蒼天紳士チャンピオン作品別感想

ANGEL VOICE
第286話 〜 第312話


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 各巻感想

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連載中分

ANGEL VOICE 33巻


第286話 挑戦者の気持ち  (2013年 17号)


ついに均衡がやぶられた!!
仲間を信じて走った百瀬!!魂の勝ち越しゴール!!

さすがに誰にも気づかれないようなタイミングで駆け抜けたおかげで疲労は凄まじい様子。
膝から崩れ落ち、息を荒げて横たわる。ゴールを喜んでいる余裕もない。
ならば他の連中が盛大に喜びましょう。倒れ込んだ百瀬の上にダイビングだ!!疲れてる人に何をする。

成田、尾上、二宮さんの3人が一斉に降ってくる。
普段はクールな尾上もやってくれたぜ!と興奮。おやおや。
成田も興奮してコーイチさん連打。さすが成田が唯一さん付で呼ぶ男なだけあるぜ!!

市蘭守備陣もこの勝ち越しゴールに喜び、沸く。っしゃあ!!
そしてもちろん病室も大喜び。っしゃああ!!ガッツポーズを決めるルカさんに3崎。
マイちゃんもキャーキャーと手を振って大喜びだ!!うむ、凄い元気そうですな!!

百瀬さんらしいな・・・画面には映ってなかったけど・・・逆サイドを走っていたんだね――全力で。

観客もボールの方に気を取られていて百瀬の動きに気づいていなかった様子。なので気づいていた人が解説。

そう・・・乾氏にパスを出した直後からボールがある右サイドとは逆の左サイドを――
ゴールに向かって回り込むように走っていたでござる

ああ、回り込むように走ることで大外に、気づかれずに走り込むことができたわけなんですな。
それだけの遠回りだと確かに全力で走るしかありませんわな。疲労で倒れ込むほどの全力で。
って、やはり古川も百瀬の動きに気づいていたんですな。さすがである。

乾は・・・それに気付いていたのか?という観客の問いに天城が答える。
気付いていたからあんなクロスを入れられたんだよ、と。

ゴールエリアの外・・・割と近い位置から入れたにしては強いキックのクロスだったでござろう?
ゴール前に走り込む成田氏たちの誰かが間に合えばそれで良し。

もしDFの足が先に届いたとしてもあれだけ強ぇえクロスだとオウンゴールが怖くて一発でクリアするのは難しい。
中途半端に止めたこぼれ球を押し込めればそれもまた良し。

誰も追いつけなくてファーサイド側に抜けたとしても、そこに百瀬氏が詰めてきているはずだ――という計算があったのでござろう。

なるほどねぇ。最終的に百瀬が決める形にはなったが、それ以外が決める形もありえてのクロスだったわけだ。
瞬時にそこまで考えてプレーできる乾。やはりすごい。
しかし、古川たちの横に座れた観客たちはラッキーですなぁ。テレビの解説よりずっと詳しい男たちの解説付きであるぞ。

勝ち越しゴールに沸く市蘭。それとは対照的に沈む習実。
次の1点で勝負が決まると思っていただけにダメージは大きい。

(このまま、負けるのか?)
(準決の相手が市蘭に決まった時・・・運がいいと思ったのに・・・)
(あと一つ勝てば船学戦・・・ここまで来て)
(去年サッカーを始めた奴が半分以上いるようなチームに負けるのか?)

忸怩たる思いを抱く習実の面々。
うーむ、やはり市蘭を軽んじていた部分はあったみたいですねぇ。
ギリギリとはいえかつて勝利した相手。そして比べる相手が八津野だということを考えるとそう思うのもわからなくはないが。
確かに経験の浅い連中ばかりのチームに負けるのは納得いかないってのは分かる。

あああああ!!

突然空を仰ぎ吠える松田。ど、どうした!?

正直に言うぞ!!市蘭には負ける訳にはいかないと思っていたし――負けるはずがないと思っていた!!
オレは市蘭の奴らよりはるかに多くのものを積み上げてきた!!
・・・たったそれだけのことで、市蘭より高い所にいると思い――
負けるわけにはいかない。負けるはずがないと思っていたんだ!!

でも、今は違う。オレは、あいつらに勝ちたい!!
負けるわけにはいかないんじゃない・・・勝ちたいんだ!!
船学にそう思うのと同じくらい、オレは――市蘭に勝ちたいんだ!!

熱く吠える松田。その叫びは習実の面々の心を揺さぶる。
沈みかけていた心を救い上げ、残りの6分を追いつき、逆転しようという前向きな姿勢に復活させる。

勝ちましょう!!

選手だけではなくベンチの面々まで松田の言葉に影響され、勝とうという意識になる。
それを見て深く頷く監督。うーむ、松田のリーダーシップはさすがであるなぁ。
天城はこれを見て自身についてを鑑みる。

下に降りて挑戦者の気持ちになる・・・オレたちには・・・最後までそれができなかった

長いこと強豪であり続けた故の驕りというものでありましょうか。
逆にそれを誇りとして持ち続けるのも大事なことだったかもしれないが・・・
まあ、王者ならともかくNo.2で誇りとするのも問題はあるし、挑戦者の気概は持ち続けるべきでありましたわなぁ。

さて、残り6分。勝ち越しをしたことだし、守り抜けば市蘭の勝利となる。
だがこの残り6分が――市蘭にとってとてつもなく長い6分となる

不吉な予告が入りました。
まあ、間違いなく同点を目指して猛攻が開始されるでしょうからねぇ。
万代さんはその猛攻を受け切ることができるのであろうか・・・楽しみであるが不安である。



第287話 3つの理由  (2013年 18号)


勝負を決めると思われた追加点を先に奪うことに成功した市蘭。
しかし時間はまだ6分も残っている。
松田の激によって気を取り戻した習実の反撃を試合終了まで耐え忍ばなければならない。これは厳しい時間になるぞ。

まず同点!!落ちついて・・・まず追いつこう!!

習実の生徒も必死で応援する。総立ち状態だ。
それは市蘭の方も変わらない。所沢を初めとして今や全員立ち上がって試合の様子を見守っている。

所沢「ここからですよ!!気持ちを入れ替えしていきましょう」
マイ「あと少しだよ――万代さんならきっとできるから。がんばって!!

守備に期待がかかる現状、万代さんにかかるプレッシャーは大きい。
それでもこの2人は万代さんならやってくれると信頼している。嬉しいことである。
また、プレッシャーがかかるのはGK以外のDF陣も同様。
落ちついたプレーが多い水内さんであってもこの残り時間は長く怖いと感じている。お前はどうなんだ?脇坂。

ばんだ〜〜い。頼んだぜ〜〜!!

気の抜けた顔で万代さんに声をかける脇坂さん。
その緊張感のない顔を見て、万代さんの緊張も少しほぐれる。ほほう、やりますな。
しかし、前を振り返り、水内さんの質問に答える時にはマジな表情になっている。

オレも・・・怖えよ
むこうは何がなんでもって気で人数かけてくるだろうからな。
逃げられるもんなら逃げてえけど・・・そうもいかねぇ。
やるしかねぇんだよ。守り抜くしかねぇんだよ!!

万代さんは元より気が弱い所があった。しかし脇坂さんだってメンタル面では決して強いわけではない。
それでも相手によってかける言葉を使い分け、必死で守るために声を張り上げている。
こうと決めた時の強さはさすがのものがありますなぁ。

さきほど点を取られるまでは延長を見越してベタ引きで守っていた習実。
だがこの状況でそれを続けるはずはない。当然の如く一気に全体を押し上げて攻めを開始する。

人数を増やして中盤を支配しボールを運ぶ習実。
リスタートのキックオフ後、1本目のシュートを放ったのは習実の11番FW富樫。
このシュートはキーパーの真正面。黙って立っていても防げるぐらいのシュートである。
のだが、万代さん。これをブロックで弾き落とす。あ・・・あぶなっかしいな〜〜〜

万代さんが弾いたボールは広能がクリア。しかしクリアボールは習実に拾われ攻撃継続。
そして2本目のシュート。これは9番の宮部。
これはコースを切りに行った脇坂さんがブロックする。が、このこぼれ球も習実に拾われてしまう。うーむ、怖い怖い。

この時間帯と状況はどっちのチームも怖い。守り抜けるのか?攻めて突き崩すことができるのか?
見守る観客としてもキリキリする時間帯である。怖い怖い。校長と間宮先生もそりゃ必死な表情になるわい。
そんな状況で乾。視界に入ったある男に吠える。

何しに来た!?

ふむ、どうやら成田が我慢できずに守りに来てしまったようですな。
なんだか懐かしい。市蘭がまだメンバーも揃っていなかった頃はよくこうして守りに戻ってきていたものだ。
それに救われた場面もなくはない。だが乾は上に残っていろと指示する。全員で守った方がいいのでは・・・?

上にいろっ!!理由は3つ!!
習実にとって一番嫌な展開はオレたちが追加点を取って2点差にされること。追加点を取るためにおめぇは上にいる必要がある!!
2つ目!!おめぇが下がったら下がった分、習実はディフェンスラインを上げることができる!!
そうなったらクリアボールを全部向こうに拾われてしまう!!
3つ目!!普段ディフェンスに参加しねぇおめぇが来てもワキさんたちにはおめぇが相手のどんなプレーに食いつくかわかんねぇ!!
守ってる者同士がチャレンジを譲り合うとそれだけで相手に決定機を作られる!!

な・・・なるほど。納得の理由である。
単純に守りの数が増えればいいというものではないのだな。
確かに成田が上にいれば習実のディフェンスは少なくとも2人は残っていないといけなくなる。
逆に成田が戻ればその2人が加わりむしろ数的には不利になる。ふうーむ。
これだけの理論をディフェンスへの支持を出しながらきっちりと並び立てる乾。やはりさすがである。
そしてこういう理論をきちんと作中で説明してくれるサッカー漫画というのは珍しい。こういう点が凄いのですよねぇ・・・

反論の余地もない成田。さっさと持ち場に戻れと言われ言葉もない。
その代わりに自分のチームメイトの働きをじっと見据える。

プレスをかけるために全力で走っていた。
誰かが裏を取られても――その前に回り込む者が常にいた。
振り切られそうになっても、振り切られそうになっても、足を伸ばし――それぞれが自分の役目を果たしていた。
この時から成田は――仲間に対する責任感をはっきりと感じるようになる

よもやここで成田の成長話を絡めてくるとは!!
必死に戦う仲間の姿を見てさらにサッカー選手としての意識を高めることができそうな成田。よいことである。

考えてみると責任という部分については微妙に薄かった感じはありましたな。
尾上からパスをもらい、1対1を外した時も黙って殴られたままにはしなかったし。
まあ、PKを止められたときは流石に責任を感じてか必死になっていた感じではありましたがね。
ともかく、仲間に対する責任感を背負うのはストライカーとしては大事なことでありましょう。
それは松田を見ていればよくわかる。彼は本当に仲間の想いをしょって立ち、役目を果たしているわけですからねぇ。

思わぬところでの成田の成長話にはなったが、とにかく今はDF陣の頑張りが重要である。
まあ、DF陣に限らず中盤の選手も一丸となって守っている感じですけどね。
どうにか守り抜きたいが・・・万代さんの危なっかしさがやはり気にかかる。さてはてどうなることか・・・



第288話 迷い  (2013年 19号)


1点リードを許した習実は必死で同点に追いつこうと攻め立てる。
逆に市蘭はそのリードを守り抜こうと必死のディフェンスを行う。
習実9番宮部のシュート。これはバーに弾かれことなきを得る。が、これ枠内だったら確実に入ってましたよ。
キーパーの万代さんは棒立ちで防げた感じはまるでしませんでしたもの。校長も息ができなくなりますわ。緊張で。

反応・・・できなかった

ゴールにこそならなかったものの、今のがもし決まっていたら・・・恐ろしい話である。
だがプレーの中にはキーパーの責任ではない、キーパーが優秀でもどうにもならない場面ってのは存在する。
そういうのがあった場合いちいち気にしていても仕方がない。

今のが入っていたら・・・それはしゃあないだ。切り替えろ。切り替えろ!!

自身にそう言い聞かせる万代さん。
プレッシャーには弱い男であるが、ワケが分からなくなるほどには混乱していない。ちゃんと関根さんの教えも思い出せている。
残り時間は4分。なんとか守り抜きたいところであるが・・・

山守(よっ・・・4分?)
水内(残り4分だと?)
丹羽(あれから・・・まだ2分しかたってねぇのか)
脇坂(ざけんなよ。もう、5分くらい攻め続けられてんだろーが!!)

体感ではそのぐらいに感じられるのでしょうが、実際は・・・という感じでしょうか。
守る側としては非常に長く感じられる時間。だが逆に攻める方としては非常に短く感じられる時間である。
なんとしても同点に追いつきたい習実。松田が強引な突破を行うが、これは脇坂さんがクリア。危ない危ない。

久住先生は大きく外にクリアせず、キープして攻めの形を作った方が時間稼ぎになるのではないかと考える。
その考えも間違いではないだろうが、現状そこまでの余裕があるのは乾のみである。
乾はディフェンスがボールを取れそうな場面になったら、その都度再三パスを受けやすい位置に走り込んでいる。
しかしその走り込みをアピールすることはしない。だから結果としてパスを貰える状況には至っていない。何故アピールしないのか?

それを言えばプレーの選択肢を増やすことになる
ワッキーたちは今、クリアすると決めてかかっとるから迷いのないプレーができとるんじゃ。
選択肢が増えれば迷うこともあれば判断ミスをすることもあるじゃろう。
クリアするしかないボールを判断ミスでキヨハルにつなごうとしたら――場合によっては取り返しがつかんことになるからのぉ。

なるほどね。選択肢ってのは多ければいいって話でもない。
緊急性が必要な場面では少なくした方が咄嗟の判断もしやすいということか。
では乾は何のために走っているのだろうか?

待っとるんじゃよ。
習実からボールを奪った誰かに――ほんの一瞬余裕があり、自分の存在に気付いてくれるのを。
上で待っとる――シンゴにつなぐためにのぉ

かつて乾が成田に行ったセリフだったっけ。チャンスを活かせるのは100回中1回ぐらい。99回無駄に走れと。
乾は自身もそれのほとんどが無駄になるとわかっていながら走り続けている。1回のチャンスをモノにするために・・・
うーむ、さすがというかなんというか。こういう目に留まりにくい努力をするから活躍できるってことなんでしょうな。
そしてこういう地味な努力をしっかり描いて評価してくれるのがこの作品のいいところである。

さて、キーパーの万代さんは必死で残り時間を守り抜こうとしている。
その心の中ではいろんな人への語り掛けを行っていた。

所沢――見てるよな
おめえが退場処分くらったおかげでオレは今こんな目にあってんだぜ。
――でも、あのファウルでチームを救ってくれなかったら、オレたち3年の部活はそこで終わってた。感謝してるぜ!!

尋猶さん見てますか?
あんたがいたからオレは市蘭に入り――あんたのおかげでこのサッカー部に入る決心がついたんです。
サッカー部には――最高の仲間がいました。
脇坂たちともわかり合えたし、あんたがビビってた男――百瀬はやっぱりすげえ男です。
マジで・・・感謝してます

感謝の言葉を述べているうちに松田がDFをかわしながら中に切れ込んでくる。
これはシュートまで持ってくるぞ・・・!!来た!間違いなく枠に入れて来るであろうシュートだ!!

高畑!!見てるか?
お前にも言いたいことがあるんだ。いっぱいあるんだ。だから――死ぬな!!

思いを込めた万代さんのスーパーセーブ。
松田のシュートを見事に防ぐことに成功した。おぉ・・・
語りも合わせてなんとも感動的な流れになっていますなぁ・・・

精神的に脆い部分のある万代さん。それは自分自身がよくわかっている。
だからこそ、そんな自分が今こういった場に立つことが出来ているのは関わってきた人たちのおかげでだと考えることができる。
感謝――そして、願い。うーむ、やはりマイちゃんにはなんとしても生きていて欲しくなってくるなぁ・・・!!
覚悟は決めていたつもりであるが、願いはやはり捨てれずにいる。それは作品内のキャラも読者も同様の思いでありましょう。
この試合の勝利を見て奇跡的に快復に向かってくれたりするといいんですがねぇ。



第289話 成田がいる!!  (2013年 20号)


万代さんのスーパーセーブにより同点の危機を免れる市蘭。
あの松田のシュートを防いだということもあり、観客の喜びは大きい。
マイちゃんも万代さんの活躍に嬉しそうな表情だ。ナイスキーパー!!

一方、攻めている側の習実もさすがに焦りの色が見えている。
残り時間は3分を切った。そろそろ追いつかないと本当にヤバイ。
追われる側のプレッシャーもあるが、追う側の焦りも確実にあるという話ですね。

習実のコーナーキック。ここで上がってくるのは茂森。
松田以外にも得点に絡んでくるのがセットプレーでの茂森のヘッドである。
だが、こういう時には成田も下がって来る。高さで茂森に対抗できるのは成田だけですからねぇ。

師匠が来てやったぜ

偉大な師匠として弟子の前に立ちふさがろうとする成田。だが今回はそれだけではない。

せっかくバンがいい守りしたんだ。ここはオレたちが何とかしてやらねえと――ってのもちょっとある。
・・・ちょっとだけな

なんだか微妙にテレを含んだ様子の成田。
チームメイトの活躍に心動かされている様子が見えてますな。これも成田の成長の一環か。
その気持ちの動きによってか、今回のセットプレーを見事に制す成田。こぼれ球は尾上がクリアする。

セットプレーの危機はさった。だが未だに攻撃は習実側である。
ここで習実の監督が動く。茂森にそのまま上に残れと指示を出してきた!!

なるほど。DFの茂森であるが、得点に絡めるだけの強力な高さを有した男である。
上に残すことで攻撃の手段が一気に増すこととなるわけですね。
ロングボールを入れてこられた場合、茂森の高さに対抗できるのは成田しかいない。
しかし成田が茂森に対抗するために下がってしまうと乾が言っていたような利点等が消されてしまう。どうするのだろうか?

成田は戻せ!!逆の見方をすれば成田に張り付いてた茂森を向こうが剥がしてくれたんだぞ。チャンスじゃねえか!!

その乾の主張と黒木監督の主張は一致を見る。
迷うことなく成田を上へと戻す黒木監督であった。ほほう・・・

古川や天城が言うには茂森が上に残ることの怖さを解説してくれている。
ロングボールを茂森がヘッドで受けて走り込んでくる松田か富樫の前に落とす。
特に松田の前に落とされるのが怖い
今までのように何人も抜かなくてもバックラインのDFを1人かわせばほとんどフリーの状態でエリア内に入れるわけだ。
なるほど。確かに怖い話ですわなぁ・・・だが、それを理解していながらも黒木監督は成田をつけずに戻した。
万一クリア時に余裕が出た場合、成田がいることで追加点のチャンスが出てくる。
そう考えているのは黒木と乾の2人だけであった。

他の者はこの数分間守ることしか考えていない。
それは今も変わらなかったが、それでも――FWのポジションに戻っていく成田の後ろ姿を見て、頭のどこかで再認識する。
"上には成田がいるんだ"――と。

乾(ぜってーおめえにつなぐ。まってろ)
成田(おお)

視線だけでそういった会話を交わす成田と乾。
うーむ、なんだろうねこのカッコイイ場面は・・・!!
チームメイトの必死なディフェンスに成田が心動かされたのと同様、成田が上にいるというその存在感をチームメイトが感じる。
全体のサッカープレイヤーとしての視野が広がったいい展開じゃありませんか・・・!!
古谷野先生はこういう展開を出してくれるのが上手いんですなぁ。本当。

しかし、成田を茂森につけなかったことによるディフェンスの不安があるのはやはり間違いない。
カウンターができれば超がつくほどのチャンスになるが、まずは防ぎきれるかどうかという話になる。
習実側としてはこれで可能性が出てきたという表情。

まだまだ・・・いけるぞ!!

元々最後まで可能性を追い続けるつもりでいたと思われる松田だが、これで俄然前のめりになってきている。
この天才を無事に抑えることができるのだろうか・・・?

茂森の高さも怖いが、やはりとにもかくにも松田の存在が最後まで怖い。
なんとか一瞬のチャンスをものにして乾から成田へのパスがつながる場面を見てみたいものであるが・・・どうなることか。



第290話 まだか!?  (2013年 21+22号)


キーパーとDF2人を残して他の全員を市蘭の陣地に上げる習実。
茂森に対抗できる成田を上に戻した判断は凶と出るか吉と出るか・・・

習実の攻めは間違いなく茂森への放り込みが中心となるはずである。
この場合ディフェンスで気をつけないといけないのはDFが茂森に集まり過ぎないこと
茂森に集まり過ぎると他の者をフリーにしてしまう。
もちろん・・・誰かが身体を寄せて折り返しのボールをコントロールさせない必要はあるが。
茂森をマークするより、むしろボールの落としどころに走り込んでくる者を素早くチェックする。それが大切である。

黒木監督の考え通りに守備陣は動いている。
最初の放り込みは百瀬のクリアで無事凌ぐ市蘭。

中盤の者はクロスを入れて来る者にプレスをかけ、正確なクロスを入れさせないようにする。
――そのためには通常より長い距離を全力で走る必要があるが。
この時間帯でも・・・お前たちならできる!!

あと少しだ。走れっ!!

考え方は既に練習で伝えきっているということか、端的な支持だけを出す黒木監督。おお!!

――ったくよお。おめえが出す指示は半分以上が"走れ"じゃねえか

割と身もふたもないツッコミを入れる二宮さん。さすがである。
そしてそのようなツッコミを内心入れるだけあり、しっかり走っている。
クロスを出そうとしていた宮部に詰めてプレッシャーを与えることで大きく右に流すことに成功する二宮さん。

見ててわかんねえのか?・・・走ってんだろーが!!

いやまったくその通り。
もはや端的な指示を出す必要もないくらいにわかっている選手たちばかりになってきたということですな。優秀だ。

危なっかしくはあるが上手く守っている市蘭。しかし習実の攻めはまだまだ続く。
その様子を緊張の汗を流しながら見守る病室の面々。
組み立ても何もないただの放り込みは1分の間に何度も仕掛けられる。それらを全て守り抜かねばならないのだ。
我慢の時間とは言うが、これは見ている方の我慢も必要になって来る時間である。

人の試合でこんなに時間の進みを遅く感じたのは――初めてだ

江崎の言う通りですな。この勝っているチームが追われているときの時間の進みの遅さ。
サッカー観戦をした人ならば経験のある感覚ではなかろうか。
この感覚はあの天城ですら感じているという。もう5・6分たってんだろーが!!

それでも残り時間は確実に減って行っている。
習実の必死の攻撃はついに茂森と松田のラインを繋げることに成功する。ま、松田だー!!

強引に持って入ってシュートを放つ松田。さすがにこの点取り屋に対しては枠を外すのは期待しない方がいい。
なので万代さん。必死の飛びつきで松田のシュートをはじき落とす。おぉ・・・ナイスキーパー!!

しかしこぼれ球に追いついたのは習志野実業。ゴール前に入れて来る。
ゴール前、敵味方入り乱れた混戦模様。これは危ない。
狙って打たなくても誰かの足に当たって入るかもしれない。危うい場面だ。
緊張して見守るが、なんとか水内さんがクリアして事なきを得る。怖い怖い。校長息止めすぎて倒れそうだよ。

残り1分!!

ついにきた、残り1分。ここからはカウントダウンができるような時間だ。集中して守りきるぞ!!
そのように考える市蘭。だが試合にはアディンショナルタイム(ロスタイム)というものがある。
示されたその時間は・・・なんと3分!!

合計・・・4分!!まだそんなにあるのかよ!?

あと1分だ!!と思った所にこの表示はなかなか厳しい。
気持ちの張りを切らすことなく最後まで守り抜けるだろうか・・・!?
やはり一度くらいは反撃に回って相手のゴールを脅かして見せる必要がどこかで出てくるのではないだろうか。
しかし、その攻撃に転じる余裕が果たしてあるかどうか・・・

なんともじりじりした時間である。
負けているときはもう残り時間少ねーぞ!なのに、勝っているとまだ残り時間多いぞ!となるこの不思議。
1点の重みが大きいから、こういう試合の終盤は本当、見ている方も息が詰まることになるんですよねぇ・・・
安堵の息を4分後につくことができるのか・・・注目である。
マイちゃんも息を止めてしまって脳に負担をかけたりしていないか、心配してしまう。
むしろそれが功を奏して腫瘍を消し去る結果に繋がるとか・・・!?奇跡はどこで起こるかわからないからね。良い様に考えよう!!



第291話 クリアしろ!!  (2013年 23号)


ロスタイムと合わせて残り4分・・・あれから・・・もう大分たつよな。
あと少し・・・あと少しで笛が鳴る。クリアしろ!!早く!!

叫ぶ万代さん。
試合終了まで残りわずか必死でリードを守り抜こうとしていますな。
しかし体感での大分たったはもはやアテになりませんからなぁ。まだ2分以上残ってたりして・・・

丹羽さんのクリアは小さくこぼれ球を習実に拾われる。
中に入れて茂森のヘッドでそのまま得点を狙う。が、これは万代さんが必死のパンチング。ナイスキーパー!!

マイ(あと少しだよ。頑張ってみんな)
間宮(あと少しだ・・・がんばれ!!――後輩たちよ)

応援する人たちは皆目を逸らすこともできず、食い入るように試合に見入っている。
しかし習実の方も必死だ。猛攻撃を休むことなく続ける。
宮部のクロス。茂森の頭を使おうと狙ったこのボール。狙うはもちろん松田への中継である。

松田さんの足元に・・・足元に落とせば、後は松田さんが何とかしてくれる

その強い意志により、狙い通り松田の足元へボールを落とすことに成功する茂森。
となればその期待に全力で応えようとするのが松田という男である。
防ごうとした脇坂さんを凄いスピードで抜き去る。
まだ百瀬が側についているので完全にフリーというわけではないが、ほぼキーパーと1対1の形となる。

キャプテンとして・・・チームのエースとして・・・絶対に決めなければいけない時がある。
それが――今!!

狙い澄まして放つシュート。的確にコーナーをついたこのシュートは万代さんが飛んでも追いつかない。
しかし、狙いすぎたのかこのシュートはポストに嫌われる。松田がミスをした・・・!?
そういえばこの数分の間に万代さんのスーパーセーブが2本も出ているんですな。
なるほど、これはさすがの松田もコースを狙いすぎてしまったとしても仕方がないという話である。

だがポストに嫌われはしたものの、まだボールは生きている。このこぼれ球を押し込めば・・・
走る松田。だがそこに割り込んだのは脇坂さん。身体を入れて先にボールを確保する。
が、まだ松田は諦めてはいない。後ろからでもどうにかしてボールを奪おうと狙っている様子。
これは危ない。外へクリアをしなければ・・・!!

そう考えて大きく蹴り出そうとする脇坂さん。
しかし、その目にある男の姿が映った。
瞬間の判断であろうが、クリアをやめてその男がいる方へと蹴り出す脇坂さん。
驚きの市蘭イレブン。しかし、ボールが乾へと渡ったことで全てを理解することになる。

乾にパスが通った瞬間――成田は走り出していた

パスが来ることを信じて動き続けた乾。
それがついに功を奏した。敵味方の誰もがクリアすると思っていた様子ですからねぇ。ほぼフリーでパスを受け取っている乾。
それも全ては仲間を信じて走り続けた結果であるわけで・・・うーむ、素晴らしい。
そしてその乾にパスが渡ること、乾がパスを出してくれることを信じ待ち続けていた成田。動き出しは速い。
これは追加点の大チャンスでありますな!!
相手DFとキーパーの間にボールを落とせば、成田の速さで瞬時にキーパーと1対1に持ち込める。となれば・・・!!

ここでの追加点が決まればさすがに勝負はついたも同然でしょう。
まあ、松田のことですし、その甘い認識を打ち消すかのように再開後数十秒で得点とかやってくるかもしれませんが・・・
ともかく、今はこの信じて待ち続けた仲間からのパス。その繋がりを見届けることとしましょう。



第292話 ファウル!?  (2013年 24号)


仲間を信じて走り続けた。その努力が実る瞬間がやってきた。
脇坂さんのパスを受ける乾。そしてそのパスが渡ったのを見て走り出す成田。

戻れ――!!

成田についている習実DFは2人だけ。
決定的な場面になるのは目に見えている。必死に戻る習実。
そしてパスを出す乾を妨害するのはもちろん石持の役目である。

この場面、パスが成田に渡れば1点はほぼ確実なものとなる。いかせるわけには・・・いかない
ならばと乾の袖を掴み、ファウルで試合を止めようとする石持。
はっきり掴んでいるのは審判にも見える。普通なら即座に笛が吹かれプレーが止められる行為。
しかし・・・ピッチ上で最も冷静であるべき者は、その務めを果たす

袖を掴む石持の手を無理やり引きはがし、成田へのパスを通す乾。
そのアドバンテージをとってプレーオン――試合を止めずにプレーの続行を認める審判でありました。おぉ・・・!!

ボールを持って走る成田。ハーフラインを少し超えたあたりでもらったので、残る部分は1人で走って行かないといけない。
だが前にいるのはキーパーただ一人。DFは後ろから追ってきているという状態だ。

オレたちは・・・習実なんだ。
新設された船学が台頭してくるまではいつも八津野と覇を競っていた。
こんなところで、去年突然現れた相手に負けるわけにはいかねえんだ。

古豪のプライドという奴ですかね。
驕りとなることもありうるが、今はその矜持にかけて必死になろうとしている。
その必死さゆえか、ドリブルしている成田に追いつきそうなDF。

天城「足元でドリブルしてんじゃねえ!!追いつかれるぞ!!」
広能「もっと前にっ・・・」
山守「前に蹴り出して自分にパス!!

というアドバイスを受けてか前に蹴り出す成田。が・・・長い!!
あれだけ蹴り出しが大きいとキーパーが先に追いついてしまう。
やっちゃったでござるなあと苦笑の古川。石化する天城。あ、天城・・・
そして嘆息する市蘭イレブン。まあ、成田らしいっちゃらしいですけどね。いや・・・だが、ここで終わりではない!!

あいつらが・・・必死に守ってオレに繋いだんだ。ぜってー決める!!

誰もがやらかしたと思った。古川でも諦めるぐらいのミス。
それに必死にくらいつこうと走り出す成田。その頭を占めているのは仲間のためという想い。
これには一度嘆息した市蘭イレブンも驚きの表情で見つめ直す結果となる。

待ってろよおめえら。
・・・この後も習実はガンガン来るだろう。
でもオレが少し・・・少しだけ楽にしてやる

成田が仲間を想い、決定的な追加点を決める。
おぉ・・・そうなるのだろうという予測はついていたのに・・・なんと感動的な・・・!!
DFの必死さもありながら、ここでも成田の意識の移り変わりによる成長を見ることができようとは。本当、いい展開を魅せてくれる。
構成の上手さには感心することしきりであります。

さて、試合を決定づける追加点が決まったわけだが、ここで終わりとなるだろうか。
それとも松田が意地を見せて追撃にくるだろうか。
2点差はセーフティな感じだが、それで油断してはならないのは理解しているはずですし・・・さてさてどうなるか。
最後の笛が鳴らされるまでは気が抜けませんな。



第293話 道標  (2013年 25号)


仲間が必死で守り繋いだボール。成田はゴールで応えた!!

習実としてみればまさに呆然の失点。
逆に市蘭としてみればまさに値千金の追加点である。
成田が吠えるのに合わせて市蘭イレブンは皆吠える。乾や尾上ですら声を上げている。
黒木監督は感激に打ち震え、そして負けないぐらいの勢いで吠える天城。うむ、見事な感情移入っぷりだ。
そして同じく病室でも3崎とルカさんが揃ってガッツポーズを決めている。ルカさん違和感のない混じり方してんな・・・

成田はこの試合3点目。なんとハットトリックを達成している。
本人としてはそれを意識した様子はない。とにかく仲間が繋いだボールを決めたい、少しでも楽にしたいという想いが勝っていた。
アナウンスも習志野実業の猛攻を全員で守って守って守り抜いてからのカウンターでしたと述べている。
それを聞いてうんうんと頷くマイちゃん。やはりそういうところをちゃんと見ているんですなぁ。

大喜びの市蘭とは対照的に沈み込む習実の応援席。5点目は・・・致命的だろ。

残り2分!!

万代さんはもうずいぶん経ったとか言ってたが、やはりまだ時間はあるみたいですね。
2分・・・1分で1点取れば同点にできる時間ではある。
であるからか、フィールドに立っている習実の面々はまだまだ諦めていない様子なのが見て取れる。ビンビン伝わってくる。

最後まで全力で走り、習実の得点を阻止する!!

はっきりとそう口にする百瀬。まさにそれが大事でありますな。

5対3――勝ちはほぼ決まった。
ここからは決勝に向けて無駄な怪我をしないためにもいき過ぎたプレーをしないように抑えた方がいいのかもしれない。
でも――それはオレたちのサッカーじゃない。
おれたちは常に全力で走ってきたからここまで来れたんだ

最後まで諦めずに必死で走る習実。
しかしその必死さなら市蘭は誰にも負けていない。そう、まさに常に全力で走ってきてここにいるのだ。

引退する時、部の看板――あの看板の裏に何を書いて何を後輩たちに伝えようか――ずっと考えてきた。
決めたよ。オレはあの看板に一言、"走れ"と書こうと思う
生まれ変わったサッカー部はこれから先もずっとずっと続いていくだろう。
その中に常に全力で走る先輩たちがいたという足跡を残しておこうじゃないか。
10年後20年後の後輩たちがもし自分たちがどんなサッカーをしたらいいのか迷ったとしてもいつでも原点に戻れるように・・・
その道標を残しておこうじゃないか

百瀬がその想いを抱いている中ロスタイムは経過していく。
必死で守り抜いた結果、最後の松田のシュートもクロスバーの上を越えて外れ・・・タイムアップ!!

全国高校サッカー選手権大会千葉県予選準決勝。
市立蘭山VS習志野実業の戦いは5−3で幕を閉じたのでありました。

いやあ、良かった。無事に激戦を制すことができた!!
そしてこの試合中にも成田をはじめとして成長を見せる市蘭。
こうなれば船学を破ることも夢ではなくなってきたと思える。
松田も次の船学戦に向けての練習に参加してくれる可能性はありますしね!!

習実は何だかんだで天才・松田に頼っていた感じが強い。
八津野も攻めに関しては天城が目立っていただけのような気もする。
しかし船学は天才と呼ばれる人間はいないまでも高レベルのプレイヤーがとにかく揃っている。
そしてその個々の力を活かし、全体の底上げを図る土岐監督のような存在がいる。
甘くはみてこないだろうし、さすがに最後の壁は高そうである・・・楽しみだ!!

まあ、問題はその船学戦までにマイちゃんの容体がどうなるかなんですよね。
果たして船学戦の前に悪化してしまうのかどうなのか・・・ううむ、怖いなぁ・・・



第294話 解放  (2013年 26号)


接戦を制した市蘭。ついに決勝行きを果たすこととなりました。
当然の如く歓喜する市蘭イレブン。
まあ緊張し通しだった万代さんとしてはまずは呆然としてしまうって感じの様子ですがね。

勝った・・・勝ったぞ・・・勝ったんだ!!

DF陣に飛びつかれて勝利を実感する万代さん。
脇坂さんとしては真っ先に万代さんに飛びつきたい。その気持ちはよくわかる。
この大試合で初のキーパーという大仕事。見事にやり遂げてくれたわけですからなぁ・・・

ハハハハハ!!おめーら・・・ザマー見ろ!!
シロートキーパーを崩しきれなかった気分はどーよ!?

おっと。いけません万代さん。それはいけない。
慌てて止める脇坂さん。さすがにその追い打ちは色々と損なう。
習実側としては正に返す言葉もないという感じではあるが・・・気持ちのいいものではないわな。

やったぜ・・・やってやったぜ!!

試合が終わったというのに再び混乱状態に突入している様子の万代さん。目が危険だ!!

敗れた習実。3年生はこれで引退という形になるのでしょうな。
しかしすぐに新チーム作りにとりかかることが予想される。年明けの新人大会に向けて。
そして松田はプロ入りが既に決まっているのですぐにトレーニングを始めることとなるのではと目されている。
うーむ、さすがに天才・松田というわけか。

試合が終わり、最後まで観戦していた船学も引き上げようとしている。
そんな古川たちにお願いしてバスに乗せてもらおうとする天城。
ここから電車で帰ろうとしたらヘタしたら3時間かかるし、おめえらのでっけえバスなら1人追加で乗っても余裕だろとのこと。
なんというか、引退してノーサイドとはいえ色々と図々しくも豪胆な願い出だなぁ。

天城氏。駅はあっちでござる。

古川の返答はこれ。まあそうなりますよねー。
試合前にコーヒーをあげなかったことの仕返しがこんなところでされることとなるとは!!

まぁ・・・今日は気分がいいからそれでもいいけどね

引退してノーサイド。とは言い難い程に市蘭に感情移入している天城。
きっとこれから3時間ほど電車に揺られながらニヤニヤしていることでありましょう。気分よさそうだな!!

勝利を決めた市蘭は応援してくれた観客席の皆さんに礼をしている。
それを見ながら拍手で称え、涙を流す校長と間宮先生。

間宮「校長・・・我々はこんなにすばらしいチームを潰そうとしてたんですよ
校長「我々じゃありません。あなたです

冷静な返しだな校長!!まあ、その通りであるのだが。
間宮先生もさりげなく校長を共犯扱いにしようとは一体どういうことであるか!!
いやまあ、間宮先生の協力もあって存続が決定したわけであるが、うーむ。まあいいや。今は頑張って応援してくれてますし。

その先生たちの横に並ぶように最前列にやってきた所沢。
自分の代わりにキーパーを務めてくれた万代さんにお疲れ様でしたと頭を下げる。

それを見てようやく緊張の糸が切れた様子の万代さん。
表情を崩し、へたり込んで泣き出してしまう。おやおや。よっぽど怖かったんですねぇ。
先の暴言も極度の緊張による興奮状態でつい口走ってしまったことなのでしょう。
それが切れたら泣いてうずくまってしまうほどに・・・

情けないと取られそうな姿ではあるが、この試合での働きは誰もが認める所である。
観客もナイスキーパーと讃えてくれています。さすがに闘神!!と讃えるのは躊躇われるとは思うがね。
なんで闘神なんだろう万代さん。

引き上げる市蘭。その姿を見つめるのは決勝の相手、王者・船和学院!!
ついにこの時が来ましたな。果たしてリベンジは成るのか。今から緊張とともに楽しさが感じられます。

さて、見事に勝利を決めた市蘭イレブンはマイちゃんの病室へと足を運ぶ。
どうやら万代さんの暴言に関しては監督と百瀬が謝りに行ったらしい。ふむ。
まあ、万代さんの気持ちもわからなくはないが後味の悪いことをしちゃあいけませんやね。
そんな万代さんにもお疲れ様でしたと声をかけてくれるマイちゃん。そして病室でも涙する万代さん。
何回緊張から解放されてんだよ!!相変わらずのメンタルだなぁ。

次はいよいよ船学戦。ぜって―勝つからなと宣言する成田。もちろん皆そのつもりである。

うーむ。いい雰囲気のまま決勝に挑めそうですね。よかったよかった。
本当、最後のこの一文さえなけれなそう言えたのに・・・

高畑麻衣が再び危篤状態に陥ったのは、この日の夜だった

試合中は病状が悪化することもなく、むしろ無茶苦茶元気な様子だったマイちゃん。
このまま一気に嬉しさで完治に向かうこともあるか!?とか思ったが・・・やはり甘くはないということか。
覚悟はしていたつもりであるが、やはり辛い。
いよいよこの時が来てしまうのかと思うと・・・うむむ・・・



ANGEL VOICE 34巻


第295話 手紙  (2013年 27号)


習志野実業戦の翌日、11月11日。
市蘭サッカー部はマイちゃんが危篤状態になったことはちゃんと聞かされている。
そして前回と違って一晩では回復していないことも聞かされている。
さすがにやばいのかなと考えたくもない考えが一同の中に湧き上がる。うーむ。

この日予定されていたミーティングは5日後――船和学院との決勝戦前日に延期された。

翌11月12日。船和学院との戦いに向けて練習の手伝いにやってきた天城と3崎。
しかし今は練習できるような精神状態ではない市蘭サッカー部員たち。
部室で待機し、病院からの知らせをじっと待っている。
危篤状態から回復したという知らせがあればすぐに練習を始めるかもしれないわけだ。なので天城たちは――

・・・待機しとこっか。その・・・病院からのいい知らせってのが届くまで

部室にも向かわず、その場に座り込んで待機を始める4人。
遠いところからわざわざやってきたのだし、何もせずに帰るよりはいいかもしれませんな。
3崎はマイちゃんに会っているし、市蘭サッカー部員たちの気持ちは分かるようになっているかもしれない。
天城もまあいい奴ですしね。待機している間に色々と話を聞いて共感とかし出してもおかしくはないな。

高畑麻衣が危篤状態から回復したのは、この日の夜だった

どうにか回復したみたいでよかったよかった。
意識を取り戻したマイちゃん。サッカー部のみんなに手紙を書こうと思うと言い出す。
マネージャーとして出来るのはそれくらいしかないから、と。
しかもその手紙は部員全員。1人1人に対して書くらしい。それならもう少し体力が回復してからの方が・・・

書ける内に書いておきたいの

ぬう。悲しいことを言う。
そんなことを言われたらさすがにお母さんも二の句を継げないじゃないか。

というわけで、手紙を書き始めようとするマイちゃん。
しかし早速震え始める右手により紙を押さえることもできない。
なのでお母さんが紙を押さえておいてくれます。よい光景だ。
そしてまず書き出すのは成田への手紙。

成田くんへ――
いよいよ船学戦だね。私が初めて成田くんがサッカーをしているのを見たのは中1の時でした。
とにかく足が速くてボールを追いかける姿がとってもカッコ良かったよ。
市蘭のサッカー部に入った成田くんは私の想像を遙かに超えた、本当にすごい人でした。
ちょっと未来のスーパースターを発掘した気分になっちゃった。
1対1の弱さを克服した成田くんはもう怖いものなしだね。
周りの仲間もすごい人ばっかり。どんなに狭くてもコースが開いていれば乾くんがパスを通してくれるよ。
二宮さんが成田くんのスピードに合わせて速いクロスを入れてくれるよ。
尾上くん・・・とは仲良くしてね(これは尾上くんの手紙にも書いておきます)。
仲間を信頼して全力を尽くせば絶対に勝てるから。打倒船学!!ファイト!!

なるほど。こういった感じに1人1人に語り掛けるような手紙を書いていくわけですな。
しかし成田。1対1は克服できたがまだPKのトラウマは払拭できていないのではないかな?
まあ、そうそうPK戦なんて行われないだろうから問題はないのかもしれないが。

そして成田への追伸。
実はマイちゃん、小2の時、成田にいじめられていたらしい。臭い臭いとからかわれていたそうな。ほう。
そんなことがあったので入院した時にまた言われるんじゃないかとヒヤヒヤしていたマイちゃん。
ここでは10日に1回しかお風呂に入れないわけですからねぇ。
でも全然そんなことなくて・・・成田くん優しくなったね。とマイちゃん。
まあそんなこと口にしようものなら他の部員に連れ出されて人の壁の向こうで制裁されるでしょうからなぁ。

というか小学生が女の子にそういうからかいを仕掛けるというのはやはりアレなんですかね?
成田は全然覚えていないようだけど、やはり当時はそういう気があったんでしょうか。
でもいじめていたという部分を思い起こされると凄い落ち込んで泣き出しそうだな成田。

成田くんが・・・成田くんが日本代表のユニフォーム着てる姿を見たかったな

まるでもう見ることはできないみたいな書き方をするマイちゃん。
なのでお母さん。見たかったではなく、見たい・・・でしょ!?と口を挟む。
読まないでねと事前に言ってたのにしっかり読んでいるじゃないですかお母さん!!ホッホッホじゃないよ。
まあそれはさておき、そこかいつか見たいに書き直しなさいと述べるお母さん。しかし――

いつかなんか・・・来ないんだよ
私・・・もうすぐ死ぬんでしょ。

さすがに2回目の危篤状態は重かったのか、すっかり消沈した様子のマイちゃん。
お母さんはそれに対し気休めを言うでもなく、マイちゃんを優しく抱きしめて諭す。

試合に向けてあなたがいなくなることを・・・できるだけ意識しなくてもすむようにしてあげなきゃ。
手紙を読む成田くんのために・・・書き直しなさい

見ることは叶わない。それはもう親子ともに覚悟している。
それでも読む方のことを考えてあげましょうと諭す母。泣きながらそれを聞き入れる娘。

成田くんが日本代表のユニフォームを着ている姿をいつか見たいな

なんとも物悲しい文章である。
希望が込められていると手紙を受け取った者には読めるかもしれないが、実は気配りによる文章であると・・・

まずは成田への手紙であるが、これから他の部員への手紙が1枚1枚綴られていくことになる。
もしかしたら次回以降何週にも渡って手紙のシーンが描かれるのだろうか。
そんなことされたら読んでいる方の精神が持たないので勘弁して頂きたい。

最後の柱のアオリにて想いはきっと届く!!と語られているが、これは多少の希望を持ってもいいのだろうか?
まあ、編集も応援したくなっちゃってるんだろうなということなのかもしれないが・・・ううむ。



第296話 励まし  (2013年 28号)


11月13日水曜日――船和学院との決勝まであと4日。
マイちゃんのこともあり練習が行えない市蘭サッカー部員。
そういう事情があるとは知らず、ウキウキした様子を見せる校長。
人数こそいたもののバラバラの応援しかできなかった生徒たちに、纏まった応援のやり方を覚えてもらうこととしたようだ。

各クラスから応援リーダーを2名ずつ選出。
まずリーダーに応援のやり方を覚えてもらい、明日からそのリーダーたちの指揮のもとクラス単位で練習を行います。

という風にルカさんに説明する校長
最初に言葉を交わした時からそういう立ち位置が決定していたからしょうがないが、なんで校長が生徒に敬語使ってるんだろう。
また2人ともその立ち位置が普通のことのように過ごしているからなんともはや。

にしても応援の掛け声は八津野のパクリなのか。
まあ、参考にするのは悪いことではないですけどね。つまるところは気持ちの問題なわけですし。

案外、伝統ってこういう始まり方をするモンなのかもな

うむ。さすがにルカさんはいい事を言う。校長も嬉しそうだ!!
むう、やはり奇妙な関係だよね、この2人。生徒に認められて嬉しそうにする校長・・・まあ、可愛いからよいか。

さて、マイちゃんが危篤から回復したのを告げられたサッカー部員。
しかし流石に呑気にそれを喜ぶという気持ちにはなれない様子。
一週間の間に2度の危篤。病状が悪化しているのが目に見えて感じられる。これは一時的な回復では喜べませんわな。

なので今日の練習も軽く流すだけにしようと考える黒木監督。
その監督の元に包みを持って現れたのは関根さん。なんだこの弁当箱みたいなものは。
ああ、マイちゃんの手紙が入っているんですな。なるほど毎日通っている関根さん経由で届けられることとなったか。

一人一人に宛てたマイちゃんの手紙をグラウンドに散らばりそれぞれが読み始める。
1年生たちや先生たちもそれぞれもらっているのだろうか・・・?

今回語られる内容は百瀬宛ての手紙。

百瀬さんへ。
まず、サッカー部を守ってくれてありがとうございました。
サッカー部がなくなっていたら――私は自分が生き生きできる場所を他に見つけられなかったかもしれません。
このことについては今園さんとヒロナオさん(すいません字がわかりません)――にもいつかお礼を言わなきゃと思っています。
一人一人に宛てたこの手紙――百瀬さんの順番が一番最後になってしまいました。
だってチームのことをよくわかってて人一倍がんばる百瀬さんに何を書いたらいいか思いつかなくて・・・
だから私のことを少し書かせてもらいます(実はこんなことを一番書きやすいのも百瀬さんでした)

という前置きから始まる百瀬への手紙。
ちなみにヒロナオの漢字は尋猶と書く。うむ、分からなくても仕方がないですな。

それはさておき、この手紙。
確かに前回の書いているときの描写もそうでしたが、左手で書いている。読みづらくないですかと心配するマイちゃん。
だが、見る限り全然しっかりした字で書かれている。
右手の震えが治らないから左手で書くように言われ、大分練習したそうな。
それは結構ショックな話だったでしょうなぁ・・・震えが治ることはないと実感してしまったわけでしょうし・・・
そしてそれは、言葉をちゃんと喋れないのも治らないことを意味し、ちゃんと歌えないということも意味するわけで・・・

そんな私を励ましてくれたものが2つありました。1つはサッカー部のみんなの頑張りです。
おじいちゃんが毎日病室に来て、みんなの様子を詳しく話してくれて、本当に頑張ってる姿が目に浮かぶようで励みになりました。
もう1つは百瀬さんがリクエストしてくれ歌――ユール・ネヴァー・ウォーク・アローンでした。
"歩こう歩き続けよう希望を胸に秘めながら。そうさ君は決して一人じゃない"
――いい歌詞ですよね。とっても励みになりました。
大会が終わったらみんなにユール・ネヴァー・ウォークアローンを歌って欲しいな・・・みんなの歌声聞いたことがないから。
私の想像では水内さんとか結構歌いこんでる気がするんですよね(これは水内さんの手紙にも書いておきました)
それではいよいよ頑張りの成果を見せる時です。決勝戦――勝ちましょう!!

と締めくくられる百瀬への手紙。
読み終えて水内さんにカラオケで歌いこんでるの?と尋ねてみる百瀬。
その問いに親指を立てて応える水内さん。本当に歌いこんでいるんだ!!あっはっは。

・・・やっぱり、オレなんかより全然みんなのことわかってる

本当、いいマネージャーというか、チームの支えでありましたよ、マイちゃん。
成田も手紙に触発されてオレは日本代表になるぜと吠えている。
これもいつか見たいなと未来があるように書き直したおかげなんですよね。
成田たちのやる気が出たのはよかったよかっただが、書く方の苦労を見せられているので、なんだか悲しさが出てくるのが辛い。
まあ、何にせよ船学戦まで残された日は少ない。
手紙で全員にやる気が満ちた様子なのは非常によいことである。練習すっぞォ!!

脇坂さんのその声に答えるようにビブスを着て準備万端の天城と3崎が登場する。
どうやら市蘭サッカー部員がやる気になるまでずっと待機していたらしい。

割と人付き合いがいいタイプって言われるよ

うむ、自分で言うだけあって本当に付き合いのいい男である。
もうここまで来たらとことん付き合って、大物食いが見たいぜって話でありましょうなぁ。

これで船学戦まで待ったなしという状況でありましょうか。
待ったなしということであって欲しいなぁ。3回目の危篤、そしてそのまま――というのは無しの方向で・・・

しかし次回はどうやら船学側の話。何やら異変が起きるとのことである。
ふむ?一体何が起きるというのであろうか?地味に気になる予告ですなぁ。



第297話 託された夢  (2013年 29号)


マイちゃんの手紙に元気づけられ、本格練習再開!!

正GKの所沢が帰ってきたことで万代さんもCBに復帰できている。
ふむ、万代さんとしてみればもうしばらくはGKとか怖いポジションは懲り懲りって所でしょうな。
なんせ最後の壁だものなぁ。後ろを守ってくれる安心感がないポジションは怖い。

所沢と万代さん。2人の感覚が戻ってきたところで仕掛けだす助っ人の4人。
何をするのかと思えば、ダイレクトでの素早いパス回し。
これをいきなりやられるとさすがに市蘭のDFもついていけない。
DFが完全に抜かれたのでは所沢であってもどうにもならない。ゴールを許すこととなる。

こんなモンじゃねえぞ

いきなりの速攻を決めた後にそう語る天城。
それを見てありがたいと述べる黒木監督。

再現してくれているんですよ。船学の攻撃を

なるほど。それは確かにありがたい。
実力的に不足している部分はあるのかもしれないが、古川や伊能、ユゥエルといった船学の面々の攻撃を再現する4人。

本気の船学の猛攻を目の当たりにしても慌てなくてすむよう、船学の怖さをプレーで伝えておきたい。
天城や乾はともかく、オレたちじゃ力不足かもしれない。
それでも・・・伝えておきたいんだ。
そこから何かをつかんでくれ。お前たちに夢を託したんだから

そのように考える3崎。
うーむ、自らが敗れても夢を託せるチームがいる。素晴らしいことでありますね。
市蘭とは何度も勝負し、お互い研鑽を積んだ仲でありますし、夢を託すには相応しいと言えましょうな。

さて、その目標であり船和学院。
決勝目前のこの時期に大きな問題が起ころうとしている。
問題を起こしたのはやはりこの男――伊能だ。

今――古川さんがトップ下でオレが左サイドですよね。
オレと古川さんのポジション――入れ替えてもらえませんか?

決勝を前にしてこの申し出!!しかも理由は自分がもっと中でプレーしたいからだという。
ううむ、実力は間違いなくあるのだろうが、どこまでも傲慢な。
土岐監督にそれは理由になってないなぁと言われたならば、さらに傲慢さを発揮する。

オレの方が古川さんより上手い

ハッキリ言いやがった。これはどこまでも増長していきそうな奴でありますよ。厄介な。
しかし土岐監督は言う。古川と話し合って決めろ、と。
ほう?まさかの古川に一任。
と思ったが、話し合いの結果は参考にするというだけで決定ではないんですな。

さぁ・・・どうする?古川

何だか楽しそうに見える土岐監督。
この監督は色々と選手の心をコントロールしてやる気を出させる技に長けている。
今回のことも古川の出方を見てチームのまとまりを作ろうという考えなのかもしれないが・・・果たしてどうなるか。
基本的に弱気なござるである古川。礼儀正しいともいうが、先輩としては生意気な後輩にはビシっと決めて欲しい。
成田がいればそういうアドバイスも出来ようが・・・さてはて。



第298話 古川と伊能  (2013年 30号)


決勝戦を前にして、いきなりポジションの変更を監督に申し出る伊能。
そして監督から当人同士で話し合えと言われ、古川と直接交渉し出す。

オレ、トップ下やりたいんですよ。監督は古川さんがいいって言えば代えてくれるそうです。

参考にすると言っただけで変えるとまで言いきってないぞ。
まあ、都合のいい方に解釈する男っぽいしなぁ。面倒な奴だ。

ポジション代わってくださいと述べる伊能。
古川はそれに対し・・・そういう話は練習が終わってからするでござるよとかわす。うーむヘタレてるなぁ。

こんな大事な時期に揉め事を起こすとは・・・船学も大変だなぁ。
と思っていたら、むしろチャンスですと言い出す土岐監督。
何でまた!?と思ったら、監督が言うにはこの件は古川と伊能、双方が変わるきっかけになるかもしれないとのこと。

古川には「オレがオレが」という気概がなさ過ぎます
自分を前に出さず周りに気を遣う。一人の人間としてそれは美徳でしょう。
しかしアスリートとして見た場合は・・・どうしても物足りなさを感じてしまう。
古川をレギュラーにしたのは去年・・・2年の秋からです。
もっと自分を前に出していれば・・・私は古川が1年生の時にレギュラーとして抜擢していたでしょう。

その引っ込み思案なところは古川の弱点でありますわな。
その2年の秋にレギュラーを取った時も、先輩を差し置いてと悩んでいた。
成田に言われてようやく吹っ切れたぐらいであるわけでして・・・そういう根の部分はなかなか治りそうにはないですな。
しかし考えてみると成田は茂森といい、敵のチームへの精神的な貢献を果たす役目が多いな。

さて、一方の伊能は――自分を前に出し過ぎる

その態度はプレーにも表れている。
ゴール前でパスを出すのを良しとせず、自分で突っ込みゴールを決める伊能。
確かに上手い。が、ユゥエルがフリーになったのだし、そっちに出した方が確実ではあったはず。
それをせずに自分で決めようとする伊能は・・・確かに問題児でありますなぁ。
どうでもいいが、チームメイトはユゥエルをユゥと呼ぶのか?ふむ。なんかいいな。

あいつのように自分を前に出し過ぎると本来の力を発揮できなくなるかもしれません。
・・・パスをもらえないとシュート機会は減りますからね。

まあ、遠からぬうちに孤立することになるんじゃないかとは思えますよね。
伊能が大会で得点王になったという話はあったが、こういうプレーで点数を稼いでいたなら頷ける話である。

古川と伊能の間くらいがちょうどいいんですけどねえ

眉根を寄せる土岐監督。
まあ確かに間ぐらいの性格がよさそうですわな。
なのでこの2人を言い争わせることで中和効果を狙ったということでありましょうか。

練習後。
古川は伊能にハッキリと告げる。ポジションを代わる気は――ないでござる、と。

それがし・・・貴殿より技術的に劣っていると思っていないでござるし、なにより――
トップ下というボールが集まるポジションを貴殿のような・・・
チームプレーより自分がやりたいプレーを優先する身勝手な者に任せるわけにはいかないでござる。
貴殿はポジションにこだわるよりまず――プレーの内容を考え直すべきでござろう。

ふむ。古川なりに考えた答えがこれであるわけか。
まあ、チームのことを考えたのならば譲るわけにはいきませんわな。責任感のある古川らしい言葉だ。
土岐監督に言わせると、言っていることはそれでいいのだが、言い方はそれじゃあダメだなとのこと。
ほう?どういう言い方をすればよかったんでしょうか?
いきなりござる言葉を辞めてマジな口調で告げるとか?それは確かにビビるかもしれない。

・・・まあ、一歩前進か。
トップ下は古川でいく

そう告げる土岐監督。監督がそう決断したなら話はこれで終わりでありますな。引き上げる部員たち。
残された伊能は何を思うのか・・・
自分なりに周りに合わせてるつもりとか言っているが、周りはそうは思ってないわけですし。ふーむ。

翌11月14日。
グラウンドに現れた伊能はどういう心境の変化か髪を切ってきている。
これは・・・少しは反省したということなのだろうか?
と思いきや、どうやらその逆だった様子。

髪を切ったのはオレの・・・独立宣言です
昨日言ったでしょ。今までオレなりに周りに合わせてきたって。
これからは好きなようにやらせてもらいます。

どう考えても好き勝手やってたように思える伊能がさらに好きな様にやると宣言をする。
そして今日も監督にお願いをする伊能。
はてさて、今度は一体何を言い出すのだろうか?

選手の人心掌握術には定評のある土岐監督。
それでもこの伊能という問題児を御するのは難しいのだろうか?
暴走しようとする伊能のお願いとは一体何か。
決勝を3日後に控え、この問題は船学を揺るがすこととなるのか・・・
最終的に決勝前には仲直りして結束してる可能性もあるから、まだ何とも言えないなぁ。怖い話である。



第299話 チャンス  (2013年 31号)


舟和学院の練習グラウンドではフリーキックのための陣形が敷かれている。
どうやらこれから伊能のフリーキックのテストが行われるそうな。
これが行われる理由は伊能が土岐監督に申し出たお願いの内容のため。

日曜の決勝――フリーキックはオレに蹴らせてください

ふむ。それでテストをしてあげようという流れになったわけですか。
今までにも伊能にフリーキックを蹴らせることはあった。
でもそれは練習試合だったり公式戦でも楽に勝てる相手の時だけであったという。
つまり厳しい相手との、一点を争う場面で蹴ったことはないわけだ。

自らキッカーを嘆願してのこのテスト。
今あいつは――今までに無いプレッシャーを感じているでしょう。
見たいんですよ。そういう状況の中でどんなキックができるのかを

ふーむ。さすがに土岐監督も色々と考えておられるようですなぁ。

さて、ボールはゴール正面やや左――30メートルの位置にセットされる。
直接狙うには少し遠い距離。
壁もいるしDFやキーパーもいる。この状況でどうやって味方に合わせて得点につなげるか。
そういったテストかと思いきや・・・

伊能のキックは――誰にも触れられることなく、直接ゴールネットを揺らせた

この距離を正確に決めるキックは凄い。
しかも味方のユゥエルにも触れさせないような高さでわざわざ蹴っていると考えるとまた凄い。
やはりどこまでも自分本位のプレーをする男なのでありますなぁ・・・

テストの結果、土岐監督は伊能にフリーキックを蹴らせると決めた。
いや、伊能だけではなく古川と伊能の2人に蹴らせることとするらしい。
その監督の判断に、甘すぎるんじゃないでしょうかと他の部員。
凄いのは認めるけど、ここまで和を乱されるのじゃ黙ってはいられないわなぁ。
しかし土岐監督は述べる。伊能にチャンスをやろうと思う、と。

古川のすごさを知るチャンスを

ほほう。やはり監督もあの伊能のやり方ではこの先はダメだと考えているわけですかね。
今日以上の緊張感の中で古川と同じ立場に立った時、初めて見えてくるものがあるんじゃないかな、と述べる土岐監督。
ふーむ。あの傲岸不遜な男がそういう見方をしてくれますかねぇ。

翌日の11月15日。
今園は今度の日曜日一緒に試合を見に行かないかとヒロナオさんを誘う。
マイちゃんは一時危なかったが持ち直したと聞くヒロナオさん。
マイちゃんの姿を思い返して微笑む様子はなんとも穏やかな感じである。落ちついた格好よさがあるなぁ・・・

さて、2日後の決勝戦を控えて、金曜日は早めに練習を切り上げる市蘭サッカー部。
天城達が練習に参加するのも今日が最後となりました。
その黒木監督の言葉を受け、抱き合ったりして感謝の意を示す百瀬達。スポーツマンですねぇ。

対船学のために鍛え上げたこの3日間。
その短い間で3崎も驚くほどの成長を見せたらしい市蘭。

あとは・・・成し遂げるだけだよ

まさしくでありますな。彼らとの練習を無駄にしないためにも頑張らないといけない!!
最後まで付き合ってくれた天城達に礼をする市蘭サッカー部。
それにしてもキレイな礼であるな。観客たちへの礼で鍛えられているだけのことはある。

さあ、いよいよ決勝戦が開始しそうな流れであるが・・・あと2日で何かが起きるのかどうなのか・・・

ともかく、次回は連載300回記念の巻頭カラーである!!
長く続いてきたが、色々なことが起きそうな記念の回。心して待つとしましょう!!



第300話 決勝前日  (2013年 32号)


連載300回記念巻頭カラー!!
オレたちはここにいる!!と走り続けてきたこの作品もいよいよ決戦間近。
1対9の大敗から1年の時を経ていよいよ王者・船学に挑む。全てはマイちゃんを喜ばせるために!!

11月16日。決勝戦前日。
この日はミーティングの後――セットプレーの確認。シュート練習とPK練習。
いつも通りの軽めの試合前日メニュー練習を切り上げた。

天城たちもいないし、前日に疲れを残すような練習はしないってことですね。
そして練習後に全員そろってマイちゃんの病室へお見舞い。
今日はどうやら具合がよくない様子。あらら。ならば明日、試合が終わってから来ますという百瀬。
しかしお母さんは会っていってあげてと言う。な、なんですかその悲しそうな表情は・・・

ともかく、マイちゃんを元気づけるためにも色々とお話をする市蘭サッカー部員たち。
明日は勝ちましょうというマイちゃんの言葉を背に立ち去ろうとする。
いや、去ろうとしたところを呼び止めるマイちゃん。おまじないを忘れていたとのこと。

明日、怪我しないためのおまじない

そういって震える手を布団から取り出すマイちゃん。
百瀬はその手をとり、おまじないを受け取る。
そして他の部員も順番に手を取り、言葉を受け取る。

なんとなく予感があった。もう・・・会えないという予感が。
涙が込み上げてくるのを懸命にこらえる。笑顔で送り出さねばならなかった
広能と乾の顔を見たとたん――それが無駄な努力になりかける。

3人でやっていたコソ練。あの時間もマイちゃんにとってはかけがえのないものだったのは間違いない。
それでも懸命に泣き出しそうなのをこらえるマイちゃん。
頑張って、みんなの姿が見えなくなるまでこらえ、そして扉の向こうに消えたところで溢れだす涙。

決勝戦を翌日に控えたこの日――高畑麻衣は、部員たちとの別れを済ませた

明けて翌日の11月17日。
バスに乗って会場へ向かおうとする市蘭サッカー部員。
そこに現れるのは街の不良たち。
ゴッド・マザーと呼び、マイちゃんを慕っていた連中でありますな。
邪魔するなら容赦しねーという感じの成田たちだが、さすがに自重しなさいよ。この辺りは変わりがないなぁ。
まあ、そもそも不良たちがやってきたのは邪魔するわけでも何でもなく――

勝てよ

そう、応援するために、声をかけるために集まってきていたのだ。

去年の春先まで殴り合ってたお前らが・・・日本一の船学に挑むなんてよ・・・
やっぱりおめえらは・・・オレたち半端者の星なんだよ。

ぜってえ負けんじゃねえぞお!!

打倒船学を果たすために送り出される市蘭。うーむ、良い話である。
しかし・・・やはりマイちゃんは・・・

脇坂さんたちが覚悟を決めないといけないかもと言ったあたりから、こちらも覚悟は決めつつあった。
けれども、やはりいよいよその時が迫っているというのを突きつけられると何とも・・・
1話冒頭の話はやはり決勝戦で起きる話なのであろうか。
あれは船学に勝ち、全国に出てからの話と言うことも有り得る。そうであって欲しい。
せめてマイちゃんに市蘭サッカー部が船学に勝利する場面だけでも見せてあげて欲しい。切に願う次第である。



第301話 チームの旗  (2013年 33号)


決勝戦当日。いよいよの大一番。
市蘭サッカー部の面々も気合は十分。黒木監督としても言うべきことはもうない。いつも通りに送り出すだけだ。

ルカさんは今日もマイちゃんと病室で中継を見ようと考えている。
マイちゃんは具合が良くない。が、来てほしいというお母さん。これは・・・
かなり表情も虚ろだし危ない感じがするが・・・むむむ・・・

入場口で先に並んでいる船学。
以前惨敗し、倒すべき目標として追い続けてきた船学。
それを前にして闘志をみなぎらせる成田たち。やってやるぜ!!

天城と3崎はスタンド観戦。
今日の3崎は病室には向かわなかったんですな。

決勝戦は柏の葉公園総合競技場で行われる。
20000人は収容できるスタジアムだが試合が始まる頃には埋まりそうな勢い。
さすがに注目の一戦ということでありましょうか。
天城は、船学が油断してくれていて、序盤早いうちに先制できたら面白い試合になると考えている。だが――

その時。地鳴りのような歌声がスタジアムに響きわたった。

船学の生徒が歌う第二校歌。
これは船学の全国大会用の応援である

全国大会の時は試合前に第二校歌――試合後に第一校歌を歌うのが習いになっているでござるよ。

ふむ。さすがに伝統の強豪は違うな。
さらにスタジアムの一角を覆い尽くすぐらいに巨大な旗が掲げられる。
これもまた全国大会の時に使う応援フラッグ――PRIDE ONE

プライドワン――王者の誇りでござるよ。
ここ数年八津野と戦う千葉県大会決勝が事実上の全国大会決勝と言われてきたでござる。
相手が八津野じゃなくなったからといって油断するな――という戒めでござろう

相手が油断していてくれたら。という天城の期待も甘かったようですな。
選手どころか観客からして油断していない。
八津野を破り決勝まで上がってきた市蘭の力を十分に評価している様子である。
この雰囲気に思わず飲まれそうになる山守たち。だがそこで――

うちにはうちの旗があるじゃないか。オレにははっきり見えるぞ。

妄想で自分たちの旗がはっきり見えると述べる百瀬。何!?
しかしその言葉につき合い、その旗には何と書いてあるでござるかと尋ねる古川。なんだかいいヤツだ。
百瀬が見た旗の文字。それは疾風怒濤

疾風怒濤という言葉は常に全力で走る市蘭のサッカーを意味し、そして――激動の時代を意味している。
王者とは――激動の時代に倒されるものだ

堂々と言ってのけた!!
この雰囲気にむしろ気圧される古川やユゥエル。
飲まれかけていたはずなのに百瀬の一言で逆に飲んでやったという感じになっている。
うーむ。どこまで凄いのか・・・こりゃヒロナオさんもケンカ売っちゃいけない相手と認識するわけだ。

いい雰囲気となったところでいよいよキックオフ。
お互い精神的なコンディションは良好のようだが、果たしてどのような立ち上がりとなるか。注目です。



第302話 速攻!!  (2013年 34号)


試合直前。主将・百瀬がチームを鼓舞する。

この試合で船学に勝ったら、スポーツ新聞は「市蘭が奇跡を起こした」と書き立てるだろう。
でもオレたちは、そんなことよりはるかに大きい奇跡をもう起こしていたんだ。
このチームにこの仲間が集まった――それこそが奇跡だったんだと思う
今までサポートしてくれた人たちも含めて、誰か1人欠けてもここまで来ることはできなかった。
そして・・・これから先も誰1人欠けることはない
一番大きな奇跡を待ってる間にちっぽけな奇跡を1つ片付けておこう
船学を倒す。いくぞっ!!

さすがというかなんというか。見事な演説をしてみせる百瀬。
先週の疾風怒濤で既に温まっていたのにさらに意気を上げてくるか!!
しかしこの、これから先も誰1人欠けることはないという言葉は重いですなぁ。
百瀬に言われると希望を持ってしまう。
まあ、その百瀬自身もそれは大きな奇跡であると言っているわけですが・・・

大きな奇跡を呼び寄せるためにも人事を尽くさねばならない。
気合の入る市蘭イレブン。
双方の監督もお互いに礼。軽い挨拶だがお互い色々と意識していそうですなぁ。

両校のイレブンがポジションにつき、全国高校サッカー選手権、千葉県大会決勝。間もなく市立嵐山のキックオフで試合開始です。

試合開始のホイッスルが鳴る。
それを見送り、みんながんばれと念じながら意識を失うマイちゃん。おぉう・・・これは・・・!?
まだルカさんも到着してない様子なのにこれは・・・!!

百瀬の演説もあり、大舞台でも立ち上がりに堅さはない市蘭。
ここから流れを作って一気に先制でもしたら面白くなるんだけどなと天城。
さすがにそれはないと述べる3崎であるが・・・

いきなり飛び出したのはサイドチェンジ。
密集する船学のDFの間をボールが抜けていき、左サイドの尾上から乾、百瀬を経て二宮さんへと渡る。
さあ、これは市蘭の得点の黄金パターンだ!!

マっマジかよ・・・

二宮さんの折り返しに飛び込んで頭で合わせようとする成田。
これは・・・確かに得点に繋がりそうな流れだ!!
面白くなるとか言ってたのに人一倍驚きを見せる天城。言いはしたものの、本当にこうも早く得点は・・・と思ったのでしょうな。
今年の船学のキーパーがどのくらいの実力を持っているのかにも注目であります。さすがに皆川さんほどではあるまい。

市蘭大チャンス。
しかしマイちゃんの容態が危険なこととなっている。
うーむ。なんというか・・・試合で盛り上がる気持ちがマイちゃんの容体急変で一気に下降する。
テンションが上がりそうな所で一気に下げられて何とも妙な気分になっちゃったよ!!

果たして大きな奇跡を起こすことはできるのだろうか・・・
ここで先制点を取ることでマイちゃんの容態もいい方に向かうという流れであれば良いが・・・さてはて。



第303話 去年と今年  (2013年 35号)


開始早々、1分も経たぬうちから得点チャンスを掴む市蘭。
高速のサイドチェンジ後、二宮さんのクロスを成田のヘッドで合わせる黄金パターン。
ヘッドを行う成田の表情が妙に神妙で面白い。
しかしそのシュートはキーパーの動きの逆をつく見事なもの。行けるか!!

と思いきや、強引に手を伸ばして弾くキーパー。
さらに成田が起き上がるよりも早く押さえ込んでくる。うーむ、惜しい!!

今年の船学のキーパーの名前は牧瀬
皆川や所沢ほど注目されているキーパーではないもののさすがに船学のキーパー。レベルが高い。
これはさすがに点を取るのも簡単にはいかなさそうでありますな。

DFのために戻り出す市蘭。
その途中乾に話しかけてくる伊能。オレのこと・・・覚えてるか?と問うてくる。
しかし乾に心当たりはないようだ。何か因縁でもあるのか?

やっぱり・・・そうなんだよな。
天才は凡人のことをすぐ忘れる

まあ、凡人ってのは特徴がない人間でありましょうしね。忘れられても仕方がないのではなかろうか。
しかしこれはどういう意味なのか。伊能は自分を凡人と思っているということなのか?
あれだけ自信家だしてっきり自分を天才と思っていたりするのかと思いきや・・・
謙虚な自信家という奴か。妙な言葉だ。まあ、努力に裏付けられた自信ってことなんでしょうな。

伊能のことはさておき、この立ち上がりで市蘭はいける!!と確信する。
去年は試合開始1分もしないうちにユゥエルにシュートを極められている。
それが今年は逆に開始早々形を作り攻めることに成功している。あの船学を相手に!!

これは確かに期待の持てる流れである。
が、今の市蘭の攻撃で目が覚めた様子の船学。
一気に本気モードに入り攻め立ててくる。
プレスの早さには定評がある市蘭。しかしそれでも簡単にはボールは奪えない。さすがに船学といったところか。

さて、マイちゃんの方はついにいよいよといった様子。
主人や身内の方にもできるだけ早く来てもらってくださいと医師に宣告されてしまう
ついにその時が来てしまうのか・・・・・・?

試合の方は古川にボールが回っている。
その古川からフリーとなっている伊能にボールが回る。
しかし伊能はやはりえらそうですね。ゴザルのことをゴザル呼ばわりしやがって!!
って成田。その感想はいかがなものだろうか。
なんですか?古川のことをゴザルと呼んでいいのは自分だけとかそういうことですか?

ともかく伊能にボールは回った。果たして自信家の腕前の程は如何なものであるか。気になる所。

ところでマイちゃんが危ないとなった時、関根さんはやはり病院に駆けつけるのでありましょうか。
そのことから異変を察した市蘭イレブンに状況を説明して1話の開始に繋がる流れはあるかもしれないなぁ。
または市蘭の活躍がTVから流れるたびにマイちゃんも持ちこたえるという流れも考えられる。
なんとか勝利の報告だけでもしておきたいところでありますが・・・どうなるか。



ANGEL VOICE 35巻


第304話 キッカー  (2013年 36+37号)


市蘭の開幕攻撃で目覚めた王者・船学。
ゴールまでまだ距離がある場所でボールをもらった伊能。
そこからDFを抜いていくのかと思いきや、いきなりミドルシュートを放とうとする。

乾。このキックはお前から学んだ

伊能の強烈なミドル。この速さに反応する所沢であるが、それでも届かない!!
が、ボールは枠を外れて得点には至らず。あ、危ない・・・

伊能に強烈なミドルがあるのは分かっていた。なので前に出て抑えようとした市蘭DF陣。
しかしその予想よりさらに遠目から打って来た伊能。
惜しい所ではあったが枠を外しているし、確実ではない場所から打ったということだろうか。
脇坂さんの言うように試合開始から間もないから"早目に1本打っとこう"という話なのだろうか?
一番の目的は乾に自分のことを思い出させようとしたって部分かもしれませんな。
その目的は果たせたらしく、伊能のことを思い出す乾。

先程のミドルはかつて乾が尾上に教えたボールにコントロールをつける蹴り方のテクニックが用いられている。
踏み込みが浅かった場合軸足の膝を突きだしてインパクトの瞬間に膝がボールの真横に来るようにする。
このテクニックは乾は感覚的にやっていることであり、誰かに説明ができるようなものではなかった。
具体的に何をやっているのか理解してみせたのがこの男――伊能である。

あれは・・・天城もいたから中1の時のトレセンだったか!?
とにかく他人のプレーをよく見るやつだった。
見てよく観察し、ヒントを見つけその技術を自分のものにしていく――そういうやつだったな

ふむ。何か今の伊能とはずいぶん違った感じだったんですねぇ。
謙虚と言うか何というか。確かに自身を天才とは思っていなさそうな感じである。
しかし矢印つきで主張される天城が何とも言えない味を出しているなぁ。回想にまで頻繁に顔を出してくるか!!

それはさておき、船学の攻撃は続く。
6番の根本がボールを持って上がろうとした所を百瀬が止める。が、後ろから行ったためにファールを取られる。
ペナルティエリアから少し離れた場所でのフリーキック。これはかなり危険な位置である。
そしてこの試合、船学はフリーキックを古川と伊能の2人で交互に蹴ると決めている。

まず――オレに蹴らせろ。

そう主張する伊能。確かにゴールを直接狙える場所であるし、悪くはないかもしれない。
同様に考えたかどうかはわからないが素直に譲る古川。ふむ。

全体練習が終わった後も1人残って黙々とボールを蹴ってたよな。
もっと謙虚なやつだと思ってたぜ。他人の自分より優れた部分を認め、そこから技術を学ぶ努力家だってな。

思い出した様子の乾が語り掛ける。
まあ、これだけ性格が変わっちゃってたなら乾がすぐに気づかなくても仕方ありませんわな。
そして伊能は乾の言葉にこう返す。

他人から学ぶものがなくなったら?自分を前に出すしかないだろう?

それはそうかもしれないが・・・またこれは増長したセリフですな。天狗になってらあ。

ああ。ゴザルやお前からいろいろ学んだ――天狗だよ

自身を凡人と称し、さらには天狗になっていると言い切る伊能。
これはなんだか一筋縄ではいかない相手に思えてきましたなぁ。
自信家なんだからその鼻をへし折ってやればいいのかと思ったが、努力して鼻を伸ばした奴であったか・・・
なかなかへし折るのには骨が折れそうでありますな。

さて、この流れでのフリーキックは危うい。直接入れてくる可能性が高いと思えるが、果たしてどうなるか。



第305話 伊能VS所沢  (2013年 38号)


決定的な得点チャンスとなりそうな位置からのフリーキック。
しかし蹴るのは古川ではなく伊能。これを見てナメられていると感じる市蘭。まあ伊能は1年だしそう思っても仕方がないか。

成田はユゥエルをマークする。茂森の時と同じくユゥエルの高さに対抗できるのは成田だけということか。
脇坂さんの競り負けるんじゃねーぞという激に応える成田。
でもたぶん伊能は仲間に合わせるとか考えていないと思うんですよね。

新人大会――古川たちそれまでのレギュラーは一切試合に出さず、おれは初めて公式戦でのキックを任された。
その時思い知らされたよ。高校トップレベルのすごさを。
オレのキックは八津野の皆川に腹が立つくらい簡単にことごとく止められた。
あれから約10か月――どれだけ練習したと思う。
今のオレは――古川を超えている

伊能という男は壁にぶつかりながらも努力でそれを破り、自信を身につける男のようである。
その自信の現れ方が過剰なので反感を買うことになっているが、決して天才系のキャラというわけではない。
なかなか面白いキャラであるかもしれませんな。戦う市蘭としてみれば厄介な相手だ。

その伊能のフリーキックは市蘭の壁の頭を越える。
そしてユゥエルや成田の頭も越え、直接ゴールへと向かう。さすがに正確なキックだ。入る・・・!!
と思いきや、見事なセーブを見せる所沢。うむ、皆川が防いだというのであれば所沢も頑張らないといけませんわな。

今の一発で決して船学がナメていたわけではないと知る市蘭。
ようするに船学には古川並のやつがもう一人いるということなのだ。どんだけ層が厚いんだよ・・・!!

この事実に焦りを抱いたか、開始直後の市蘭の攻め以降はしばらく船学のペースで進む。
苦戦している様子の市蘭のメンバーに対しガンバレーと声をかけるマイちゃんのお母さん。いや、これはそれだけではない。

ゴメンね・・・マイちゃん。お母さん・・・ズルいよね。
マイちゃんはもう充分頑張ったから、ガンバレって言葉は使わないようにしてたのに。
市蘭の応援をするフリをして、マイちゃんに・・・まだガンバレって言ってる。ゴメンね・・・

なんという悲しいことをおっしゃるのか・・・
大切な娘の病と直面することとなった母親の心境は察して余りある。
本当、見ていて辛いものがありますなぁ・・・

さて、応援されている市蘭は厳しい状況が続いている。
ゴール前、10番の柏原とのワン・ツーで古川にボールが渡る。
決定力のある古川のシュート。これは決められてしまうのか?それとも・・・?

普段ならばこういう引きの時は入らないだろうと思える。
しかし試合が始まったばかりということもあり、1点を追う展開というのも十分ありえると思えるし・・・むむむ。
マイちゃんのみならず試合の方も安心して見ていることはできなさそうですなぁ。



第306話 1位と2位の差  (2013年 39号)


ゴールエリアに入り込まれての古川のシュート。危ない!!
と思いきやキーパー所沢の正面でありました。
どうやらDF陣がうまく体を入れてコースを限定してくれた様子。やりますなぁ。

しかしこの後、約15分の間に舟和学院は7本のシュートを放っている
かろうじて失点は免れているが、このままではいつか決められてしまうのではないか。頭を抱える校長。見ていて怖い試合だな。

なんとなく・・・なんとなく思ってたけど。やっぱりそうだったんだ。
ここ数年、八津野は全国2位の実力と言われていたし、事実IHでは準優勝の結果を残してきた。
全国1位と2位――オレたちから見ればどっちも同じくらいの存在だったけどよ・・・違ったんだ。
八津野が船学に勝ったのは選手権直後で船学がレギュラーを全て休ませた今年の新人大会だけ。
力に差があっても番狂わせは起きる――オレたちが八津野に勝ったように。船学は・・・それすらさせなかった。
八津野がマグレで勝つことすら許さない。こいつらの強さは桁が違うんだ

2強と言われるうちの1つ、八津野に勝利した市蘭。
ならば船学も――と思いきや、実は格が違ったと言われてしまう。
ここに来てそびえたつ存在船学。決勝の相手には相応しいが・・・やはり高い壁だなぁ。
さらに天城がこんなことを述べて煽ってくる。

まだまだ・・・船学はまだまだこんなもんじゃねえぞ

その言葉が示す通り、そろそろ先取点を決めねばならないなと気合を入れ出す古川。
このままズルズル攻め続けていたらいずれ市蘭はうちの攻めに慣れるでござるよ、とのこと。
まあ確かにね。市蘭の――特にDF陣は学習能力が高いですし。ここから怒涛の攻めが開始されるのか・・・

一方病室のマイちゃん。
容態が急変したということで駆けつけた医師。沈痛な面持ちになっている。これは・・・
そのタイミングでようやく病室にルカさん到着。何とヒロナオさんも一緒に来ている。
しかし病室で医師から述べられるのはこのようなセリフ。

意識が・・・混濁してきました。今のうちに声をかけてあげてください

駄目なのか・・・ついにその時が来てしまうのか・・・
マイちゃんのお母さんはテレビへと近づき、その電源を落とす。え!?
一体何を・・・と思ったら、お母さんはマイちゃんの手を握り、こう伝える。

マイちゃん。聞こえる?
市蘭が・・・優勝したよ

なるほど。娘が一番聞きたかったであろう言葉を伝えるためにテレビを消したわけか。なんという・・・

強く立派なお母さんである。だからこそ悲しい。
本当にその時が刻一刻と迫っている感じがする。もはや時間の問題か・・・
ここからは覚悟して見守るしかないのでしょうな。辛い時間だ。



第307話 最後に・・・  (2013年 40号)


TVを消し、娘にまだ確定のしていない嘘の情報を伝える母親。
旅立つ前に最後に伝えてあげたいということなのでしょうが、何とも悲しい・・・

そしてその市蘭は船学の猛攻に晒されている。
柏原、古川のワンツーで中央を突破。
さらに古川からゴール正面のユゥエルへとボールが回る。これは怖い・・・!!
広能は伊能につき、万代さんはユゥエルに打たせまいと張り付く。
しかしユゥエルが出したのはゴール右サイド。再び古川に戻す流れだ!!

クッソ!!こいつらのパス回しに全然ついていけねえ!!

あれだけ練習した市蘭DF陣でも翻弄されてしまう。これが船学の力か・・・
さすがにそろそろ点を取らねばと覚悟を決めてきただけのことはある。

ゴール前でボールを受け取る古川。これは所沢が止めるしかない!!
と思いきや、さらに折り返す古川。これを受けるユゥエル。いかん。所沢が古川の方に向かってるからゴールがら空きだ!!

市蘭がピンチの状況。しかしそれよりも何よりも。今はこちらの方が一大事となっている。

マイちゃんの手を握り、市蘭が優勝したよと告げる母。
言葉を送り続けると、危篤状態のマイちゃんがその手を握り返してくれた。そして――

最後に――笑った

涙を流しながらではあるが、最後に笑ってくれた。母の言葉は届いたということなのだろうか。
しかし、しかし・・・ついにこの時が・・・ルカさんの悲鳴が病室に響きわたる。

11月17日――高畑麻衣は17年の生涯を終えた

あまりにも早すぎる・・・
どうにか、どうにか奇跡が起こってくれないものかと願い続けたが・・・
やはり初回から決められていた運命は覆せなかったのか・・・うう・・・

そしてそんな状況で船学から先制ゴールを決められてしまっている市蘭
大きな奇跡は起こらず、小さな奇跡を成し遂げるのも大変な状況となってしまっている。
これはやはりハーフタイムで1話冒頭の流れとなりそうですなぁ。
勝負は後半からとなるか。報告を受けた各人がどのような想いを抱くのか・・・気になるところです。



第308話 悲報  (2013年 41号)


前半24分。均衡を破り船和学院が先制ゴールを決める。
古川・ユゥエルのホットライン。さすがにこのラインは強力だ。
校長もやっぱり船学は凄いんですねと認識を新たにしてしまう。

いとも簡単に――これからまだまだいくらでも取れますってやられ方じゃねえか

悔しい市蘭。しかしここでは声をかけず、脇坂さんにディフェンスの締め直しを期待する黒木監督。
その願いに答え、ディフェンス陣に声をかける脇坂さん頼もしい。

あいつらはトップスピードに近い動きでも正確にダイレ(クト)で繋いでくる!
だがパスの回し方自体は特別なことをしてるわけじゃねぇ!!十分予測できるはずだ!
身体を寄せきれない時は早めに予測し、早めに(パス)コースを切りにいけ!!
これ以上はもうやれねえ。何が何でも止めるぞ!!

動揺した市蘭であったが、この激により再び集中を取り戻す。
しかしこのタイミングで黒木監督のもとに係員がやってくる。どうやら病院から電話があったようだ。
その言葉を聞き、さすがに試合中であっても電話を受ける黒木。
そして耳にする言葉は・・・ルカさんから聞かされる言葉は・・・

マイちゃんの死を報告し、ついに泣き崩れるルカさん。黒木も肩を震わせている。
これ以上の言葉を紡ぐことができないルカさんに代わり、ヒロナオさんが電話を引き継ぐ。
ヒロナオさんは黒木監督にこう述べる。勝てよ、と。
もちろんそのつもりでいる黒木監督。しかしヒロナオさんは言う。つもりじゃダメなんだ、と。

高畑は涙を流しながら笑顔で息を引き取った。母親に市蘭の優勝を伝えられてな。
お前らは勝たなきゃならねえ。もし負けたら・・・
高畑が最後に聞いた言葉――母親が娘にかけた・・・最後の言葉が嘘になる。絶対に勝て

ヒロナオさん・・・!!
なるほど。この言葉はヒロナオさんだからこそ、強く発することができる言葉でありますな。
そう、母親が娘にかけた最後の言葉を――マイちゃんが最後に受けた嬉しい言葉を嘘にしてはいけない。
小さな奇跡を見せる場面には間に合わなかった。それでも、勝たねばならない。その気持ちはむしろ大きくなると思われる。

ヒロナオさん言葉にわかったと返事をし、ベンチへと戻る黒木監督。
その涙を見て全てを察する関根さんと久住先生。これは確かに涙するしかありますまいな。
溢れる涙は止めることが出来ない。それは仕方ない。
しかしここで泣き崩れてしまうわけにはいかない。泣けばピッチの選手たちに間違いなく気付かれてしまう。

泣くんだったら・・・座らないと・・・

前半は残り10分。落ち着いて話ができるまで、今はまだ部員たちに気付かれるわけにはいかなかった
悲しみをこらえ、歯を食いしばり前を見据える黒木監督。

勝つぞ――お前ら

その気持ちは開始時よりもさらに強く・・・

うーむ。やはりマイちゃんが亡くなった衝撃は回を増すごとに大きくなっていく感じがしますな。
ここからさらに部員たちが気付いた時の反応、マイちゃんが渡した手紙のことなどが上げられていくのかと思うと・・・ううむ。

しかし残念なことに次号は作者取材のため休載。
続きは43号からとなる。うーむ・・・このタイミングで間が空くとは・・・なんともはや。



第309話 今は・・・  (2013年 43号)


前半30分。先制を許した市蘭は必死のディフェンス。
船学の素早い攻めに対抗するために、早めに予測して早めにコースを切るため動き回る。
その結果、10番の柏原から古川へ出されるダイレクトパスをカットすることに成功する水内さん。おぉ!!
さすがに成長著しい市蘭DF陣。船学の速さにも慣れつつあるようですな。

ダイレでパスを回すことは八津野もやってた。
だが船学のは八津野のそれより速くて小刻みで正確だ。
傍目にはオレたちが弄ばれてるようにしか見えねぇかもしれねぇ。それでも――
エリア内に持ち込むには何本ものパスが必要になる。その内の1本を止めればシュートは防げるんだ

その脇坂さんの指摘の通り、今度は万代さんが船学のパスをカットする。
それもあの古川が出そうとしたパスをカットしたのだ。これは大きいと言えましょう。よォーし!!

今はとにかくクリアをくり返す市蘭。
どこかでキープしないと攻めに繋がらないという万代さんの指摘は分かる。
しかし今はできるだけプレーを短く切って、その都度守りを整えるやり方を選択する。

もう少し・・・もう少し守りが安定すれば、中盤の4人――
百瀬、山守、二宮、尾上のうち誰かが高い位置にポジションを取れるようになる。
そうなれば・・・更に高い位置にいる乾や成田にも繋ぐことができるはず。

焦っての攻撃よりも長期的な安定を見込んでの組み立てでありますな。
点差はまだ1点。ここで焦るよりは守備を慣れさせる方が有利に働くというのはまさしくその通り。
反撃のチャンスは――時間はまだまだある!!

その心意気で守備を固め、今度は脇坂さんがユゥエルのパスをクリアする。よい感じだ!!

徐々に攻撃に慣れてくる市蘭DF。応援団も大盛り上がり。
そしてここで校長の合図と共に会場が揺れるほどの歓声が響き渡る。

オーオーオー市蘭――!!
オーオー市蘭!!

八津野から丸パクリした市蘭の応援だ!!
まあ、参考にするものがあまりなかったわけだし、パクリもやむなしでありますかな。
伝統ってのはこういうところから生まれるのかもしれないとルカさんも言ってましたし。
それに何より、行っている市蘭の学生たちは皆真剣な様子である。これは嬉しいことでありますなぁ。

木崎「・・・怒るなよ天城。オレはこれでいいと思うぜ」
天城「ああ。オレも気にいった

何だか可愛い顔で応援を聞いていた天城だが、怒るでもなくこう述べてくれる。有難いですねぇ。
というかもうすっかり市蘭側の人間のような風情を漂わせているなぁ、天城。

八津野式の応援を受ける市蘭。
それによってか市蘭の選手の背中に八津野の選手がいるかのように錯覚する船学イレブン。
いや、背負っているのは八津野だけではない。
美幕や習実。六原学館といった過去に市蘭と対戦したチームの姿も見える。

こいつら・・・千葉中のチームに想いを託されてるってのか?

打倒船学は確かに千葉中のチームの悲願でありましょうな。
自分たちが、という想いでいた者たちももちろんいましょうが、市蘭に想いを託した人たちも、もちろんいる。
その想いがあることを思い起こさせる大歓声。市蘭サッカー部もここまでの存在となったのでありますなぁ。感無量だ。

さてさて、後半までに守備が安定し、反撃の体勢を整えることができるのか。
もしかしたら同点のチャンスがやってくるかもしれないですし、期待することとしましょう。



第310話 厳しい注文  (2013年 44号)


スタジアムに響きわたる市蘭コール。
しかし船学のプレーは成長する市蘭の上を行く
まさかうちの攻めにここまで対応できるとは思っていなかったと古川は言うが、それでもまだその先があるというのか・・・

早めに予測して早めにパスコースを切る。
その考えで動いているのだが、古川からのパスを受け取った柏原はダイレクトで折り返し・・・しようとして止める。
どうやら水内さんの動きを見て咄嗟に判断した様子。
ボールを止めてキープし、1人で持って上がる。危ない!!

万代さんが身体を寄せたおかげでどうにかシュートは外れた。
しかし今のは危ない。市蘭のDFの動きを見て対応を変えてくるとなると、この後も今回のような抜かれ方をする可能性が高い。
完全にダイレクトで繋ぐモーションに入っていたのに、そこから変えることができるとはなぁ・・・

ちっ。また一段とギアを上げてきやがった

天城と3崎が述べるように、あるプレーの動作に入った後、とっさの判断で別のプレーに切り替えるのは難しい。
棒立ちになってそのプレーをやめることができればいい方である。
だが、船学には瞬間的な判断で別のプレーに切り替えることができるやつが・・・ゴロゴロいる

ゴ、ゴロゴロいるのかよ・・・さすがに船学はレベルが違うということか。
このような攻めをされたら止めようがないのではないか。
一体どうすればいいのか。DF陣は一斉に脇坂さんの方を見る。
その視線を受け、脇坂さんは指示を出す。この指示により――市蘭は船学の更に上をいく

その指示とは――まずダイレクトで繋ぐコースを切ることを最優先とし、
プレーを切り替えられた場合に備え、常に周囲の者が1人ないし2人プレスをかけるために詰め寄るというものである。

この指示により、古川ですらかなり窮屈な動きをさせられることとなる。
それを見て俄然勢いづく市蘭DF陣。

集中を切らしたら一気にやられる!ぜってー気い抜くんじゃねーぞ!!

さらに念を押すように叫ぶ脇坂さん。いいですねぇ。安心して見ていられる存在となっておりますわ。
黒木監督や関根さんも脇坂さんを褒める。
準決勝から今日までの1週間で1番伸びたのは間違いなくあいつだとまで言われている。
それもそのはず。脇坂さんは想いを背負ってここに立っているのだ。そう、マイちゃんの手紙に乗せられた想いを背負って――

脇坂さんへ。
お許しください。この手紙で脇坂さんに厳しい注文をつけなければなりません。
それは得点を競う競技においてはおおよそ失点をしなければ負けることはなく、
守りの中心であり、ディフェンスラインをコントロールする脇坂さんの役割はチームの中で最も重要と思えるからです。
脇坂さん。あなたは試合中何があっても――決してうろたえてはいけません
みんながあなたを見ています。あなたがうろたえ慌てれば、それはたちまちチーム全体に伝染してしまうのですよ。
こうして文字で書く以上に大変なことであることはわかっているつもりです。
それでも――脇坂さんが後ろでドンと構え、みんなを引っ張ってくれると信じています。

なるほどねぇ。この手紙を見たのであれば、頼もしくもなろうというものである。
少々ナイーブなところがあった脇坂さんであるが、今は本当に頼りになる人となった。
百瀬とは同じくらいに市蘭の精神的支柱と言える存在になったのではないだろうか。

高畑――見てるんだろ?今の俺に、合格点をくれるか?

見事なラインコントロールでユゥエルへのパスをオフサイドトラップに仕留める。
うーむ、見事なディフェンスでありますなぁ。素晴らしい。
なんだかんだ言ってしっかり守れてきたじゃないかと成田もご満悦。
ここで前半は終了。ふーむ、さすがに前半のうちに同点という所までは持って行けなかったか。
まあ守りは安定してきましたし、後半はどうやって攻めの形を作るかという話になりますな。
対船学。去年は9対1で負けたというのに、今年はこの善戦・・・素晴らしいという他ない!!

だが。前半を頑張り抜いた彼らには辛い報告が待ち構えている。
黒木監督はハーフタイムの間にこの辛い報告をしなければならない。
ついに1話冒頭のあの場面が描かれるときが来てしまったようだ・・・

直接マイちゃんの死を伝えることとはならないのかもしれない。
1話で見せた黒木監督の涙。それで関根さんや久住先生のように選手たちも気付くかもしれない。
なんにせよ、悲しい展開となりそうである。果たして後半開始までに立ち直ることができるのか・・・
ヒロナオさんの言葉もありますし、揺れながらも頑張って戦っていただきたい!!



第311話 勝つ意味  (2013年 45号)


船和学園と市立嵐山の決勝戦は1対0の船学リードの状態で前半終了。
15分のハーフタイムの時間に入っていた。

先制点を獲得した船学。
しかし控室で土岐監督が発した言葉は反省を促すような言葉である。

さてと・・・何が足りなかったのか?考えてみようか

確かに流れだけ見れば3、4点は取れていたのではないかと思えるほどの攻勢だった。
しかし終わってみればどうにか1点を奪えただけ。特に終わりの方は守りの形を作られている状態となっていた。
これは市蘭としてはおそらく理想の展開。今頃向こうの控室では後半に向けて盛り上がっている頃だろうと推測する。
だが、実際の市蘭控室は盛り上がる所の話ではなかった――

一同、黒木監督の言葉を聞き、驚愕の面持ちとなっている。当然の反応ですわな・・・

今から約20分前――1時20分頃。息を引き取ったそうだ

そういった事態の覚悟がなかったわけでもないだろうが、まさか試合中にという想いはあったでしょうな。
一様に沈んだ様子を見せる市蘭サッカー部員たち。
脇坂さんは手紙の内容を思い返す。
前回の話以外にも、入学早々にイジメられたことについての話が書かれていた様子。おぉ、その話ちゃんと書き残してるんだ。

あの借りはいつかきっと返しますからね・・・ふふふふ(不気味な笑い)

明るい様子を見せての文章。マイちゃんの気遣いが見て取れる。だが――

何でさっさと返しとかなかったんだよ・・・返す前にいなくなってどうすんだよ

試合中何があっても決してうろたえてはいけませんと言われた脇坂さん。
もちろんそのつもりでいた。その覚悟でいたはずであるが、さすがにこの一報を聞かされては・・・無理だっ・・・!!

脇坂さんが涙を流し、成田も取り乱しながら泣き始める。

丹羽「どうする?この後」
万代「どうするったって・・・一応後半もやらなきゃなんねえだろ」

すっかりモチベーションを失った様子のやりとりをしている。無理もない。
久住先生が考えている通り、マイちゃんにいい結果を聞かせるというのは市蘭にとって大きな原動力となっていた。
そのマイちゃんがいなくなってしまった今、目的を失い虚脱してしまうのも当たり前のことといえる。
やはりこのタイミングで伝えるべきではなかったのだろうか・・・
そんな空気の中、二宮さんがこんなことを言いだす。

てっとり早く勝つ方法があるぜ。オレが・・・暴れてやるよ。
船学の主立ったやつらを3・4人ぶん殴って動けなくすりゃ、楽に勝てんだろ

そりゃあそうかもしれないけど、最早試合として成り立たなくなりそうな話でありますな。
くだらんことを言うな!!と怒鳴る黒木監督に対し、自分でもくだらないことを言っていると思うと返す二宮さん。
うーむ、かなり混乱しているみたいですなぁ。
そんなやり方ではマイちゃんは喜ばない。百瀬の言うことは尤もである。
だが二宮さんが言うように、まともなサッカーやってももう喜ぶやつはいないんだよという言葉も解らなくはない。
まあ、他にも市蘭の学生とか校長とか喜んでくれる人は確実にいるのだが・・・そこまで気は回らないでしょうなぁ。

荒れる二宮さんに殴り掛かろうとする成田。そこに割って入る黒木監督。二人を引きはがし、語り出す。

まともなサッカーで勝つことには、大きな意味がある

この語りはじめと、その表情からして例の――ヒロナオさんから聞いたことを伝える気だと直感する関根さん。

言うのか?黒木。それを言えば負けた時・・・もし負けた時、こやつらの心に大きな傷を残すことになるぞ

確かにその恐れがありました。
奮起できるようになる。その考えはあったが、確かに負けた場合にどうなってしまうかということには考えが及びませんでした。
教育者としては確かに述べるべきではないことなのかもしれない。
むしろ教育者であるならば、試合中に仲間の死を告げるようなことはあってはならないとも言える。
だが、それでも伝えることを決心した黒木監督。選手たちを信じ、今またマイちゃんの死の間際の出来事を伝える。

高畑は、市蘭優勝の報告を聞いて・・・息を引き取った。
僅かに残った意識でそれを喜び・・・笑顔で息を引き取ったそうだ。

おそらく・・・オレがお前たちの指揮をとるのはこの試合が最後だろう。
・・・最後のメッセージだと思って・・・
聞いてくれ

黒木監督がここから口にしようとしている言葉。
それはおそらくまさに一話冒頭のあの言葉でありましょう。ついにこの時が来たわけか・・・

負けた時のことは怖い。だが、絶対に負ける訳にはいかない。その覚悟を固めることが出来るようにはなるはずである。
それでも後半戦すぐに完全な精神状態に持っていけるかは・・・難しいでしょうなぁ。
波乱が起きることとなりそうですが、どうにか勝っていただきたい。もはや望むことはそれだけである。



第312話 歌声に・・・  (2013年 46号)


選手控室にて黒木監督が市蘭の選手たちに声をかけている。
それは市蘭というチームが出来てから今までのことを振り返っての話である。

このチームが出来て1年半が過ぎた。1年半の間、お前たちを見ていて何よりすばらしいと思ったのは――
お前たちが試合に負けた責任を決して他の誰かに押し付けなかったことだ
負けた原因を自分の力不足として受け止め、練習に打ち込んできた。だから市蘭は強くなった。だから今ここにいる。
このチームの大半の者がケンカに明け暮れてる時期があった。
おそらく・・・お前たちなりの勝負の世界の中で、負けたことを人のせいにするのは格好悪いことだったんだろうな。
それが培われたいきさつがどうであったにせよ、責任を人に押し付けず自分の問題として受け止める姿勢はこれから先も持ち続けてほしい。
将来どんな道に進もうと、それは必ずお前たちを成長させてくれるはずだ。

いいことを言いますな黒木監督。
確かにこれは重要なことである。まあ、時には責任を押し付けなければやってられないこともあるだろうが――
スポーツマンとしてはこの姿勢でいるってことは非常に重要なことであると考えられる。
自らを成長させたいと考える人間であるならば、やはり大切なことでありますよね。うん。

今日、オレたちは大切な仲間を失った。
もしこの試合に負ければ、お前たちはとてつもなく大きな責任を自分自身に押し付けるだろう

責任を自分で持つということは、そういったことも背負うということである。
だからこそ試合中に告げるべきではなかった。久住先生の考えはまあ分からないでもない。
だが、マイちゃんのことは当然試合後にも耳に入る。
そうなったらそうなったで、結局彼らは自身を責めることになる。それは変わらなかったでありましょう。
下手をすればそこから立ち直るための機会も与えられず、沈み切ったままになったかもしれない。
だからというわけでもないが、黒木監督は伝えることにしたわけだ。選手たちのために。仲間のために。
そして今、ついに黒木監督の口からあの言葉が発せられる。

船学に勝つぞ!!何がなんでもやり遂げねばならん!!
どんな状況になっても諦めるな!!自暴自棄になるな!!
ケンカだったらお前たちに勝てる高校なんか日本のどこにもない!!
ケンカでだったらバルセロナやレアル相手でも楽勝だろう!!
だが、お前たちはもう以前のお前たちじゃないんだ!!正々堂々――サッカーで勝って来い!!
仲間を信じて、今まで以上に団結しろ!!

仲間。自らが発したその言葉で改めて気付かせられたことがある。
そう、このチームに仲間という意識を芽生えさせてくれたのがマイちゃんであった。それを思い起こさせられる・・・

オレはっ・・・お前たちが倒れるまで"走れ"と叫び続ける!!
お前たちはっ・・・ルーズボールに足を伸ばし、仲間に渡してから倒れろ!!
1人で守る局面になっても、仲間が戻る時間を稼いでから倒れろ!!
この試合、何一つとしてやり残すことがあってはならん!!
・・・バラバラだったチームを・・・ひとつに・・・まとめてくれた・・・あの歌声に応えよう

涙を流し、そう語り終える黒木監督。
ついに・・・312話目にしてついに1話冒頭のあのシーンが描写されることとなったわけだ・・・感慨深い。

黒木監督の言葉を聞き、選手たちも耐えきれずに涙を流す。
そして歌う。マイちゃんが最初にチームのために歌った歌――「翼をください」
泣きながら歌う選手たち。そして時間となり、後半戦へと挑むこととなる。
その彼らの姿はなんとも哀しく、思わず応援したくなるのも無理はないと言えましょう。

そして、ピッチに出てきた市蘭の選手たち。そこでも彼らは――泣いていた
泣きながら、それでも前を見据え、必ず勝つという決意を露わにしている。
これはさすがに船学も驚き戸惑うでしょうなぁ。事情を知らないだけに、この反応は想定外に決まってるでしょうし。

マイちゃんが最後に聞いた、市蘭が優勝したという嘘。
その嘘を真に変えるため、悲しみを堪えて戦う。さあ、いよいよ後半戦。負けられない戦いのスタートだ!!

というわけで、ついに1話冒頭のシーンが描写されることとなりました。うーむ、凄い構成力だ。
思えばANGEL VOICEというのがマイちゃんの歌声だったと判明したのも開始からずいぶん経ってからのことだった。
よくぞそこまで描き切ってくれたものだと本当に感心します。
そして、涙の見開き。あのクールな乾までもが涙を流すあの場面は単行本1巻の表紙にもなっていた場面でありますな。
流れを知ってから改めて読み直すと・・・本当に凄い作品であるということが感じられる。素晴らしい!!
さすがに絵柄は大きく変わったなぁとは思いますが、まあそれはそれ。
完結したならば、もう一度最初から読み直したくなる作品であると言えます。間違いなく。



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