゃないのは間違いない。
練習の成果をどこまで活かすことができるか。始まりから目が離せないですな!
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